慰謝料が下がりやすい事情の一覧|減額要素の使い方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞慰謝料を請求されたとき、「この金額は下げられないのか」と考える方は少なくありません。実際、請求された額がそのまま支払額になるとは限らず、事情によって金額が動くことはあります。ただ、減額につながる事情を並べただけでは、交渉や裁判で思うように働かないことがあります。この記事では、慰謝料が下がりやすい事情を性質ごとに整理したうえで、それをどの段階で、どのように示していくのかという「使い方」まで踏み込んで説明します。請求を受けた側の視点だけでなく、請求する側が相手の減額主張をどう受け止めればよいかという視点も併せて取り上げます。

「減額」は値引き交渉とは仕組みが違う

 不貞慰謝料は、民法709条・710条に基づく損害賠償です。あらかじめ定価が決まっていて、そこから割り引いていくという仕組みではありません。裁判所は、当事者双方の事情を総合して一つの金額を決めます。したがって、減額要素とは、その総合判断のなかで金額を押し下げる方向に働く事情のことを指します。

 この違いは、実際のやり取りにも表れます。「相場より高いので下げてほしい」という言い方だけでは、相手に示す材料が薄くなりがちです。金額が動くのは、金額そのものを値切ったときではなく、その金額を支える事情の見え方が変わったときです。なお、「相場」という言葉が指す中身や金額の幅については、別の記事で扱っています。

減額に働く事情は3つの層に分かれる

 減額要素を一列に並べると、性質の異なるものが混ざります。どこに効く事情なのかで分けておくと、どの場面で持ち出せるのかが見えやすくなります。

どのような事情か考慮のされ方
損害の大きさに関わる事情不貞によって生じた精神的苦痛の程度そのものを左右する事情金額の算定で正面から考慮される
責任の重さと分け方に関わる事情誰がどれだけ責任を負うか、最終的に誰がいくら負担するかに関わる事情算定のほか、当事者間の負担の分け方でも考慮される
支払いの現実に関わる事情金額の決まり方ではなく、支払える額や支払い方に関わる事情算定では考慮されにくく、主に話し合いのなかで働く


 この区別が意味を持つのは、同じ「減額してほしい」という話でも、裁判の場でも通る主張と、話し合いのなかでしか意味を持たない主張があるからです。以下、層ごとに具体的な事情を並べます。

一覧1 損害の大きさに関わる事情


事情金額を下げる方向に働きやすい理由
不貞行為より前から夫婦の関係が冷えていた侵害されたとされる婚姻生活の平穏が、もともと小さかったと評価されることがある
不貞行為の前から別居の状態にあった同居して営まれていた生活への影響が限られると評価されることがある
夫婦の婚姻期間が短い積み重ねられてきた関係が短く、失われたものの大きさが小さいとみられることがある
交際の期間が短い、または回数が少ない継続的、反復的な関係とはいえず、苦痛の程度が小さいと評価されることがある
発覚後すみやかに関係を解消した影響が長期化しなかったと評価されることがある
夫婦が同居を続け、離婚に至っていない生活の基盤そのものが失われた場合とは区別されることがある
職場や周囲に知られる形にはなっていない社会生活への波及が限られていたと評価されることがある


 このうち別居や夫婦関係の悪化は、程度によっては支払義務そのものが認められない場面にもつながります。もっとも、「夫婦仲が悪いと聞いていた」「よく喧嘩をしていたようだ」という程度の説明では、法律上の破綻とは評価されにくいのが実務の傾向です。支払義務が認められない場面については、別の記事で扱っています。

一覧2 責任の重さと分け方に関わる事情


事情金額を下げる方向に働きやすい理由
相手が既婚者であると知らず、気づくことも難しかった故意または過失の程度が軽いと評価されることがある
関係が相手方の主導で始まった自ら積極的に関係を作ったとは評価されにくいことがある
職場の立場など、断りにくい事情があった関与の度合いが受け身であったと評価されることがある
双方が既婚者だった、いわゆるダブル不倫である双方向の請求が生じうるため、実際に動く金額が変わることがある
求償の扱いをあらかじめ整理した請求する側の家庭に最終的に残る金額が変わるため、調整の材料になることがある
すでに配偶者から一定の賠償を受け取っている一つの損害について重ねて賠償を受けることはできないため、残る請求が限られることがある


