離婚する場合としない場合で慰謝料はどう変わるのか
「相手にも同じ思いを味わってほしい」「勤務先に知らせれば、少しは応えるのではないか」。不貞が発覚した直後のご相談では、こうしたお気持ちが語られることがあります。一方で、「相手方から自宅や職場に繰り返し連絡が来ていて、慰謝料の話がまったく進まない」というご相談も、同じくらい多く寄せられます。
インターネット上には、報復にあたる行為は名誉毀損や脅迫にあたるおそれがある、慰謝料が減額されることがある、といった説明が並んでいます。どれもそのとおりで、誤りではありません。ただ、実際のご相談で行き詰まる原因は、その行為が違法かどうかという一点だけでは説明しきれないところにあります。もともと一つだった争いが二つに分かれ、相手も、話し合う場所も、終わらせ方も変わってしまう。これが二次トラブルと呼ばれる状態です。
この記事では、個々の行為が犯罪にあたるかどうかという判断ではなく、報復的な行動をとった後に何が枝分かれしていくのかという構造を整理します。SNSでの公表、勤務先への連絡、相手の家族への連絡といった行為ごとの当否は、それぞれ別の記事で扱っていますので、ここでは立ち入りません。
この記事で整理すること
報復的な行動という言葉には、幅のある行為が含まれます。ここでは行為の名前を並べるのではなく、行動をとった後に何が起きるのかという順序で整理します。
- もともとの慰謝料の話と、報復から生じる争いはどこが違うのか。
- 枝分かれによって、何がずれていくのか。
- 外に向けた行動が、もとの請求の進み方にどう跳ね返るのか。
- すでに行動してしまった場合に確かめておきたいこと。
- 報復的な行動を受けている側から見た整理。
個々の行為が名誉毀損(刑法230条)や侮辱(同法231条)、脅迫(同法222条)、強要(同法223条)、威力業務妨害(同法234条)にあたるかどうかという要件の検討は、行為ごとに別の記事で扱っています。本記事は、その手前にある枝分かれの構造に絞ってご説明します。
もともとの争いと、報復から生じる争い
不貞をめぐる慰謝料の問題は、当事者の顔ぶれも、扱われる場所も、比較的はっきりしています。報復的な行動は、その外側にもう一つの争いを作ります。二つは別々に立ち、別々に終わります。
| 項目 | もともとの争い | 報復から生じる争い |
|---|---|---|
| 主な当事者 | 不貞をした配偶者と、その相手方 | 新たに関わった第三者が加わることがある |
| 扱われる場所 | 話し合い、調停、訴訟 | 別の民事の手続や、警察への相談、勤務先の社内手続など |
| 終わらせ方 | 示談書や判決で一度に整理できる | それぞれ別に終わらせる必要がある |
二つを分けて考える理由は単純で、一方が終わっても、もう一方は残るからです。慰謝料の支払いが済んでも、その過程で生じた別の争いが、それだけで消えるわけではありません。
枝分かれで生じる四つのずれ
報復的な行動の後に何が起きるのかを、四つのずれとして整理します。次の章から順に見ていきます。
| ずれ | 内容 |
|---|---|
| 相手のずれ | 話す相手が、当初とは違う人にまで広がる |
| 場所のずれ | 民事の話し合い以外の窓口が増える |
| 時期のずれ | 争いの始まりが後ろにずれ、全体の終わりも遠のく |
| 終わり方のずれ | 一つの合意では終わらず、別の整理が必要になる |
相手が変わる
第三者が新しい当事者になる
勤務先の担当者、相手方の家族、共通の知人、SNSの閲覧者。報復として何かを伝えると、それまで争いの外にいた人が中に入ってきます。伝えられた人が不快に感じれば、その人との関係で新しい主張が立つことがあります。損害賠償の規定(民法709条・710条)は、不貞の当事者どうしにだけ適用されるものではありません。
相手方の側にも当事者が増える
