【不貞慰謝料】子どもにどこまで伝えるべきか|情報管理の視点

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「子どもには知られないまま終わらせたい」というご相談と、「子どもに何と説明すればよいのか」というご相談は、どちらも同じくらいよくお受けします。前者は請求する側から、後者は請求を受けた側から寄せられることが多く、悩みの向きは逆に見えますが、行き着く問いは同じです。子どもにどこまで話すのか、という問いです。

 この点については、年齢や理解力に応じて慎重に判断する、詳細までは伝えない、といった説明がよく見られます。いずれもそのとおりで、否定すべきところはありません。ただ、こうした説明は「伝えるかどうか」を主に気持ちの問題として扱っており、伝えた情報がその後どこへ動いていくのかという部分には、あまり触れていません。

 実際のご相談では、伝え方そのものよりも、伝えたあとに情報が思わぬ形で動いたことが問題になります。この記事では、子どもへの説明を情報をどう管理するかという観点から整理します。心のケアの具体的な方法や、親権・面会交流の取り決めには立ち入りません。

この記事で扱うことと扱わないこと

 先に範囲をはっきりさせておきます。

  • 扱うこと。子どもに伝えた情報がどこへ動くか、どの場面で表に出るか、あとから訂正できるか。
  • 扱わないこと。子どもの心のケアの具体的な方法。これは心理の専門家の領域です。
  • 扱わないこと。親権・監護・面会交流の取り決め。離婚の手続に属する話です。
  • 扱わないこと。子どもの有無が慰謝料の金額にどう影響するか。別の記事で扱っています。


 なお、この記事は不貞をされた側にも、不貞をした側や不貞相手とされた側にも当てはまる形で書いています。伝える立場が違っても、情報が動く仕組みは変わらないためです。

「伝えるか伝えないか」の前に分けておきたい四つのこと

 ご相談の場でうかがっていると、「伝える」という一語に、性質の異なる四つの判断が混ざっていることが少なくありません。ここを分けておくと、迷いの中身がはっきりします。

何を伝えるのか

 同じ「伝える」でも、両親の間で問題が起きていることを伝えるのか、不貞という出来事があったことを伝えるのか、相手方の氏名や職業まで伝えるのか、手続がどこまで進んでいるかを伝えるのかで、内容はまったく異なります。子どもに必要な情報と、大人が話したい情報は同じではありません

誰の口から伝えるのか

 自分から伝えるのか、夫婦そろって伝えるのか、不貞をした側の親から伝えるのかで、子どもの受け取り方も、その後の家庭内のやり取りも変わります。片方が単独で伝えた場合、もう一方から「一方的な説明をされた」と言われることがあります。

いつ伝えるのか

 発覚した直後は、事実関係も今後の方針もまだ固まっていません。この段階で伝えた内容は、あとから修正が必要になりがちです。

どこまで固まってから伝えるのか

 話し合いが続いている間は、相手方の言い分も、最終的な決着の形も動きます。伝える時期を考えるうえでは、自分の中で何が確定したのかを先に確かめておくことが役に立ちます。

子どもが知る経路は一つではない

 「伝えるかどうか」を悩んでいる間に、子どもがすでに別の経路で知っていることがあります。経路によって、子どもの手元に残るものも、そのあと起きやすいことも違います。

知り方子どもの手元に残るもの起きやすいこと
親から説明を受ける説明の言葉そのもの説明した側の見方が中心になる
家庭内のやり取りを見聞きする断片的な言葉と場面の記憶事実と推測が入りまじる
端末や郵便物を目にする画面や書面の一部誰にも言えないまま抱える
親族・知人・学校から聞く人づてに変形した内容家庭の外に話が広がっている
相手方や不貞をした親から聞く一方の側からの説明説明の食い違いが表面化する


 この表からわかるのは、こちらが黙っていても情報が止まるとは限らない、ということです。伝えない選択をするのであれば、他の経路から入ってきたときにどう答えるかまで、あわせて考えておく必要があります。

