脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦
「話し合いの場に行ったら、相手が知らない人を連れてきていた」「相手の親が横から口を出し、本人はほとんど話さなかった」。慰謝料や示談の話し合いをめぐって、こうしたご相談をいただきます。反対に、請求を受けた側の方から「相手が『代理の者です』と名乗る人を立ててきたが、弁護士なのか分からない」とご相談をいただくこともあります。
インターネット上には「弁護士でない人が報酬を得て交渉することはできない」という説明が数多くあります。これは弁護士法の定めを踏まえた説明で、それ自体が誤っているわけではありません。ただ、この説明が答えているのは「相手側についているその人の側に問題があるかどうか」であって、「その場でこちらが何を答え、何に署名するのか」という目の前の判断には、そのままでは結びつきません。
この記事では、相手方が第三者を同席させてきたときに、その人がどの立場で関わっているのかを見分ける手がかりと、いわゆる非弁の問題がどこから始まるのか、そして、その場でできあがった合意が後からどう扱われるのかを整理します。書面が届いた段階の対応、相手方に弁護士が就いた場合の進め方、当事者以外の家族から直接連絡が来た場合の扱いは、それぞれ別の記事に譲ります。
この記事で扱うこと・扱わないこと
同席者をめぐる悩みは、「その場にいてもらってよいのか」という問いと、「その人とのやり取りが後からどう扱われるのか」という問いに分かれます。この記事は主に後者を扱います。
- 相手方が同席させた人の立場を、話し合いの場でどう見分けるか。
- 弁護士法が制限している範囲、いわゆる非弁の問題がどこから始まるか。
- 同席者を交えて成立した合意が、後からどう扱われるか。
- こちらの側が第三者を同席させる場合に起きること。
一方で、相手方の代理人弁護士から連絡が来た場合の応じ方、家族から電話や手紙が届いた場合の扱い、録音の可否と証拠としての扱い、金額の妥当性や減額の考え方は、この記事の対象からは外しています。
同席している人が誰なのかは、肩書きでは決まりません
「この人は誰ですか」と尋ねると、「親です」「友人です」「間に入ってもらっている者です」といった答えが返ってきます。しかし、こうした呼び名は、その人が法律上どの位置にいるかを示すものではありません。同じ「親」でも、隣で聞いているだけの場合と、本人に代わって金額を提示している場合とでは、起きていることがまったく違います。
同席者に多い立場と、その場で起きやすいこと
相談で見聞きすることの多い組み合わせを整理すると、次のようになります。
| 同席していた人 | その場で起きやすいこと | 確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 相手方の親・きょうだい | 本人が黙り、家族が金額や期限を述べる | 述べているのは本人の意思なのか、家族の考えなのか |
| 相手方の友人・知人 | 感情面の応援役にとどまることが多い | 話し合いの内容をどこまで聞いてよいと本人が考えているか |
| 相手方の職場の上司・同僚 | 本人の職場での立場を背景にした話が混じる | 職場の話と当事者間の話が分けられているか |
| 弁護士として就いている人 | 窓口が代理人に移り、書面のやり取りが中心になる | 受任している範囲がどこまでか |
| 交渉の代行をうたう事業者 | 条件の提示や回答をその人が行う | 報酬を受けて関わっているのか、権限は誰から与えられたのか |
同席していること自体を禁じる規定はありません
まず前提として、当事者どうしの話し合いに誰かが立ち会うことを直接に禁じた法律はありません。話し合いは私的な場ですから、誰を呼ぶかは基本的に当事者の判断に委ねられています。相手が誰かを連れてきたというだけで、違法な状態だということにはなりません。問題になるのは席にいることではなく、その人が何をしているかです。同席そのものではなく、関わり方の中身によって、法律上の評価も、こちらが取るべき対応も変わります。
「連れてくること」と「代わりに話すこと」は別の話です
連れてきた人が黙って座っているだけであれば、話し合いは当事者どうしのものとして進みます。ところが、その人が金額を提示し、期限を切り、こちらの提案に回答するようになると、実質的には本人ではなくその人と交渉していることになります。この移り変わりははっきりした区切りがないまま起こり、気づいたときには本人がほとんど発言していない、という状態になりがちです。
同席者の関わり方には段階があります
「同席か、それとも代理か」という二択で考えると、実際の場面には当てはめにくくなります。関わり方は連続していて、次のように段階を追って深まっていくものと捉えたほうが、その場での判断がしやすくなります。
