相手が反社かどうかで対応はどう変わるのか|使える制度の違い
要求を受け続けている状況で、これ以上のやり取りを続けたくない、という段階に立つ方は少なくありません。同じ電話が繰り返される、一度説明したことをまた求められる、話し合うたびに要求の中身が少しずつ変わる。そうした状態が続くと、対応そのものが生活や業務を圧迫していきます。
その場面で使われるのが、やり取りを打ち切る旨を伝える通知です。ただ、この書面は「出せば要求が止まる書面」ではありません。書き方によっては、こちらの立場をかえって不利にしてしまうこともあります。
この記事では、要求を受けている側が自分の側から通知を出すときに、何を書き、何を書かないでおくのかを整理します。個人の方が個人や団体から要求を受けている場面を主に想定していますが、小規模な事業を営んでいる方にも共通する部分があります。
この記事で扱うこと・扱わないこと
- 扱うこと=やり取りを打ち切る通知の役割と限界、記載する項目、記載を控えたい表現、出し方と出した後の進め方です。
- 扱わないこと=個別の事情に合わせた文例やひな形の提示です。
- 扱わないこと=相手の要求そのものが正当かどうかの判定です。
- 扱わないこと=面談禁止や架電禁止の仮処分といった裁判所の手続の詳細です。
- 扱わないこと=すでに訴訟や調停が始まっている場合の進め方です。
「打ち切る」といっても、消えるものと残るものがあります
通知を書き始める前に整理しておきたいのは、この書面で何が動き、何が動かないのかという点です。ここを取り違えると、書面に過剰な期待を持つことになり、文面も長くなりがちです。
相手の請求そのものは、通知では消えません
相手が金銭の支払いや謝罪を求めているとして、こちらが「今後のやり取りは行いません」と伝えても、相手が主張している権利がそれで消えるわけではありません。相手には、裁判所の手続を使って主張を通そうとする道が残ります。通知は、相手の言い分を打ち消す書面ではなく、こちらが今後どのように応じるのかを示す書面だと考えてください。
打ち切ることができるのは、やり取りの経路と回数です
実際にこの書面で変えられるのは、連絡の手段・宛先・頻度といった、やり取りの形の部分です。「もう関わりません」という宣言としてではなく、「今後の連絡は書面で、この宛先にお願いします」という経路の指定として組み立てると、書面の目的がはっきりします。打ち切りというより、やり取りの経路を一本に絞る書面だと捉えたほうが、実際の働き方に近いといえます。
通知を出す前に確かめておくこと
出してしまった後では取り消しにくい書面ですので、いくつか確認してから作成します。
回答を保留したままの事項が残っていないか
「持ち帰って検討します」と伝えたまま返事をしていない事項があると、通知を出した後に「あの件の回答はどうなったのか」という形で、やり取りが再開する入口になります。保留している事項があれば、その結論も同じ書面の中で示しておきます。返答を保留するときの伝え方については、別の記事で詳しく扱っています。
すでに約束してしまったことがないか
その場の勢いで一部だけ応じてしまっている場合、その部分の扱いを整理しないまま打ち切りだけを伝えると、話が食い違います。何を約束し、何を約束していないのかを先に書き出しておきます。
相手の名称と連絡先が正確にわかっているか
書面は届いてはじめて意味を持ちます。相手の氏名や名称、住所の表記に不確かな点があれば、わかる範囲の表記にとどめ、推測で補わないほうが無難です。
通知に書くこと
記載する項目は、それほど多くありません。長く書くほど強く伝わるというものではなく、むしろ書き足した部分が後で問題になることがあります。
今回の要求に対する結論を一文で書く
求められている事柄に応じるのか、応じないのかを、理由を並べずに一文で示します。理由を詳しく書くと、その理由の当否をめぐって新しいやり取りが始まることがあります。「ご要望には応じかねます」という結論だけでも、書面としては成り立ちます。
今後の連絡方法を具体的に指定する
手段(書面か電子メールか)、宛先(住所やアドレス)、そして誰が窓口になるのかを書きます。指定が曖昧なままだと、相手はこれまでと同じ手段を使い続けます。事業を営んでいる方であれば、担当者の個人名ではなく部署名や事務所名を宛先にしておくと、特定の従業員に連絡が集中しにくくなります。
法的な手続を妨げるものではないと添える
