【不貞慰謝料】職場での不倫|社内で発覚した場合に起きること
「配偶者の不貞相手に何度も連絡していたら、相手の代理人から『これ以上続けるならストーカー規制法の問題になる』と言われた」。「関係を解消したあとも相手から連絡が届き続けていて、どこからが警察に相談してよい話なのか分からない」。不貞をめぐるご相談では、慰謝料の金額に入る前に、連絡の取り方そのものが争点になっている場面に出会うことがあります。
ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)については、「しつこく連絡すると罰せられる」という説明が数多く出回っています。それ自体が誤りというわけではありません。ただ、この法律には行為の外形だけでは決まらない要件がいくつも置かれており、同じ回数・同じ手段の連絡であっても、誰から誰への連絡なのかによって、そもそもこの法律の土俵に乗るかどうかが変わります。この部分は、あまり説明されていません。
この記事では、不貞をめぐる場面に絞って、相手への連絡がストーカー規制法の枠組みに入るのはどのようなときか、入らない場合には何が残るのかを整理します。連絡先が勤務先や実家しか分からない場合の宛先の選び方、示談書に接触禁止の条項をどう置くか、請求の求め方が恐喝と評価される線引きについては、それぞれ別の記事で扱っています。
この記事で整理すること
次の5点に絞って説明します。
- 同じ「何度も連絡した」でも、当てはまる物差しが向きによって変わること。
- ストーカー規制法が「どのような気持ちで連絡したか」という要件から入る構造。
- 慰謝料を請求する権利があることと、その求め方が許されることは別だという点。
- 「拒まれたにもかかわらず」「連続して」がどのように判断されるか。
- この法律に当たらない場合に、どの規定が残るか。
いずれも、連絡をしている側と受けている側の双方から見た形で書いています。
同じ「何度も連絡した」でも、当てはまる物差しは違う
不貞をめぐる場面で「連絡」が問題になるとき、その連絡には向きがあります。誰から誰へ向けられたものかによって、最初に検討される規定が入れ替わります。
| 誰から誰への連絡か | 連絡の理由として語られること | 最初に問題になる物差し |
|---|---|---|
| 不貞をされた側から不貞相手へ | 慰謝料の請求、事実の確認、話し合いの要求 | 迷惑防止条例、刑法の各罪、民事の責任 |
| 関係を解消した当事者どうし | やり直したい、説明してほしい、関係を切りたくない | ストーカー規制法 |
| 相手の家族や勤務先など周囲へ | 事実を知らせたい、連絡先を知りたい | 誰に向けた行為かによって変わる |
向きが変わると、必要な要件も変わる
ストーカー規制法は、連絡の回数や時間帯から入る法律ではありません。後で述べるとおり、まず行為者の目的が問われ、次に行為の類型、その方法、繰り返しの有無へと進みます。このうち目的の要件は、不貞をめぐる連絡では満たされる場合と満たされにくい場合がはっきり分かれます。同じ通数のメッセージでも、送った人の立場によって結論が変わることがあるのは、この構造によるものです。
「土俵に乗らない」ことは「問題がない」ことではない
ストーカー規制法の要件を満たさないと分かると、それで終わりだと受け取られることがあります。しかし、都道府県の迷惑防止条例には目的の要件が別に定められていますし、刑法の規定や民事上の責任は、この法律とは無関係に働きます。交渉の場面では、連絡の取り方そのものが相手方の反論材料として持ち出されることもあります。
ストーカー規制法は「どのような気持ちで連絡したか」から入る
この法律が規制するのは「つきまとい等」と、それを反復する「ストーカー行為」です。「つきまとい等」は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者やその家族等に対して法2条1項各号の行為をすることをいいます。
「怨恨」は好意から転化したものに限られる
警察庁の通達(令和3年5月26日付け)は、この目的の要件について、「好意の感情」は好きな気持ちや親愛感をいい、「怨恨の感情」は自分の好意が相手方に受け入れられないために好意の感情が怨恨の感情に転化したものであることが必要だと説明しています。恨みの感情であれば何でもよいわけではなく、もともと相手に向けていた好意が前提になるという読み方です。
