【不貞慰謝料・請求する側】時効が迫っているときにできる手当

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞について慰謝料を請求しようと考えたとき、最後に気になるのが「まだ間に合うのか」という点です。不貞慰謝料の請求権には期限があり、期限が過ぎた後に相手からその点を主張されると、中身を争う前に請求が通らなくなることがあります。

 もっとも、期限が近いというだけで打つ手がなくなるわけではありません。民法には、時効の完成を先に延ばしたり、進んだ時間を振り出しに戻したりする仕組みが用意されています。ただし、それぞれ効き方も、必要な準備も、効力が生じる時点も違います。残り時間が短いほど、この違いが結果を分けます。

 この記事では、期限が迫っている場面に絞って、実際に何ができるのか、どの手当てがどれだけの時間を確保するものなのかを整理します。3年・20年という期間そのものの数え方や起算点は別の記事で扱っていますので、ここでは「残った時間をどう使うか」に絞って説明します。

「時効を止める」という言葉に混ざっている三つのもの

 インターネット上では「時効を止める」という言い方がよく使われますが、法律上、これに当たる一つの制度があるわけではありません。少なくとも、次の三つが混ざっています。

呼び方何が起きるのか残り時間にとっての意味
完成猶予一定の期間、時効が完成しない状態になる時間を先に延ばすだけで、それまでに進んだ期間は消えない
更新それまで進んだ期間が意味を失い、新たに数え直しになる残り時間が最初の長さに戻る
そもそも進行していない起算点がまだ来ていない、または完成しない事情がある止める必要自体がない場合がある


 2020年4月1日に施行された改正民法により、それまで「中断」「停止」と呼ばれていたものが「更新」「完成猶予」という言葉に整理されました。今でも「中断」という表記を見かけることがありますが、指している内容は改正後の用語に置き換えて読む必要があります。

 実務上、期限が迫った場面でまず考えることになるのは完成猶予です。更新にあたるものは、確定判決や相手方による承認など、請求する側の意思だけでは作り出せないものが多いためです。

残り時間の長さで、現実に選べる手当ては変わる

 「時効を止める方法は5つあります」と並べている解説は多くありますが、実際には、残された時間によって選べるものは絞り込まれていきます。

残り時間の目安現実に選びやすいものあわせて考えること
数か月以上訴えの提起、調停の申立て、協議を行う旨の合意相手の確認や資料の整理に充てられる時間がある
数週間催告(内容証明郵便)、訴えの提起催告は6か月しか確保できないため、その6か月で何をするかを先に決めておく
数日訴えの提起、催告催告は相手に届かなければ効力が生じない点に注意が必要


 特に注意したいのは、相手の氏名や住所が分からないまま期限が近づいている場合です。訴えを起こすにも、催告を送るにも、相手を特定できていることが前提になります。特定に時間がかかるほど、選べる手当ては減っていきます。

効力が生じるのは「出した日」か「届いた日」か

 残り日数が少ない場面でもっとも見落とされやすいのが、手当てごとに効力の生じる時点が違うという点です。

手当て効力が生じる時点相手が受け取る必要
催告(内容証明郵便など)相手方に到達した時(民法97条1項)必要
訴えの提起訴状が裁判所に提出された時(民事訴訟法147条)不要(送達は後日で足りる)
支払督促の申立て申立ての時(民法147条1項2号)不要
協議を行う旨の合意書面または電磁的記録で合意が成立した時必要(相手の同意が前提)


 催告は、相手方に到達してはじめて効力が生じます。郵便物が不在で持ち戻された場合や、相手が受け取りを拒んだ場合には、到達の有無をめぐって争いになることがあります。期限の数日前に投函しても、確実に間に合うとは限りません。

 これに対して訴えの提起は、訴状が裁判所に提出された時点で、時効の完成猶予に必要な裁判上の請求があったものとして扱われます(民事訴訟法147条)。相手方への送達は後日で足ります。残り日数がごく短い場面で訴えの提起が選ばれることがあるのは、この違いによります。

