【不当要求対応】相手が金額を下げてきた|減額提示が持つ意味

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

「はじめに示された金額があまりに大きかったので身構えていたところ、しばらくして『この額でいい』と、下げた金額を伝えてきました。下がったのだから、ここで応じてしまうのがよいのでしょうか」。金銭の要求を受けている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に、請求している側の方から「こちらが歩み寄って金額を下げたのに、相手からは何も返ってこない」とうかがうこともあります。

 「減額交渉はできる」「安易に要求へ応じてはいけない」という説明は、数多く見かけます。どちらも、それ自体が誤っているわけではありません。ただ、そこで想定されているのは、こちらから金額を下げてもらうよう働きかける場面か、相手が最初に示した金額をそのまま押し通してくる場面のどちらかです。相手のほうから金額を下げて示してきたとき、その提示をどう読み、何を確かめてから返事をすればよいのかは、あまり語られていません。

 この記事では、金銭の要求を受けている方に向けて、減額の提示が法律上どのような位置づけになるのか、下がった金額と一緒に何が動いているのか、返事をする前に何を確かめておくとよいのかを整理します。要求そのものが不当かどうかの見分け方、進め方が脅迫や恐喝にあたるかどうかの線引き、すでに支払ってしまった後の対応は、それぞれ別の記事で扱っていますので、ここでは立ち入りません。

減額の提示は「前の請求の取り下げ」ではない

 金額を下げた連絡を受け取ると、前の請求は引っ込められたように感じられます。しかし、法律の枠組みで見ると、そこで起きているのは少し違うことです。

法律上は「新しい話し合いの申し出」にあたる

 争いのある事柄について、当事者が互いに譲り合って争いをやめる約束を、法律では和解といいます(民法695条)。相手が下げた金額を示す行為は、この和解の申込みにあたることが多く、申込みは相手方が承諾して初めて契約になります(同法522条1項)。示された時点では、まだ何も決まっていません

応じなければ、相手は元の主張に戻ることができる

 申込みは、受け入れられなければ契約になりません。相手が下げた金額を示したことは、それより前に述べていた金額の主張を法律上放棄したことまでは意味しないのが通常です。話がまとまらなかった場合に、相手が改めて当初の金額を持ち出してくることもありますし、その主張が通るかどうかは、下げる前も後も同じように、責任の有無と範囲の問題として判断されます。

下がった金額が「支払うべき金額」とは限らない

 金額が動いたのは、あくまで話し合いの中での出来事です。法律上の責任があるかどうか、あるとしてどこまでの範囲かは、それとは別の物差しで決まります。下がったこと自体は、その金額に根拠が備わったことの証明にはなりません。提示された金額から出発するのではなく、責任の有無と範囲から考えるという順序は、下がった後も変わりません。

なぜ下げてきたのかを、いくつかの可能性に分けて考える

 「下げてきた理由」は、相手に尋ねても率直に語られるとは限りません。そこで、考えられる型をいくつか並べ、どのような形で表れやすいかを手がかりにする方法があります。ひとつに決めつける必要はなく、複数が重なっていることもあります。

下げてきた理由の型表れやすい形確かめる手がかり
請求の根拠を詰め切れていない内訳の説明がないまま総額だけが動く何にいくらかかったのかを尋ねたときの返答
早く、確実に受け取りたい期日や振込の手軽さが強調される急ぐ理由についての説明があるか
こちらが出せる範囲を見積もった収入や家族構成を尋ねられた後に金額が動く金額が動く前にどんなやり取りがあったか
お金以外に求めるものがある金額と引き換えに別の約束が加わる下がった条件に付いてきたもの
はじめから交渉の幅を見込んでいたこちらが何も示していないのに下がる最初の金額に積算の跡があったか