配偶者から不貞相手への連絡はどう位置づけられるか
不貞をされた側が不貞相手に向ける感情は、多くの場合、好意が受け入れられなかったことから転化した怨恨ではありません。そのため、慰謝料の請求や事実の確認を目的とした連絡は、回数が多くても、ストーカー規制法の目的の要件には乗りにくいという整理になります。ただし、これはあくまで出発点です。後述の条例や刑法の規定は、目的の内容を別の形で定めており、そちらの検討はなお残ります。
関係を解消した当事者どうしの連絡
これに対し、不貞関係にあった二人の間で、一方が関係の継続や復縁を求めて連絡を続けている場合は、目的の要件を満たしやすい類型です。既婚であったかどうか、関係が社会的に認められるものであったかどうかは、この要件の判断とは切り離されています。法3条は「何人も」つきまとい等をして相手方に不安を覚えさせてはならないと定めており、夫婦間や元夫婦間の連絡も、条文上は除かれていません。
連絡の場面で挙がりやすい行為の類型
法2条1項は8つの類型を挙げています。連絡に関係するのは主に次の号です。
| 条文 | 連絡の場面で問題になりやすい形 |
|---|---|
| 1号 | 自宅や勤務先に押し掛ける、付近で待つ |
| 2号 | 「今どこにいるか知っている」など、行動を把握していると告げる |
| 3号 | 面会、交際その他の義務のないことを行うよう要求する |
| 4号 | 著しく粗野または乱暴な言動をする |
| 5号 | 無言電話、拒まれたにもかかわらず連続して電話・文書・ファクシミリ・電子メールの送信等をする |
| 7号 | 名誉を害する事項を告げる、または知り得る状態に置く |
5号の「電子メールの送信等」には、通常の電子メールやショートメッセージのほか、法2条2項により、SNSのメッセージ機能を使った送信も含まれます。前掲の通達は、相手方が開設しているブログやSNSのページへの書き込みも、この規定の対象になり得るとしています。手段を変えれば別扱いになる、という整理にはなっていません。
また、行為の相手方は本人に限られません。条文は、本人の配偶者、直系もしくは同居の親族のほか、「社会生活において密接な関係を有する者」を挙げています。通達は、この密接関係者を、本人の身上や安全等を配慮する立場にある者とし、恋人、友人、職場の上司等を例示しています。相手の周囲への連絡も、本人への圧力として働く場合には、この法律の射程に入り得ます。
請求できる権利があることと、求め方が許されることは別
3号の「義務のないこと」について、通達は、その要求をすることが第三者から見て不当だと評価できるものと解したうえで、実際に債権があり、要求することについて正当な権利を有していると言える場合であっても、権利の濫用に当たるときは「義務のないことを行うことを要求する」に該当すると述べています。
何が「義務のないこと」に当たりやすいか
慰謝料の支払を求めること自体は、権利にもとづく請求です。一方、会って直接話すこと、謝罪文を書くこと、勤務先を辞めること、経緯をすべて説明することなどは、相手に法律上の義務があるとは限りません。金額の交渉と並行してこうした要求を重ねているとき、その部分が別の評価を受ける余地があります。
請求権があることが免罪符にはならない
「こちらには請求する権利があるのだから、何度連絡しても構わない」という説明を見かけることがありますが、通達の整理はそれとは異なります。権利があることと、その行使の仕方が相当な範囲にとどまっているかは、別々に判断されるという構造です。民法1条3項も、権利の濫用は許されないと定めています。
「拒まれたにもかかわらず」「連続して」はどう見られるか
5号は、連絡を重ねる場面で最も引かれやすい規定です。文言の意味は、通達で次のように整理されています。
- 「拒まれた」には黙示のものも含まれるが、行為者が拒絶を認識していることが必要とされる。
- 本人から直接告げられた場合だけでなく、相手方が警察に相談し、警察から拒んでいる旨を告げられて認識した場合も含まれると解されている。
- 「連続して」は「短時間や短期間に何度も」という意味で、個々の事案により判断される。
- 電話や文書、電子メール等の内容は問われず、複数の手段を組み合わせた場合も対象になり得る。
- 着信拒否や受信拒否の設定がされていても、着信履歴や受信履歴から送信が認められれば該当し得る。