 同じ日に動いたとしても、どの手当てを選ぶかで間に合うかどうかが変わりうるという点は、押さえておく意味があります。

催告は「6か月の時間を買う」手当てにすぎない

 催告とは、裁判所を通さずに支払いを求めることをいいます。内容証明郵便で慰謝料を請求する行為が、これにあたります。催告があると、その時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しません(民法150条1項)。

 ここで重要なのは、同じ催告を繰り返しても、さらに6か月が積み上がるわけではないという点です。催告によって完成が猶予されている間に再び催告をしても、その効力は認められません(民法150条2項)。「定期的に内容証明を送っていれば時効は完成しない」という趣旨の説明を目にすることがありますが、条文上そのような扱いにはなっていません。

 したがって催告を選ぶ場合には、6か月という猶予をどう使うのかを、送る前に決めておく必要があります。

  • この6か月の間に、訴えの提起などの手続に進む見通しがあるか。
  • 交渉によって合意にたどり着ける見込みがあるか。
  • 資料を集めるために使うのだとして、6か月で足りるのか。


 何も決まらないまま6か月が過ぎれば猶予は終わり、そのまま時効が完成することになります。

協議を行う旨の合意は、相手の協力が前提になる

 当事者間で、その権利について協議を行う旨を書面で合意すると、一定の期間は時効が完成しません(民法151条1項)。猶予される期間は、合意の時から1年、当事者が1年に満たない協議期間を定めたときはその期間、一方から協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときはその通知から6か月のうち、もっとも早く到来する時までです。再度の合意によって延長することもできますが、通算で5年を超えることはできません(同条2項)。合意が電磁的記録によってされた場合も、書面によるものとみなされます(同条4項)。

 制度としては使い勝手のよい仕組みですが、相手が合意に応じることが前提です。責任そのものを争っている相手や、連絡が取れない相手との間で、期限の直前に合意を成立させることは、現実には期待しにくい場面が多くなります。

 あわせて、催告によって完成が猶予されている間にこの合意をしても、合意による猶予の効力は生じないとされています(同条3項)。先に催告を出しておき、その6か月の間に協議の合意でさらに引き延ばす、という重ね方はできない仕組みになっています。

訴えを起こす場合に確認しておきたいこと

 訴えを提起すると、その手続が終わるまでの間は時効が完成しません(民法147条1項1号)。そして、確定判決などによって権利が確定したときは、その時から新たに時効期間が進行します(同条2項)。確定判決で確定した権利については、時効期間は10年になります(民法169条1項)。

 注意が必要なのは、権利が確定しないまま手続が終わった場合です。訴えを取り下げたり却下されたりしたときは更新の効果は生じず、終了の時から6か月を経過するまでの完成猶予が残るにとどまります(民法147条1項かっこ書き)。期限に間に合わせるために形だけ訴えを起こし、後から取り下げるという進め方をしても、確保できるのは6か月です。

 訴え以外の手続にも、それぞれの性質があります。

手続完成猶予の生じ方留意点
支払督促申立ての時から(民法147条1項2号)相手が督促異議を申し立てると通常の訴訟に移行する
民事調停の申立て申立ての時から(同項3号)不成立で終わった場合、終了から6か月の猶予にとどまる
仮差押え・仮処分手続の終了から6か月(民法149条)担保を立てる必要があり、対象となる財産を把握できていることが前提となる


 なお調停が不成立となった場合、その通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起すれば、調停の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされます(民事調停法19条)。手続を切り替える場面では、この2週間という区切りも意識しておくとよいでしょう。

一方に対する手当ては、もう一方には及ばない

 不貞慰謝料では、請求先が不貞をした配偶者と不貞相手の二人になることがあります。ここで見落とされやすいのが、片方に対して手当てをしても、もう片方に対する時効はそのまま進み続けるという点です。