伝えた内容は子どもの中にとどまらない

 ここがこの記事の中心です。子どもは情報の受け手であると同時に、情報を運ぶ立場にも置かれます。伝えた瞬間から、内容は自分の管理を離れます。

もう一方の親に伝わる

 同居していても別居していても、子どもは両方の親と接します。悪意があるわけではなく、会話の流れで出てしまうことがほとんどです。伝えた内容がそのまま相手方に届き、相手方の代理人が把握するところまで進むこともあります。

親族や学校に伝わる

 子どもは、自分の負担を軽くするために誰かに話すことがあります。祖父母、友人、担任の先生などです。家庭の中の話のつもりでも、そこから先の広がり方は選べません。

子どもが秘密を預かる立場になる

 「お父さんには言わないで」「おばあちゃんには黙っていて」と付け加えると、子どもは情報を管理する役目を負います。これは大人が思う以上に重い役割で、結果として、どちらの親にも本当のことを言えなくなることがあります。

子どもが手続の中に登場する場面

 話し合いの段階では、子どもが表に出ることはほとんどありません。ただ、まとまらずに訴訟へ進んだ場合、子どもが見聞きしたことが争点に関わる可能性はあります。仕組みを知っておくと、伝え方の判断が変わることがあります。

年齢による一律の制限はない

 民事訴訟法190条は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができると定めています。年齢で一律に区切る規定は置かれていません。子どもだからという理由だけで証人になれないわけではない、というのが出発点です。

法律が年齢の線を引いているのは一か所

 証人は宣誓をしたうえで証言するのが原則ですが、16歳未満の人と、宣誓の趣旨を理解することができない人については、宣誓をさせることができないとされています(同法201条2項)。伝えるかどうかを年齢で考える方は多いのですが、法律の側で年齢の線が引かれているのはこの部分だけです。証言そのものができなくなるという意味ではありません。

親に関する証言を拒める場合がある

 証言の内容が、証人自身や一定の親族関係にある人の名誉を害すべき事項に関するときは、証人は証言を拒むことができます(同法196条)。親と子はこの親族関係にあたるため、規定が働く場面があります。ただし、拒むかどうかを決めるのは子ども自身です。その判断自体が子どもの負担になるという点は見落とされがちです。

実際に申請されることは多くない

 不貞をめぐる訴訟で、子どもの尋問が行われる例は多くありません。争いの中心になる事実は大人の間で起きたもので、子どもが直接見ている場面が少ないこと、同居する親の影響を受けた供述と受け止められやすいことが理由です。証人の年齢などに配慮した仕組みも設けられていますが、尋問の進み方そのものは別の記事で扱います。

情報を集める役を子どもに任せない

 もう一つ、ご相談の場でよく出てくるのが、子どもを通じて事実を確かめようとする場面です。

確認を頼む

 「今日は誰と会っていたか聞いておいて」といった頼み方は、子どもを両親の板挟みに置きます。聞き出した内容の正確さも、子どもの理解や記憶に左右されます。

子どもの端末や写真

 子どもの端末にやり取りが残っていることや、子どもが撮った写真に関係する場面が写っていることもあります。手元にあるものをどう扱うかという問題と、それをどう手に入れたかという問題は別で、あとから経緯を説明する場面では、子どもがどう関わったかまで表に出ます。資料そのものの評価や集め方の適法性については、証拠を扱った別の記事に譲ります。

一度伝えた内容は訂正しにくい

 交渉の段階では、事実関係も決着の形もまだ動きます。ここで断定的に伝えてしまうと、あとで説明が食い違います。

決着の形は一通りではない

 不貞の有無について双方の言い分が残ったまま、解決金という形で終えることもあります。子どもに事実を断定して伝えていると、この結末を説明できなくなります。

口外禁止条項との関係

 示談書に口外禁止の条項を入れると、あとから話せる範囲が限られます。合意する前に、子どもにどこまで話すつもりかを決めておくほうが、順序として無理がありません。条項の範囲に家族が含まれるかどうかは、口外禁止条項を扱った別の記事で整理しています。

