【解決事例】不貞の示談成立後も続いた相手方夫からの追加請求・脅迫を弁護士介入で解決した事例
「払うつもりがないなら訴える」「このまま連絡をよこさないなら家族に言う」。慰謝料をめぐるやり取りの中で、こうした言葉が出てくることがあります。言われた側にとっては、どちらも同じ強さの圧力として届きます。
けれども、この二つは性質が違います。「訴える」は、争いを裁判所という手続の中に持ち込むという予告です。「家族に伝える」は、手続とは関係のない場所で実行される行為の予告です。同じように受け取ってしまいがちですが、実行されたときに起きることも、こちらが確かめておくべきことも、それぞれ別になります。
この記事では、不貞慰謝料をめぐって「訴えるぞ」「家族にバラす」と告げられた場面を取り上げ、二つの言葉をどう分けて受け止めればよいのかを整理します。相手の言動が犯罪にあたるかという問題も生じますが、その線引きは別の記事に譲り、ここでは言われた側が次に何を確かめ、どう返すかという点に絞ります。
この記事で扱うことと、扱わないこと
先に範囲を示しておきます。
- 扱うのは、「訴える」「家族に伝える」と告げられた段階での受け止め方と、次に確かめておきたいことです。
- 脅迫罪・恐喝罪・強要罪の成立範囲や、正当な権利行使との境界線は、別の記事で扱っています。
- 実際に第三者へ広められてしまった後に、広めた相手へどのような責任を問えるかも、別の記事で扱っています。
- 請求の書面が届いた場合の期限の見分け方や、訴状が届いた場合の答弁書・欠席の扱いも、別の記事で扱っています。
- 家族や勤務先に知られないための郵便・送達まわりの実務も、別の記事で扱っています。
二つの言葉は、予告されている場所が違う
最初に分けておきたいのは、告げられた行為がどこで実行されるものなのかという点です。
| 告げられている行為 | 実行されると、どこで進むか | 後から元に戻せるか |
|---|---|---|
| 訴える、調停を起こす | 裁判所の手続の中。期限と書面の形が決まっている | 手続の中で反論でき、結論は第三者が出す |
| 家族・勤務先・SNSに伝える | 手続の外。こちらが関与できない場所で進む | 伝わった事実そのものは取り消せない |
| 二つを同時に告げる | 方向の違う二つが混ざった状態 | 返事の仕方によって、どちらへも動きうる |
「手続に入る予告」と「手続の外に出る予告」
訴える、調停を起こすといった予告は、争いを決まった枠組みの中へ移すという意味を持ちます。枠組みの中では、いつまでに何を出すのかが決まっており、言い分は書面のかたちで提出され、判断するのは当事者ではない第三者です。こちらにとって不利な内容が含まれていても、その場で結論が確定するわけではありません。
これに対して、家族や勤務先に伝えるという予告は、枠組みの外へ出す動きです。誰にどう伝えるかは相手が決め、伝えられた側がどう受け取るかも相手には管理できません。手続のように段取りが決まっているわけではないため、いつ、どの範囲で起きるのかを事前に見通しにくいという性質があります。
どちらも「まだ何も起きていない」段階である
見落とされやすいのですが、いずれも予告の段階です。訴えが起こされたわけでも、事実が広められたわけでもありません。この段階でできることは、告げられた内容に反応することではなく、実行された場合に何が起きるのかを、言葉の勢いから切り離して確かめておくことです。
相手にとって、予告は言うだけで効果が出る手段です。実行すれば手間も時間もかかり、後述するように相手の側にも負担が生じます。予告が繰り返されている間は、相手が実行に踏み切っていない状態でもあります。
「訴える」と言われたとき、手続で決まることと決まらないこと
訴えられること自体を強く恐れる方は少なくありません。ただ、手続で扱われる範囲は決まっています。
| 手続で決まること | 手続では決まらないこと |
|---|---|
| 支払う義務があるかどうか | 相手が誰に何を話すか |
| 義務があるとして、いくらか | 勤務先での立場や評価 |
| 支払いが遅れた分をどう扱うか | 家庭の中の関係がどうなるか |
| 同じ内容の請求を後から蒸し返せなくなる | 周囲からどう見られるか |
恐れの中身は「決まらない側」にあることが多い
この二列を並べてみると、多くの方が「訴えられたくない」と感じている中身は、実は右の列に集まっていることが分かります。お金の負担そのものよりも、その過程で誰かに知られること、生活の場が変わってしまうことのほうが重い、という感覚です。
