パパ活の「約束したお手当」トラブル|口約束・条件変更でもめたら
「配偶者の車にGPS機器を取り付けた」「以前から共有していた位置情報アプリで相手の行き先を確認している」。不貞を疑ったときに、相手がどこにいるのかを把握しようと考える方は少なくありません。インターネット上には「夫婦の共有財産である車なら問題ない」という説明と「夫婦の間でも違法になる」という説明の両方があり、どちらを信じてよいか迷われるのではないでしょうか。
この問題は、一つの答えでは決まりません。位置情報の記録が「使えるのか」という問いは、その記録が何を示せるのか、どうやって手に入れた記録なのか、実際に出したときに何が起きるのか、という三つの別々の問いに分かれているからです。この記事では、慰謝料を請求する側と、記録を示されて請求を受けた側の双方に向けて、この三つを分けて整理します。
「使えるのか」は三つの問いに分かれる
位置情報について調べていると、「証拠になるか」という話と「違法か」という話が入り混じった説明に出会います。この二つは重なる部分もありますが、判断の物差しは別のものです。さらに、実際に交渉や裁判の場に出したときに何が起きるか、という三つ目の問題もあります。
| 問い | 判断する内容 | 主に問題になる場面 |
|---|---|---|
| 何を示せる記録か | 記録から読み取れる事実の範囲 | 交渉や裁判での説得力 |
| どう手に入れた記録か | 取得した行為そのものの評価 | 刑事上の責任と、相手からの損害賠償請求 |
| 出すと何が起きるか | 証拠としての扱われ方と、こちらが負う不利益 | 証拠調べや話し合いの進み方 |
位置情報の記録が示せること、示せないこと
最初に、記録そのものの中身を確認します。ここを飛ばして適法か違法かだけを気にすると、負担を負って手に入れた記録が期待したほどの意味を持たなかった、ということが起こります。
記録に残るのは「端末の位置」
GPS機器にせよ位置情報アプリにせよ、記録されるのは機器や端末そのものの位置です。車に取り付けた機器であれば、記録は車の位置を示します。その車を誰が運転していたのか、そもそも誰かが乗っていたのかまでは、記録の中に残りません。車を貸していた、家族が使っていた、という説明が出てきたときに、記録だけでそれを否定することは難しくなります。
誰と一緒にいたかは残らない
不貞慰謝料の請求で示す必要があるのは、配偶者と相手方との間に性的な関係があったこと、または、そう考えるのが自然だといえるだけの事情です。位置情報は、ある時刻にある場所にいたことを示すにとどまり、そこに誰がいたのか、何をしていたのかまでは示しません。宿泊施設の敷地を示す記録があっても、それだけで不貞行為が認められるとは限らない、というのが出発点になります。
点ではなく線で残るという特徴
一方で、位置情報の記録にはほかの資料にない特徴があります。連続した移動の履歴として残るという点です。ある日の行動が一つの点として残るのではなく、どこを通り、どこに立ち寄り、どれくらい滞在したかが線としてつながります。この連続性が、説明との食い違いを浮かび上がらせたり、次にどこを確認すればよいかの手がかりになったりします。
ただし、この「線として残る」性質は、そのまま取得する側のリスクにもなります。行動の全体が把握できてしまうからこそ、取得した行為も重く評価されやすくなるからです。
どのように手に入れた記録なのか
同じ「GPSの記録」でも、入手の経路によって法的な評価は大きく変わります。ご自身の状況がどこに当てはまるかを確認してみてください。
| 入手のしかた | 問題になりやすい点 | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 自分名義で自分も使っている車に取り付けた | 自分の所有物の管理という説明が成り立ちやすい | 相手が専ら使用している実態がないか |
| 夫婦で共有して使っている車に取り付けた | 所有関係だけで結論が決まるわけではない | 把握した期間、頻度、範囲 |
| 相手だけが使っている車や相手名義の車に取り付けた | 相手の私的な領域に踏み込む度合いが高い | 取り付けのために敷地へ立ち入っていないか |
| 相手のかばんや持ち物に入れた | 所持品に直接付ける方法は評価が厳しくなりやすい | 外出先での所在が直接分かる状態だったか |
| 相手のスマートフォンにアプリを入れた | 端末の操作やログインを伴うことが多い | 相手のアカウント情報を使っていないか |