「子どもを巻き込んだ」と指摘される場合

 伝え方は、相手方から指摘される対象にもなります。請求する側は「子どもに言い聞かせて味方につけた」と言われることがあり、請求を受けた側は「子どもの前でも関係を続けていた」と主張されることがあります。

 どちらも、事情としてどう評価されるかは事案によって異なります。ここでは、子どもへの伝え方が当事者間の主張に取り込まれることがあるという点を押さえておけば足ります。金額の組み立てについては、増額・減額の事情を扱った記事をご覧ください。

すでに伝えてしまった場合

 伝えたことを取り消すことはできませんが、そのあとにできることはあります。

  1. 伝えた内容を、自分が実際に確かめたことと、そのときの見方とに分けて整理する。
  2. 子どもに口止めをしていた場合は、その役目を解いておく。
  3. 相手方に伝わっている前提で、今後の説明の仕方をそろえておく。
  4. 訂正が必要な部分は、事実が固まった段階で短く伝え直す。
  5. 子どもの様子に気がかりな点があれば、学校の相談窓口や専門家につなぐ。


請求を受けた側から見た整理

 不貞をしたとされる側や不貞相手とされた側も、子どもに関する判断を迫られます。

  • 自分の子どもに事実と異なる説明をすると、あとで説明を変える必要が生じる。
  • 相手方の子どもに直接連絡を取ることは、交渉の相手方以外への働きかけにあたり、別の問題を生む。
  • 自分の親族に相談する場合も、そこから子どもに伝わる経路がある。
  • 子どもに関する事情を反論の材料に使うときは、その主張が子どもに届く可能性を考えておく。
  • 説明の仕方に迷う段階で、代理人に窓口を任せておくと判断がしやすい。


よくあるご質問

子どもが先に気づいていた場合、改めて説明したほうがよいのでしょうか

 気づいているかどうかを本人に確かめないまま、こちらから詳しく話し始めると、子どもが知らなかった内容まで伝わることがあります。まず何をどう受け止めているかを聞き、そのうえで補う範囲を決めるほうが、伝える情報の量を管理しやすくなります。

子ども自身が不貞相手に慰謝料を請求することはできますか

 原則として認められないとした最高裁判決があります。子どもがいることが配偶者の慰謝料の評価に影響するかどうかとは別の問題で、この点は子どもの有無と金額を扱った記事で詳しく説明しています。

子どもに伝えたことが相手方に伝わってしまいました

 伝わったこと自体が直ちに不利になるわけではありません。問題になりやすいのは、こちらの説明と子ども経由の話が食い違う場合です。自分が何をどう伝えたかを時系列で書き出し、代理人に共有しておくと、対応の見通しが立てやすくなります。

まとめ


  1. 「伝える」には、何を・誰の口から・いつ・どこまで固まってから、という四つの判断が含まれている。
  2. 黙っていても、端末や郵便物、第三者を経由して子どもが知ることがある。
  3. 伝えた内容は子どもの中にとどまらず、もう一方の親や親族、学校へ広がる可能性がある。
  4. 民事訴訟法190条は年齢で証人を制限しておらず、年齢の線は宣誓に関する同法201条2項に置かれている。
  5. 証言が親の名誉を害すべき事項に関するときは、証言を拒むことができる場合がある(同法196条)。
  6. 子どもに情報を集める役を任せると、あとで経緯を説明する場面で子どもの関与まで表に出る。
  7. 示談で口外禁止の条項を結ぶ前に、子どもにどこまで話すつもりかを決めておく。


子どもへの伝え方でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。子どもに何をどこまで伝えるかという判断は、手続の見通しと切り離して決めることが難しく、進み方によって適切な時期も変わります。

 慰謝料を請求したいとお考えの方も、請求を受けて対応に迷っている方も、家庭の中の事情を含めてお話しください。伝え方だけを取り出して助言するのではなく、手続全体の流れの中でどの時点で何を決めておくべきかを、あわせて整理いたします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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