 このうち「既婚者だと知らなかった」という点は、事情によっては支払義務そのものが認められない方向にも働きます。一方で、途中で気づいたのに関係を続けていた場合は、その後の期間について責任が問われることがあります。求償の仕組みやダブル不倫の整理は、それぞれ別の記事で扱っています。

一覧3 支払いの現実に関わる事情


事情話し合いのなかで働きやすい理由
収入や資産が乏しく、支払える額が限られる算定で当然に考慮されるものではないが、現実的な着地点を探る材料になることがある
一括で早期に支払うことができる受け取る側にとっての確実さと引き換えに、金額が調整されることがある
分割払いによらざるを得ない支払期間や条件と合わせて、総額が話し合われることがある
退職や転居など、いわゆる社会的制裁を受けている事案によっては事情の一つとして考慮されることがある


 4つ目については補足が必要です。慰謝料は損害を埋め合わせるための金銭であり、相手を罰するための金銭ではありません。そのため、仕事や住まいを失ったことが当然に金額を下げるとは限らず、これを前面に出しても話し合いが進まないことがあります。この層の事情は、算定の理屈というよりも、解決を早めるための調整材料として扱うのが実際に近いといえます。

使い方1 主張を出す順序を間違えない

 減額に働く事情を持っていても、出す順番を誤ると効きにくくなります。おおまかには、次の順序で進めるのが整理しやすい形です。

  1. いつからいつまで、どのような関係だったのかという事実関係を先に確認する。
  2. 認める部分と、事実と異なると考える部分を切り分ける。
  3. 資料で示せる事情から先に伝える。
  4. そのうえで金額の話に入る。
  5. 最後に支払い方法や取り決めの内容を詰める。


 事実関係が固まらないうちに金額の話から入ると、何についていくらを支払う話なのかがぼやけ、あとから請求の範囲が広がることがあります。反対に、事実関係を確かめないまま一部を支払ってしまうと、請求されている内容をすべて認めたものと受け取られることがあります

使い方2 言葉だけでは通りにくい事情がある

 減額に働く事情の多くは、述べるだけでは相手も裁判所も判断できません。手元にどのような資料があるかで、主張の重みが変わります。

主張したい事情裏づけになりやすいもの
交際の期間や回数やり取りの履歴、移動や宿泊の記録
既婚者だと知らなかったこと相手の説明が残っているやり取り、独身として振る舞っていた事情が分かるもの
関係が相手方の主導だったこと誘いの経緯や当時のやり取り
関係を解消したこと連絡先を整理した経緯、今後についての約束を記した書面
支払える額が限られること収入が分かる資料、返済中の債務の状況


 注意したいのは、相手の夫婦の内情、たとえば別居の有無や関係の冷え込みは、請求を受けた側の手元に資料がないことが多いという点です。配偶者から聞いた話だけを根拠にすると、確かめようがない主張として扱われることがあります。

使い方3 伝え方によって逆に働くことがある

 内容としては減額に働く事情であっても、伝え方によって相手の態度が硬くなり、調整の幅がかえって狭まることがあります。次のような伝え方は避けたいところです。

  • 相手の夫婦関係の問題点を強調し、責任を分け合おうとする言い方。
  • 婚姻期間の短さや回数の少なさを、そのまま金額の話としてぶつける言い方。
  • 根拠を示さないまま、相場の数字だけを持ち出して下げるよう求める言い方。
  • 連絡を返さないまま時間を置き、相手の不信感を強める対応。
  • 事実と異なる説明を重ね、あとから資料で覆される対応。


 同じ内容でも、事実として整理して示すのか、相手を責める形で示すのかで受け取られ方は変わります。減額を求めること自体は正当な主張ですが、その前提として謝罪や説明を尽くしているかどうかが、話し合いの進み方を左右することがあります。

