【不当要求対応】『弁護士に相談した』と言われた|本当に代理人が就いたのかを確かめる

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

「話し合いをしている途中で、相手から『弁護士に相談した』と言われました。これから弁護士とやり取りすることになるのでしょうか」。当事務所のご相談では、このようなお話をうかがうことがあります。貸したお金の返済をめぐるやり取り、取引や契約の行き違い、近隣や職場での争いごと、男女間の問題、事故やけがの後の話し合いなど、場面はさまざまです。何かを求めている側から言われた方もいれば、求められている側から言われた方もいます。

 このような場面についてよく見かける説明は、「相手に弁護士がついたら直接連絡を控え、こちらも弁護士に相談しましょう」というものです。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、この説明は、弁護士から書面や電話で連絡が来た後の場面を前提にしています。相手本人が口頭で「弁護士に相談した」と述べただけの段階は、その手前にあります。相談したという話が本当かどうかも、相談にとどまるのか代理を任せているのかも、この時点では外からは見えません。

 この記事では、その手前の段階に絞って整理します。相談と依頼はどう違うのか、代理人が就いたときに外から何が見えるのか、確かめる手立てには何があり、それぞれ何が分かって何が分からないのか、確かめられないまま進めるときは何を基準にすればよいのか、という順です。自分も弁護士に依頼すべきかどうかの判断、届いた書面の種類の見分け方、相手方の弁護士から連絡が来た後のやり取りの作法は、それぞれ別の記事に譲ります。

この記事で扱うこと

 扱う範囲は、次の四つです。

  • 「相談した」と「依頼した」が法律上どう違うのか。
  • 代理人が就いた場合に、相手方から見て何が変わるのか。
  • 確かめるための手立てと、それぞれの限界。
  • 確かめられないまま進めるときに、何を動かして何を動かさないか。


 いずれも、何かを求めている側でも、求められている側でも起こりうる場面です。分野を問わず当てはまる形で整理していきます。

「相談した」と「依頼した」は別の段階です

 まず前提として、法律相談を受けることと、代理人として事件を任せることは、別の段階です。

相談は助言を受けること、依頼は代理を任せること

 法律相談は、事情を説明して見通しや対応方針について助言を受ける場です。相談を受けた弁護士が、そのまま代理人になるとは限りません。相談だけで終わることもありますし、相談した弁護士とは別の弁護士に依頼することもあります。他方、依頼というのは、委任契約を結んだうえで、交渉や手続を本人に代わって行うことを任せるものです。代理人として就任して初めて、その弁護士が相手方との窓口になります。

 つまり、「弁護士に相談した」という言葉は、その時点で代理人が就いていることを意味しません。相談の予約を取っただけの段階でこう述べる方もいますし、相談を終えて依頼するかどうかを検討している段階の方もいます。

日常の会話では、この二つは同じ言葉で語られます

 実際の会話では、「弁護士に相談した」「弁護士を立てた」「弁護士に頼んだ」といった言い方が、あまり区別されないまま使われます。相手に事実と違うことを述べる意図がなくても、言葉のうえでずれることは珍しくありませんし、これ以上追及されたくないという気持ちから、実際より進んだ言い方をされることもあります。どちらであるかをその場で決めつける必要はありません。確かめるべきなのは相手の内心ではなく、外から確認できる事実のほうです。

相談の段階では、窓口は本人のままです

 相談にとどまっている段階では、その弁護士はまだ相手方の代理人ではありません。ですから、相手本人が連絡の相手方であり、これまでどおり本人との間で書面や連絡のやり取りを続けることになります。ここを取り違えると、誰に宛てて書面を出せばよいのかが分からなくなり、話し合いが止まってしまうことがあります。

代理人が就いたときに、通常は何が起きるのか

 弁護士が代理人として就任した場合、相手方に対しては、その旨を知らせる書面が送られるのが通常です。受任通知、あるいは受任のご連絡といった表題が用いられます。そこには、依頼を受けたこと、今後の連絡は弁護士宛てにしてほしいこと、依頼者の考えの概要などが記載されます。差出人欄には弁護士の氏名、所属する弁護士会、事務所の名称と連絡先が記載されるのが一般的です。

