【不当要求対応】相手の言い分に一部だけ理由がある|切り分けて応じる

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

「言われていることの半分は、たしかにこちらの落ち度です。ただ、求められている金額と、その求め方までは受け入れられません」。不当な要求についてのご相談では、このような形で切り出される方が少なくありません。反対に、「一部でも認めるのなら、全部を認めたのと同じことだ」と押し込まれて答えに詰まっている、というご相談もあります。

 クレームや請求への対応の解説では、正当なものと不当なものを見分け、正当なものには誠実に、不当なものには応じない、という整理がよく示されます。この整理そのものは誤りではありません。ただ、実際のご相談で多いのは、一つの要求の中に、理由のある部分と、理由が見あたらない部分が混ざっている場面です。混ざったまま二つのどちらかに振り分けようとすると、正当な部分まで争うか、過大な部分まで飲むか、どちらかに寄ってしまいます。

 この記事では、相手の言い分に一部だけ理由があるときに、その要求をどう分解し、どこまでを、どのような言い方で認めるのかを扱います。そもそもその要求が不当要求にあたるのかという判定の枠組み、金額の相当性を測る物差し、すでに要求に応じてしまった後の立て直しについては、それぞれ別の記事で扱っていますので、本稿では立ち入りません。

この記事で扱うこと・扱わないこと


  • 扱うのは、一つの要求を事実・責任・範囲・手段の4つの層に分けて考える方法です。
  • 層ごとに違う答えを返すときの、言い方と順序です。
  • 「一部だけ認める」という行為が、金額以外に何を動かすのかという点です。
  • 一部について支払う場合の渡し方と、書面に書く範囲の決め方です。
  • 扱わないのは、不当要求かどうかの判定基準、金額の相当性を測る物差し、すでに応じてしまった後の対応です。


 以下は、個人の方が個人から要求を受けている場面と、小規模に事業をされている方が顧客や取引先から要求を受けている場面の、どちらにも当てはまる形で整理しています。

「全部応じる」か「全部断る」かで考えると起きること

混ざっている状態のほうが、むしろ普通です

 商品の不備は事実だが、要求されている返金額が代金の何倍にもなっている。約束の期日を守れなかったのは事実だが、そこから生じたとされる損害の中身がはっきりしない。関係のこじれ方には心当たりがあるが、示された金額の根拠が示されていない。こうした場面では、要求のすべてが正しいわけでも、すべてが言いがかりなわけでもありません。

 ところが、相手も、こちらも、話を「応じるのか、応じないのか」という一本の線で進めがちです。相手からすれば要求全体を一つの塊として通したほうが有利ですし、こちらとしても、部分的に認めると相手が勢いづくのではないかという不安があります。

二択にすると、判断の枠を相手が決めることになります

 「応じるか、応じないか」という問いに答える形になった時点で、何を議論するのかという枠組みは相手が置いたものになっています。要求を分解するというのは、相手の枠組みをそのまま受け取らず、こちらの側で議題を組み直すという作業です。分解した結果として認める部分が出てくることもありますが、それは譲歩ではなく、争点を必要な範囲に絞る作業です。

 なお、理由のある部分に向き合うことと、過大な部分に応じないこととは両立します。分解した結果として正当だと分かった部分まで回答を保留し続けることは、ここでの考え方とは異なります。

要求を4つの層に分ける

第1の層 事実

 何があったのか、という層です。日時、経緯、誰が何をしたのか。ここは評価を挟まずに、確認できることと、確認できないことに分けます。相手が述べている事実のうち、こちらの記録や記憶と一致する部分と、一致しない部分、そもそも知らない部分は、それぞれ扱いが違います。「知らないことを、否定もしないまま流す」ことが、後から一番響きます。

第2の層 責任

 その事実から、法律上の義務が生じるのか、という層です。事実として不手際があったことと、それが法的な責任に結び付くこととは、重なることもあれば、重ならないこともあります。逆に、こちらに落ち度がある場面でも、相手が求めている性質のもの、たとえば、契約に定めのない特別対応や、事実上の制裁のようなものについては、応じる義務が導かれないこともあります。

