【不貞慰謝料】相手の家族から直接連絡が来た場合の対応

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「不貞の相手の親から電話がかかってきて、一度会って話をしたいと言われました」。慰謝料を請求された立場の方から、こうしたご相談を受けることがあります。反対に、請求する立場の方からも「相手の家族が出てきて、本人とは直接話をさせないと言われた」というご相談が寄せられます。当事者どうしの問題のはずなのに、思いがけない人から連絡が入る場面は、珍しいものではありません。

 こうしたとき、多くの解説は「当事者ではないので、応じる義務はありません」と説明します。その説明自体は誤りではありません。ただ、これだけでは目の前の連絡にどう返事をすればよいのかは決まりません。応じる義務がないことと、何も返さないでよいことは同じではありませんし、話に応じた場合にその話し合いがどこまで効くのかも、この説明からは見えてきません。

 この記事では、相手の家族から直接連絡が来たときに、返事をする前に確かめておきたいことを順に整理します。慰謝料の金額の考え方、書面が届いた場合の手続上の期限、家族に支払いを求められるかどうかといった論点は、それぞれ別の記事で扱っているため、ここでは立ち入りません。

連絡してきた人は、法律上どの位置にいるのか

 最初に確かめたいのは、連絡してきたその人が、この問題の中でどの位置に立っているのかです。同じ「家族から連絡が来た」という出来事でも、位置づけが違えば、こちらの返事が持つ意味も変わります。

連絡してきた人法律上の位置づけ読み取れること
相手方の配偶者事案によっては当事者本人「家族から」と感じても、請求する側または請求される側の本人にあたる
相手方の親・きょうだい原則として当事者ではないその人自身に支払いを求める権利や支払う義務が生じているわけではない
相手方の子原則として当事者ではない子ども自身から不貞の相手に請求できる場面は限られている
本人が未成年の場合の親権者法定代理人にあたる(民法824条)本人に代わって話を進められる立場にある
本人が亡くなっている場合の相続人当事者の地位を引き継ぐ(民法896条)家族がそのまま相手方になる場面


「家族からの連絡」に見えて、本人からの連絡であることがある

 不貞慰謝料の問題では、請求する側は不貞をした配偶者の配偶者です。請求を受けた側から見れば「相手の奥さん」「相手の旦那さん」であり、感覚としては家族の一人から連絡が来たように受け取られます。しかし法律上は、その人こそが請求権を持つ当事者本人です。配偶者からの連絡と、親やきょうだいからの連絡は、同じ「家族から」でも扱いがまったく違います

当事者でない人が出てくること自体は、違法とは限らない

 親やきょうだいが間に入って話をすること自体が、直ちに問題のある行為になるわけではありません。弁護士でない人が他人の法律事務を扱うことを制限する規定はありますが、報酬を得る目的で、かつ業として行うことが要件とされています。無償で家族のために動いているだけの場合は、この要件に当たらないと考えられます。「家族が出てきた時点で違法だ」と決めつけると、かえって話がこじれることがあります。

返事をする義務、会う義務はあるのか

 連絡を受けた側には、返事をする法律上の義務はありません。指定された日時に出向いて話し合いに応じる義務もありません。ここは競合する解説と同じで、はっきりしています。

「応じない」と「放置する」は別のこと

 ただし、応じないことと、届いた連絡を確かめないまま放っておくことは違います。返事をしないという判断をするにしても、誰が、何を根拠に、何を求めているのかだけは確かめておくほうが、後の見通しが立てやすくなります。話し合いに応じないまま時間が過ぎ、相手方が裁判所の手続に移した場合、そこには自分で決められない期限が生まれます。

書かれている期限は、誰が決めた期限なのか

 家族からの連絡には「今週中に返答してください」といった期限が書かれていることがあります。この段階の期限は、送ってきた側が自分で設定したものであり、法律で定められた応答期限ではありません。一方で、裁判所から届く書類には法律上の期限が付いています。この二つの見分け方については、書面が届いた場合の記事で扱っています。

その人は本人の代わりとして話しているのか

 当事者でない家族から連絡が来たとき、次に確かめたいのが、その人がどの立場で話しているのかです。ここを分けずに話を進めると、時間をかけて話がまとまったのに、後から本人がその内容に縛られないという事態が起こり得ます。

どの立場で話しているかしていること話がまとまったときの効き方
伝える役に徹している本人が決めた内容をそのまま伝えている内容が本人の決めたとおりであれば、本人の意思として扱われる
本人から任されている任された範囲で自分が条件を決めている任された範囲内であれば本人に効果が生じる(民法99条)
自分の考えで動いている本人の意思とは別に、自分の判断で求めている本人が後から認めない限り、本人には効果が生じない(民法113条1項)


