【不貞慰謝料】既婚者専用アプリでの出会いは金額を押し上げるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「相手が既婚者専用のアプリを使っていたのだから、普通の不倫より高い金額を請求できるはずだ」。配偶者の不貞が分かった方から、こうしたお話を伺うことがあります。反対に、請求を受けた側からは「既婚者同士が了解のうえで登録するアプリだったのに、そこを取り上げられて高い金額を求められている」というご相談も届きます。

 インターネット上の解説では、既婚者向けのアプリを使っていた場合について「悪質性が高い」「知らなかったという説明は通らない」と書かれることが多く、そこから金額も上がるのだろうと受け取られがちです。この指摘それ自体が誤っているわけではありません。ただ、そこで語られているのは責任を負うかどうかの話であって、金額がいくらになるかという話とは、効いてくる場面が違います。

 この記事では、「既婚者専用のアプリで出会った」という事実が、慰謝料の金額にどこまで、どのように影響するのかを整理します。金額の目安の幅そのものや、増額・減額として挙げられる事情の一覧、既婚だと知らなかったという主張の当否は、それぞれ別の記事で扱っています。ここでは、アプリという条件がその枠組みにどう入り込むのかに絞ってご説明します。

「どこで出会ったか」は金額の項目ではない

 まず、金額がどのように決まるのかという前提を確認しておきます。

慰謝料の額を決める計算式は法律にない

 不貞を理由とする慰謝料は、民法709条と710条を根拠とする損害賠償です。もっとも、これらの条文に金額の算定式が書かれているわけではありません。裁判所は、夫婦関係がその後どうなったか、婚姻がどれくらい続いていたか、関係がいつからいつまで、どの程度の頻度で続いたか、発覚した後にどう対応したかといった事情を全体として見たうえで、一つの金額を導きます。

 つまり、項目ごとの点数を足し合わせて合計を出す仕組みではありません。「この事情があるから何万円上がる」という形で動くものではない、という前提が出発点になります。

出会いの経路ごとの相場表は用意されていない

 公表されている金額の目安は、多くの場合、夫婦が同居を続けているか、別居に至ったか、離婚したかという区分で整理されています。出会いがマッチングアプリだったか、職場だったか、以前からの知り合いだったかによって、別の幅が用意されているわけではありません。

 したがって、「既婚者向けアプリの場合の相場」という独立した数字は存在しません。目安の幅がどのように組み立てられているのか、そもそも「相場」という言葉がどの数字を指しているのかについては、当事務所の別の記事で詳しく扱っています。

それでも無関係とは言い切れない

 では、まったく影響しないのかというと、そこまで単純でもありません。出会いの経路は法律上の要件ではありませんが、そこから読み取れる事情が、要件の側に流れ込むことがあるからです。次の章では、「押し上げる」と言われるときに実際には何が動いているのかを分けて見ていきます。

「押し上げる」と言われるとき、何が押し上げられているのか

 ご相談の場でよく出てくる言い方を並べてみると、同じ「金額が上がる」という表現でも、指している中身がかなり違うことが分かります。

よく聞く言い方実際に働いている事情効いてくる場面
既婚者専用のアプリだから悪質だ関係の始まり方と続き方の評価の一部他の事情と一体で見られる
既婚者専用だから知らなかったとは言えない故意や過失があったかどうか金額ではなく責任の有無
既婚者専用のアプリだから計画的だ関係が続いた期間や会った回数裁判所の判断でも材料になる
既婚者専用のアプリだから高く請求できる請求する側が最初に置く数字話し合いの出発点
双方が既婚だから話が複雑だ請求が双方向になりうること総額ではなく最終的な負担


責任の話と金額の話は入口が違う

 このうち2行目は、支払義務があるかどうかという入口の問題です。既婚者向けのアプリを使っていた場合、「相手が結婚していると思わなかった」という説明は成り立ちにくくなります。ただし、それは請求を受ける側の反論が一つ通りにくくなるという意味であって、認められる金額そのものを引き上げる事情とは別のものです。この点は、「独身と偽っていない」ことの意味を扱った記事で詳しく整理しています。

「相場より高い」の多くは請求額の話

 4行目も混同されやすい部分です。請求する側が通知書に書く金額と、話し合いで折り合う金額と、裁判所が認める金額は、それぞれ別の数字です。既婚者向けアプリという事情は、最初に置かれる数字を高めに動かしやすい一方で、最後の数字を同じだけ動かすとは限りません。請求額と着地額がなぜずれるのかについては、別の記事で扱っています。