第3の層 範囲

 責任があるとして、どこまでか、という層です。金額、期間、対象となる損害の内容が、ここに入ります。責任があることと、請求されている金額に理由があることは、別の問題です。この層の測り方は論点が多いため、別記事に譲りますが、少なくとも「責任がある」という答えは、「請求額が正しい」という答えを含んでいません

第4の層 手段

 どのように求められているか、という層です。連絡の時間帯や回数、来訪、第三者への通知の予告、公表をほのめかす言い方などが、ここに入ります。第1から第3の層の答えがどうであっても、この層は独立して評価されます。

層ごとの答え方


相手が問うていることこちらが返せる答えの型
事実何があったのか一致する部分は認め、一致しない部分は指摘し、知らない部分は知らないと述べる
責任義務が生じるか事実を認めることと、責任を認めることを分けて述べる
範囲いくら、どこまでか根拠と内訳の提示を求め、こちらの考える範囲を示す
手段どう求めるか求め方については、内容と切り離して申し入れる


 この表の使い方として大切なのは、4つの層の答えが、すべて同じ方向にそろっている必要はないという点です。事実は認めるが責任は争う、責任は認めるが範囲は争う、内容は検討するが求め方は受け入れられない、という組み合わせは、いずれも成り立ちます。

「認める」という言葉が動かすもの

残り時間が数え直されることがあります

 権利の承認があったときは、その時から時効期間が新たに進行するとされています(民法152条1項)。承認は約束というより、相手の権利があることを認識していると外から見て取れる行為を指し、行為能力の制限を受けていないことなどは要件とされていません(同条2項)。一部について支払うことや、支払いの猶予を申し入れることが、承認と評価される場合があります。

 注意したいのは、認めた部分について承認と評価されるだけでなく、言い方によっては、認めていないつもりの部分まで承認と読まれる余地が残ることです。時効の起算点や数え方そのものは別記事に譲りますが、期間の管理を意識している場面では、認める範囲を言葉で区切っておく意味があります。

認めたのが「事実」か「評価」かで、裁判での扱いが違います

 裁判では、当事者が自白した事実は証明することを要しないとされています(民事訴訟法179条)。この対象になるのは事実であり、法的な評価そのものは、原則としてここでいう自白の対象にはならないと解されています。つまり、「そのような出来事があった」と述べることと、「したがって支払う義務がある」と述べることは、裁判上の意味が異なります。

 もっとも、裁判外のやり取りでも、認めた内容は書面やメッセージとして残ります。裁判上の自白と同じ効力が生じるわけではありませんが、後の主張と食い違えば、その食い違いを説明する必要が出てきます。

異議をとどめずに続けると、争う意思が伝わりにくくなります

 取り消すことができる行為について、一部の履行などの事実があったときは追認したものとみなされるとされていますが、異議をとどめたときはこの限りでない、とされています(民法125条ただし書)。強い圧力の下で応じてしまった場合の巻き返しは別記事に譲りますが、この「異議をとどめる」という発想は、より広く使えます。支払いや対応を進めながらも、争っている部分については争っていると、そのつど書面やメッセージで残しておく、ということです。何も言わずに続けた事実だけが積み上がると、後から「あのときは争っていた」と説明することが難しくなります。

書面に書いた範囲は、後から動かしにくくなります

 和解は、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約束する契約とされ、その内容と異なる確かな証拠が後から見つかっても、原則としてくつがえせないとされています(民法695条、696条)。示談書や合意書に「本件に関し、他に債権債務がないことを相互に確認する」といった条項を置くと、そこでいう「本件」がどこまでを指すのかが、後の争いの中心になります。一部だけを合意する場面では、この範囲の書き方が要になります。

