「用心棒代」「みかじめ料」を求められた|小さな店ほど狙われる

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 開店してまもない飲食店に、見知らぬ男性が「この辺で店をやるなら、うちに挨拶してもらわないと」と訪ねてくる。金額は月に数万円で、「揉め事があったら話をつけてやる」という説明が添えられる。

 こうした「みかじめ料」「用心棒代」の要求は、過去の話になったわけではありません。むしろ、名目を変えて続いているというのが実情です。そして狙われやすいのは、法務担当者も顧問弁護士もいない、小さな店です。

 この記事では、要求を受けた事業者の立場から、断り方をどう組み立てるかを整理します。ポイントは、断ることを「個人の勇気」の問題にしないこと。法律の側にすでに断るための仕組みが用意されていること、そして東京では支払い続けること自体が店側のリスクになることを押さえておくと、判断の材料が変わってきます。

1. 「みかじめ料」は名目ではなく実質で判断される

 みかじめ料とは、暴力団などが縄張り内で営業する店に対し、その場所で商売をすることを容認する見返りとして求める金品をいいます。用心棒代は、トラブルがあれば解決してやるという名目で求められる金品です。

 実務で厄介なのは、この二つが「みかじめ料」という名前では請求されない点です。

提示される名目実質
あいさつ料、ショバ代、守料営業を容認する対償
用心棒代、面倒をみる費用紛争解決役務の対償
おしぼり・観葉植物・生花・正月飾りのリースや購入割高な取引を通じた継続的な徴収
パーティー券、興行チケット、後援会費、誕生祝い断りにくい体裁をとった徴収
「貸してくれ」という形の金銭交付返済が予定されていない支出

 暴力団対策法(暴対法)9条は、指定暴力団員が所属団体の威力を示して行う要求行為を類型化して禁止しており、4号がみかじめ料の要求、5号が用心棒料等の要求にあたります。条文上も「名目のいかんを問わず」とされており、契約書やリースの形をとっていても、実質が営業容認や用心棒の対償であれば同じ枠組みで捉えられます。

 後ほど触れる名古屋高裁の事案でも、実際に支払われていた名目は組事務所の立ち上げ費用・貸金・後援会費・誕生祝いでした。「みかじめ料と言われていないから違う」とは限りません。

2. なぜ小さな店ほど狙われるのか

 規模の大きい店やチェーンではなく、個人経営の飲食店・バー・スナック・小売店が対象になりやすいのには、いくつか理由があります。

  • 相談する相手がその場にいない。一人または家族だけで回している店では、判断をその場で迫られ、持ち帰る先がありません。
  • 開店直後で近隣との関係ができていない。誰に聞けばよいのかが分からない時期が狙われます。
  • 客商売で騒ぎを避けたい。店内で声を荒らげられること自体が営業上の損失になるため、支払いのほうが安く見えてしまいます。
  • 金額が「払える範囲」に設定される。争うより払ったほうが早いと感じる水準に調整されることがあります。
  • 名目が経費に紛れる。リースや購入の形をとられると、支払いが日常業務に溶け込み、問題として認識されにくくなります。
  • 断った後も同じ場所で営業が続く。逃げ場がないという感覚が、判断を鈍らせます。

 つまり、狙われているのは店主の性格ではなく、一人で即断せざるを得ない状況です。であれば、その状況を崩す設計が対策になります。

3. 法律は「断る側」を前提に組み立てられている

 支払いを断ることは、例外的な決断ではありません。暴対法は、指定暴力団員によるみかじめ料・用心棒料の要求を禁止行為として明記しています。つまり、断ることが法律の想定する標準です。

 要求を受けた場合、公安委員会または警察署長は、要求をした者に対して中止命令(暴対法11条)を出すことができます。刑事事件として立件されるのを待たずに、行政の手続で要求そのものを止めにいくルートがある点が特徴です。中止命令に違反してさらに要求を行った場合は、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)の対象となります(46条1号)。

