【解決事例】その場で400万円の示談書に署名してしまった|示談書の効力を争い解決した事例
不貞慰謝料の問題で弁護士に依頼するかどうかを考えるとき、多くの方が最初に気にされるのが費用です。ところが、法律事務所のサイトを見比べても、費目の呼び方が事務所ごとに違っていたり、金額の幅が広かったりして、結局いくらかかるのかが見えにくいことがあります。
この記事では、金額の目安そのものではなく、費用がどの費目に分かれ、それぞれ何を基準に、どの時点で決まるのかという仕組みのほうを整理します。仕組みが分かっていれば、見積りや委任契約書を渡されたときに、どこを読めばよいかが自分で判断できるようになります。
不貞慰謝料を請求する側の方と、請求を受けた側の方の双方を想定して書いています。
この記事で扱うことと、扱わないこと
- 扱うこと=費目の意味、金額が動く仕組み、見積りや委任契約書で確かめておきたい点。
- 扱うこと=依頼した後に費用が増えることがある場面と、その理由。
- 扱わないこと=具体的な金額の目安。事務所ごとに基準が異なるため、数字の一人歩きを避けます。
- 扱わないこと=弁護士に依頼するかどうかの判断そのもの、弁護士費用を相手方に負担させられるかという論点。
金額の目安を挙げない理由は、後で述べるとおり、弁護士報酬に共通の基準が存在しないという制度上の事情によります。おおよその水準を知りたい場合は、相談の際に依頼先の基準を見せてもらうほうが、記事で示す幅よりも正確です。
「相場の一覧表」が存在しない理由
かつては、日本弁護士連合会の報酬等基準規程によって、弁護士報酬の算定方法が一律に定められていました。この基準は平成16年(2004年)4月1日をもって役割を終え、現在は各事務所が自ら報酬基準を定める仕組みになっています。
これに代わって置かれているのが、日本弁護士連合会の「弁護士の報酬に関する規程」(平成16年2月26日会規第68号)です。同規程は、弁護士報酬について経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして適正かつ妥当なものでなければならないと定めたうえで(2条)、弁護士に対し、報酬に関する基準を作成して事務所に備え置くことを求めています(3条1項)。その基準には、報酬の種類、金額、算定方法、支払時期などを明示することとされています(同条2項)。
つまり、基準は「どこかに1つある」のではなく、事務所の数だけ存在するという構造です。同じ内容の依頼でも事務所によって費用の立て方が変わるのは、このためです。
費目の一覧と、それぞれの位置づけ
不貞慰謝料の依頼で見かける費目は、おおむね次のように整理できます。呼び方は事務所によって異なり、「基本費用」「事務手数料」といった独自の名称が使われていることもあります。
| 費目 | 発生する時点 | 金額の決まり方 |
|---|---|---|
| 法律相談料 | 相談を受けたとき | 時間の単位で定められていることが多い |
| 着手金 | 依頼して委任契約を結んだとき | 請求する金額や請求されている金額などを基準にする |
| 報酬金 | 依頼した事務の処理が終わったとき | 得られた結果(経済的利益)を基準にする |
| 手数料 | 書面の作成など1回で終わる事務を頼んだとき | 書面や手続の種類ごとに定められる |
| 日当 | 弁護士が事務所の外で活動したとき | 拘束される時間の長さに応じる |
| 実費 | 支出が生じたその都度 | 実際にかかった金額 |
この表を「金額の大小」ではなく、3つの軸で読むと、見積りの数字が動く理由が見えてきます。
軸1 いつ発生するか
着手金は、依頼した時点で発生します。結果と結びついていないため、望んだ結果に至らなかった場合でも返還されないのが原則です。これに対し、報酬金は事務の処理が終わった時点で発生します。同じ「弁護士費用」でも、支払う時期がまったく違います。
軸2 何を基準に決まるか
着手金は依頼の入口にある金額、報酬金は出口にある金額を基準にするのが一般的です。どちらも「事案の難しさ」だけで決まるわけではなく、金額を伴う事件では、その金額そのものが計算の土台になります。
軸3 どこまでの仕事に対する対価か
見落とされやすいのがこの軸です。弁護士費用は「不貞の問題が解決するまで一式」という形で決まるとは限らず、委任した事務の範囲に対応して定められます。範囲の外に出る対応が必要になれば、その分は別に扱われます。
報酬金の土台になる「経済的利益」の中身
報酬金は、得られた結果を基準に算定されることが多く、その結果を金額に置き換えたものが経済的利益と呼ばれます。不貞慰謝料の場合、立場によって中身が変わります。
請求する側
合意または判決で認められた慰謝料の金額が基準になるのが一般的です。ここで確かめておきたいのは、認められた金額と、実際に振り込まれた金額は同じとは限らないという点です。相手方が支払わないまま終わった場合や、分割払いの途中で滞った場合に、報酬金がどの金額を基準として、いつ発生する扱いになるのかは、契約の定め方によって変わります。