右の列は、訴えられても訴えられなくても存在し続ける問題です。裁判にならなければ知られない、という関係にもなっていません。そのため、「訴えられないようにする」ことと「知られないようにする」ことは、同じ対策では扱えません。前者は支払義務の有無と金額の問題、後者は連絡経路や書面の届き方の問題であり、道筋が別になります。
手続に入ると、期限と形が決まる
手続に移ると、やり取りは書面と期日に置き換わります。相手が電話をかけてくる回数や、深夜にメッセージが届くかどうかといった要素は、そこでは意味を持ちません。相手にとって使いにくくなる面がある、ということです。
もっとも、手続には手続の負担があります。主張を裏づける資料をそろえる必要があり、期日には期限があり、事案によっては当事者本人が尋問を受けることもあります。「訴えられたほうが楽」という話ではなく、負担の種類が入れ替わると考えるのが実際に近いと思われます。
「訴える」と言って訴えないことも珍しくない
予告されたまま何も起きない、ということはあります。費用や時間の負担、資料の不足、家庭の事情など、理由はさまざまです。
ただし、そこを前提に組み立てるのは避けたほうがよいでしょう。相手が動かないという見込みは確かめようがなく、外れたときの巻き戻しがききません。あくまで「起きた場合にどうなるか」を基準に判断し、起きなかったのは結果にすぎない、という順序で考えておくほうが安全です。
「家族に伝える」と言われたとき、実行されたら何が残るのか
こちらは、実行されたときの性質が大きく異なります。
伝わった事実そのものは取り消せない
金銭の支払いであれば、多く払いすぎた分を後から争う余地があります。書面に署名してしまった場合も、内容を争う手段が残されていることがあります。これに対し、誰かに伝わってしまった情報は、後から取り消すことができません。削除や訂正を求められる場合であっても、知った人の記憶まで戻すことはできないためです。
ですから、この予告に対しては「実行されたら何が元に戻らないのか」を先に見ておくことになります。逆に言えば、元に戻らない部分がどこまでなのかを具体的に書き出すと、見積もりが過大になっているかどうかを確かめられます。相手はその見積もりを訂正しませんし、実際より大きく見せることもあります。
伝えた側にも別の責任が生じうる
実際に広められた場合、公表した側が名誉毀損やプライバシー侵害の責任を問われることがあります。内容が事実であっても、それだけで免れるとは限りません。この点の要件や期限は別の記事で扱っていますが、ここで押さえておきたいのは、相手にとっても実行は負担のない選択肢ではないということです。
同時に、逆の思い込みにも注意が必要です。相手が責任を問われうるとしても、それによってこちらの支払義務が消えるわけではありません。二つは別々に残ります。「払わなくてよくなる話」ではなく、「二つを分けて、それぞれ処理する話」として受け止めておくと、判断を誤りにくくなります。
伝える先によって、その後の進み方が変わる
同じ「伝える」でも、宛先によって起きることは同じではありません。家族に伝えられた場合は、家庭内の話し合いという形で進みます。勤務先に伝えられた場合は、会社が事実関係を確認できる手段を持っているとは限らず、そのまま処分に直結するとも限りません。不特定多数が見る場に書き込まれた場合は、伝わる範囲を相手自身も制御できなくなります。
「全部にバラす」と告げられていても、実際にはどこか一つに向けられることが多く、その一つがどこなのかで、備え方が変わります。漠然とした恐れのままにせず、誰に、どういう形で伝わりうるのかを分けて考えることが出発点になります。
二つが同時に告げられている場合の読み方
実際の場面では、「払わなければ訴えるし、家族にも言う」というように、二つがひとまとまりで告げられることが少なくありません。
方向の違う二つが混ざっている
前半は、争いを手続の中に入れるという予告です。後半は、手続の外へ出すという予告です。向きが逆であるにもかかわらず、一つの文の中に置かれているため、受け取る側には同じ圧力として届きます。
まず、この二つを口に出して分けてみることをお勧めします。「訴えると言われている」「家族に伝えると言われている」と別々に書き出すだけでも、確かめるべきことが違うことが見えてきます。
後半が、前半の条件を押し上げる働きをしている
二つが並べられているとき、多くの場合、後半は前半を通しやすくするために添えられています。金額や期限といった条件は前半に属していますが、それを受け入れるかどうかの判断は、後半の圧力を受けて行われることになります。