 もっとも、命令は申し出れば当然に出るというものではなく、要求の内容や記録の有無によって判断されます。過度に期待せず、しかし選択肢として知っておく、という位置づけが実際的です。

相手が暴力団員ではないとき

 近年は、暴力団に所属しない集団(いわゆる半グレ、匿名・流動型犯罪グループ=トクリュウ)が同種の要求を行う例も指摘されています。これらは暴対法の指定暴力団を対象とした規定の枠外にあるため、中止命令のルートは使えません。

 ただし、土台の部分は相手が誰であっても変わりません。

場面想定される罪名
害悪を告げて金銭を交付させた恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)
害悪を告げた脅迫罪(222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
義務のないことを行わせた強要罪(223条・3年以下の拘禁刑)
帰るよう求めても居座った不退去罪(130条後段・3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)
店の営業を妨げた威力業務妨害罪(234条・3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)

 相手の属性によって法定刑が加重されるわけではありませんし、支払義務の有無も相手が誰かでは決まりません。相手が何者かを店主自身が見極める必要はない、と考えてよいと思います。それは相談を受ける側の仕事です。

4. 東京では「払う側」にも罰則がある

 ここが、他の不当要求と大きく異なる点です。

 東京都暴力団排除条例は、都内の主要な繁華街を暴力団排除特別強化地域に指定し、その地域内で営業する特定営業者について、次の行為を禁止しています(25条の3)。

  • 暴力団員から用心棒の役務の提供を受けること(利益の供与がなくても違反となります)
  • 用心棒の役務の対償として、または営業を容認する対償として利益を供与すること

 これに違反した場合、相手が暴力団員であることを知っていたときは、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります(33条1項3号)。法人にも罰金刑が科される両罰規定が置かれています(34条)。暴力団員の側も同様に処罰対象です(25条の4、33条1項4号)。

 対象となる「特定営業」には、風俗営業や性風俗関連特殊営業だけでなく、食品衛生法の許可を受けて設備を設け客に飲食をさせる営業、つまり一般の飲食店も含まれます。地域は条例の別表に町丁目単位で列挙されており、新宿・渋谷・池袋・六本木・新橋・銀座・上野・浅草・錦糸町・五反田・蒲田・赤羽・北千住といった23区の繁華街のほか、八王子・立川・吉祥寺・町田など多摩地域も含まれます。自分の店が該当するかは、条例の別表で町名を確認するのが確実です。

 強化地域の外や特定営業以外であっても、暴力団の活動を助長すると知りながら利益を供与する行為は条例24条で禁じられており、勧告や公表の対象となり得ます。

 脅されて支払った場合の評価は事案によりますが、支払いを続ける関係が固定化するほど、店側の立場の説明は難しくなっていきます。「断る理由がない」のではなく、続けることのほうにリスクが積み上がる構造だと理解しておくのが実際的です。

5. その場での断り方と、避けたいこと

 暴力追放運動推進センターが公表している対応要領などをもとに、小さな店でも実行しやすい形に整理します。

やっておきたいこと

  • 即答しない。「私だけでは決められません」「顧問の弁護士に確認します」で足ります。理由を説明する必要はありません。
  • 要求の中身と根拠を、相手の言葉で言わせる。「つまりいくらですか」「お金ということですか」と、こちらから補完しないことが大切です。曖昧な言い方は、後で「そんなことは言っていない」と引き返せる余地を残すために選ばれていることがあります。
  • 場所と時間を自分側で管理する。指定された場所や事務所には出向かず、話は店で、営業時間外に、できれば複数人で、時間を区切って行います。
  • 記録を残す。日時・場所・人数・名乗った名前・言われた言葉を、そのままの表現で書き留めます。防犯カメラの映像は上書きされる前に保存します。
  • 相談したこと自体を記録に残す。警察相談専用電話(#9110)や所轄への相談履歴は、後の手続で意味を持ちます。