連絡が届いていないつもりでいても、履歴が残っていれば行為としては数えられ得るという点は、見落とされやすいところです。逆に、受けている側から見れば、拒絶の意思を一度、日付の残る形で伝えておくことが、後の説明を支える材料になります。何度も言い返す必要はありません。
一度きりなら何も起きないのか
罰則の対象となる「ストーカー行為」は、つきまとい等を反復することをいいます。最高裁の判例(平成17年11月25日)は、同じ号に掲げられた行為を繰り返す場合に限られず、各号の行為が全体として反復したと認められればよいとしています。手段を変えながら連絡を重ねている場合も、通算して評価されるということです。
不安を覚えさせる方法かどうか
1号から4号まで、および5号のうち電子メールの送信等に係る部分については、身体の安全、住居等の平穏もしくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限られます。この判断は通常一般人を基準としますが、通達は、一般人であれば不安を覚えない方法であっても、行為者と相手方の人的関係、行為の態様、同種行為の回数や頻度、警告等との先後関係を総合的に勘案して該当する場合があるとしています。当事者間に何があったかが、方法の評価に影響するという趣旨です。
繰り返す前でも動く手続がある
警告(法4条)や禁止命令等(法5条)は、罰則とは要件が異なり、法3条に違反する行為があり、更に反復して当該行為をするおそれがあると認められるときに行われます。繰り返しが完成する前でも出され得るということです。また、警告の内容は、法2条1項に規定するすべての号に係る行為をしてはならない旨とされており、電話について警告を受けた後に手紙に切り替える、といった対応は想定されていません。禁止命令等の効力は、命令をした日から起算して1年間です。
令和7年の法改正により、令和7年12月30日からは、相手方からの申出がなくても警察の職権で警告ができるようになりました。相手が届出をしていないから何も起きない、とは限らないことになります。罰則としては、法18条から20条までに、ストーカー行為をした場合、禁止命令等に違反した場合などの規定が置かれています。
この法律に当たらない場合に残るもの
目的の要件を満たさないと判断されても、検討が終わるわけではありません。
迷惑防止条例は目的の定め方が違う
東京都の迷惑防止条例5条の2は、正当な理由なく、専ら特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で、不安を覚えさせるような行為を反復して行うことを禁じています。ストーカー規制法のつきまとい等およびストーカー行為は、この条文の対象から除かれています。好意から転化した怨恨でなくても、悪意の感情にもとづく反復であれば条例の側で検討され得る、という関係です。条例は都道府県ごとに内容が異なるため、行為が行われた地域の定めを確認する必要があります。
なお、同条例5条の3は、つきまとい行為等をするおそれがある者と知りながら相手方の情報を提供することを禁じています。ストーカー規制法6条にも同趣旨の規定があり、令和8年3月10日からは、警察本部長等が情報提供を行わないよう求めることができる仕組みが加わりました。相手の連絡先を知人から教えてもらう場面では、教える側にも規定が及ぶことになります。
刑法や民事の責任は別に働く
告げた言葉の内容によっては脅迫罪(刑法222条)や強要罪(同法223条)、勤務先への働きかけの態様によっては威力業務妨害罪(同法234条)、自宅や敷地への立入りの仕方によっては住居侵入罪(同法130条)が問題になり得ます。民事では、執拗な連絡そのものが不法行為(民法709条)として評価され、賠償の対象とされることがあります。請求する側が、逆に請求を受ける立場になる場面です。
交渉の中でも材料になる
刑事や条例の問題にならなかったとしても、連絡の記録は交渉に残ります。金額の主張と並行して、連絡の頻度や文面が相手方から持ち出され、減額の材料として使われることがあります。請求の中身が正しいかどうかとは別のところで、話の進み方が変わってしまうことになります。
連絡を続けてしまった側から見て
すでに連絡を重ねてしまった場合でも、そこから整理できることはあります。
- 送信の履歴、通話の履歴、訪問した日時を、削除せずにそのまま残す。
