【解決事例】キャバクラのキャストに対する不当要求|弁護士の介入で数百万円の支払を回避した事例
「今週中に現金で用意して、事務所まで持ってきてください」。金銭を求められている場面で、支払う方法と場所、そして期限まで細かく指定されることがあります。
指定の内容には、いくつか共通する特徴があります。振込ではなく現金であること。郵送や代理人ではなく本人が持参することを求められること。そして日時と場所が相手方の側で決められていること。この3つがそろっているとき、その受渡しは、単に金銭を渡す場というだけではない意味を持つことがあります。
この記事では、トラブルが起きたその場ではなく、いったん別れたあとで日を改めて呼び出されている段階を扱います。数分のうちに判断を迫られる場面と違い、この段階には、こちらの側で組み立てられる時間が残されています。
支払いの方法は、本来は当事者の間で決めるもの
法律は現金の手渡しだけを想定していない
民法484条1項は、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、債権者の現在の住所においてしなければならないと定めています。ここで基準とされているのは相手方の住所であって、相手方がその都度指定した場所ではありません。また「別段の意思表示がないとき」という条件が付いていることからも分かるとおり、場所は当事者の取り決めで変えられます。
支払いの手段についても同じです。民法477条は、債権者の預金または貯金の口座に対する払込みによってする弁済について、その効力が生じる時期を定めています。振込という方法を法律自体が想定しているということです。現金でなければ支払ったことにならない、という決まりはありません。
方法の前に、中身が決まっているか
呼び出しを受けている段階では、何についていくら支払うのかが定まっていないことが少なくありません。金額の内訳が示されていない、誰に対する支払いなのかがはっきりしない、支払えば何が終わるのかが決まっていない。こうした状態のまま、受渡しの日時だけが先に決まっていくことがあります。
支払方法をどうするかは、本来はその次の話です。
現金と振込では、後に残るものが違う
同じ金額を支払っても、方法によって手元に残る記録は変わります。
| 比較する点 | 現金を手渡す場合 | 口座に振り込む場合 |
|---|---|---|
| 支払った事実 | 受取証書を受け取らなければ残りにくい | 金融機関の記録に残る |
| 渡した相手 | 受け取った人が誰だったかを後から示しにくい | 口座の名義が記録される |
| 金額と日付 | 当事者の記憶や手控えによる | 取引の記録として残る |
| 追加の請求を受けたとき | 前回の支払いを説明する材料が乏しい | 支払済みの範囲を示しやすい |
民法486条1項は、弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができると定めています。同条2項では、受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することもできるとされています。領収書は受け取る側の好意で出されるものではなく、支払う側から求めることができるものという建て付けです。
現金の受渡しそのものが問題だというより、記録が残らない形で完結してしまうことに注意が必要だということです。
受渡しの場では、金銭以外のことも決まっていく
その場で求められる項目は一つではない
現金を渡すためだけに呼ばれたはずが、次のような事柄を同時に求められることがあります。
- あらかじめ提示されていた金額への上乗せ。
- 示談書や念書への署名。
- 身分証明書や名刺の写しの提出。
- 勤務先や家族の連絡先の申告。
- 今後の連絡方法についての取り決め。
いずれも、その場で判断するには材料が足りない事柄です。しかも、金銭を持参しているという状況は、こちらから「持ち帰って考えます」と切り出しにくい状況でもあります。
帰る判断が自分の側に残っているか
場所と人数によって、話し合いの性質は変わります。相手方の事務所の一室、車の中、営業時間を過ぎた店舗。こちらが1人で、相手方が複数という組み合わせ。こうした条件が重なると、話が終わるまで帰りにくいという状態が生じやすくなります。
求め方が度を越している場合には、刑法220条の逮捕・監禁や、223条の強要にあたるかどうかが問題になることもあります。もっとも、その場でこれらを持ち出して押し返すのは現実的ではありません。そうした状況が生じにくい場所と方法を、あらかじめ選んでおくほうが、実際には役に立ちます。
支払いだけが済んで、終わりが決まらないことがある
受渡しの場で書面が作られないまま現金だけを渡すと、支払ったという事実は残る一方で、この件がどこまで終わったのかは決まらないままになります。後日あらためて連絡が来たときに、前回の支払いが何に対するものだったのかを説明できず、話が振り出しに戻ってしまうことがあります。
誰に渡すのかという問題
受け取る権限があるか