| 関わり方の段階 | その場で起きていること | こちらが確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 立ち会って聞いている | 発言はせず、答えているのは本人 | 同席することに本人が同意しているか |
| 横から助言を入れる | 本人の答えが助言を受けて変わる | いま答えているのは誰の判断か |
| 本人に代わって条件を述べる | 条件の提示や回答をその人が行う | 本人がその内容を了解しているか |
| 本人がいない場でも窓口として動く | 連絡や交渉がその人を通してのみ行われる | どこまでの権限を本人から与えられているか |
段階は話し合いの途中で上がっていきます
最初は付き添いのつもりだった人が、話が込み入るにつれて発言を増やし、やがて条件の提示まで担うようになることは珍しくありません。境目を越えたという意識が双方にないまま進むこともあります。席についた時点の役割ではなく、いま誰が何を述べているのかを、その都度見ておくことになります。
確かめるのは肩書きではなく、いま誰が答えているかです
同席者に「あなたは弁護士ですか」と問い詰める必要はありません。実務的に意味があるのは、条件のやり取りが出てきた場面で、相手方本人に向けて「いまのお話は、ご本人のお考えということでよろしいでしょうか」と確認しておくことです。答えが本人の口から出てくるのであれば、話し合いは当事者どうしのものとして続いています。
「非弁」とは何を指すのか
いわゆる非弁行為は、弁護士法72条が定める制限に触れる行為を指す言い方です。条文は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件および行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁もしくは和解その他の法律事務を取り扱い、またはこれらの周旋をすることを業とすることができない、と定めています。ただし、この法律または他の法律に別段の定めがある場合は、この限りではありません。
条文が組み合わせている四つの要素
長い一文ですが、要素に分けると次の四つになります。
- 弁護士または弁護士法人でない者であること。
- 報酬を得る目的があること。
- 法律事件に関する法律事務を取り扱い、またはその周旋をすること。
- それを業として行うこと。
この四つがそろって初めて制限の対象になります。裏を返すと、報酬を得る目的がない付き添いや、一回限りの立ち会いは、この枠組みには収まりにくいということになります。違反した場合には罰則が定められています(同法77条3号)。
「法律事件」に当たるかどうかの見方
四つの要素のうち、判断が分かれやすいのが「法律事件」に当たるかどうかです。この点について、ビルの所有者から委託を受けた事業者が賃借人と立ち退きの交渉を行った事案で、最高裁は、立ち退き合意の成否、時期、立ち退き料の額をめぐって交渉で解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である案件だったとして、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものだったと判断しています(最決平成22年7月20日)。
慰謝料や示談金をめぐるやり取りは、支払うかどうか、いくら支払うか、いつまでに支払うかが正面から争われる場面です。この考え方に照らせば、法的な紛議を含む案件として扱われる余地があります。
家族や友人の付き添いは、通常この枠に入りません
相手方が親や友人を連れてきたというだけであれば、報酬を得る目的も、業として行うという要素も見当たらないのが普通です。その意味で、同席者がいることをもって「非弁だ」と指摘するのは、多くの場合、当てはまりが良くありません。ただし、報酬が別の名目で支払われていたり、同種の依頼を繰り返し受けていたりする場合は、見え方が変わります。
弁護士以外でも関われる範囲があります
「弁護士でなければ何もできない」というわけではありません。法律に別段の定めがある場合には、資格に応じた範囲で関わることが認められています。
資格に応じて扱える範囲が決まっています
法務大臣の認定を受けた司法書士は、紛争の目的の価額が一定額を超えない民事の紛争について、相談に応じ、裁判外の和解の代理をすることができます(司法書士法3条1項7号)。行政書士は、権利義務または事実証明に関する書類の作成を業務としています(行政書士法1条の2)。いずれも範囲が法律で決められており、その外側にまで及ぶことは想定されていません。各資格の使い分けは別の記事で扱っています。
