【不貞慰謝料】不貞相手と同棲していた場合

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者が不貞相手と一緒に暮らしている、あるいは以前暮らしていた——そうした状況では、通常の不貞のケースとは違う論点がいくつも現れます。同棲という一つの事実が、証拠の場面、金額の場面、そして慰謝料とは別の請求の場面という、性質の異なる場面に同時に関わってくるためです。この記事では、不貞相手との同棲がそれぞれの場面でどう扱われるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。

「同棲していた」と一口に言っても状態はさまざま

 同棲という言葉は日常的に使われますが、法律上の定義があるわけではありません。実際のご相談では、生活の形がかなり違うものが同じ「同棲」という言葉で語られています。まず、どの形なのかを分けて考えておくと、後の話が整理しやすくなります。

同棲の形外から確認しやすいこと論点になりやすいこと
不貞相手の住居に住んでいる自宅に帰っていない期間、荷物の移動いつから住んでいるのか、外泊の延長との線引き
自宅に不貞相手を住まわせている第三者の出入り、生活用品の変化夫婦の生活の場が直接使われている点
二人で新たに部屋を借りている賃貸借契約の名義と締結日、住民票の異動契約という動かしにくい日付が残る点
住民票は動かさず生活の大半を共にしている出入りの頻度、生活費の流れ同棲といえる状態にあたるかどうかの評価


 どの形であっても、問題になるのは書類上の届出ではなく、実際にどのような生活が営まれていたかです。同じ「同棲」でも、示せる材料と相手方から返ってきやすい言い分は、右の列のとおり形ごとに変わります。

住民票が動いていなければ同棲ではないのか

 住民票の記載は、生活の実態を判断するための資料の一つにすぎません。住民票を移さないまま長期間ほとんど帰宅していないという例は珍しくなく、その場合に同棲にあたらないと当然に扱われるわけではありません。

 逆に、住民票が同一の住所に移されている場合には、異動日という後から動かしにくい日付が公的な記録として残ります。この点は、後述する「いつから」の場面で意味を持ちます。

同棲という事実が持つ三つの顔

 同棲は、一つの事実でありながら、慰謝料の話の中では三つの異なる役割を果たします。この三つを混ぜて考えてしまうと、「同棲していたのだから当然に高額になる」といった単純な理解に流れやすくなります。

場面同棲が果たす役割主に関わってくる相手
証拠の場面肉体関係があったことを推認させる事情になる配偶者と不貞相手の双方
金額の場面不貞の態様や継続の程度を示す事情になる配偶者と不貞相手の双方
別の請求の場面夫婦の同居がなくなっている事実として働く主に配偶者


 以下では、この三つの場面を順に見ていきます。

証拠の場面|同棲は肉体関係そのものの記録ではない

 慰謝料の前提として問題になるのは、あくまで肉体関係を伴う関係があったかどうかです。同棲していたからといって、その一つひとつの場面を記録した資料が手元にあるわけではありません。

 もっとも、生活を共にしている状態が一定期間続いていたことを示せれば、その間に肉体関係がなかったと考えるほうが不自然だという形で推認が働きやすくなります。密室での行為そのものを直接示す資料がなくても、生活の共同という外形から評価が組み立てられる点が、同棲の場面の特徴です。

「一緒に住んでいただけ」という説明への備え

 実際の交渉や訴訟では、住まいを共にしていたこと自体は認めたうえで、男女の関係ではなかったと述べられることがあります。住居に困っていたので一時的に置いていた、体調が悪かったので世話をしていた、家賃を折半する目的だった、といった説明です。

 こうした説明に備えるには、同居の事実だけでなく、二人の関係性がうかがえる材料をあわせて整理しておくことが有効です。やり取りの内容、旅行や行事の写真、周囲への紹介のされ方などが、生活の共同と結びつけられる材料になります。

同棲は「いつから」が比較的はっきりしやすい

 交際のみのケースでは、関係がいつ始まったのかがあいまいになりがちです。これに対して同棲の場合は、賃貸借契約の締結日、住民票の異動日、公共料金や通信契約の名義変更日、郵便物の転送を開始した日など、後から作り替えにくい日付が残っていることがあります。

