【不当要求対応】相手が複数人で来る|多対一の場での対応と記録

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

「話し合いに来てほしい」と言われて指定の場所へ行ったら、相手のほかに見知らぬ人が三人待っていた。店を一人で開けていたところへ、家族だと名乗る人たちがそろって入ってきた。そうしたご相談は珍しくありません。人数が増えただけで、同じ話でも受け止め方はまるで変わります。

 一方で、複数で来ること自体を責められるのは違う、というお話もうかがいます。事情を知る人に付き添ってもらった、当事者だけでは話が進まないので身内が同席した。そうした事情はいくらでもあり得ます。世の中の解説では「複数人で対応しましょう」「一人で抱えないでください」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、その助言は人手のある組織を前提にしています。実際にご相談に来られるのは、その場に自分しかいなかった方がほとんどです。

 この記事では、相手が複数人で来た場面に絞って、法律が人数をどこで見ているのか、その場で何を調整できるのか、そして多対一のときに記録がどう偏るのかを整理します。要求の中身が正当かどうかの判断基準、押しかけや居座りへの対処、同席者に資格が要るのかという問題は、それぞれ別の記事で扱っています。

この記事で扱うこと・扱わないこと

 最初に範囲をはっきりさせておきます。

  • 扱うのは、相手が二人以上で来た場面に固有の問題です。
  • 扱うのは、その場の進め方と、後に残る記録の作り方です。
  • 扱わないのは、要求の中身が正当かどうかという判断です。
  • 扱わないのは、帰ってもらえないときの刑事上の手続の使い方です。
  • 扱わないのは、同席した人が代理人といえるか、資格が要るのかという問題です。


 人数の話と、要求が通るかどうかの話は別の層にあります。相手が何人で来たかは、要求の中身が正しいかどうかを決めるものではありません。逆に、要求の中身に理由があるからといって、求め方が何をしてもよいことになるわけでもありません。この二つを混ぜないところから始めます。

人数が多いこと自体は、直ちに問題ではない

 まず公平に押さえておきたいのは、複数で来ること自体を禁じる決まりはない、という点です。

同行者がいる理由はさまざまです

 事実関係を知っている人に立ち会ってもらう、高齢の当事者に家族が付き添う、記録を取る役を分ける。いずれもよくある形です。人数が多いというだけで、相手の対応が違法になるわけではありません。この点を飛ばして「囲まれた=不当だ」と受け取ってしまうと、後から事実関係を説明するときに話が噛み合わなくなります。

問題になりやすいのは、人数の使われ方です

 実務でよく問題になるのは、人数が「説明を聞くため」ではなく「その場で結論を出させるため」に使われている場合です。出入口をふさぐ位置に人が立つ、席を立とうとすると誰かが動く、支払うと言うまで話が終わらない。こうした形が重なると、求め方として行き過ぎではなかったかという評価に傾くことがあります。

法律は「人数」をどこで見ているのか

 人数そのものを扱った条文は多くありませんが、まったくないわけでもありません。

集団で行われた暴行・脅迫には別の定めがあります

 暴力行為等処罰に関する法律1条は、団体や多数の人の威力を示して、あるいは数人が共同して、刑法の暴行罪(刑法208条)、脅迫罪(刑法222条)、器物損壊罪(刑法261条)にあたる行為をした場合について、別に刑を定めています。同じ言動でも、複数で行われたときには別の規定が用意されているという点で、人数は法律が正面から見ている事情の一つです。もっとも、これはあくまで暴行や脅迫にあたる行為があったことが前提です。人数が多いというだけでこの規定が働くわけではありません。

言葉の評価は、周囲の事情を含めて判断されます

 脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)で問題になる「怖がらせる程度」は、言われた言葉だけを取り出して測るのではなく、場所、時間帯、その場にいた人数、体格といった周囲の事情を含めて、一般の人を基準に客観的に判断されると説明されています。一対一の落ち着いた場で言われた言葉と、逃げ場のない部屋で数名に向き合われた状態で言われた言葉とでは、受け止め方が違う。その差は、法律の世界でも事情の一つとして見られるということです。

証言の数が多いほうが勝つ、という仕組みではありません

 多対一の場で不安に感じられやすいのが、「向こうは何人も同じことを言うのだから、こちらの言い分は通らないのでは」という点です。民事の裁判では、裁判所は口頭弁論の全体の趣旨と証拠調べの結果を踏まえ、自由な心証によって事実を判断すると定められています(民事訴訟法247条)。刑事でも、証拠の証明力は裁判官の判断に委ねられています(刑事訴訟法318条)。同じ話をする人が何人いるかで自動的に決まるのではなく、供述の具体性や、客観的な資料との整合が見られます。ただし、これは「人数は関係ない」という意味ではありません。整合した供述が複数そろえば、それ自体が判断材料になり得ます。だからこそ、こちら側にも手がかりを残しておく意味があります。