伝え方で変わること


認めた範囲が広く読まれやすい言い方認めた範囲が限定されやすい言い方
「こちらが悪かったので、対応します」「〇月〇日の〇〇については、こちらの不手際でした」
「申し訳ありません。何とかします」「ご不便をおかけした点はお詫びします。金額については別途ご相談させてください」
「とりあえず、これだけ払います」「〇〇の費用として、〇円をお支払いします」
「言われたとおりにします」「ご提示のうち、〇〇は承ります。〇〇は根拠を確認させてください」


 右側の型に共通しているのは、対象を特定していることと、認めていない部分を言い残していることです。特別な言い回しは要りません。「何について」「どこまで」を一言添えるだけで、後から読み返したときの意味が変わります

一部について応じるときの実務

何に対する支払いかを決めて渡します

 同じ相手に対して複数の債務があり、支払った額がすべてを消滅させるのに足りないときは、支払う側が、給付の時に、どれに充てるかを指定することができるとされています(民法488条1項)。指定しなければ、受け取る側が指定できる場面もあります(同条2項)。金額を渡すこと自体は決めたとしても、それが何に対するものかを決めずに渡すと、こちらの意図と違う読まれ方をすることがあります。

 振込であれば、あわせて書面かメッセージで「何に対する支払いか」を送っておくと行き違いが減ります。手渡しの場合は、受領した旨と対象を書いた書面を受け取っておくことが考えられます。

相手が受け取らないとき

 認めた部分について支払おうとしても、「全額でなければ受け取らない」と言われることがあります。債務の本旨に従った弁済の提供をすれば、その時から債務を履行しないことによって生ずる責任を免れるとされています(民法492条)。提供の方法については、現実の提供が原則で、あらかじめ受領を拒まれているときなどは口頭の提供で足りるとされています(同法493条)。

 さらに、弁済の提供をしたのに受領を拒まれたときなどには、供託という手続を使える場合があります(同法494条1項)。手続の可否や進め方は事案によって判断が分かれるところですので、この段階に入りそうなときは、早めにご相談ください。

書面は「今回決める範囲」を先に書きます

 一部だけを合意する書面では、先に対象を限定して書くことが考えられます。たとえば、対象となる出来事や費目を特定したうえで、その範囲についての合意であることを明示し、残る争点については引き続き協議する、あるいは、この合意によって影響を受けないことを確認する、といった書き方です。

 反対に、相手から示された書面に、対象を限定しない清算条項が入っている場合は、その一文が何を終わらせるのかを確かめる必要があります。認めるつもりのなかった部分まで含まれていれば、修正を求めることになります。

一部に理由があっても、求め方までが正当化されるわけではありません

 権利を持っている人がそれを実行することは、権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えない限り違法の問題を生じないが、その範囲や程度を超えれば違法となり、恐喝罪が成立することがある、とした判例があります。つまり、相手の言い分に理由があることと、その求め方が許されることとは、別に判断されます。

 求め方が問題になりうる行為としては、害を加える旨を告げる行為(刑法222条)や、人を恐れさせて財物を交付させる行為(同法249条)などが挙げられます。他方で、「訴える」「弁護士に依頼する」と伝えること自体は、直ちに違法な行為とはいえません。ここは切り分けが必要なところです。

 事業をされている方については、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法により、顧客等からの著しい迷惑行為への対応が事業主の措置義務とされます。厚生労働省の指針では、顧客等からの苦情のすべてが対象になるわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れである旨が示されています。正当な部分と、そうでない部分を分けて扱うという発想は、この枠組みとも整合します。

切り分けずに全部を断ると、何が起きるか

 過大な要求を前にすると、いっそ全部を拒んで、法的手続で決着をつけたほうが早い、と感じられることがあります。ただ、理由のある部分を長く保留すると、その部分については、遅延したこと自体が別の争点になっていきます。金銭の支払義務がある部分については、遅れによる負担が積み上がることもあります。