下げ幅の大きさは、最初の数字の性質を映すことがある

 損害の賠償として求められる金額は、本来、実際に生じた費用や損害を積み上げて算定されるものです。積み上げで出された数字は、その根拠が崩れない限り大きくは動きません。逆に、短い期間に大幅に動く請求は、最初の数字が積算によるものではなかった可能性をうかがわせることがあります。ただし、後から資料が出て計算し直された場合もありますので、下げ幅の大きさだけで結論を出すことはできません

「譲った」ように見えても、出発点によって意味は変わる

 出発点が高く設定されていれば、そこから下げても、なお本来検討されるべき水準を上回っていることがあります。下がったという事実は、比べる相手が「最初に示された金額」であるときにだけ意味を持ちます。比べるべきなのは、最初の金額ではなく、責任の有無と範囲から見て説明のつく金額です。

金額と一緒に何が動いたかを見る

 減額の提示は、金額だけが単独で動くとは限りません。下がったのと引き換えに、別の条件が加わっていないかを確かめておくと、提示の全体像がつかみやすくなります。

金額だけが下がり、終わりの範囲が付いてこないことがある

 支払うことで何がどこまで終わるのかは、金額とは別に取り決めなければ決まりません。金額の話だけが進み、誰との間の、何についての話が終わるのかが空欄のままという状態は、支払った後にもう一度連絡が来る余地を残します。清算の範囲の定め方は、書面の条項を扱った記事で説明しています。

交換条件として付いてくることがあるもの

 次のような条件は、金額が下がったことと引き換えに示されることがあります。それぞれに、後から影響が及ぶ可能性があります。

  • その場で、あるいはごく短い期限までに返事をすること。
  • 現金を直接渡すなど、支払いの記録が残りにくい方法をとること。
  • 謝罪文や念書に署名すること。
  • 第三者に口外しないという約束をすること。
  • 書面を作らないまま、支払いだけを先に済ませること。
  • 分割にする代わりに、一度でも遅れたら残り全部を直ちに支払うという条件を付けること。


名目が変わっていないか

 金額が下がる際に、請求の名目が入れ替わっていることがあります。当初は損害の賠償として求められていたものが、下がった提示では「解決金」「迷惑料」といった言葉に置き換わっている、といった形です。名目が変わると何に対する支払いなのかが曖昧になり、後から別の名目で請求される余地が残ることがあります。

「いつまでに返事を」と言われたときの、期限の読み方

 減額の提示には、回答の期限が添えられることがよくあります。この期限は、支払いの期限とは性質が異なります。

支払いの期限と、回答の期限は別のもの

 支払いの期限は、義務があることを前提に、いつまでに履行するかを定めるものです。これに対して回答の期限は、申し出を受け入れるかどうかの返事をいつまでにするかという話です。義務の有無がまだ定まっていない段階では、後者の期限が過ぎても、それだけで支払義務が生じるわけではありません。

回答期限を定めた申し出は、その期間中は撤回されない

 承諾の期間を定めてした申込みは、申込者が撤回する権利を留保していない限り、撤回することができないとされています(民法523条1項)。相手が「いつまでに返事を」と期限を切って金額を示している場合、その期間内であれば、こちらが検討している間に一方的に引っ込められる筋合いのものではない、ということになります。急かされている感覚と、実際に使える時間とは、必ずしも一致しません。

期限を過ぎると、その案が残らないことがある

 もっとも、期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは効力を失うとされています(同条2項)。また、遅れて届いた承諾については、申込者がこれを新たな申込みとみなすことができるとされています(同法524条)。期限を過ぎてから「やはりあの金額で」と伝えても、それを受け入れるかどうかは相手側に委ねられるということです。返事を先延ばしにする判断には、この面もあります。

その場で示された提案は、会話が終わると消えることがある

 対面や電話で、期限を定めずに示された提案については、その会話が続いている間はいつでも撤回することができ、会話が続いている間に承諾の通知がなければ効力を失うとされています(同法525条2項・3項。ただし、会話の終了後も効力を失わない旨が示されていたときは別です)。その場で結論を出さずに持ち帰ることには落ち着いて確かめられる利点がある一方で、示された案がそのまま残るとは限らない面もあります。持ち帰る際に、示された内容を書面やメッセージの形で残してもらうと、後の行き違いを減らせます。