避けたいこと

  • その場で支払う、金額を交渉する
  • 詫び状、念書、契約書にサインする
  • お茶を出してもてなす(長時間の居座りを容認する形になります)
  • 「今回だけ」と受け入れる(一度応じた事実が、次の要求の前提になります)
  • 素性を確かめに行く、共通の知人を介して探る
  • 同じような力を持つ相手に間に入ってもらう(暴対法10条は、指定暴力団員に暴力的要求行為を依頼することを禁じており、依頼した側も3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金の対象となります)

 リースや購入の形で入ってきている契約を、自分の判断で一方的に止めるのは避け、解約の手順も含めて相談したうえで進めるほうが安全です。

6. すでに払っている場合の出口

 長く支払っている店ほど、「今さら言えない」と感じやすくなります。ただ、途中でやめることは可能です。

 関係を切るための申告制度。東京都暴排条例には、特定営業者が自ら申告した場合に刑を減軽または免除できる規定が置かれています(33条3項)。申告先は最寄りの警察署や警視庁の暴力団対策課です。すでに支払ってしまった店が関係を遮断するための出口として設けられたものです。

 支払った分の回収。支払わされた金銭については、要求した者に対して不法行為に基づく損害賠償を求めるほか、指定暴力団の代表者等に対して暴対法31条の2に基づく請求を行うルートがあります。この規定は、民法715条による場合に比べて被害者側の立証負担を軽くする趣旨で設けられたものです。

 名古屋高裁令和5年12月14日判決は、指定暴力団の傘下組織幹部にみかじめ料を支払わされていた事業者の請求について、支払いから3年が経過した分も含めて賠償を認めました。継続的に脅されていた状況では合理的な対応をとれる心理状態ではなかったとして、消滅時効を主張することは権利の濫用にあたり許されないと判断したものです(一審の47万円から751万円に増額)。

 不法行為の時効は原則として損害と加害者を知った時から3年ですから、早く動くに越したことはありません。ただ、年数が経っているというだけで諦める前に、事情を説明してみる価値はあります。

7. 報復が心配なとき

 断ることをためらう最大の理由は、たいてい金額ではなく、その後です。

 東京都暴排条例14条は、暴力団排除に取り組んだことなどにより危害を受けるおそれがあると認められる人について、警視総監が警察官による警戒活動その他の必要な措置を講ずるものと定めています。また13条は、損害賠償請求などを行おうとする人に対する情報提供その他の援助を定めています。

 警察が繁華街で一斉の聞き取りを行う機会に合わせて申告することで、自分の店だけが目立たない形をとる、という運用が紹介されることもあります。何ができるかは地域や事案によって異なりますので、心配していること自体を、最初の相談の段階で率直に伝えるのが結果的に近道です。

8. 相談先の使い分け


窓口向いている場面
110番店に来ている、帰らない、暴れているなど、いま起きていること
警察相談専用電話 #9110緊急ではないが記録を残して相談したい
所轄警察署・組織犯罪対策担当中止命令の申し出、条例に基づく申告
暴力追放運動推進都民センター相談は無料、秘密は守られます。弁護士会の民事介入暴力担当と連携した対応も行われています
弁護士窓口の一本化、支払った分の回収、契約の整理

 刑事の手続と、支払った金銭を取り戻す手続は別のルートです。加害者が検挙されても、それだけでお金が戻るわけではありません。両方を並行して考える必要があります。

おわりに

 みかじめ料・用心棒代の問題は、「払うか払わないか」を店主が一人で決める場面に見えますが、実際には、断ることを前提にした制度が法律と条例の両方に用意されています。東京では、支払い続けることが店側の違反にもなり得る構造になっており、関係を断つための申告制度まで置かれています。

 最初の要求を受けた段階で、あるいは何年も払ってきた段階でも、判断を一人で抱えないことが、結果として店を守ることにつながります。要求の言葉と日時を書き留めておくことから始めていただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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