 もう一つは、争点が広がることです。認められる部分を早い段階で切り出しておけば、残る争点は範囲や手段に絞られます。全部を争う姿勢を取ると、相手は「まったく取り合ってもらえない」という前提で行動を組み立てるため、第三者への連絡や公表といった、こちらが避けたい方向に進みやすくなります。分けて応じることは、相手の要求を通すことではなく、こちらの側で争点の数を減らす手段です

伝えるときの順序


  1. 相手の言い分を、事実・責任・範囲・手段の4つに書き出します。
  2. それぞれについて、認める・認めない・分からないの3つに仕分けます。
  3. 「分からない」に入ったものは、確認に必要な資料と期限を相手に伝えます。
  4. 認める部分を、対象を特定した言葉で先に伝えます。
  5. 認めない部分について、認めない理由と、こちらの考える範囲を伝えます。


 この順序にしているのは、認める部分を先に出すことで、残った論点が何なのかが双方に見えるようにするためです。順序を逆にすると、否定から入る形になり、話が要求の当否から離れていきます。

避けたい進め方


  • その場で全体の可否を答えることです。要求は、持ち帰って分解してから答えて差し支えありません。
  • 「誠意を見せろ」といった、対象の定まらない要求に対して、金額で答えることです。
  • 認める部分を口頭だけで伝えることです。範囲を限定した言い方ほど、記録に残しておく意味があります。
  • 相手が作った書面に、対象を確かめないまま署名することです。
  • 争っている部分について、何も言わないまま支払いや対応を続けることです。


よくあるご質問

一部を認めると、残りも認めたことになりますか

 認めた範囲を特定していれば、そのまま全部を認めたことになるわけではありません。ただし、対象を示さずに「こちらが悪かった」とだけ伝えると、どこまでを認めたのかが後から読み取れなくなります。認める部分については、出来事や費目を特定して伝えることをおすすめします。

謝ってしまったのですが、責任を認めたことになりますか

 お詫びを述べたことと、法的な責任を認めたこととは、同じではありません。もっとも、謝罪の言葉に金額や対応の約束が付いていると、その部分については別の評価を受けることがあります。すでに謝罪をされている場合でも、その後のやり取りで、認めている範囲を書き直しておくことができます。

認める部分について、こちらから金額を示してよいですか

 示すこと自体は選択肢の一つです。ただし、示した金額は、以後の話し合いの下限として扱われやすくなります。根拠のある範囲で示すこと、その金額が何に対するものかを明記すること、残る争点と切り離すことを、あわせて決めておく必要があります。判断に迷う場面ですので、事前にご相談いただくのが安全です。

まとめ


  1. 一つの要求の中に、理由のある部分と理由が見あたらない部分が混ざっていることは珍しくありません。
  2. 要求は、事実・責任・範囲・手段の4つの層に分けて考えることができ、層ごとに答えが違ってかまいません。
  3. 権利の承認があったときは、その時から時効期間が新たに進行します(民法152条1項)。
  4. 裁判で証明を要しないとされるのは自白した事実であり、法的な評価は原則としてその対象にならないと解されています(民事訴訟法179条)。
  5. 一部の履行があっても、異議をとどめたときは追認とみなされないとされています(民法125条ただし書)。
  6. 和解の内容は、後から確かな証拠が出てきても原則としてくつがえせないとされているため、書面に書く範囲の限定が要になります(民法695条、696条)。
  7. 支払う額が全部に足りないときは、支払う側が充てる先を指定できます(民法488条1項)。受領を拒まれたときは、弁済の提供や供託を検討する場面があります(同法492条、493条、494条1項)。
  8. 相手の言い分に理由がある場合でも、その求め方が社会通念上許される程度を超えれば、別に評価されます。


不当な要求への対応をご検討中の方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当要求に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。要求のどこまでに理由があるのかを分解し、認める部分と争う部分をどう伝えるかを、書面の文言まで含めてご一緒に検討します。

 要求を受けて対応にお困りの方も、正当な請求として応じてもらえずお困りの方も、どちらの立場からでもご相談いただけます。すでにやり取りが始まっている場合でも、途中から整理し直すことはできますので、早めにご連絡ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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