| 双方の同意で共有を始めたアプリを使い続けている | 同意がいつまで及ぶかが問題になる | 相手が共有をやめたいと述べていないか |
| 探偵に依頼して得た | 依頼した側と業者側の双方に問題が及び得る | 取得の方法について説明を受けたか |
表のとおり、判断を左右するのは名義だけではありません。取り付けた場所、把握できた情報の細かさ、続けた期間、そのために行った行為が、あわせて見られます。
無断で位置情報を取得する行為を規制するルール
位置情報の無断取得については、法律と条例の両方に規定があります。ただし、いずれも要件が細かく定められており、「無断で取得したから違法」と単純に決まるわけではありません。
ストーカー規制法
ストーカー行為等の規制等に関する法律は、2条3項で「位置情報無承諾取得等」を規制しています。内容は、承諾を得ないで相手が所持する装置の位置情報を取得すること、承諾を得ないで相手が所持する物に装置を取り付けることの二つです。
ここで注意したいのは、この規定には目的の要件が置かれている点です。対象となるのは、恋愛感情その他の好意の感情、または、それが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われた場合とされています。不貞の証拠を集めるという目的がこれに当たるかどうかは、当事者の関係や経緯によって評価が分かれ得るところで、当たらないと整理する見解もあります。
また、これらの行為を1回行ったことに直ちに刑罰が科されるわけではありません。罰則が用意されているのは、同じ相手に繰り返して行う「ストーカー行為」に当たる場合や、警察から出された禁止命令に違反した場合です。
東京都の迷惑防止条例
東京都では、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条の2第1項が、つきまとい行為等を禁止しています。令和4年10月1日施行の改正で、承諾を得ずに位置情報を取得する行為(8号)と、承諾を得ずに所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付ける行為(9号)が加えられました。違反した場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められています。
この条例にも要件があります。正当な理由なく、専ら、ねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で行われ、かつ、反復して行われることが必要です。さらに、ストーカー規制法の位置情報無承諾取得等に当たる行為は、この条例の適用対象から除かれています。法律と条例が二重に適用されるのではなく、住み分けがされているという構造です。
取り付けの過程で問題になることがある行為
位置情報の取得そのものより、そこに至る行為のほうが問題になる場合もあります。次のようなものです。
- 相手方や第三者が管理する敷地、駐車場、建物に立ち入って取り付けること(住居侵入罪などにあたり得ます)。
- 取り付けや取り外しの際に車両を傷つけること(器物損壊罪にあたり得ます)。
- 相手のIDやパスワードを使ってアカウントにログインし、位置情報を見ること(不正アクセス禁止法の問題になり得ます)。
- 相手の端末に無断で監視用のアプリを導入すること(不正指令電磁的記録供用罪の問題になり得ます)。
刑事の責任が生じないことは「問題がない」という意味ではない
以上のとおり、不貞の証拠収集という目的の場合、刑事上の責任が問われる場面は限られています。ただ、そこから「だから自由にしてよい」と結論づけるのは早すぎます。刑事上の責任と、民事上の責任は別々に判断されるからです。
民事上は、目的が正当でも手段が問われる
この点を正面から扱った裁判例があります。探偵業者が依頼を受けて調査対象者の車にGPS機器を無断で取り付け、位置情報と移動履歴を取得したという事案です。
旭川地方裁判所は令和6年3月22日、自己の位置情報や移動履歴は他者にみだりに開示されたくない情報にあたるとしたうえで、調査の目的は正当なものと評価できるものの、調査の方法としては相当性を欠くとして、プライバシーの侵害にあたると判断しました。慰謝料と弁護士費用相当額を合わせて計44万円の支払いが命じられ、令和7年1月31日の札幌高等裁判所の判決で双方の控訴が棄却され、この判断は確定しています。