段階ごとに、外から見えるものは変わります

 同じ「弁護士が関わっている」という状態でも、段階によって外から確認できることは異なります。

段階外から見えるものそこでは分からないこと
相談しただけ相手本人の言葉のみ相談の有無、どの弁護士か
依頼したが通知の前相手本人の言葉のみ依頼の有無、通知が来るかどうか
受任通知が届いた弁護士の氏名、所属弁護士会、事務所の連絡先どこまでの権限を任されているか
裁判所の手続が始まった訴状や期日の通知に代理人として弁護士の氏名が記載される相手方の考えの詳細


 こうして並べると、相談の段階と、依頼したが通知が届いていない段階は、外から見える情報が同じであることが分かります。「受任通知が来ていないから依頼していない」とは言い切れないのは、このためです。

通知が来ない理由は一つではありません

 受任通知が届かない背景には、いくつかの事情が考えられます。そもそも依頼に至っていない場合のほか、依頼を受けた弁護士が事情の聞き取りや資料の確認を進めていて、通知の準備をしている途中という場合もあります。また、交渉を経ずに調停や訴訟の申立てから入る方針であれば、事前の通知がないまま裁判所からの書類が届くこともあります。

確かめることには、三つの層があります

 「本当に代理人が就いたのか」という問いは、実は三つの別々の問いが重なったものです。分けて考えると、どこまで確かめられるのかが見えやすくなります。

第一層 その人が弁護士かどうか

 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えられた弁護士名簿への登録が必要とされています(弁護士法8条)。登録された弁護士の基本的な情報は、日本弁護士連合会のウェブサイトの弁護士検索で調べることができます。氏名や事務所名の一部が分かっていれば、その氏名の弁護士が登録されているかどうかを確認できます。

 ここで一点、注意しておきたいことがあります。日本弁護士連合会のサイトには、取扱分野などから弁護士を探すための「弁護士情報提供サービス ひまわりサーチ」も置かれていますが、こちらは任意登録制で、すべての弁護士が登録されているわけではないと案内されています。ひまわりサーチに名前が見当たらないことは、その人が弁護士でないことを意味しません。登録の有無を確かめたいときは、登録されているすべての弁護士を対象とする弁護士検索のほうを使うことになります。

第二層 この件を受任しているかどうか

 弁護士として登録されていることが分かっても、その弁護士がこの件を受任しているかどうかは、別の問題です。そして、こちらのほうが確かめにくい層です。裁判外の交渉には、代理権を証明する書面の提示を義務づける規定が置かれていないためです。

第三層 どこまでの権限を任されているか

 受任していることが分かっても、交渉を任されているのか、合意をまとめる権限まで任されているのかは、また別の話です。この点は、代理人が就いた場合の法律関係を扱う別の記事に譲ります。まずは第一層と第二層を押さえておけば、当面の進め方は決められます。

確かめる手立てと、そこで分かること

 実際に取りうる手立てを並べると、それぞれ分かる範囲が違うことが分かります。

手立て分かること限界
相手本人に弁護士の氏名と事務所を尋ねる名前が出れば次の確認に進める答える義務はなく、明かされないこともある
届いた書面の差出人欄を見る弁護士の氏名、所属弁護士会、事務所の連絡先書面が届いていない段階では使えない
日本弁護士連合会の弁護士検索で調べるその氏名の弁護士が登録されているかこの件を受任しているかまでは分からない
事務所に問い合わせる代理人として活動していれば、その旨の応答がある相談の段階では答えられないことがある
裁判所の手続の中で確認する代理権が書面で証明される手続が始まるまで待つことになる


事務所に問い合わせても、答えられないことがあります

 弁護士には、職務上知り得た秘密を守る義務があります(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。「この方から相談を受けていますか」という問い合わせに対して、相談の有無自体が依頼者の秘密にあたるとして、回答を控えられることがあるのはこのためです。

 もっとも、代理人として活動している場合は事情が異なります。代理人は相手方との窓口になる立場ですから、受任していれば、その旨を伝えたうえで用件を聞き取るのが通常です。何も答えられないという応答が返ってきたとき、それは「受任していない」という意味にも「相談段階なので答えられない」という意味にもなりうるという点は、押さえておいてよいと思います。

裁判の段階になれば、代理権は書面で確認されます

 訴訟になった場合、訴訟代理人の権限は書面で証明しなければならないとされています(民事訴訟規則23条1項)。裁判所に委任状が提出され、代理人として手続に関与していることが記録に残ります。裁判外の交渉には、これに当たる仕組みが用意されていません。確かめにくさは、相手の態度の問題というより、制度の作りから来ている面があります。