親であることから、当然に代理権が生まれるわけではない

 本人が成人している場合、親であるという関係だけを理由に、本人に代わって法律行為をする権限が生じることはありません。「息子のことは私が決める」「娘の分も含めて話をつける」と言われても、それは本人から任されていることの証明にはなりません。任されているかどうかは、本人との関係ではなく、本人からその人への委任があるかどうかで決まります

口頭のやり取りだけでは確かめきれない

 電話口で「本人から任されています」と言われても、その場でその内容を確かめる方法はありません。本人が作成した委任状を示してもらう、本人自身からも同じ内容の連絡をもらう、といった形で裏づけを求めることは、失礼にあたる要求ではありません。裏づけが得られないまま条件だけが具体化していく場合、その話し合いは後から作り直しになる可能性を抱えたまま進むことになります。なお、話がまとまっても本人に効果が及ばない仕組みそのものについては、相手の親や家族に伝えることのリスクを扱った記事で詳しく整理しています。

こちらが述べたことは、どこに残るのか

 三つ目に確かめたいのが、こちらの返答がどこに残るのかです。相手が当事者でなくても、こちらが書いたものや述べたことは、最終的に当事者本人の手元に渡ることを前提に考えたほうが安全です

家族に宛てた文面も、本人が読むものとして扱われる

 メッセージアプリやメールで家族に返信した場合、その画面はそのまま本人に転送されます。口頭のやり取りは伝え聞いた内容として残るのに対し、文字にしたものは、そのままの形で後の交渉や手続の材料になります。感情的な反発から書いた一行や、その場を収めようとして書いた一行が、後から繰り返し読み返されることがあります。

「認める」「払う」と読める一文に注意が向く

 家族からの追及に対して、事実関係をどこまで認めるかは、それ自体が大きな判断です。認めることの意味と、認める前に確かめておきたいことは別の記事で扱っています。また、その場を収めるために少額でも金銭を渡すと、支払う義務があること自体を認めた行為として扱われる場合があります(民法152条1項)。一部を支払うことで何が確定するのかについても、別の記事で整理しています。

書面に署名を求められた場合

 その場で示談書や念書に署名を求められることがあります。相手が当事者でない場合、その書面が誰と誰の間の合意なのかがあいまいなまま作られていることも少なくありません。署名を求められた側が確かめておきたい点は、示談書の確認を扱った記事にまとめています。

手続に入ると、家族が関われる形は決まっている

 話し合いがまとまらず、調停や訴訟といった裁判所の手続に移った場合、家族がそこにどう関われるかは法律で決まっています。ここは、話し合いの段階との大きな違いです。

代理人になれる人は限られている

 訴訟では、法令により裁判上の行為ができる代理人のほかは、弁護士でなければ訴訟代理人になることができません(民事訴訟法54条1項)。民事調停についても、手続代理人の資格には同様の制限があります(民事調停法22条、非訟事件手続法22条1項)。ただし簡易裁判所の手続については、裁判所の許可を得て弁護士でない人を代理人とすることが認められており、実務では同居の親族が許可を受ける例があります。

同席する形としては補佐人という枠がある

 代理人になれない場合でも、裁判所の許可を得て補佐人として当事者とともに出頭し、発言することは認められています(民事訴訟法60条1項)。ここで注意しておきたいのは、補佐人が述べたことは、当事者がその場で直ちに取り消したり訂正したりしない限り、当事者自身が述べたものとして扱われるという点です(同条3項)。家族が同席して話すという形をとる以上、その発言は本人の発言になります。

家族との間でまとまった話は、置き直しが必要になる

 以上を合わせると、家族を窓口にした話し合いには構造上の限界があることが分かります。話し合いの段階では家族が前に出ていても、手続に移った時点で、当事者は本人に戻ります。家族との間で積み上げた条件は、本人の名義であらためて確認し直さなければ、そのまま手続には載りません。家族からの連絡に応じるかどうかを考えるときは、この話し合いが最終的にどの名義で書面になるのかを早い段階で確かめておくと、やり直しを避けやすくなります。

連絡の仕方が度を越している場合

 家族からの連絡が、深夜や早朝に繰り返される、勤務先や実家に直接向けられる、その場を離れられない状況で長時間続く、といった形をとることがあります。求めている内容に理由があるかどうかと、その求め方が許される範囲かどうかは、別々に判断されます。

記録の残し方

 連絡の内容だけでなく、いつ、どこに、どのくらいの頻度で連絡が来ているのかは、後から説明が必要になったときの材料になります。着信履歴やメッセージは消さずに残し、口頭のやり取りは日時と概要をその日のうちにメモしておくと、記憶に頼らずに済みます。

相談先

 身の安全に不安がある場合は、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談する方法があります。請求の仕方が刑事上の問題になる境界については、過大な請求と恐喝の境界を扱った記事で整理しています。