また、弁護士法は、弁護士または弁護士法人でない者が弁護士や法律事務所の標示や記載をすることを制限し、利益を得る目的で法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示や記載をすることも制限しています(同法74条1項・2項)。名刺や肩書きだけでその人の立場を決めつけず、誰から何を委ねられているのかを見るほうが確かです。
その場でできあがった合意はどう扱われるのか
ここが、この問題でいちばん誤解の生まれやすいところです。「相手側についていた人が弁護士ではなかったのだから、あの日の示談書は無効のはずだ」というご相談をいただきますが、そう単純には運びません。
効力が否定されるのは、どの契約なのか
最高裁は、弁護士の資格のない者が債権の取立てなどを委任され、取立てに成功した場合に一定割合を報酬として受け取るという内容の契約について、弁護士法72条本文前段に抵触するため民法90条に照らして効力を生じないとした原審の判断を是認しています(最判昭和38年6月13日)。ここで効力が否定されているのは、依頼した側とその第三者との間の委任契約です。
これに対して、その第三者が本人を代理して相手方との間で結んだ和解契約については、別の判断が示されています。最高裁は、認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが弁護士法72条に違反する場合であっても、当該和解契約は、その内容および締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り、無効とはならないと判断しました(最判平成29年7月24日)。
つまり、相手側の内部で問題が生じていることと、こちらと相手方との間で成立した合意が効力を失うこととは、別々に判断されるということです。「あの人は弁護士ではなかった」という一点だけを理由に、署名した書面を白紙に戻せるとは考えないほうがよいことになります。
同席者と話がまとまっても、本人を拘束するとは限りません
逆向きの問題もあります。本人から代理の権限を与えられていない人と条件を決めても、その内容が当然に本人を拘束するわけではありません(民法113条1項)。後になって本人から「そんな話は聞いていない」と言われ、振り出しに戻ることがあります。この点は別の記事で詳しく扱っています。
署名する人と、署名しない人
書面を作る段階では、署名する人が誰なのかを整理しておくことになります。支払義務を負うのは当事者本人ですから、本人の署名がないまま同席者の署名だけで書面ができていると、後から扱いに困ります。同席者が支払いを自ら引き受ける趣旨で名前を書くのであれば、それは付き添いとは別に、自分自身が義務を負うという意思表示です。どちらの立場で名前を書くのかを、その場で曖昧にしないほうが安全です。
同席者には、こちらの話も伝わります
見落とされやすいのが情報の流れです。その場にいる人は、こちら側が話した内容も同じように聞いています。
守秘義務があるかどうかで違いが出ます
弁護士には、職務上知り得た秘密を保持する義務が定められています(弁護士法23条)。相手方の代理人が同席している場合、聞いた内容は依頼者に伝わりますが、外部に広がる範囲には職業上の枠がかかっています。これに対し、相手方の親や友人には、そうした義務を定めた規定がありません。話した内容が相手方の家族や交友関係の中でどこまで共有されるかは、こちらから管理できません。
人数が増えるほど、後から確かめにくくなります
参加者が増えると、誰がどの発言をしたのかが後から追いにくくなります。食い違いが起きたときに双方へ同席者がついていると、それぞれの言い分が別々の人に支えられる形になり、話が収束しにくくなります。同席者が録音していることもありますので、決めた内容をその場でメモにして双方で確認しておくだけでも、後の食い違いは減らせます。
その場で確かめておきたいこと
相手方が第三者を同席させてきた場面で、その日のうちに確かめておくと後が楽になる事柄を挙げます。
- 同席している人の氏名と、本人との関係。
- その人が報酬を受けて関わっているのかどうか。
- 条件を述べているのは本人か、その人か。
- その人に本人から権限が与えられているのか、与えられているとしてどこまでか。
- 今後の連絡先を、本人にするのか、その人にするのか。
- その日に決めた内容と、決めていない内容の区別。
そして、その場で結論を出す必要はありません。同席者がいる場では人数の差から早く決めなければという気持ちになりやすいものですが、持ち帰って検討すると伝えることは、法律上も交渉上も不利に働く行為ではありません。書面への署名を求められた場合は、なおさら持ち帰って確かめてからで足ります。