請求を受けた側
相手方が求めていた金額と、最終的に支払うことになった金額との差額が基準になるのが一般的です。この立て方には特徴があり、起点が相手方の提示額に置かれているため、相手方が高い金額を提示しているほど差額は大きく計算されます。また、相手方がまだ具体的な金額を示していない段階で依頼する場合には、そもそも起点となる数字が定まりません。この段階から依頼するときは、何を起点にするのかを先に確認しておくとよいでしょう。
お金以外の結果が含まれる場合
不貞の事案では、接触禁止の約束や口外しない約束など、金額に置き換えにくい条件が合意に含まれることがあります。これらを結果としてどう評価するのかも、事務所ごとの定め方によります。
費用は段階ごとに積み上がる
不貞慰謝料の手続は、話し合いから始まり、まとまらなければ調停や訴訟へ進みます。弁護士費用は、この段階の移り変わりに沿って積み上がっていきます。
| 段階 | 新たに生じることがあるもの |
|---|---|
| 交渉(示談) | 着手金、報酬金、通知書の郵送などの実費 |
| 調停 | 申立ての手数料と郵便料、期日への出頭に伴う日当、追加の着手金 |
| 訴訟(第一審) | 訴状に貼る手数料と郵便料、追加の着手金 |
| 控訴審 | 審級ごとの着手金と報酬金、控訴状の手数料 |
委任契約は、手続の単位ごとに結び直す扱いが一般的です。先ほどの規程が、委任契約書に受任する法律事務の表示及び範囲を記載することを求めているのは(5条4項)、この区切りを当事者の間ではっきりさせておくためだと理解できます。
そのため、交渉から始めて訴訟まで進んだ場合の総額は、交渉だけで終わった場合の総額とは別物になります。最初に示された金額は、あくまで最初の段階についてのものだという前提で読むのが安全です。
実費と日当は報酬とは別のもの
実費は、裁判所に納める手数料や郵便料、書類の取得費用、交通費など、実際に出ていくお金です。弁護士の収入になる報酬とは性質が異なります。
扱い方には、依頼のときに一定額を預けておき、終わったところで精算する方式と、支出のたびに請求する方式があります。預けたお金は、事務所の財産と区別して管理することが日本弁護士連合会の会規で定められています。見積りを見るときは、実費が総額に含まれているのか、別枠なのかを確かめておくと、後になって金額の印象が変わることを避けられます。
日当は、弁護士が事務所の外で活動したことに対するもので、遠方の裁判所へ出頭した場合などに生じます。期日の回数が増えれば積み上がるため、事案が長引くと影響が出やすい費目です。
依頼する前に確認できることが制度として用意されている
費用の話は聞きにくいと感じる方が少なくありませんが、確認は依頼者の側から求めてよいものとして制度に組み込まれています。先ほどの規程には、次のような定めがあります。
- 事務所には報酬基準が備え置かれ、報酬の種類、金額、算定方法、支払時期などが明示されている(3条)。
- 依頼しようとする方から申し出があったときは、その法律事務の内容に応じた報酬見積書の作成と交付に努めることとされている(4条)。
- 法律事務を受任するに際して、報酬とその他の費用について説明しなければならない(5条1項)。
- 受任したときは、報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない(5条2項)。
見積書について定めた4条は、依頼者の側から申し出ができることを前提にしています。口頭の説明だけでは持ち帰って考えにくいときは、書面での提示を求めてかまいません。
委任契約書に記載することとされている事項も、確認の手がかりになります。
- 受任する法律事務の表示及び範囲。
- 弁護士の報酬の種類、金額、算定方法、支払時期。
- 委任契約が中途で終了した場合の清算方法。
見積りと委任契約書で確かめておきたいこと
- 今回の委任がどの手続までを範囲としているか。段階が変わったときに何が追加されるか。
- 報酬金の基準になる金額を、どの数字で計算するのか。請求を受けた側であれば、その起点をどこに置くのか。
- 相手方が配偶者と不貞相手の2人になる場合に、1件として扱うのか、それぞれ別に扱うのか。
- 実費を預けるのか、終わったところで精算するのか。含まれている範囲はどこまでか。
- 示されている金額が消費税を含むものかどうか。
- 支払いの時期。分割や後払いに応じてもらえるかどうか。
- 途中で終わった場合に、支払い済みの費用がどう清算されるか。
このうち3番目は、不貞の事案に特有の項目です。慰謝料の請求先が2人になっても、支払われる総額が2倍になるわけではない一方、弁護士の作業は相手方の数だけ増えます。事件の数え方は費用に直結するため、早い段階で確かめておくとよいでしょう。
途中で終わった場合の扱い