争点が一つ減ることと、金額が上がることは同じではない

 前章の2行目について、もう少し丁寧に見ておきます。ここを分けて考えられるかどうかで、交渉の見通しがかなり変わります。

反論の手札が一つ使えない状態から始まる

 請求を受けた側が持ち出す反論には、いくつかの型があります。既婚だと知らなかった、そもそも肉体関係はない、関係が始まった時点で夫婦はすでに破綻していた、時間が経ちすぎている、といったものです。既婚者向けのアプリを利用していた場合、このうち最初の一つが立ちにくくなります。

下げ幅が小さくなりやすい、という形で現れる

 ここが、実務で最も誤解されやすいところです。争点が減っても、裁判所が判断する金額の水準が自動的に上がるわけではありません。ただ、交渉の場では、使える反論が少ないほど金額を下げる材料も少なくなります。結果として、請求額に近いあたりで話がまとまりやすくなることはあります。

 同じ「金額が上がった」という体感でも、その中身は「認められる額が上がった」ではなく「下がる余地が小さかった」であることが少なくありません。この違いを意識しておくと、交渉の見通しを立てやすくなります。

それでも残る反論はある

 既婚者向けのアプリを使っていたとしても、他の反論まで封じられるわけではありません。肉体関係があったのかどうか、関係が始まった時期はいつか、その時点で夫婦関係はどうなっていたか、といった点は依然として争いの対象になります。それぞれの反論をどの順で立てるかについては、反論の全体像を扱った記事をご覧ください。

アプリに記録が残ることで、既存の事情が具体的になる

 金額の話に実際に効いてくるのは、アプリの種類そのものよりも、そこに残る記録のほうです。

残りやすい事実

 アプリを介したやり取りには、対面で始まった関係にはない特徴があります。日付や頻度が数字として残りやすい、という点です。

アプリ側に残りやすい事実金額の話でどう使われるか
登録や課金を始めた時期関係が始まった時期の目安として持ち出される
やり取りの頻度と続いた長さ関係が続いた期間の裏づけとして扱われる
会う約束や日程のやり取り会った回数を数える手がかりになる
退会や削除をした時期発覚後にどう対応したかの評価に結びつく


具体化するのは、もともとある増減の事情

 注意していただきたいのは、これらはアプリだから特別に評価される事情ではないということです。関係が続いた期間、会った回数、発覚後の対応は、出会い方にかかわらず以前から金額の材料とされてきた事情です。アプリの記録は、その事情を「だいたい半年くらい」ではなく「いつからいつまで」という形で特定しやすくしているにすぎません。

 なお、登録していただけ、やり取りをしていただけでは、不貞を理由とする慰謝料の対象にはならないと考えられています。記録の読み取られ方や、どこまでが証拠として使えるのかについては、証拠を扱った各記事で個別にご説明しています。

アプリの種類では動きにくい場面

 既婚者向けのアプリを利用していたという事実があっても、次のような場面では金額の話が思うように動きません。

  • 会う前のやり取りだけで終わっている場合。
  • 実際に会ってはいるが、肉体関係があったとまでは言えない場合。
  • 関係が始まった時点で、すでに夫婦が別居していた場合。
  • 関係が短い期間にとどまり、会った回数も少ない場合。


 いずれも、金額の増減以前に、請求の土台となる事実の側に不足や争いがある場面です。アプリの種類は、こうした不足を埋める材料にはなりません。「既婚者専用のアプリだったのだから金額も上がるはずだ」という言い方が実務でそのまま通りにくいのは、このためです。

先に決着している場合

 もう一つ、見落とされやすい場面があります。同じ不貞について、すでに配偶者との間で解決金が支払われているようなケースです。この場合、二人に対して同じ損害を重ねて回収できるわけではないため、後から別の相手に請求できる範囲は限られてきます。この仕組みについては、二重取りを扱った記事で整理しています。

双方が既婚である場合の見え方

 既婚者向けのアプリでは、当事者の双方が結婚しているという構図になることがあります。この場合、金額の見え方が一方通行ではなくなります。

請求が双方向になりうる

 既婚者向けのアプリという性質上、当事者の双方が結婚しているという構図になることがあります。この場合、それぞれの配偶者から相手方に請求が向かう可能性があり、自分が請求する側であると同時に請求される側でもあるという状態が生まれます。

 こうした場面では、一方だけの金額を高くしても、もう一方から同じような請求が返ってくることがあります。金額の議論に入る前に、全体としてどこに落ち着けたいのかを決めておく必要があります。