家族が「代わりに払う」と言ってきた場合

 相手方の親から「本人には資力がないので、こちらで払う」と申し出があることがあります。家族に支払義務が生じることは原則としてありませんが、任意に支払うこと自体は妨げられません。ただし、そのお金がどういう名目で支払われるのか(第三者としての弁済なのか、保証なのか、債務を引き受けるのか)によって、後の扱いが変わります。名目を決めないまま受け取ると、本人との関係が終わったのかどうかがあいまいなまま残ります。この点は、相手の親や家族に伝えることのリスクを扱った記事で詳しく扱っています。

自分の側の家族が動いてしまった場合

 ここまでは連絡を受ける側の話でしたが、自分の親やきょうだいが、こちらに相談なく相手方に連絡してしまう場面もあります。

自分の請求や立場に跳ね返ることがある

 家族が良かれと思ってした連絡でも、相手方から見れば、こちらの側からの働きかけとして受け止められます。伝え方によっては、その行為自体が別の責任を生むことがありますし、請求の場面で不利な事情として持ち出されることもあります。家族が相手方や、その勤務先、実家に連絡することのリスクについては、別の記事にまとめています。

窓口を一つにしておく

 自分の側でも相手方の側でも、連絡の入口が複数あると、誰が何を約束したのかが分からなくなります。早い段階で「今後の連絡は自分宛てにしてほしい」と伝え、家族には事情の共有にとどめてもらうほうが、話の筋道を保ちやすくなります。代理人を立てる場合も同じで、窓口が明示されることで、連絡先が一本化されます。

返事をする前に決めておきたいこと

 実際に返事をする前に、次の点を自分の中で決めておくと、その場の勢いで踏み込みすぎることを避けやすくなります。

  1. 連絡してきた人が、当事者本人なのか、そうでないのかを確かめる。
  2. 本人から任されているのかどうか、任されている場合はその裏づけを求めるかどうかを決める。
  3. 返事の方法を決める(口頭か、文字に残る形か)。
  4. 今の段階で述べることと、述べないことの線を引いておく。
  5. 話し合いの結果を、最終的に誰の名義の書面にするのかを確かめる。


 返事の文面自体は、短いほうが後から問題になりにくい傾向があります。事実関係や金額に踏み込まず、確認したい点だけを尋ねる形でも、返事として成り立ちます。

よくあるご質問

家族からの連絡を無視し続けても問題ないでしょうか

 返事をする法律上の義務はありませんので、返事をしないこと自体が違法になるわけではありません。ただし、返事がないことを理由に、相手方が本人を通じた請求や裁判所の手続に切り替えることは考えられます。その場合、そこからは自分で選べない期限が生まれます。返事をしないという選択をとる場合でも、次に何が来る可能性があるのかは把握しておいたほうが安全です。

家族から連絡が来た日は、時効の起算日になりますか

 不法行為に基づく損害賠償請求権の期間は、請求できる人自身が損害と加害者を知った時から進みます。家族が事情を知った時点が、そのまま請求権を持つ人が知った時点になるとは限りません。もっとも、家族から連絡が来ているという事実は、本人が事情を把握している可能性を示す事情ではあります。数え方の詳細は、時効を扱った記事をご覧ください。

家族との間で示談書を交わせば、それで終わりになりますか

 誰と誰の間の合意なのかによります。当事者本人が署名していない書面は、本人との関係を終わらせるものにはなりません。本人から任された人が本人の代理人として署名しているのか、その人自身が当事者として署名しているのか、書面の上で区別されているかを確かめる必要があります。

まとめ


  1. 連絡してきた人が当事者本人なのか、そうでないのかで、返事の意味が変わる。相手方の配偶者は「家族」に見えても当事者本人にあたる。
  2. 親であるという関係だけを理由に、本人に代わって法律行為をする権限が生じることはない(民法99条)。
  3. 本人から任されていない人との間でまとまった話は、本人が後から認めない限り本人には効果が生じない(民法113条1項)。
  4. 本人が未成年の場合の親権者(民法824条)や、本人が亡くなっている場合の相続人(民法896条)のように、家族が正面の相手方になる場面もある。
  5. 返事をする法律上の義務はないが、誰が何を根拠に何を求めているのかは確かめておくほうがよい。
  6. 家族に宛てた文面も、本人の手元に渡るものとして書く。少額でも金銭を渡すと、支払義務を認めた行為として扱われることがある(民法152条1項)。
  7. 手続に移ると、代理人になれる人は限られる(民事訴訟法54条1項、民事調停法22条、非訟事件手続法22条1項)。補佐人が述べたことは、直ちに取り消さない限り当事者自身が述べたものとして扱われる(民事訴訟法60条3項)。


不貞慰謝料のご相談をお考えの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。当事者ではない方から連絡が入っている場面では、誰を相手に話を進めるべきかという入口の判断が、その後の進み方を左右します。

 請求を受けている方からは「相手の家族に何と返せばよいのか分からない」というご相談を、請求をお考えの方からは「相手の家族が出てきて本人と話ができない」というご相談を、いずれもお受けしています。返事をする前の段階でも、状況の整理からご相談いただけます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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