減額に働きにくい事情

 相談の場でよく挙がるものの、金額を下げる材料としては働きにくい事情もあります。

  • 本気の交際ではなかった、遊びのつもりだったという説明。
  • 関係を解消したという事実だけを示すこと。
  • 反省している、二度としないという気持ちを述べるにとどまること。
  • 相手の配偶者にも落ち度があったはずだという見方。
  • 請求額が高いという感覚だけを述べること。
  • 相手の側から働きかけがあったという説明で、裏づけがないもの。


 これらが無意味というわけではありません。関係の解消や再発防止の約束は、取り決めの内容として意味を持ちますし、誠実な対応は話し合い全体の進み方に影響します。ただ、それ単体で金額を動かす材料になるとは考えにくい、ということです。

請求する側から見た、減額主張の受け止め方

 請求する側にとっては、相手からの減額の申し入れをどう扱うかが悩みどころになります。次の点を分けて考えると、判断がしやすくなります。

  1. その主張が事実に関わるものか、支払いの現実に関わるものかを分ける。
  2. 事実に関わる主張については、裏づけとなる資料が示されているかを確かめる。
  3. 一部を受け入れても、請求全体が崩れるとは限らないと理解しておく。
  4. 早期に解決することの価値と、金額の差とを並べて比べる。


 減額の申し入れがあること自体は、不誠実さの表れとは限りません。反対に、資料の裏づけがないまま同じ主張が繰り返される場合や、支払いの引き延ばしと組み合わされている場合は、話し合いの形を変えることも選択肢になります。

金額以外の条件と合わせて調整されることがある

 実際の解決では、金額だけが単独で動くわけではありません。次のような条件と合わせて調整されることがあります。

  • 支払時期を早めること、または一括で支払うこと。
  • 今後は連絡や接触をしないという約束。
  • 事案の内容を口外しないという取り決め。
  • 分割払いの回数と、支払いが滞った場合の取り扱い。
  • 求償をどう扱うかという整理。


 条件と金額は連動します。ただし、期間の定めのない義務や、実情に見合わない違約金の定めを引き受けると、あとから重い負担になることがあります。取り決めの書き方については、示談書の条項を扱った記事で詳しく説明しています。

よくある質問


減額に働く事情が多いほど、金額は下がりますか

 項目の数と金額は比例しません。同じ方向を向いた事情は重ねて評価されないことがありますし、増額に働く事情と打ち消し合うこともあります。数を並べるよりも、中心になる事情を裏づけとともに示すほうが伝わりやすい場面が多いといえます。

弁護士に依頼すれば下がるのですか

 結果をお約束できるものではありません。もっとも、事情を法的な意味づけとともに整理して伝えられること、相手方との窓口が分かれて感情的なやり取りを避けやすくなること、取り決めの内容を後の負担が残らない形に設計できることは、実務上の違いとして挙げられます。

請求を受けてから、どのくらいで返事をすればよいですか

 書面に回答期限が示されていることが多く、その期限は相手方が設定したものにすぎません。ただ、返事をしないまま放置すると、話し合いの機会がないまま手続に進むことがあります。事実の確認に時間がかかるのであれば、その旨だけでも伝えておくのが穏当です。

まとめ


  1. 慰謝料の減額は値引きではなく、金額を支える事情を示す作業である。
  2. 減額に働く事情は、損害の大きさ、責任の重さと分け方、支払いの現実という3つの層に分かれる。
  3. 裁判でも通る主張と、話し合いのなかでしか意味を持たない主張は区別しておく。
  4. 事実関係を確かめてから金額の話に入り、資料で示せる事情から先に伝える。
  5. 同じ事情でも、伝え方によっては相手の態度を硬くさせることがある。
  6. 請求する側は、相手の主張が事実に関わるものか支払いの話かを分けて受け止める。
  7. 金額は支払時期や取り決めの内容と合わせて調整されることがある。


 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料について、請求する側からのご相談と、請求を受けた側からのご相談の双方をお受けしています。手元の資料からどの事情が使えるのか、どの順序で伝えるのがよいのかは、事案ごとに異なります。池袋と新橋に事務所がありますので、金額の妥当性や今後の進め方に迷われている場合は、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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