連絡の方法を限る趣旨であって、相手が裁判所の手続をとることまで拒む趣旨ではない、という一行を入れておきます。これがないと、話し合いも手続も拒まれたと受け取られ、かえって強い手段を選ばれることがあります。あわせて、裁判所や公的機関から届く書類は、こちらの指定の対象外だという点も押さえておいてください。
日付と当事者を正確に書く
作成日、相手の氏名または名称と住所、こちらの氏名と連絡先を記載します。後になって「いつ、誰が、誰に伝えたのか」が問題になることがあるためです。
| 書く項目 | 何のために書くのか | 書き足しすぎたときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| 今回の結論 | 応じるか応じないかを確定させるため | 理由を長く述べると反論の材料が増える |
| 連絡の手段と宛先 | やり取りの経路を一本にするため | 窓口を複数残すと従来の連絡が続く |
| 窓口となる者 | 誰が受けるのかを明らかにするため | 個人名だけだとその人に集中しやすい |
| 手続を妨げない旨 | 話し合いの拒否と読まれないため | 省くと強い手段を選ばれやすくなる |
| 日付と当事者 | 伝えた時点を記録に残すため | 不正確な表記は到達の争いを生む |
通知に書かないほうがよいこと
打ち切りの通知でつまずきやすいのは、書き足りない部分よりも、書きすぎた部分です。以下は、書面の目的から見て入れないほうが無難な要素です。
謝罪や譲歩と読める表現
「ご迷惑をおかけしました」「いくらかはお支払いします」といった表現は、相手の主張する権利を認めたものと受け取られることがあります。民法152条1項は、権利の承認があったときは、その時から時効が新たに進行すると定めています。支払う意思を示す書きぶりは、この承認にあたると判断されるおそれがあります。また、条件を示したうえで相手がこれに応じれば、民法695条の和解として合意が成立したと扱われる可能性もあります。やり取りを打ち切るための書面で、内容の一部を認める形になってしまうと、目的と逆の結果を招きかねません。
新しい事実の説明
経緯を詳しく説明したくなる場面ですが、通知に書いた事実の説明は、後の手続でこちらの言い分として残ります。記憶に頼って書いた日時や経過が手元の資料と食い違うと、その食い違い自体が争点になることがあります。事実関係は、争いのない範囲の要点にとどめておくほうが安全です。
相手の人物像についての評価
相手の性格や動機に触れた記述は、書面の目的に役立たないうえ、感情的な反応を招きます。通知は相手一人に宛てて送るのが通常ですので、それだけで名誉毀損(刑法230条)が問題になることは多くありませんが、写しを第三者に配ったり、内容を公開したりすれば、評価は変わってきます。
含みを残す言い回し
「誠意ある対応をいただけるのであれば」「事情によっては検討します」といった書きぶりは、交渉の余地を残したものと読まれます。やり取りを打ち切る書面では、条件つきの表現は目的と合いません。
相手を追い込む表現
「訴える」「警察に届ける」といった記載は、正当な権利行使の告知として許される場合もありますが、書き方によっては脅迫(刑法222条)や強要(刑法223条)が問題とされることもあります。とる予定のない手段を書き並べることは避け、現実にとり得る手続を淡々と示すにとどめます。
通知の働き方は、相手によって変わります
同じ文面でも、相手が誰かによって、法律上の意味は変わってきます。
| 相手の類型 | 通知が持つ意味 | 押さえておきたい点 |
|---|---|---|
| 貸金業者・債権回収会社 | 弁護士等からの書面通知に法律上の規制が結びつく | 本人名義の通知とは位置づけが異なる |
| 代理人弁護士がついた相手 | 代理人が窓口となり直接のやり取りは控えられる | 規律の対象は弁護士であり相手本人ではない |
| 一般の個人や事業者 | 通知に従う法的な義務は生じない | その後の連絡の続き方が評価の材料になる |
貸金業を営む者については、貸金業法21条1項9号が、弁護士等または裁判所から書面によりその旨の通知があった場合に、正当な理由がないのに電話や訪問などの方法で弁済を求め、直接求めないよう言われてもなお求めることを禁じています。債権回収会社についても、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項に、訪問や電話による請求を制限する定めがあります。いずれも弁護士等からの書面による通知を前提とした規制で、本人が自分の名前で出した通知とは位置づけが異なります。