民法478条は、受領権者以外の者であっても、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者に対してした弁済は、支払った側が善意であり、かつ過失がなかったときに限り効力を有すると定めています。裏を返せば、権限のない人に渡した場合には、支払いとして扱われないことがあるということです。
相手方本人ではなく、同行者や関係者が受け取ると言っている場合には、本人からの委任があるのかを確かめる場面です。
店舗が窓口になっている場合
風俗店でのトラブルでは、従業員本人ではなく店舗側が交渉と受領の窓口になることがあります。弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条が禁じています。違反した場合の罰則は、同法77条3号により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金と定められています。実際に、店舗側が客との示談交渉や示談金の受領を行ったとして、弁護士法違反の疑いで摘発された事例も報じられています。
店舗を通じて金銭を渡しても、従業員本人との間の清算になっているとは限りません。支払う側にとっても、確かめておく意味のある点です。
相手方に弁護士がついている場合
相手方の代理人が弁護士であれば、氏名と所属する弁護士会を名乗ります。日本弁護士連合会のウェブサイトでは、氏名や所属から弁護士を検索することができます。代理人が弁護士であれば、預り金口座への振込という方法も通常は受け入れられます。対面での現金受渡しにこだわる理由が説明されないときは、その理由を尋ねてよい場面です。
対面を避けることは、支払いを拒むことではない
支払う意思がある場合でも、方法を変えてほしいと伝えることはできます。順番としては、次のように整理できます。
- 支払いに応じる意思があるかどうかを先に伝える。
- 何についての支払いなのかを、書面で示してもらう。
- 金額とその内訳の説明を求める。
- 支払方法として、口座への振込を提案する。
- 支払いと引換えに受け取る書面(受領証、清算条項を含む合意書など)を確認する。
この流れ自体は、相手方にとって不利益なものではありません。振込であれば受領の記録が確実に残りますし、書面があれば後日の蒸し返しを防げるという点は、双方にとって同じです。この提案を受け入れられない理由が示されないこと自体が、判断の材料になることもあります。
やり取りは記録が残る形で
電話だけで進めると、何をいつ言われたのかが後から分からなくなります。メールやメッセージアプリなど、文字が残る手段でのやり取りを求めておくと、経過を示しやすくなります。通話になる場合は、日時と話の内容を、その日のうちに書き留めておくことをおすすめします。
期限の作られ方を見る
「今日中に」「明日の昼まで」といった短い期限が示されることがあります。その期限に、相手方の側の事情としての根拠があるのかどうか。急がされているときほど、いったん立ち止まるための材料になります。
なお、まとまった額の現金を用意しようとする過程にも負担が生じます。金融機関の窓口で高額の出金をする際に使途の確認を受けることがありますし、短時間で借り入れて用意した資金は、後から金額の当否を争うことになったとしても、それ自体が戻ってくるわけではありません。
すでに渡してしまった場合
渡してしまった後でも、できることは残っています。まずは、経過を残す作業からになります。
- 口座の出金履歴や、現金を用意した際の記録。
- 呼び出しの日時と場所が分かるやり取りの保存。
- その場にいた人数や、求められた内容の書き留め。
- 署名した書面がある場合は、その写しの確保。
求め方に問題があった場合、民法96条1項は、強迫による意思表示は取り消すことができると定めています。取り決めの内容が公序良俗に反すると評価される場合には、民法90条により無効となる余地もあります。また、支払う理由がなかったのに支払った分については、不当利得としての返還請求(民法703条)が問題になります。
いずれも個別の事情によって結論が変わりますので、支払った経緯を整理したうえで検討することになります。
まとめ
現金の持参を対面で求められる場面では、支払うかどうかという問題とは別に、方法そのものを検討する余地があります。
- 支払う場所と方法は、当事者の取り決めで変えられる。
- 現金の手渡しは、受取証書がなければ記録が残りにくい。
- 受渡しの場では、金銭以外の事柄も同時に求められやすい。
- 渡す相手に受領の権限があるかどうかは、支払いの効力に関わる。
- 振込と書面での確認を提案することは、支払いを拒むことではない。
支払いに応じるかどうか、いくらが妥当か、どの順序で進めるか。判断に迷う場面では、弁護士に相談したうえで進め方を決めることもできます。ご自身で対応を続けるか、窓口を移すかを含めて、状況の整理からお手伝いすることが可能です。
当事務所では、風俗トラブルや男女トラブルに伴う金銭の請求について、初回のご相談を無料でお受けしています。呼び出しの期限が迫っている場合は、その旨をお伝えください。