このとき、提示されている条件が妥当かどうかという検討が、後半に押されて省略されてしまうことが起こります。請求された金額がそのまま支払うべき金額とは限らない、という点は別の記事で扱っていますが、その検討の機会自体が失われやすい点が、同時に告げられる場面の難しさです。
混ざったまま一つの返事をしない
返事をする場合も、二つをまとめて答える必要はありません。金額や支払いについては検討に時間がかかること、伝えるかどうかは相手の判断であることを、分けて伝えることができます。即答しなければならない義務はなく、「確認してから返答します」で足りる場面がほとんどです。
言われた直後の反応が、次の条件を作る
告げられた直後の対応は、その場の負担を減らす方向に働く一方で、後の条件に影響することがあります。
| 言われた直後にとりやすい行動 | その場で起きること | 後になって効いてくること |
|---|---|---|
| 示された金額にその場で同意する | 相手の要求がいったん収まる | 根拠を確かめる機会が失われ、後から動かしにくくなる |
| 「誰にも言わないでほしい」と頼む | 相手が態度を和らげることがある | 何を最も避けたいのかが伝わり、以後の条件に反映されやすい |
| 何度も連絡して考えを変えさせようとする | やり取りが続く | 連絡の回数や内容が、そのまま相手方の資料になる |
| 一切の連絡を絶つ | 直接のやり取りが止まる | 話し合いの機会がなくなり、手続に移りやすくなる |
このうち二行目は、意識されにくい割に影響が大きい部分です。口止めを頼むことは、相手が握っているものに価値があると、こちらから伝える行為でもあります。伝えないという約束は、本来は解決の合意の中で双方が負う条項として置かれるもので、こちらから頼んで得るものではありません。頼む形で持ち出すと、そのこと自体が交換の材料になってしまう場面があります。
また、四行目のように連絡を絶つ対応も、それだけで安全になるわけではありません。話し合いの機会がなくなれば、相手には手続に移る以外の選択肢が残らなくなります。放置した場合に何が起きるかは別の記事で扱っていますので、そちらもあわせてご覧ください。
予告されたまま何も起きない状態が続く場合
告げられたきり相手が動かず、月日だけが過ぎることがあります。
宙づりの状態が続くこと自体の負担
いつ訴えられるのか、いつ伝えられるのかが分からないまま生活を続けるのは、それ自体が負担です。相手にとっては、実行しないまま予告を残しておくほうが有利な場面もあります。実行してしまえば材料を使い切ることになるためです。
こちらから手続に乗せるという選択肢
この状態を動かす方法として、支払う義務が存在しないことの確認を求める訴えを、請求されている側から起こすという選択肢があります。全部について義務がないと求めることも、一定額を超える部分について義務がないと求めることもできます。
もっとも、これは気軽に選べる手段ではありません。訴えを起こせば費用がかかり、争点は法廷で扱われ、記録も残ります。争いを終わらせるためにこちらから始める、という判断になりますので、他の選択肢と比べたうえで検討する性質のものです。
相手が支払いを求める訴えを起こしてきた場合
こちらが確認を求める訴えを起こすと、相手方が同じ手続の中で、支払いを求める訴えを起こしてくることがあります。これを反訴といい、本来の請求や防御の方法と関連する請求について、口頭弁論が終わるまでの間に提起できるとされています(民事訴訟法146条1項)。
支払いを求める訴えが出されると、確認を求める訴えのほうは、判断する必要がなくなったものとして扱われることがあります。支払いを命じる判決のほうが、紛争を解決する力が強いためです。実務では、こちらの訴えを取り下げるよう促されることもあります。
つまり、先にこちらから動いたとしても、最終的には支払義務の有無と金額を争う場に落ち着くことが多い、ということです。この見通しを持っておくと、「先に動けば有利になる」という期待と、実際に得られるものとの差を測りやすくなります。
言い方が度を越えていると感じる場合
告げ方によっては、相手の言動そのものが法的な責任の対象となることがあります。金銭の要求と結びついている場合、義務のない行為を求めている場合など、状況によって検討される内容は変わります。この線引きは別の記事で詳しく扱っていますので、ここでは要点だけ挙げます。
- 相手に何らかの請求権があるとしても、その実現のために許される手段には限度があります。