依頼者が配偶者であった点についても、本人が位置情報を把握されることを了承していたとは認められないと述べられています。配偶者の依頼だから許される、という説明は採られませんでした。
この事案で、金額を決めるにあたって挙げられたのは次のような事情です。
- 取り付けたのは車両であり、直接得られるのは車両の位置情報と移動履歴で、その大部分は公道上などからも確認し得るものであったこと。
- 所持品などに取り付けて所在を直接把握する方法と比べれば、踏み込みの度合いが高いとまではいえないこと。
- 取り付けていた期間が23日間で、長期にわたるとまではいえないこと。
- 正当な目的のもとに行われたものと評価できること。
- 取得した情報が、依頼者と業者という特定少数の範囲にとどめられていたこと。
裏を返せば、これらは違法性の程度を考えるうえでの目安にもなります。車両に付けたのか持ち物に付けたのか、どのくらいの間隔で位置を把握したのか、どのくらいの期間続けたのか、何のために行ったのか、得た情報を誰に見せたのか。同じ「GPSを付けた」であっても、これらの違いによって評価は変わってきます。
違法に集めた記録は証拠として扱われないのか
民事訴訟には、刑事裁判のような証拠能力を一般的に制限する規定が置かれていません。そのため、収集の過程に問題があったというだけで、直ちに証拠として扱われなくなるわけではありません。
もっとも、限界もあります。裁判例では、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的・肉体的な自由を拘束するなど、人格権の侵害を伴う方法で集められた証拠については、証拠能力が否定されるという考え方が示されています。東京高等裁判所昭和52年7月15日の判決が、この枠組みを述べたものとしてよく引用されます。
実務上、より現実的な問題は別のところにあります。記録を提出すれば、どうやって手に入れたのかが相手に明らかになります。そこから、相手方がプライバシーの侵害を理由に損害賠償を求めてくることがあります。慰謝料を請求する立場でありながら、同時に請求を受ける立場にもなるということです。
位置情報の記録が実際に役立つ場面
ここまでの内容から、位置情報にはあまり意味がないように見えるかもしれません。実際には、次のような働きをします。
- 相手の説明と実際の行動が食い違っていることを示す材料になる。
- どの時間帯にどこへ向かうかという傾向をつかみ、写真など別の資料を得るための手がかりになる。
- 関係が一定期間続いていたことを裏づける事情の一つとして扱われる。
いずれも、位置情報だけで結論を導くものではなく、ほかの資料と組み合わせて意味を持ちます。「決め手」として集めるのではなく「手がかり」として位置づけるほうが、実態に合っています。
探偵に依頼した場合はどうなるのか
探偵業の業務の適正化に関する法律6条は、探偵業務を行うにあたって、この法律によってほかの法令で禁止・制限されている行為ができることになるものではないことに留意するとともに、人の生活の平穏を害するなど個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない、と定めています。
警視庁が公表している探偵業の案内でも、探偵業務であることを理由に正当な業務行為として違法性が阻却されるものではないこと、「個人の権利利益を侵害する行為」には刑事上の違法な行為のほか民法上の不法行為に該当する行為が含まれることが明記されています。先ほどの裁判例も、業者の調査方法が問われたものでした。
また、「取り付けはご依頼者ご自身で行ってください」という案内を受けることがあります。この場合、業者の関与の度合いは下がりますが、取り付けた行為の責任はご自身に向かいます。責任の所在が移るだけで、行為そのものの評価が変わるわけではありません。
同意して共有を始めたアプリの場合
無断で取り付けた場合とは別に、もともとお互いの同意で位置情報の共有を始めていた、という場合があります。共有を始めた時点では承諾があったことになりますが、問題は、その承諾がいつまで及ぶのかです。
承諾は後から撤回できると考えられており、相手が共有をやめたいと述べた後や、別居して生活の実態が分かれた後も見続けている場合には、承諾がない状態での取得と評価される余地が出てきます。同意があったことは出発点にすぎず、その後の経過によって評価が変わり得ます。
位置情報の記録を示された側の受け止め方
ここからは、位置情報の記録を突きつけられて慰謝料を請求された方の視点で整理します。
記録が示している範囲を確かめる