こちらが第三者を同席させる場合
ここまでは相手方が連れてきた場合を見てきましたが、同じ問題はこちらの側にも起こります。
自分の側にも同じことが起きます
親や友人に付き添ってもらうと心強い一方で、その人が話し始めると、話し合いは当事者どうしのものから離れていきます。感情が絡む場面では同席者のほうが強い言い方になり、かえって話がこじれることもあります。発言は本人が行い、同席者は聞き役に回るという役割分担を、事前に決めておくとよいでしょう。
謝礼を渡す場合は位置づけが変わります
知人に間に入ってもらい謝礼を渡す形を取ると、先ほどの四つの要素のうち報酬を得る目的という部分に近づきます。その人に責任が生じうるだけでなく、まとまった合意の扱いをめぐって後から争いの種になることもあります。無償の付き添いと有償の交渉代行は、性質の異なるものだと考えておくほうが安全です。
手続に入ると、席に座れる人の決まりが変わります
話し合いの段階では誰を同席させるかは当事者の判断ですが、裁判所の手続に入ると、当事者以外の人が関われる形は法律で決められています(民事訴訟法54条1項・60条1項)。話し合いの場で協力してくれた人が、そのまま同じ立場で手続に入れるとは限りません。この点は家族が関わる場面を扱った記事で整理しています。
よくあるご質問
相手が連れてきた人に、帰ってもらうよう求めてよいのでしょうか
求めること自体は問題ありません。話し合いに応じる条件として、当事者どうしで話したいと伝えることはできます。ただし相手方に応じる義務もありませんから、折り合わなければその日は見送るという選択になります。人数の差が気になる場では、以後は書面でやり取りしたいと申し入れる方法もあります。
相手側についていた人が弁護士でなかったと後から分かりました。示談書を撤回できますか
その一点のみを理由に撤回できるとは限りません。先ほど触れたとおり、相手方との間で成立した和解契約は、内容や締結に至る経緯に照らして公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り、無効とはならないと判断された例があります。当日の経緯に無理な要求や強い圧力があった場合は別の観点からの主張も考えられますので、書面と当日の状況を持って早めにご相談ください。
相手の同席者に対して、こちらから直接連絡してもよいのでしょうか
相手方本人が窓口をその人に指定しているのであれば、そこに連絡すること自体は不自然ではありません。ただし、その人に権限がなければ、そこで決めた内容は本人に及ばないことがあります。相手方の勤務先や家族への連絡は、それ自体が別の問題を生むことがありますので、関連する記事をご覧ください。
まとめ
- 同席そのものを禁じた規定はなく、問題になるのはその人が何をしているかである。関わり方は「聞いている」「助言する」「代わりに述べる」「窓口として動く」と段階的に深まり、話し合いの途中で移り変わる。
- 弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関する法律事務を業として取り扱うことは制限されている(弁護士法72条)。違反には罰則がある(同法77条3号)。
- 交渉で解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件は「その他一般の法律事件」に当たるとされた例がある(最決平成22年7月20日)。
- 弁護士でない者との間の委任契約は効力が否定されうるが(最判昭和38年6月13日・民法90条)、相手方との間で成立した和解契約は、特段の事情がない限り無効とはならないとされている(最判平成29年7月24日)。
- 本人から権限を与えられていない人と条件を決めても、その内容が本人を拘束するとは限らず(民法113条1項)、弁護士以外の同席者には秘密保持の定めもない(弁護士法23条との対比)。
- 裁判所の手続に入ると、当事者以外の人が関われる形は法律で決まっている(民事訴訟法54条1項・60条1項)。
同席者のいる話し合いにお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手方が第三者を同席させてきた場合や、当事者以外の人を通してしか連絡が取れない場合について、その人がどの立場で関わっているのかを整理したうえで、次にどう応じるかをご一緒に考えます。
請求する側の方からは「相手の家族が出てきて話が進まない」、請求を受けた側の方からは「その場で署名を求められたが、あの書面がどう扱われるのか分からない」というご相談をいただきます。すでに署名した後であっても、書面の内容と当日の経緯によって取りうる手立ては変わります。お一人で抱えずに、まずはご相談ください。