決まった額と、最後に手元に残る額は別

 支払った側が、不貞をした配偶者に対して負担の分け方を求めることができる場合もあります。そのため、示談で決めた金額がそのまま最終的な負担額になるとは限りません。負担の分け方や、それを見越した交渉の進め方については、求償を扱った一連の記事でご説明しています。

金額よりも条件の側に表れやすい

 既婚者向けのアプリが関係している事案では、金額の多寡よりも、金額以外の条件のほうに神経を使う場面が多くなります。実際の話し合いでは、次のような項目が議題に上がります。

  • 今後は連絡を取らないという約束。
  • アプリのアカウントを退会し、削除するという約束。
  • やり取りの内容を第三者に話さないという約束。
  • 約束が守られなかった場合の取り決め。
  • 支払いの時期を早める代わりに金額を調整するという交換。


 金額と条件は連動して動きます。条件を厚くする代わりに金額を抑える、あるいはその逆という調整は珍しくありません。ただし、期間の定めのない約束や、実情に見合わない取り決めを安易に受け入れると、後日あらためて争いになることがあります。条項の書き方については、示談書を扱った記事をご覧ください。

請求する側から見たときの注意点

 最後に、請求を検討している方の立場から、実務上つまずきやすい点を挙げておきます。

  1. アプリの種類は、責任の入口では効きますが、金額の上乗せ項目として主張しても伝わりにくいことがあります。
  2. 数字を高めに置くこと自体は自由ですが、根拠の説明が薄いと交渉が長引き、結果として解決までの時間が延びます。
  3. アカウントやメッセージは退会や削除で失われることがあるため、金額の検討より先に、確かめられることを確かめておくほうが安全です。
  4. 相手方も結婚している場合は、回収の見通しと負担の分け方を早い段階で想定しておくと、後の調整が楽になります。


 請求を受けた側についても同じことが言えます。既婚者向けのアプリを使っていたという一点だけで、提示された金額を受け入れる理由にはなりません。金額の根拠として何が挙げられているのかを、事情ごとに切り分けて確認することをおすすめします。

よくあるご質問

既婚者専用のアプリを使っていたというだけで、相場より高い金額になりますか

 その一点だけで金額の水準が変わるという整理は、一般的ではありません。影響が出るとすれば、既婚だと知らなかったという反論が立ちにくくなること、関係の期間や回数が記録から特定されやすいこと、請求する側が最初に高めの数字を置きやすいことを通じてです。いずれも、既存の事情に置き換えられて初めて金額の議論に入ってきます。

登録していただけでも慰謝料の対象になりますか

 不貞を理由とする慰謝料は、肉体関係があったことを前提とするのが一般的な整理です。登録やメッセージのやり取りだけで直ちに支払義務が生じるとは考えられていません。ただし、夫婦の間では別の問題として受け止められることがあり、離婚の話し合いに影響することはあります。

相手から「既婚者向けのアプリだったのだから承知の上だ」と言われています

 当事者二人の間で了解があったとしても、その了解は相手方の配偶者を拘束しません。配偶者は、その話し合いの当事者ではないからです。この点は、「独身と偽っていない」ことの意味を扱った記事で詳しくご説明しています。

まとめ


  1. 不貞を理由とする慰謝料は民法709条と710条を根拠とし、条文に算定式は定められていません。
  2. 公表されている金額の目安は夫婦関係のその後で整理されており、出会いの経路ごとの相場表は用意されていません。
  3. 「既婚者専用のアプリだから悪質だ」という説明の多くは、金額ではなく責任の有無に関わる話です。
  4. 争点が一つ減ることは、認められる金額が上がることとは別で、下がる余地が小さくなるという形で表れます。
  5. アプリの記録は、関係が続いた期間や回数といった従来からの事情を具体的に特定しやすくします。
  6. 肉体関係の有無や別居の時期など、土台となる事実に争いがある場面では、アプリの種類は不足を補いません。
  7. 双方が既婚である場合は、請求が双方向になり、決めた金額と最終的な負担が一致しないことがあります。


既婚者向けアプリをめぐる慰謝料でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。出会いの経路が金額にどう影響するのかは、事案ごとの事情によって見え方が変わります。

 請求をお考えの方には、どの事情がどこで効くのかを整理したうえで、無理のない見通しを立てるお手伝いをいたします。請求を受けてお困りの方には、提示された金額の根拠を切り分け、応じるべき部分とそうでない部分を確かめるところからご一緒します。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【不貞慰謝料】既婚者専用アプリでの出会いは金額を押し上げるのか

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