まず確認したいのは、その記録が何を示しているのかという点です。示されているのが端末や車両の位置にとどまるのであれば、そこから性的な関係があったという結論までには距離があります。滞在した時間、そこが不特定の人が出入りする場所かどうか、ほかの資料と結びついているかどうかで、意味の重さは変わります。
一方で、反論の仕方には注意が必要です。「その日は別の人と会っていた」といった説明は、位置情報そのものは認めたうえで別の事実を持ち出すものなので、後から説明を変えることが難しくなります。答え方は、相手が持っている資料の全体像を把握したうえで決めるのが望ましいところです。
取得の経緯は別の問題として残る
取得の方法に問題があった場合でも、「違法に集められた証拠だからこの記録は意味を失う」という主張がそのまま通ることは多くありません。民事訴訟では、収集の過程に問題があっても証拠として扱われることがあるためです。
ただし、その行為が不法行為にあたるのであれば、それはそれとして損害賠償を求める余地があります。慰謝料請求への反論とは別の事柄として、独立して検討することになります。話し合いで全体の解決金を決める場合には、この点が調整の材料になることもあります。
よくあるご質問
夫婦の共有財産である車なら問題ないのでしょうか
名義や所有関係は考慮される事情の一つですが、それだけで結論が決まるわけではありません。前述の裁判例でも、配偶者からの依頼であったことは違法性を否定する理由とはされませんでした。実際に誰が使っている車か、どのくらいの期間と頻度で位置を把握したかも、あわせて見られます。
一度だけ位置情報を見た場合も違法になりますか
刑事の面では、1回の行為に直ちに罰則が及ぶ仕組みにはなっていません。ただし、民事上のプライバシー侵害は回数だけで決まるものではなく、どのような方法で、どこまでの情報を得たのかによって判断されます。回数が少なければ問題がないと言い切れるものではありません。
位置情報の記録だけで慰謝料を請求できますか
請求すること自体はできますが、相手が争った場合、位置情報だけで不貞行為が認められる場面は限られます。写真ややり取りの記録など、性的な関係をうかがわせるほかの資料と組み合わせて主張することが一般的です。
すでに取り付けてしまいました。どうすればよいですか
まず、取得した情報をさらに広げないことが大切です。第三者に見せる、SNSに書き込むといった行為は、別の責任を生じさせます。そのうえで、手元の資料が交渉でどう扱われそうか、相手方から何を言われる可能性があるかを含めて、早い段階でご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
- 位置情報が「使えるのか」は、何を示せる記録か、どう手に入れた記録か、出すと何が起きるかの三つに分けて考えます。
- 記録に残るのは端末や車両の位置であり、誰が一緒にいたかまでは残りません。
- 一方で連続した移動の履歴として残るため、説明との食い違いを示す手がかりになります。
- 無断取得を規制するストーカー規制法と東京都の迷惑防止条例には、いずれも目的などの要件があり、無断だから直ちに違法と決まるわけではありません。
- 刑事の責任が生じない場合でも、民事上のプライバシー侵害として損害賠償が命じられることがあります。
- 裁判例では、目的が正当と評価できても、方法が相当性を欠けば違法とされています。
- 取り付けた場所、把握の間隔、続けた期間、開示した範囲が、評価を分ける要素になります。
- 民事訴訟では違法に集めた資料も証拠として扱われることがありますが、提出によって取得の経緯が明らかになり、相手からの請求を招くことがあります。
不貞慰謝料の証拠についてお悩みの方へ
位置情報をめぐる問題は、「この記録は使えるか」という一点だけを切り出しても答えが出にくく、手元にあるほかの資料やこれまでの経緯とあわせて見ていく必要があります。すでに取得した記録がある場合も、これから集めようとしている場合も、方針を決める前に状況を整理しておくことで、後から負担を抱える事態を避けやすくなります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料を請求する方と請求を受けた方の双方からのご相談をお受けしています。手元の資料がどのように評価されそうか、これから何を準備すべきか、相手方からどのような反論が想定されるかを含めて、見通しをご説明いたします。お一人で判断される前に、お気軽にご相談ください。