- 相手からどの時点で拒絶の意思が示されたかを確認し、その前後で自分の行動がどう変わったかを整理する。
- 金額の請求と、それ以外の要求(面会、謝罪文、退職など)を分けて書き出す。
- 以後の連絡先を代理人に一本化し、本人からの直接の連絡を止める。
- 警察から連絡があった場合は、その場で説明を尽くそうとする前に、経過を時系列に整理してから対応する。
連絡を止めることは、請求を諦めることではありません。請求の手続は、内容証明郵便や調停、訴訟といった、記録の残る方法で進めることができます。
連絡を受けている側から見て
受けている側では、次のような点が問題になります。まず、拒絶の意思を伝えた事実と日付が残っているかどうかです。相手が認識したかどうかが要件に関わるため、送信の記録が残る手段が向いています。次に、届いた連絡を消さずに保存しておくことです。件数と間隔は、後から復元しにくい情報です。
そのうえで、相手の連絡が慰謝料の請求という形をとっている場合、連絡の問題と請求そのものの当否は分けて考える必要があります。連絡の取り方に問題があることは、請求権がないことを意味しません。身の危険を感じる状況であれば、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談する選択肢があります。
よくあるご質問
「やめてほしい」と言われていなければ問題ないのでしょうか
5号の「拒まれたにもかかわらず」には黙示の拒絶も含まれると解されており、明示的な言葉がなくても、返信がない状態が続いていれば、拒絶を認識していたと見られることがあります。また、3号(面会、交際その他の義務のないことの要求)の条文には、拒絶があったことは要件として書かれていません。拒否の言葉の有無だけで線が引かれるわけではないということです。
弁護士に依頼した後も、自分から連絡してよいのでしょうか
代理人を立てた後に本人から直接連絡を続けると、交渉の窓口が二重になり、話がまとまりにくくなります。連絡の頻度や文面が問題にされている場面では、その行為が続いている事実自体が、相手方の主張を裏づける材料にもなります。伝えたいことがある場合は、代理人を通す形が現実的です。
相手の家族や勤務先に連絡するのはどうでしょうか
法2条1項は、本人だけでなく、その配偶者、直系もしくは同居の親族、社会生活において密接な関係を有する者への行為も対象としています。加えて、勤務先への連絡は、業務妨害や名誉毀損、交渉上の不利益といった別の問題も生じます。宛先ごとの検討は、勤務先への連絡、家族への連絡を扱った各記事で整理しています。
まとめ
- ストーカー規制法の「つきまとい等」は、好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われることが前提となる(法2条1項)。
- 警察庁の通達は、この「怨恨」を、好意の感情が転化したものであることが必要だと説明している。
- そのため、不貞をされた側から不貞相手への連絡は、この法律の目的の要件には乗りにくい一方、関係を解消した当事者どうしの連絡は要件を満たしやすい。
- 慰謝料を請求する権利がある場合でも、権利の濫用に当たる要求は3号の「義務のないことを行うことを要求する」に該当し得る(民法1条3項)。
- 5号の「拒まれたにもかかわらず」には黙示の拒絶も含まれ、手段を変えて連絡を重ねた場合も通算して評価され得る(最高裁平成17年11月25日)。
- 警告(法4条)や禁止命令等(法5条)は反復の完成前でも行われ、令和7年12月30日からは職権による警告も可能となった。
- この法律に当たらない場合でも、迷惑防止条例、脅迫罪(刑法222条)、強要罪(同法223条)、威力業務妨害罪(同法234条)、住居侵入罪(同法130条)、不法行為(民法709条)による検討が残る。
不貞をめぐる連絡のことでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。連絡の取り方が争点になっている事案では、これまでのやり取りをどう整理し、どこから代理人を窓口にするかで、その後の進み方が変わります。
請求をお考えの方には、記録の残る手続に沿って進める方法を、連絡を受けてお困りの方には、請求への対応と連絡そのものへの対応を分けて考える方法を、それぞれご事情に沿ってご説明します。お一人で判断しかねる段階でも、経過を整理するところからご相談いただけます。