確かめようとするときに、気をつけたいこと

 確認は必要ですが、確認の仕方そのものが後に問題になることもあります。

問いただす形にしないほうがよい場面があります

 「本当に相談したのか」「嘘なら言ってほしい」といった尋ね方は、相手の反発を招きやすく、やり取りの記録としても残ります。話し合いがこじれた事案では、連絡の内容や頻度が後の交渉や手続の場で持ち出されることがあります。確認は、相手の言葉の真偽を問う形ではなく、こちらの手続を進めるために必要な情報として尋ねる形にしておくほうが、後の負担が軽くなります。たとえば、今後の連絡先を確認したい、書面はどこへ送ればよいかを教えてほしい、という尋ね方です。

名前を明かしてもらえないこともあります

 相手には、弁護士の氏名や事務所を答える義務はありません。教えてもらえないまま話が進むことも起こりえます。その場合は、次の章の考え方で進めることになります。

確かめられないまま進めるときの考え方

 確認が取れないときは、代理人が就いていない状態を前提に進めるのが素直です。そのうえで、次の三点を意識しておくと迷いにくくなります。

窓口は本人のままとして扱う

 弁護士には、相手方に代理人が選任されたときは、正当な理由なくその代理人の承諾を得ずに直接相手方と交渉してはならないという規律があります(弁護士職務基本規程52条)。ここで確認しておきたいのは、これは弁護士の職務上の規律であって、当事者本人であるあなたを縛るものではないということです。代理人が就いたことが確認できていない段階で、相手本人に連絡を取ること自体が違法になるわけではありません。

連絡の回数や時間帯は、別の問題になりえます

 もっとも、連絡してよいことと、どのような連絡でもよいこととは別です。回数、時間帯、内容によっては、連絡の態様そのものが問題として持ち出されることがあります。この点は、相手への連絡が問題になる場面を扱った別の記事をご覧ください。

期限は、相手の言葉では動きません

 権利には期間の制限があり、消滅時効の進行が止まるのは、裁判上の請求や催告など、法律が定める行為があった場合です(民法147条、150条)。時効の期間や起算点は権利の性質によって異なりますが、いずれにしても、相手が「弁護士に相談した」と述べたことは時効の進行に影響しません。相手が代理人を立てるかどうかを待つ間にも、時間は進みます。確認に時間をかけるのであれば、確認と並行して、自分の側の期限を管理しておく必要があります。時効の起算点や具体的な手当ては、時効について扱った記事に譲ります。

「弁護士に相談した」と言われた後に、しがちなこと

 この場面では、確認の前に行動が先に出てしまうことがあります。よくある動きと、それが後にどう効いてくるかを並べます。

しがちなこと後にどう効いてくるか
提示していた金額をその場で下げる、または上げる一度示した条件は、その後の交渉の出発点として残る
争いがある事実について認める発言をする後の話し合いや手続で、相手方の主張の裏づけとして引かれることがある
真意を確かめようとして連絡の回数を増やすやり取りの記録が残り、態様そのものが問題にされることがある
話し合いを止めて、何も返さないままにする時間だけが過ぎ、期限の管理が難しくなる


相手の言葉で、話の中身が変わるわけではありません

 請求が認められるかどうか、どこまでの支払いや対応が必要かは、事実と証拠、そして法律の枠組みによって決まります。相手が弁護士に相談したかどうかは、その判断材料ではありません。相談したと言われたことで見通しを下方に修正する理由はありませんし、逆に、相談されていないと分かったからといって強気に出る理由にもなりません。

代理人が就いていたと分かった場合

 確認の結果、実際に代理人が就いていた場合は、窓口が弁護士に移ります。もっとも、代理人が就いたことは、相手の言い分が正しいと認められたことを意味しません。弁護士名で示された条件や金額も、その時点では相手方の主張です。宛先が変わったという事実と、内容の当否とは分けて考えることになります。

 もう一点、代理人に対してした意思表示は本人に対してしたものとして扱われます(民法99条2項)。代理人との間でまとまった話は、本人との間でまとまった話として効いてきます。逆に、代理権のない人と交わした約束は、本人が追認しない限り本人に効力を生じないとされています(民法113条1項)。誰との間で話をまとめたのかを確かめることには、こうした意味もあります。代理の効果や権限の範囲については、代理人が就いた場合の意味を扱った記事をご覧ください。