 これらは、不貞がいつから続いていたのかを説明する際の土台になります。期間の数え方そのものについては、別の記事で詳しく扱っています。

金額の場面|同棲から何が読み取られるのか

 同棲は、金額を考えるうえで軽い事情とはいえません。ただし、金額に直結する「同棲加算」のようなものがあるわけではなく、次のような中身が読み取られる材料として働きます。

  • 夫婦としての共同生活が、事実上ほかの相手との生活に置き換わっている点。
  • 関係が一時的なものにとどまらず、継続していた点。
  • 家庭に戻る余地が狭まり、夫婦関係の立て直しが難しくなりやすい点。
  • 子どもがいる場合、生活面の変化が家庭全体に及びやすい点。


 慰謝料の算定には決まった計算式がなく(民法709条・710条)、こうした事情は他の事情とあわせて総合的に評価されます。同棲という事実があれば一定の水準に達するという決まりはありませんので、同棲の有無だけを取り出して金額を見積もることはできません

自宅で同棲していた場合

 夫婦の住居に不貞相手を招き入れて生活していた場合には、生活の場そのものが使われていたという事情が加わります。他方で、これも単独で金額を決める要素ではなく、婚姻期間、子どもの有無、発覚後の対応といった事情と並べて評価されることになります。

事情が重いことと、金額が際限なく上がることは別

 重い事情が重なれば金額はその分だけ積み上がる、という関係にはありません。損害の埋め合わせという枠の中で判断されるため、上がり方には一定の幅があります。また、配偶者と不貞相手の双方に請求する場合でも、受け取れる総額は損害として認められた額が上限となり、二人分を重ねて受け取れるわけではありません。この点は、増額事情や相場の考え方を扱った記事で詳しく説明しています。

同棲が長く続いていることは、逆向きの主張の材料にもなる

 ここは見落とされやすい点です。請求する側から見れば、同棲が長く続いていたことは関係の深さを示す事情です。しかし請求を受けた側からは、同じ事実について「その状態が長く続いていたのは、すでに夫婦としての実体が失われていたからだ」という説明が出てくることがあります。

 つまり同棲の期間は、不貞の重さを示す方向にも、婚姻関係がすでに形を失っていたという方向にも使われうる事実です。どちらの読み方が通るかは、同棲が始まった時点で夫婦関係がどのような状態にあったかによって変わります。この点をめぐる主張の詳細は、破綻の抗弁を扱った記事に譲ります。

時間の経過は請求する側に有利には働きにくい

 同棲が続いている間は状況が動かないため、対応を先送りにしやすい面があります。しかし時間が経つほど、請求できる期間の制限が近づき、当時のやり取りが消え、記憶もあいまいになります。状況が変わらないことと、請求の条件が変わらないことは別だとお考えください。

知りながら何もしなかった期間の説明

 同棲を知りながら長く動かなかった場合、相手方から、実質的に容認していたのではないかと指摘されることがあります。実際には、子どもの生活を優先していた、話し合いを続けていた、生活の見通しが立たなかったなど、事情があることがほとんどです。

 この場合、動かなかった理由を後から説明できる材料——当時のやり取りや相談の記録など——が残っていると、指摘に対する応答がしやすくなります。

慰謝料とは別のところに効いてくる部分

 同棲は、不貞の問題であると同時に、夫婦が同居していないという事実でもあります。夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされており(民法752条)、この点は慰謝料とは別の場面で問題になります。

生活費の分担は同居していなくても続く

 夫婦は、その資産や収入などの事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担するとされています(民法760条)。別居していることや、一方が不貞相手と暮らしていることによって、この分担義務が当然になくなるわけではありません。

 なお、実務上は、同居しなくなったことについて主たる責任がある側からの請求は、そのまま認められにくい傾向があるとされています。個別の事情によりますので、具体的な見通しは弁護士にご確認ください。

離婚原因としての位置づけ

 配偶者から悪意で遺棄されたことは、裁判上の離婚原因の一つとされています(民法770条1項2号)。不貞相手のもとで生活し、家庭に戻らず、生活費も入れないという状態は、この点が問題になりうる場面です。