- 一方で、相手の言動に問題があったとしても、それによってこちらの支払義務が自動的になくなるわけではありません。
- 畏怖した状態で署名した書面や支払いについては、後から争う余地が残されている場合があります。ただし、その主張には裏づけが必要になります。
- やり取りは、日時と相手が分かる形で残しておきます。不利に見える内容ほど消したくなりますが、消すと相手の言動を裏づける手段も同時に失われます。
- 待ち伏せや押しかけ、身体に危害を加える言動がある場合は、緊急性があれば110番、そうでなければ警察相談専用電話(#9110)という使い分けができます。
請求する側から見ると
同じ場面を、請求する立場から見ておきます。
「伝える」と告げることが、請求の側にも及ぶ
伝えるという予告は、支払いを促す手段として持ち出されることがあります。ただ、この一言が入ることで、相手の対応は「金額が妥当かどうか」から「知られないためにどうするか」へ移り、交渉の中身が変わってしまいます。合意ができたとしても、後からその成立過程が争われる余地を残すことにもなります。
「訴える」は予告としては筋が通っている
これに対し、訴えるという予告は、法律が用意した手続を告げているにすぎません。伝えることと同じ扱いにはなりません。ただし、告げた以上は実際に手続へ進む前提で組み立てておくほうが、その後のやり取りが安定します。予告だけが繰り返されると、相手は動かないという見立てが生まれ、話が止まりやすくなります。
相手が黙り込むと、交渉そのものが止まる
強い言い方が続くと、相手は連絡を絶つか、代理人を立てて直接のやり取りを終わらせる方向に動きます。どちらの場合も、こちらが望んでいた早期の解決からは遠ざかります。金額の根拠と期限を書面で示し、検討する時間を残すという進め方のほうが、結果として早く着地することが少なくありません。
よくあるご質問
Q.「訴える」と言われましたが、まだ何も届きません。放っておいてよいでしょうか
届いていない段階で、こちらから手続上の対応をする必要はありません。ただし、届いたときに何が始まるのかは確かめておくことをお勧めします。書面の種類によっては、こちらの応答に期限が定められているものがあり、その見分け方は別の記事で扱っています。
Q.先に自分から家族に話してしまえば、言われる材料はなくなりますか
そうなる場合もありますが、話した後の家庭の状況は元に戻せません。相手の材料を減らすという目的だけで判断すると、避けたかったはずの結果を自分で起こしてしまうことがあります。何を最優先に守りたいのかを先に決めたうえで、順序を考える場面です。
Q.「言わないでほしい」と頼んだうえで、支払いに応じました。やり直せますか
支払った金銭を後から取り戻すには、別の主張と裏づけが必要になり、負担は小さくありません。ただ、争う余地がまったくないわけではありませんので、支払いの経緯とやり取りの記録を残したうえで、早めにご相談ください。
まとめ
- 「訴える」は争いを手続の中に入れる予告、「家族に伝える」は手続の外で実行される予告です。同じ強さで届いても、性質は違います。
- 訴えられた場合に手続で決まるのは、支払義務の有無と金額です。誰に知られるかは手続では決まりません。
- 「訴えられないようにする」ことと「知られないようにする」ことは、別々の道筋で考える必要があります。
- 伝えられてしまった事実は取り消せません。一方で、伝えた側にも別の責任が生じうるため、相手にとっても負担のない選択肢ではありません。
- 二つが同時に告げられているときは、後半が前半の条件を押し上げていることがあります。分けて受け止め、まとめて返事をしないことです。
- 口止めを頼むことは、握られているものに価値があるとこちらから伝える行為にもなります。
- 予告されたまま動かない状態は、こちらから手続に乗せて動かすこともできますが、結局は支払義務の有無と金額を争う場に落ち着くことが多い点も見ておく必要があります。
ご相談について
この種の場面でつらいのは、求められている内容そのものよりも、断った瞬間に生活が変わってしまうように感じられるところにあります。しかも、握られているのが「言われても仕方のないこと」であるために、相談してよい立場ではないと思い込み、一人で抱えてしまう方が少なくありません。
弁護士は、依頼に至らない相談の段階から守秘義務を負います。ご自身の側に責任のある事情が含まれていても、相談することはできます。連絡方法についても、ご希望をお伝えいただけます。やり取りが当事者だけで続くほど、記録は積み上がらないまま要求だけが具体化していく傾向があります。判断に迷う段階で、一度ご相談ください。