弁護士以外の人が「代理人」として出てくる場合

 「弁護士に相談した」ではなく、家族や知人が「代理で話をする」と言って出てくることもあります。本人から任された人が本人に代わって交渉すること自体は、民法上の代理として起こりえます。一方で、弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱うことを業とすることは禁じられており(弁護士法72条)、訴訟の代理人になれるのも原則として弁護士に限られています(民事訴訟法54条1項。簡易裁判所では裁判所の許可を得た場合の例外があります)。

 この場合も押さえるべき点は同じで、その人にどこまでの権限が与えられているのかが分からないまま話をまとめても、本人との間で合意ができたことにならない可能性があります。書面を交わす段階では、誰が当事者で、誰が署名するのかを整理しておくことになります。

自分が「弁護士に相談した」と伝える側になる場合

 立場が逆になることもあります。相談しただけの段階で「弁護士に任せた」と伝えると、相手はそれ以降の連絡先を弁護士だと考えます。実際には弁護士から連絡が行かないため、話が止まったまま時間が過ぎることがありますし、後になって本人が交渉に戻ると、説明が食い違ったという印象を残すこともあります。相談した段階では、相談した事実をそのまま伝えるか、伝えないでおくかのどちらかにしておくほうが、後の説明がしやすくなります

 なお、相談したと伝えたことで相手が慎重になることもあれば、かえって態度が硬くなることもあります。どちらに転ぶかは相手次第です。伝えること自体を目的にせず、そのあと自分がどう進めるかを決めてから伝えるほうが、話は整理されます。

よくあるご質問

相手が弁護士の名前を教えてくれません。調べる方法はありますか

 氏名が分からない状態で、その人に代理人が就いているかどうかだけを調べる仕組みは用意されていません。実務的には、書面での連絡をお願いし、差出人として弁護士名が出てくるかどうかを待つ形になります。調停や訴訟に進んだ場合は、手続の中で代理人の有無が明らかになります。

「弁護士に相談した」と言われたら、こちらも弁護士に依頼しなければなりませんか

 相手が相談したという事実だけを理由に、依頼が必要になるわけではありません。依頼するかどうかは、争いのある事実の内容、手元の資料、求められている条件の重さなどから考えることになります。この判断については、自分も弁護士を立てるかどうかを扱った記事をご覧ください。相談だけを利用して、進め方の確認にとどめるという選択もあります。

「弁護士に相談した」と言われたこと自体は、脅しにあたりますか

 弁護士に相談すること自体は誰にでも認められている行為で、それを相手に伝えることが直ちに違法とされるものではありません。もっとも、伝え方や、あわせて求められている内容によっては、別の問題として検討されることがあります。その線引きについては、脅迫や恐喝との境界を扱った記事をご覧ください。

まとめ


  1. 法律相談を受けることと、代理人として依頼することは別の段階で、「弁護士に相談した」という言葉は代理人の就任を意味しません。
  2. 代理人が就いた場合は、受任通知などの書面で知らされるのが通常ですが、届いていないことから依頼の有無を判断することはできません。
  3. 確かめる対象は、弁護士として登録されているか(弁護士法8条)、この件を受任しているか、どこまで任されているか、の三層に分かれます。
  4. 登録の有無は日本弁護士連合会の弁護士検索で確認できます。ひまわりサーチは任意登録制のため、掲載がないことは登録がないことを意味しません。
  5. 弁護士には秘密を守る義務があり(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)、相談の有無について回答を控えられることがあります。
  6. 裁判外の交渉には代理権を書面で確認する仕組みがなく、訴訟では書面による証明が求められます(民事訴訟規則23条1項)。
  7. 代理人の承諾なく直接交渉しないという規律は弁護士に向けられたもので(弁護士職務基本規程52条)、当事者本人を縛るものではありません。
  8. 消滅時効の進行は相手の言葉では止まらないため(民法147条、150条)、確認と並行して自分の側の期限を管理しておくことになります。


相手とのやり取りにお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋と新橋の事務所でご相談をお受けしています。相手から「弁護士に相談した」と言われて次の一手を決めかねている、書面をどこへ出せばよいのか分からない、といった段階でのご相談もお受けしています。

 何かを求めている側の方も、求められている側の方も、確認が取れないまま動くことで、後から取り返しのつきにくい記録が残ってしまうことがあります。ご自身の事案でどこまで確かめられるのか、確かめられないまま進める場合に何へ気をつけるべきかについて、事情をうかがったうえでご説明いたします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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