相手に代理人弁護士がついた場合については、弁護士職務基本規程52条が、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならないと定めています。ただしこれは弁護士が守るべき規律であり、相手が本人のまま連絡してくる場面までを縛るものではありません。
相手が一般の個人や事業者であれば、通知に従う法的な義務はありません。それでも書面を出しておく意味はあります。応じられない旨を明確に伝えた時点が記録として残り、その後も同じ連絡が続いた場合に、その続け方自体が評価の対象になり得るためです。連絡の回数や時間帯、内容によっては、刑事上の問題や、面談や電話を制限する裁判所の手続を検討する場面につながることもあります。
出し方をどう選ぶか
記録の残る方法で出す
内容証明郵便に配達証明を付ける方法であれば、文面と届いた日を残せます。ただし内容証明は文書1通だけを内容とするものですので、資料の写しや返信用封筒を同封することはできません。資料を添えたい場合は、書留に配達証明を付けるなど、別の方法を検討します。相手とのやり取りがもともと電子メールであれば、メールで足りる場面もありますが、送信の記録は残しておきます。
基準になるのは、出した日ではなく届いた日です
民法97条1項は、意思表示は通知が相手方に到達した時から効力を生ずると定めています。相手が受け取らずに返送されてくることもありますので、返送された封筒は開封せずに保管しておきます。到達をめぐって後から争いになったときの材料になります。
出した後にすること
- 通知の控えと、発送および配達を示す記録を、一つの場所にまとめて保管します。
- 通知の後に届いた連絡を、日時・手段・内容の3点で記録に残します。
- 指定した窓口以外に来た連絡についても、記録だけは取っておきます。
- 裁判所や公的機関から届いた書類は指定の対象外として、記載された期限を確認します。
- 状況が変わったときに備えて、相談できる窓口を決めておきます。
避けたい進め方
- 通知を出した後に、口頭でのやり取りを再開してしまう。
- 相手の反論に一つずつ書面で答え、やり取りが元の状態に戻る。
- 文面を強くすることで解決を図ろうとする。
- 通知の写しを、関係のない第三者に送る。
- 裁判所からの書類まで受け取らずに放置する。
よくあるご質問
通知を出したのに連絡が続きます。応じないままでよいのでしょうか
指定した窓口以外の連絡に毎回応答しなければならないわけではありませんが、記録は取っておいてください。連絡の頻度や時間帯、内容によっては、こちらから次の手段を検討する材料になります。なお、裁判所や公的機関から届いた書類は別に扱い、期限を確認してください。
家族や勤務先への連絡をやめるよう書けますか
書くこと自体はできます。相手が貸金業者や債権回収会社であれば法律上の規制が及びますが、そうでない相手については、書面で求めたからといって従う義務が生じるわけではありません。それでも、求めた事実が日付とともに記録に残る点には意味があります。
自分の名前で出すのと、弁護士の名前で出すのとで違いはありますか
法律上の位置づけが変わる場面があります。相手が貸金業者や債権回収会社である場合、直接の請求が規制される前提は、弁護士等からの書面による通知です。また、相手がすでに弁護士に依頼している場合には、こちらにも代理人がいるほうが、やり取りの窓口が整理されやすくなります。
まとめ
- 通知で変えられるのはやり取りの形であって、相手の主張そのものではありません。
- 書く項目は、今回の結論・連絡の手段と宛先・窓口・手続を妨げない旨・日付と当事者が柱です。
- 結論は、理由を並べずに一文で示します。
- 謝罪や譲歩と読める表現は、承認や合意と扱われるおそれがあります。
- 事実関係は、争いのない範囲の要点にとどめます。
- 相手への評価や、追い込む表現は書面の目的に役立ちません。
- 相手が貸金業者や債権回収会社の場合、規制の前提は弁護士等からの書面通知です。
- 出した後は、届いた連絡を日時・手段・内容の3点で記録し続けます。
ご相談について
どこまで書き、どこから書かないでおくかは、これまでのやり取りの経過や、相手が何を根拠に求めているかによって変わります。文面を整えるだけでなく、その前提として、こちらに応じる必要がある部分があるのかどうかの見極めも必要になります。
当事務所では、要求を受けている段階でのご相談もお受けしています。すでに出してしまった書面がある場合や、相手からの連絡が続いている場合も、現在の状況を踏まえて、次にとり得る方法をご一緒に整理します。お困りのことがあれば、お早めにご相談ください。