多対一の場で起きやすいこと

 その場で何が起きるか、それが後にどう響くかを並べると、手当ての方向が見えてきます。

その場で起きやすいこと後から問題になりやすい点その場でできる手当て
誰が言ったのか分からなくなる「そんなことは言っていない」と食い違う話す人を一人に決めてもらう
話が次々に切り替わる要求の中身が定まらないまま終わる要求は相手の言葉のまま書き取る
席を立ちにくくなる長くとどまった経緯が残らない終わりの時刻を先に告げる
その場で答えを求められる口頭の返事が約束として扱われる回答は後日あらためてと伝える
こちら側の記録だけが乏しくなる状況を示す手がかりが残らない開始と終了の時刻、人数を控える


 いずれも特別な準備が要るものではありません。むしろ、その場で思いつかないから難しいという性質のものです。

場は、こちらから作り直してよい

 相手が場を設定したからといって、その形のまま進めなければならない決まりはありません。調整できるところは四つあります。

人数

 「お話をうかがうので、代表の方お一人でお願いします」と伝えることはできます。断られたとしても、そう求めた事実は残ります。人数を減らしてもらえないなら、話をする相手を一人に決めてもらうだけでも、後の食い違いはかなり減ります。

場所

 相手が指定した場所、とりわけ相手の側が管理している部屋は避けるのが無難です。人目のある場所、自分の側で出入りを管理できる場所を選ぶ。屋外や、営業中の店舗の一角でも構いません。密室にしないことが、そのまま後の説明のしやすさにつながります。

時間

 始める前に「本日は三十分でいったん区切らせてください」と告げておく方法があります。区切ると伝えたのに話が続いた、という経過そのものが記録になります。時間を区切ることは、話を聞かない態度とは別のことです。

窓口

 連絡の受け口を一つにまとめると、複数の人から別々に連絡が来る状態を止めやすくなります。「以後のご連絡は書面でお願いします」と伝えるだけでも、やり取りが文字として残る形に変わります。

一人でも取れる記録がある

 多対一の場で不利になりやすいのが記録です。相手側は、話す人と書く人を分けられます。こちらは話しながら書くことになります。

残りやすいものと、残りにくいもの

 その場の出来事は、均等に残るわけではありません。

残りやすいもの残りにくいもの
署名した書面、渡した金銭その場にいた人数と立ち位置
こちらが口にした言葉席を立てなかった経緯
やり取りに要した時間の長さ話す人が次々に替わったこと
相手が持ち帰った物声の大きさや、その場の空気


 残りやすいものは、こちらに不利な方向にも残ります。残りにくいものは、意識して書き留めないと後から復元できません。この非対称を知っておくだけで、その場での動き方が変わります。

録音についての整理

 自分が加わっている会話を録音すること自体は、直ちに違法とはいえないと説明されています。東京都が公表している事業者向けの共通マニュアルでも、会話の録音は事前の承諾を得ることが望ましいとしつつ、同意を得ない録音でも直ちに違法とはされないと整理されています。とはいえ、その場で録音を宣言すると相手の態度が硬くなることもあり、判断は場面によります。録音の可否や告知の考え方は別の記事で詳しく扱っていますので、ここでは、録るなら途中で切らずに始めから終わりまで残す、という点だけを挙げておきます。

離れた直後の三十分

 記憶がはっきりしているうちに書くほど、後の資料としての価値は上がります。日時、場所、来た人数、話した人、言われた言葉、こちらが答えた内容、始まった時刻と終わった時刻。この七つを、評価を交えずに事実だけ書きます。自分にとって不都合に見える部分も、そのまま残しておくほうが、全体の信用につながります。書いたものを自分あてに送信しておくと、作成した時期が動かしにくい形になります。

多対一の場で扱いが難しい三つの言動

 その場でつい出てしまいがちで、後から意味を持ちやすいものを挙げます。

「わかりました」

 話が長引くと、区切りをつけたい気持ちからこの言葉が出ます。ところが後になって、要求を受け入れた返事だったと説明されることがあります。話を理解したという意味なのか、応じるという意味なのかが分かれるためです。「お話はうかがいました。回答は後日あらためてお伝えします」と、聞いたことと決めたことを分けて言うほうが安全です。

一人だけに向けて答えてしまうこと

 複数いると、話しかけてきた人に向かって答える形になります。その結果、「自分は聞いていない」「私に対しては別のことを言った」という主張が生まれる余地ができます。答えるときは、誰に対する回答なのかを口に出しておくと、後の整理がしやすくなります。

黙っていたこと

 答えなかったことが、後から「否定しなかった」と受け取られることがあります。もっとも、その場で答えないことは、不誠実でも違法でもありません。黙るのではなく、「今はお答えできません」と一言だけ返しておく。それだけで、沈黙とは別の記録になります。

従業員がいる場合に、事業者としてできること

 お店や事務所を営んでおられる方は、自分だけの問題では終わりません。

一人で対応させない、という考え方

 2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法により、顧客等からの言動に関して事業主が雇用管理上の措置を講じることが求められます。その指針では、対処の例として、可能な限り一人で対応させないこと、管理監督者等が代わって対応することなどが挙げられています。相手が複数で来ているときは、この考え方がそのまま当てはまる場面です。義務化の全体像や、従業員が一人しかいない店での運用については、別の記事で扱っています。