条件を付けて返すと、その案が消えることがある

 提示された金額のうち、一部だけを受け入れたいと考える場面はよくあります。ここには、見落とされがちな仕組みがあります。

変更を加えた承諾は、拒絶と新しい申込みとみなされる

 承諾する側が、申込みに条件を付けたり、その他の変更を加えて承諾したときは、その申込みを拒絶したうえで、新たな申込みをしたものとみなされます(民法528条)。「金額はその額でよいが、支払いは分割にしてほしい」「その額でよいが、口外しない約束は入れないでほしい」といった返し方は、この規定にあたることがあります。その場合、相手が改めて受け入れなければ話はまとまらず、元の提示に戻ることも当然にはできません。

「ここだけ直してくれれば」は、慎重に伝える

 示された案を残したまま検討を続けたいのであれば、承諾でも拒絶でもない形、たとえば「持ち帰って検討しています」と伝えるにとどめる方法があります。対案を出す場合にも、元の案を断る趣旨ではないことを併せて伝えておくと、意思が読み違えられにくくなります。伝え方ひとつで、その後に使える選択肢の数が変わることがあります。

細かな言い回しの修正まで含むわけではない

 どの程度の変更がこれにあたるのかは、契約が成り立つかどうかに関わる程度の重要性を持つものかどうかで考えられており、ごく些細な付随的な手直しにとどまる場合には有効な承諾と解する余地があるとされています。もっとも、どこまでが些細な手直しなのかは後から争いになりやすい部分です。金額、支払いの時期と方法、清算の範囲に関わる修正は、些細なものとは扱われにくいと考えておくほうが安全です。

返事をする前に確かめておきたい5点

 減額の提示を受けたときに特有の確認事項を挙げます。金額そのものの当否は、これとは別に検討することになります。

  1. 下がる前の請求と比べて、何が変わり、何が変わっていないか。
  2. 下げた理由について、相手から説明があったかどうか。
  3. 下がった金額であっても、そもそもこちらに支払う義務があるといえるのか。
  4. その金額を支払うことで、誰との間の、何についての話が終わるのか。
  5. 断った場合に、相手が取りうる手続として何が考えられるか。


 五つ目は、悲観的にも楽観的にも見ないことが大切です。相手が訴訟などの手続を実際に取るかどうかは、根拠となる資料がそろっているか、費やす手間や費用に見合うかによって変わります。断ることが直ちに不利な結果につながるとは限りませんし、断れば立ち消えになると決まっているわけでもありません。

減額に応じたことが、後で持つ意味

 提示に応じることは、その場を収めるだけでなく、後の場面に影響を残すことがあります。

一部でも支払うと、責任を認めたと受け取られることがある

 債務の承認があったときは、消滅時効は更新されます(民法152条1項)。争っている途中で、下がった金額の一部を先に渡すといった対応は、承認と評価される余地があります。支払いの意味づけについては、支払った後の対応を扱った記事で詳しく説明しています。

和解が成立すると、後から動かしにくくなる

 和解によって、争っていた事柄について当事者の一方が権利を有する、あるいは有しないと定めたときは、その内容に沿って権利が確定するものとされています(民法696条)。話がまとまった後に「調べ直したら事情が違った」と考え直しても、それだけで元に戻せるとは限りません。まとめる前に確かめておく価値は、ここにあります。

金額が下がっても、進め方の問題は別に残る

 「下げてきたのだから、穏当な相手なのだろう」と受け取られることがあります。しかし、金額の多寡と、要求の仕方が許される範囲にとどまっているかどうかは、それぞれ別に判断されます。応じてしまった後であっても、そこに至る進め方について相談できなくなるわけではありません。下がった後の金額であっても、支払わせるために不安をあおるような伝え方がされていれば、その点は別に問題になり得ます。