 ただしこれは離婚を求める場面の話であり、不貞相手に対する慰謝料の金額を直接決めるものではありません。離婚するかどうかによる違いは、別の記事で扱っています。

「同棲をやめてほしい」は請求できるのか

 損害の賠償は、原則として金銭によって行うものとされています(民法722条1項・417条)。そのため、裁判で二人の同居の解消そのものを命じてもらうことは、通常は想定されていません。

 一方で、話し合いで解決する場合には、今後接触しない旨の約束を書面に入れることが考えられます。合意でなければ置けない条件があるという点については、示談の条件設計を扱った記事をご覧ください。

請求する側が整理しておきたいこと

 同棲が絡むケースでは、確認しておきたい事項が通常のケースより多くなります。次の点を先に押さえておくと、その後の交渉の見通しが立てやすくなります。

  1. どの形の同棲なのか(相手方の住居か、自宅か、新たに借りた部屋か)を確定する。
  2. いつから始まったのかを示す、日付の動かしにくい資料を探しておく。
  3. 同居の事実だけでなく、二人の関係性がうかがえる材料をあわせて整理する。
  4. 同棲が始まった時点で夫婦関係がどのような状態にあったかを、自分の側からも説明できるようにする。
  5. 知ってから動かなかった期間がある場合、その理由を説明できる材料を残しておく。


 これらは、金額の交渉に入る前の段階で整理しておくほど、後の説明が安定します。

請求を受けた側から見た同棲

 同棲していた側から見ると、この事実は説明の幅が狭い部類に入ります。次の点は、早い段階で確認しておくことをおすすめします。

  • 同居していただけで男女の関係ではないという説明は、生活の期間が長いほど通りにくくなること。
  • 既婚であることを知らなかったという主張は、生活を共にしていた期間があると成り立ちにくいこと。
  • 賃貸借契約の名義、家賃や光熱費の振込履歴など、生活の共同を示す資料は自分の側にも残っていること。
  • 関係を解消した時期がはっきりしていれば、対象となる期間を区切る材料になりうること。


 また、相手方から示された金額がそのまま支払うべき金額になるわけではありません。同棲という事情が重く扱われやすいことは事実ですが、金額の妥当性は別途検討する余地があります。

よくあるご質問


住民票を移していなくても同棲と判断されますか

 住民票の記載は資料の一つであり、それだけで決まるものではありません。実際にどこで生活していたのか、帰宅の状況はどうだったのかといった実態から判断されます。住民票が動いていないことは、同棲を否定する事情としてただちに働くわけではありません。

同棲を解消すれば慰謝料は下がりますか

 関係が解消され、以後の接触がないことは、考慮される事情の一つになりえます。ただし、すでに生じた損害がそれによって消えるわけではありません。解消の時期や、その後の状況もあわせて見られることになります。

同棲していた期間の全部について請求できますか

 請求できる期間には制限があり、いつの時点から数えるかによって扱いが変わります。同棲が続いている場合の起算点の考え方は個別性が高いため、期間が長期にわたるケースでは早めにご確認いただくのが安全です。

まとめ


  1. 同棲には生活の形がいくつかあり、まずどの形なのかを分けて考えると整理しやすくなります。
  2. 同棲は、証拠の場面、金額の場面、慰謝料以外の請求の場面という三つの場面に関わります。
  3. 肉体関係そのものの記録がなくても、生活の共同から推認が働きやすい点が特徴です。
  4. 賃貸借契約や住民票の異動など、日付の動かしにくい資料が残っていることがあります。
  5. 同棲は重い事情として扱われやすい一方、婚姻関係がすでに形を失っていたという主張の材料にもなります。
  6. 同居がないという事実は、生活費の分担や離婚原因といった別の場面にも関わってきます。
  7. 請求を受けた側にとっても、示された金額がそのまま支払うべき金額になるわけではありません。


 不貞相手との同棲が絡むケースは、事実関係が長期にわたることが多く、どこから手をつけるべきかが分かりにくくなりがちです。弁護士法人若井綜合法律事務所では、請求をお考えの方からも、請求を受けてお困りの方からも、男女間のトラブルに関するご相談を数多くお受けしています。状況の整理だけでもお役に立てることがありますので、お一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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