人数をそろえられないときの代わりの手

 同じ人数をそろえるのが難しい場合でも、対応の場所を人目のあるところに移す、時間を区切る、対応の中止を伝える基準をあらかじめ決めておく、といった形で負担を下げることはできます。人手の代わりに、場所と時間と手順で補うという発想です。

その場を離れた後にすること

 多対一の場は、離れた後の動き方でその後が変わります。

  1. 記録を書き出します。日時、人数、言われた言葉、こちらの回答を、その日のうちに残します。
  2. 署名した書面や受け取った書類があれば、写しを取って手元に置きます。
  3. 連絡の受け口を一つに決め、以後は書面でのやり取りをお願いする旨を伝えます。
  4. 同じ相手から別の人を通じて連絡が来た場合も、同じ窓口に集めます。
  5. 今また来ているという状況なら110番、帰った後であれば警察署や警察相談専用電話に相談する、という切り分けをしておきます。


 警察に伝えるときは、「不当な要求を受けている」という評価ではなく、何をされたかを事実で伝えるほうが伝わります。何人が、どこに、どのくらいの時間いて、帰ってほしいと伝えたかどうか。この形で話すと、住居侵入や不退去(刑法130条)、脅迫、恐喝といった枠組みに載せて考えてもらいやすくなります。

避けたい進め方

 その場を早く終わらせたい気持ちから選びがちですが、後で扱いが難しくなる行動があります。

  • その場で結論を出すこと。人数がそろっている場面での即答は、後から経緯を説明しづらくなります。
  • その場で署名や押印をすること。強く迫られて署名した書面は取り消しを主張できる場合がありますが(民法96条1項)、主張する側が経緯を示す必要があります。
  • その場で金銭を渡すこと。渡した事実は残り、返してもらうには別の手続が要ることがあります。
  • 自分の記録を消すこと。都合の悪く見える部分を消すと、記録全体の信用に響きます。
  • 相手の勤務先や家族に連絡して対抗しようとすること。別のトラブルを招くおそれがあります。


よくあるご質問

相手が複数で来た時点で、警察に連絡してよいのでしょうか

 連絡すること自体に問題はありません。ただ、人数が多いというだけでは、警察が動く判断材料としては足りないことがあります。帰ってほしいと伝えたのに帰らない、出入口をふさがれている、言葉で危害をほのめかされている。こうした事実があれば、それを具体的に伝えるほうが伝わりやすくなります。

こちらも人数をそろえたほうがよいのでしょうか

 同席してもらえる人がいるなら有効です。話す人と記録を取る人を分けられるからです。一方で、こちらの人数が多いことを理由に、後から圧力を受けたと主張される場合もあります。人数をそろえること自体を目的にせず、記録の役を置く、という考え方で足りることが多いと思われます。

同席している人が弁護士かどうか分からないときは、どうすればよいですか

 その場で立場を確かめておくことはできます。ただ、肩書きだけで扱いが決まるわけではなく、実際にどこまで関わっているかが問題になります。同席者の立場や、資格のない人が交渉を代わることの問題は、別の記事で詳しく扱っています。

まとめ


  1. 複数で来ること自体を禁じる決まりはなく、人数が多いというだけで相手の対応が違法になるわけではありません。
  2. 問題になりやすいのは、人数が「説明を聞くため」ではなく「その場で決めさせるため」に使われている場合です。
  3. 集団で行われた暴行・脅迫等については、別に定めが置かれています(暴力行為等処罰に関する法律1条、刑法208条、222条、261条)。
  4. 言葉の評価は、場所や時間帯、その場の人数といった周囲の事情を含めて、一般の人を基準に判断されると説明されています(刑法222条、249条)。
  5. 同じ話をする人が多いほど有利になるという仕組みではなく、事実の判断は裁判所の心証に委ねられています(民事訴訟法247条、刑事訴訟法318条)。
  6. 人数、場所、時間、窓口の四つは、こちらから調整を求めてよい部分です。
  7. その場で残りやすいのは署名と支払いと発言、残りにくいのは人数や経緯です。離れた直後に事実だけを書き出しておくと、この差を埋められます。
  8. 強く迫られて署名した書面については取り消しを主張できる場合がありますが、経緯を示す資料が要ります(民法96条1項)。


複数人からの要求でお困りの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当な要求や請求に関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手が複数で来る場面は、その場の記憶と手元の資料だけが頼りになりがちです。何を残しておけばよいか、どこまで自分で答えてよいかは、状況によって変わります。

 要求を受けて困っておられる方はもちろん、正当な申し入れをしたつもりが相手方から問題視されているという方も、事実関係を整理するところからお手伝いします。窓口を弁護士に移すことで直接のやり取りを止められる場面もありますので、お困りの段階でご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【不当要求対応】相手が複数人で来る|多対一の場での対応と記録

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