 他方で、「訴える」「弁護士に依頼する」「被害届を出す」といった予告そのものは、直ちに違法な言動とはいえません。どこから線を越えるのかについては、要求の仕方を扱った記事で整理しています。

減額の提示がすべて不当な誘導とは限らない

 ここまで確認すべき点を並べてきましたが、減額の提示を一律に警戒すべきものと考える必要はありません。次のような場合には、下がったこと自体に無理のない説明がつきます。

  • こちらが示した資料や反論を受けて、相手が計算をし直した場合。
  • 当初は確定していなかった費用や損害の額が、後になって確かめられた場合。
  • 相手も長引かせたくないと考え、現実的な着地点を示してきた場合。


 正当な部分がある請求について、下がったことだけを理由に一律に拒み続けると、話し合いでの解決の機会を狭め、かえって条件の整わない形になることもあります。警戒すべきなのは「下がったこと」そのものではなく、下がった理由と中身が説明されないまま返事を急がされる状況です。

よくあるご質問


いったん下がった金額は、断ったらもう戻ってこないのでしょうか。

 断ったことで、その提示が効力を失うことはあります。ただし、話し合いが続いている限り、相手が改めて同じ水準の金額を示してくることもありますし、こちらから改めて提案することもできます。断ることと、交渉が終わることは同じではありません。なお、条件を付けて返した場合には、元の提示を拒絶したものとみなされることがありますので(民法528条)、まだ検討中であるという趣旨なら、その旨をはっきり伝えておくほうが安全です。

返事を保留したいときは、どのように伝えればよいですか。

 受け取った内容を確認していること、いつごろまでに返事をする見込みかを簡潔に伝える形が一般的です。承諾とも拒絶とも受け取られない言い方を選び、口頭だけで終えずに記録の残る方法で伝えておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。「前向きに考えます」とだけ答えると、相手に別の意味で受け取られることがありますので、避けたほうがよいでしょう。

下がった金額を分割で支払う話になっています。何に気をつければよいですか。

 金額が下がる代わりに支払いの条件が厳しくなっていないか、支払いを終えたときに何が終わるのかが定められているか、支払いの記録が残る方法になっているかを確かめてください。分割の条件の作り方や、遅れた場合の取り決めは、支払いの条件を扱った記事で説明しています。

まとめ


  1. 減額の提示は、前の請求の取り下げではなく、和解の申込みにあたることが多い(民法695条・522条1項)。
  2. 下がった金額が、支払うべき金額であることの証明にはならない。責任の有無と範囲は別に検討する。
  3. 下げてきた理由には複数の型があり、下げ幅の大きさは最初の数字の性質を映すことがある。
  4. 金額と一緒に何が動いたか、とくに「何がどこまで終わるのか」が空欄のままでないかを確かめる。
  5. 回答の期限を定めた申し出は、その期間中は撤回されないが、期限を過ぎれば効力を失うことがある(民法523条1項・2項、524条)。その場で示された提案は、会話の終了とともに効力を失うことがある(同法525条2項・3項)。
  6. 条件を付けて返すと、拒絶と新たな申込みとみなされることがある(民法528条)。検討中であればその旨を明示する。
  7. 一部の支払いは承認と評価される余地があり(民法152条1項)、和解が成立すると内容に沿って権利が確定する(同法696条)。


金銭の要求を受けてお困りの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、金銭の要求をめぐるご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。金額が下がったこと自体をどう受け止めればよいのか、返事を急かされていてよく分からない、といった段階でのご相談も少なくありません。

 請求を受けている方には、示された内容を一つひとつ確かめながら、応じる場合と応じない場合のそれぞれで何が起きるのかを整理してお伝えします。請求している側の方についても、示した条件が相手に伝わる形になっているかという観点からご相談をお受けしています。返事をする前の段階でも、お気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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