 配偶者と不貞相手が負う責任は、共同不法行為に基づくものと整理されます(民法719条1項)。もっとも、連帯して債務を負う者の一人について生じた事由は、更改・相殺・混同という限られた場合を除き、他方に対して効力を生じないとされています(民法441条本文)。裁判上の請求による完成猶予も、この例外には含まれていません。

 したがって、不貞相手だけを訴えても、配偶者に対する慰謝料請求権の時効はそのまま進みます。逆の場合も同じです。両方に請求する見込みがあるのであれば、それぞれについて手当てを考える必要があります。

 もっとも、配偶者に対する請求には別の規定が働きます。夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法159条)。婚姻が続いている間に配偶者に対する請求権の時効が完成することはないと考えられており、この点で不貞相手に対する請求とは事情が異なります。

請求先期限の考え方迫っているときに必要なこと
不貞相手不貞の事実と相手が誰かを知った時から進行する不貞相手に対して個別に手当てをする必要がある
配偶者婚姻が続いている間は完成しない(民法159条)婚姻を解消した場合は6か月という短い区切りに注意する


 起算点そのものの考え方については、別の記事で詳しく扱っています。

請求を受けている側から見た「期限が近い時期」

 請求を受けている立場からも、この時期には注意すべき点があります。

 まず、期間が過ぎただけでは、請求権が自動的に消えるわけではありません。時効の効果を主張するには、当事者がこれを援用する必要があります(民法145条)。何も述べないまま裁判を欠席すれば、時効に触れられないまま支払いを命じる判決が出ることもあります。

 次に、期限が近い時期の受け答えが、結果を大きく変えることがあります。権利の承認があると、その時から時効は新たに進行を始めます(民法152条1項)。承認は「支払います」と明言する場合に限られず、一部を支払った場合や、支払いを待ってほしいと申し入れた場合にも、承認にあたると評価されることがあります。あと数週間で完成するはずだった時効が、そのやり取りによって振り出しに戻ることになります。

 さらに、時効が完成した後に債務を承認した場合には、その後に時効を援用することは信義則上許されないと考えられています。完成しているかどうかがはっきりしない段階では、その場で回答せず、まず期間の起算点を確認することが実際的です。

 一方で、連絡を絶ってやり過ごせばよいというものでもありません。上に述べたとおり、訴えの提起は相手が受け取らなくても効力が生じますし、欠席のまま判決が出れば、援用の機会そのものを失います。届いた書面については、内容を確認したうえで対応を決める必要があります。

迫っている段階で、まず手元で確かめておきたいこと

 残り時間が短い場面では、次の点を先に整理しておくと、選べる手当てを判断しやすくなります。

  1. 不貞の事実と相手が誰かを知った時期を、裏づけとなる記録とあわせて確認する。
  2. 請求先ごとに、期限が別々に進むものとして分けて考える。
  3. 相手の氏名・住所を特定できているかどうかを確認する。
  4. これまでに送った書面や、相手からの返答が手元に残っているかを確認する。
  5. 選ぼうとしている手当てが、何か月分の時間を確保するものなのかを確認する。


 特に、これまでのやり取りの中に催告にあたるものや承認にあたるものが含まれていないかは、請求する側にとっても、請求を受けている側にとっても、結論を左右することがあります。

期限が近いと感じたら、早い段階でご相談ください

 時効が迫っている場面では、選べる手当てが日ごとに減っていきます。どの手当てを選べるのかは、起算点をどう見るか、相手を特定できているか、これまでのやり取りに何が残っているかによって変わります。判断がつかないまま日数だけが過ぎてしまうことが、もっとも避けたい進み方です。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を、請求される方・請求を受けた方の双方からお受けしています。期限が近いと感じられている場合は、結論が出ていない段階でも、できるだけ早い時期にご相談ください。事実関係と手元の資料を確認したうえで、残された時間で何ができるのかを一緒に整理いたします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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