「期限を切る」「小さな要求を重ねる」|不当要求者が使う心理コントロールの型
本稿でご紹介するのは、弊所(若井綜合法律事務所)が実際に対応した相談事例です。個人が特定されないよう、内容の一部を変更しています。過去の同僚の交際相手から浮気を疑われ、家族への危害をほのめかす連絡を受けた男性が、弁護士に依頼して解決に至った事案です。
ご相談の概要
| 相談者 | Aさん(男性・医師) |
|---|---|
| 相手方 | Bさん(過去の同僚)、Cさん(Bさんの交際相手) |
| 相談のきっかけ | Cさんから浮気を疑われ、家族に危害を加える旨の連絡を受けた |
| 弊所の対応 | 受任して窓口を一本化し、要求には応じず警告を継続 |
| 結果 | CさんとBさんからの連絡が止み、一旦終件 |
ご相談に至るまでの経緯
Aさんは病院に勤務する医師で、勤務態度もまじめで、家庭生活にも特段の問題はありませんでした。
ある日、過去に同じ職場に勤務していたBさんから電話がありました。個人的なやり取りをする間柄ではなかったため用件を尋ねたところ、Bさんの交際相手であるCさんが話をしたいとのことでした。
電話をCさんに代わると、Cさんは、AさんがBさんと過去に浮気をしていたと主張し、感情的な様子でした。Aさんには身に覚えがなかったため電話を切ろうとしたところ、Cさんから、調査会社を使ってAさんの自宅や実家の住所、勤務先、家族構成まで調べ上げていると告げられ、「家庭を壊してやる」という趣旨の発言を受けました。
対応に困ったAさんは、弊所にご相談にいらっしゃいました。
弁護士の対応と解決への流れ
まず、Aさんに事実関係を確認したところ、Bさんとは同じ職場の同僚として付き合いがあった程度で個人的な関係はなく、Cさんとは今回が初めてのやり取りであるとのことでした。
また、警察への相談状況を確認すると、突然の電話で証拠が乏しく対応してもらえないのではないかと考えたことや、警察が介入することでCさんの態度が硬化し、家族に危害が及ぶのではないかという懸念から、被害相談は行っていませんでした。
Aさんのご意向としては、警察への相談は最後の手段として残しておきたいものの、ご自身でCさんとやり取りをするのは負担が大きいため、弁護士に窓口になってほしいというものでした。あわせて、一方的にCさんを拒絶するのではなく、誤解があるのであれば話し合いに応じる余地も持ちたいとのご希望でした。
弊所からCさんへ連絡し、弊所が代理人として介入したこと、今後はAさんやそのご家族・勤務先へ直接連絡しないよう伝えました。あわせて、家族への危害をほのめかす発言について、脅迫罪に該当するおそれがあることも伝えました。
Cさんは感情的な状態が続いており、こちらの説明にはあまり耳を貸さず、一方的に主張を続けていました。Cさん自身、自分の言動が犯罪に当たりうることは認識しており、「訴えたければ訴えてほしい」という発言もありました。
Aさんのご意向に沿い、Cさんが強く希望すれば弊所の会議室で話し合いの場を設けることも選択肢の一つではありましたが、Cさんの態度からトラブルが悪化しかねないと判断し、見送ることとしました。
その後、Cさんは自分の主張をひととおり話したことで気が済んだのか、一方的に電話を切りました。
Aさんに経緯を報告すると、Cさんとは今後関わりたくない、直接話をするつもりもないとの考えに至り、以後は法的な請求や主張がない限り連絡には応じず、家族や勤務先に直接のアクションがあった場合には速やかに警察へ対応を要請する方針としました。
その後もCさんからは、深夜に弊所へ連絡して対応の難しい時間帯での折り返しを求めたり、翌朝に連絡すると一方的な苦情を述べたり、Aさんの自宅にBさんを連れて行く可能性を示唆したりするなど、揺さぶりをかける言動が続きました。
そのたびに弊所からは、法的な話でなければこれ以上対応する予定はないこと、自宅を訪ねるようなことがあれば警察に対応を要請することを伝え続けました。
あわせてBさんからも弊所に連絡が入るようになり、依頼者を装って苦情を述べたり、Aさんに直接会いに行く意向を示したりしたため、Cさんと同様、法的な話でなければ対応できない旨を伝えました。
BさんとCさんからの連絡はしばらく続き、強い言葉を口にしたかと思えば合意書の作成を求めてくるなど、落ち着いた話し合いは難しい状況でした。弊所から、これ以上の対応は行わないこと、納得できない点があれば訴訟など法的な手続を利用するよう繰り返し伝えたところ、話が進まないと判断したのか連絡が途絶えました。
BさんとCさんからの働きかけが止まったことを受け、今後同様の連絡や迷惑行為があれば引き続き弊所で対応する旨をAさんにお伝えし、一旦の終件となりました。
解決結果と弁護士のコメント
弊所では、法的な根拠のない請求や、根拠があっても過大な請求を、暴力や脅迫といった不当な手段で通そうとする、いわゆる不当要求に関するご相談・ご依頼を数多くお受けしています。
一般的な不当要求では、相手方から金銭の支払や特定の行為を求める「要求」が伴います。しかし本件では、CさんからAさんに対する具体的な要求はなく、単に困らせたかっただけなのか、Aさんの側から金銭などの提案を引き出そうとしていたのかは判然としませんでした。
暴行や脅迫を手段として具体的な要求を行った場合、金銭を求めれば恐喝罪が、義務のない行為(たとえば謝罪など)を求めれば強要罪が成立する可能性があります。本件はいずれにも該当しませんが、家族への危害をほのめかした点については、脅迫罪が成立する可能性のある事案でした。
本件では、証拠が乏しかったことや、Aさんが当初から穏便な解決を希望されていたことから、あえて警察への被害相談は行いませんでした。もっとも、不当要求を受けた場合には、警察が刑事事件として直ちに対応できないケースであっても、不測の事態に備えて被害相談をしておくことが望ましいといえます。
弊所がこれまでにお受けしたケースの中には、弁護士が介入した後も相手方が自宅や勤務先に直接押しかけてきた例もあります。事前に警察へ相談していたことで速やかに警告の連絡を入れてもらえたケースや、刑事事件として立件に至ったケースもありました。
穏便な解決を望まれるお気持ちは理解できますが、想定しうる事態にはあらかじめ備えておくことをおすすめします。
相手方は、さまざまな手段を用いて要求を通そうとしてきます。事務所の電話が長時間鳴り続けたことや、インターネット上で根拠のない書き込みをされたこと、複数名で事前の連絡なく事務所を訪れたことなど、これまでに経験した例は少なくありません。
不当要求への対応を重ねてきた弊所であっても、負担を感じる場面はあります。まして、突然このような事態に巻き込まれた方にとっては、大きな不安やご負担になることと思います。
不当要求を受けた場合は、相手方の要求に応じてしまう前に専門家が介入することが重要です。小さな要求であっても一度応じてしまうと、相手方はさらに要求をエスカレートさせる傾向があります。
ご自身での対応に行き詰まっている場合はもちろん、相手方の言動に漠然とした不安を感じている段階でも構いません。お気軽に弊所までご相談ください。