勤務先に伝えた結果、相手方が何らかの処分を受けたり、退職に至ったりした場合、その不利益をめぐる主張が別に立つことがあります。相手方の配偶者に伝えた場合には、その配偶者が新たな請求者として登場することもあります。当事者が増えるほど、関係者全員が納得できる終わり方を作ることは難しくなります。
持ち込まれる場所が変わる
民事の話が別の窓口に移る
もともとの慰謝料の話は、話し合いか、調停か、訴訟のいずれかで扱われます。ところが報復的な行動があると、相手方が警察に相談する、被害届の提出を検討するといった動きが出てくることがあります。刑事の窓口は、慰謝料の金額を決める場所ではありません。そこで何らかの結論が出たとしても、もとの請求はそれだけでは一歩も進みません。
勤務先という第三の場所
勤務先に伝えた場合、会社は社内の手続として事実確認を行うことがあります。そこは当事者が結論を決められる場所ではなく、進み方も期間も会社の判断に委ねられます。結果として、自分では進め方を選べない場面が増えていきます。相手方が処分を争う姿勢を示せば、その決着を待つ時間も生じます。
時期がずれる
もとの慰謝料の請求には、期間の制限が定められています(民法724条)。一方で、報復から生じる争いは、その行動があった時点から新たに始まります。順番として後から立ち上がるため、全体の解決は後ろにずれることになります。
実務で見えにくいのは、この時間のずれが交渉の空気にも影響することです。相手方は、自分が受けた不利益についての話が残っている間、もとの慰謝料についてまとまった提案をしにくくなります。早く区切りをつけたいという気持ちから出た行動が、結果として終わりを遠ざけてしまうことがあります。
終わり方が変わる
示談書を交わすときには、多くの場合、本件に関して他に何らの債権債務がないという趣旨の条項を置きます。この条項が働くのは、原則として署名した当事者どうしの間だけです。
したがって、勤務先や相手方の家族との間で生じたことは、当事者間の示談だけでは整理されません。相手方が受けた不利益についても、示談の対象に含めるかどうかを意識して書かない限り、後日あらためて主張される余地が残ります。条項の書き方そのものは、別の記事で扱っています。
枝分かれが起きやすい三つの時期
ご相談を伺っていると、報復的な行動が生じやすい時期には偏りがあります。
| 時期 | 起きやすいこと | 残りやすい影響 |
|---|---|---|
| 発覚した直後 | 気持ちが高ぶった状態での連絡や投稿 | 後の交渉で資料として提出される |
| 交渉が進んでいる間 | 返事が来ないことへの重ねての連絡 | 窓口が閉じ、代理人を通す形に切り替わる |
| 支払いが済んだ後 | 区切りがついたと考えての公表 | 示談の対象外として、新たな主張が立つ |
支払いが済んだ後は油断しやすい時期ですが、示談で終わっているのは、示談に書かれた範囲だけです。
もとの請求の中でどう扱われるか
報復的な行動は、別の争いを生むだけでなく、もとの請求の中でも材料として扱われます。
- 相手方の側から、こちらの対応として指摘されることがある。
- すでに社会的な不利益を受けたとして、金額の判断で考慮される場合がある。
- 求め方が行き過ぎているとして、請求の進め方そのものが問題にされる場合がある。
- 送った書面や投稿の内容が、そのまま資料として提出されることがある。
金額の増減にどう影響するかは事案によって幅があり、一律には決まりません。金額を上げやすい事情、下げやすい事情の整理は、別の記事に譲ります。
同じ内容でも、枝分かれしにくい形がある
不貞の事実が相手方以外に伝わること自体が、常に問題になるわけではありません。手続の中では、相手方の勤務先が書類の宛先になることもありますし、訴訟の記録に事実が記載されることもあります。違いは、伝える内容ではなく伝わり方にあります。
| 見る点 | 枝分かれしにくい形 | 枝分かれしやすい形 |
|---|---|---|
| 伝わる範囲 | 宛先が決まっていて、そこで止まる | 受け取った人から先が決まらない |