不貞の事案では、相手方が応答しないまま止まってしまう、請求すること自体をやめる、方針が合わずに依頼を解消するなど、決着を見ないまま終わる場面があります。
着手金は結果と結びついていないため、返還されないのが原則です。もっとも、これは契約で異なる定めを置けない性質のものではなく、実際に、成果がなかった場合の返金を定めている事務所もあります。先ほど見たとおり、中途で終了した場合の清算方法は委任契約書の記載事項とされていますので、契約書のその条項がどうなっているかを見ておけば、事前に見通しが立ちます。
なお、請求を途中でやめる判断そのものや、その手続上の進め方については、別の記事で扱います。
手元に用意できる金額が限られている場合
費用の総額そのものよりも、依頼の時点でまとまったお金を用意できるかどうかが問題になることがあります。次のような選択肢があります。
法テラスの立替制度
日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助では、収入と資産が基準以下であること、勝訴の見込みがないとはいえないこと、民事法律扶助の趣旨に適することという条件を満たす場合に、着手金や実費の立替えを受けられることがあります。
注意したいのは、これが立替えであって免除ではないという点です。立て替えられた分は原則として分割で償還していくことになり、援助が終わってから3年以内に完済する見込みとなるように月々の額が決められる運用とされています。相手方から金銭を受け取った場合には、その中から償還する扱いになるのが原則です。また、法テラスと契約している弁護士でなければ利用できません。
弁護士費用特約
自動車保険や火災保険などに付いている弁護士費用特約が使えることがあります。ただし、対象となる紛争の範囲が約款で限定されていることがあるため、不貞の慰謝料が対象に含まれるかどうかは、契約している保険会社に確認する必要があります。
支払い方法の相談
着手金の分割払いや、支払時期を後ろにずらす扱いに応じている事務所もあります。支払時期は委任契約書の記載事項でもありますので、契約を結ぶ前に相談しておくのが自然です。
相手方に負担させられるかは別の問題
依頼者が支払う弁護士費用と、相手方に負担を求められる金額とは、別の話として整理する必要があります。訴訟で認められた慰謝料に弁護士費用相当額が加算されることはありますが、それは支払った費用がそのまま戻ってくる仕組みではありません。この点は範囲が広いため、別の記事で詳しく扱います。
よくあるご質問
相談だけで終わった場合も費用はかかりますか
法律相談料は、相談という行為そのものに対するものです。初回の相談を無料としている事務所もあります。相談と依頼は別の段階ですので、相談の場で結論を出さなければならないわけではありません。持ち帰って比較したうえで判断してかまいません。
慰謝料を受け取れなかった場合でも費用はかかりますか
着手金は結果と結びついていないため、通常は支払ったままになります。報酬金は結果を基準に算定されますが、何をもって結果とみるかは契約の定め方によります。回収できなかった場合の扱いを含めて、依頼の前に確認しておきたい点です。
最初に聞いた金額より高くなることはありますか
委任の範囲が変わったときに生じ得ます。交渉から訴訟へ移った場合、相手方が増えた場合、想定していなかった争点が加わった場合などです。範囲と、追加が生じる条件を契約書で確認しておけば、見通しを立てやすくなります。
まとめ
- 弁護士報酬の共通基準は平成16年4月1日以降存在せず、事務所ごとに報酬基準が定められている。
- 費目は、いつ発生するか、何を基準に決まるか、どこまでの仕事に対するものかの3つの軸で読むと理解しやすい。
- 着手金は依頼の時点で発生し、結果と結びついていない。報酬金は終了時に、得られた結果を基準として発生する。
- 請求を受けた側の報酬金は相手方の提示額を起点に計算されることが多く、起点の置き方を先に確認しておきたい。
- 費用は手続の段階ごとに積み上がるため、最初に示された金額は最初の段階についてのものと考えておく。
- 報酬見積書の交付、受任時の説明、委任契約書の作成は、いずれも制度上求められている。
- 中途で終了した場合の清算方法は委任契約書の記載事項であり、事前に見通しを立てられる。
費用の見通しを立ててから判断したい方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料を請求する側、請求を受けた側のいずれについてもご相談をお受けしています。事案の見通しとあわせて、どの段階まで委任するのか、費用がどのように発生するのかをご説明したうえで、ご依頼いただくかどうかをお決めいただいています。
池袋と新橋に事務所があり、ご相談の内容が外に漏れることのないよう配慮して対応しています。費用の点で迷っておられる段階でも差し支えありませんので、まずはお問い合わせください。