| 相手の応答 | 言い分を返す機会がある | 一方的に伝わったままになる |
| 内容の確認 | 後から同じ文面を確かめられる | 口頭や削除された投稿では確かめられない |
手続の中で行われることは、この三つを満たしやすい形になっています。自分の判断で外に伝える場合には、三つのどれもが自分の手を離れます。報復かどうかという意図ではなく、こうした形の違いによって、後に残るものが変わってきます。
すでに行動してしまった場合
行動した後だからこそ、できることもあります。
- 自分が何を、誰に、どの形で伝えたのかを時系列で書き出す。
- 送った文面や投稿の内容を、消さずにそのまま残しておく。
- 同じ内容を重ねて伝えることは、いったん止める。
- 相手方や第三者から連絡が来た場合、内容と日付を記録しておく。
- もとの慰謝料の話と、新たに生じた争いを分けて把握する。
消してしまいたくなる気持ちは自然なものですが、記録を消すと、後から自分の説明を裏づける材料も同時に失われます。どのような経緯でその行動に至ったのかを説明する場面は、後から訪れることがあります。
報復的な行動を受けている側から見た場合
立場が逆であっても、整理の仕方は大きく変わりません。
- 受けている行為の内容と日付を、一件ずつ記録しておく。
- もとの慰謝料の話とは分けて、どの点を問題にするのかを整理する。
- やり取りの窓口を絞り、直接の応酬を重ねない。
- 身の危険を感じる場面では、法律上の整理より先に警察に相談する。
こちらの対応も同じように記録に残ります。強い言葉で返した内容が、後に相手方から持ち出されることもあります。
よくあるご質問
事実を伝えただけでも、争いになるのでしょうか
内容が事実であることと、伝えたことについて責任が生じないことは、別の問題です。事実であっても、伝える範囲や方法によっては、伝えられた側や第三者との関係で主張が立つことがあります。個々の行為の当否は、別の記事で扱っています。
相手が先に不貞をしたのだから、こちらの行動も許されるのではないですか
相手方の責任と、こちらの行動についての評価は、それぞれ別に判断されます。一方があるからといって、もう一方が打ち消されるわけではありません。二つの責任は、それぞれ独立して立ちます。
示談が成立すれば、報復に関する話も一緒に終わりますか
示談の効力は、原則として署名した当事者の間に限られます。第三者との間で生じたことや、示談の対象に含まれていない事柄は、別に整理する必要があります。
まとめ
- 報復的な行動の問題は、違法かどうかという一点では説明しきれず、争いが枝分かれするところにある。
- 枝分かれによって、相手、場所、時期、終わり方の四つがずれる。
- 外にいた第三者が新しい当事者になり、関係者全員が納得できる終わり方は作りにくくなる。
- 民事の話が、警察の窓口や勤務先の社内手続に移ることがある。
- もとの請求には期間の制限がある(民法724条)一方、報復から生じる争いは後から始まる。
- 示談書の清算に関する条項が働くのは、原則として署名した当事者どうしの間に限られる。
- 同じ内容でも、伝わる範囲、相手の応答、内容の確認という三点で、枝分かれのしやすさが変わる。
- すでに行動してしまった場合は、記録を消さずに残し、もとの請求と分けて整理することが出発点になる。
不貞をめぐるトラブルでお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。慰謝料を請求したいとお考えの方からは、どこまでなら伝えてよいのか、相手方が応じないときにどうすればよいのかというご相談を多くいただきます。
請求を受けた側、あるいは報復的な行動を受けている側からのご相談もお受けしています。すでに何らかの行動をとってしまった後でも、争いを整理し直せる場面はあります。ご自身の状況をどう位置づければよいか迷われている段階でも、お気軽にご相談ください。


