【不貞慰謝料】クレジット明細・交通系ICの履歴は証拠になるか
「知らない番号から着信があり、出てみると『○○さんの代理人の弁護士です』と名乗られた」というご相談があります。反対に、こちらが代理人を立てて相手方へ連絡を入れたところ、「電話でいきなり言われても困る」と返され、そこから話が進まなくなったというご相談もあります。
インターネット上には、相手方の弁護士から電話が来たときの対応として「用件を聞くだけにとどめる」「その場で答えない」「早めに切り上げる」といった説明が並んでいます。いずれも要点を押さえた説明で、それ自体が誤っているわけではありません。ただ、そこで語られているのは電話口での振る舞い方であって、なぜ電話だと注意が要るのか、電話でのやり取りが後の交渉や手続にどう残っていくのかまでは、あまり触れられていません。
この記事では、相手方の代理人である弁護士から連絡が来た場面を取り上げ、書面でのやり取りと何がどう違うのか、そして電話口で口にした言葉が後にどのような意味を持ちうるのかを整理します。届いた書面の種類の見分け方、連絡に応じないまま時間が経った場合に起きること、自分も弁護士に依頼するかどうかの判断については、それぞれ別の記事で扱っています。
この記事で扱うこと
はじめに、この記事の範囲をはっきりさせておきます。
- 相手方の代理人である弁護士から、電話その他の方法で連絡が来た場面を扱います。
- 書面でのやり取りとの違いと、電話口での発言が後に持つ意味を中心に置きます。
- 請求の内容が妥当かどうか、支払うべき金額がいくらかといった中身の判断は扱いません。
- 連絡に応じないまま放置した場合に手続がどう進むかも扱いません。
なお、ここで前提としているのは、成人同士の民事上のやり取りです。すでに逮捕や警察からの呼出しがある事案は事情が異なりますので、個別にご相談ください。
なぜ書面ではなく電話なのか
代理人として就いた弁護士が最初の連絡を入れるとき、書面を用いることが多いのは確かです。内容が正確に伝わり、送った事実と日付が残るためです。それでも電話が使われる場面はあり、その理由によって、相手方がその通話に何を期待しているかが変わってきます。
| 考えられる事情 | その場合に相手方が求めていること | こちら側で確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 住所が分からず書面を送れない | まず連絡が取れる状態をつくること | 書面の送り先をどう伝えるか |
| 書面を送ったが返答がない | 返答をする意思があるかどうかの確認 | その書面が手元に届いているか |
| 期限が近づいている | 期限までの見通しを聞くこと | 何についての期限なのか |
| 手続についての事務的な連絡 | 日程や書類の受け渡しの調整 | どの手続に関する連絡か |
電話だから軽い用件とは限りません
電話は書面より手軽な手段に見えますが、連絡の手段と用件の重さは結びついていません。急ぎの事務連絡のこともあれば、期限が迫っているために書面では間に合わないと判断されていることもあります。逆に、電話が来たからといって、直ちに裁判所の手続が始まっているとも限りません。まずは何についての連絡なのかを確かめることが先になります。
期限を告げられたときは、その性質を確かめる
通話の中で「○日までに回答を」と告げられることがあります。この期限には、差出人や代理人が自分の都合で設定したものと、法律や手続で応答期限が決まっているものとがあり、過ぎたときに起きることが異なります。裁判所から届いた書類に基づく期限であれば話は別ですので、どちらなのかはその場で確かめておくとよいでしょう。書面ごとの期限の違いについては、慰謝料請求の書面が届いた場合の記事で詳しく扱っています。
書面のやり取りにあって、電話にないもの
電話は、書面と同じ内容を音声で受け取るだけのもの、というわけではありません。書面のやり取りにあるものが、いくつか抜け落ちた形で届きます。
考える時間が挟まらない
意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずるとされています(民法97条1項)。書面であれば、封を開け、読み、考え、必要なら調べたうえで返事を出すまでの間に時間があります。電話では、相手方の申し入れも、こちらの返答も、その場で相手に届きます。書面ならあったはずの検討の時間が、通話中は存在しません。
読み返せる形が残らない
書面には、後から読み返せる原本が残ります。誰が、誰の代理人として、何を根拠に、何を求めているのかを、落ち着いて何度でも確認できます。電話では、聞き取れなかった部分や、聞いたつもりで違って理解した部分が、そのまま残ってしまいます。
記録の残り方が対等ではない
弁護士は、必要に応じて依頼者に事件の経過を報告し、協議しながら事件の処理を進めることとされています(弁護士職務基本規程36条)。つまり、通話の内容は業務上の記録として整理され、相手方本人にも伝わることを前提に考えておいたほうがよいということです。一方、こちらの手元に残るのは記憶だけになりがちです。「言った・言わない」の場面で、双方が同じ条件に立っているわけではありません。
電話口で口にした言葉は、後にどう扱われるのか
その場では軽い受け答えのつもりでも、後の交渉や手続の中で意味を持つ発言があります。代表的なものを整理します。
| 電話で口にしがちなこと | 後にどう扱われうるか | 関係する考え方 |
|---|---|---|
| 「払います」「分割なら払えます」 | 支払う義務があることを認めた発言として受け取られる | 承認による時効の更新(民法152条1項)。承認に書面は求められていない |
| その日どこで誰と会っていたかの説明 | 前提となる事実についての説明として残る | 後から言い分を変えると、変えた理由の説明を求められる |
| 「○○円までなら」と金額を口にする | その後のやり取りの出発点として扱われる | いったん出た数字は、後から動かしにくい |
| 「来週までに返事します」 | 返答の期日を自分から設定したことになる | 守れないと、対応の姿勢として受け取られる |
| 感情的な発言や相手方の私生活への言及 | やり取りの経過として記録に残る | 別の問題に発展することがある |
書面がなくても合意は成立しうる
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を備えることを要しないとされています(民法522条2項)。示談や和解も同じで、条件がその場でかみ合えば、書面を交わす前に合意が成立したと評価される余地があります。「まだ紙にしていないのだから、口で言っただけなら関係がない」とは言い切れません。もっとも、電話だけのやり取りでは、後から内容を確かめる手立てが双方とも乏しくなります。だからこそ、条件に関わる話は書面に落としてから進めるのが通例です。
その場で答えないことは、失礼にも不利にもあたりません
電話に出た以上その場で回答しなければならない、という決まりはありません。「内容を確認したうえで、改めてご連絡します」と伝えて通話を終えることは、交渉の場面でよく行われている応じ方です。相手方の代理人の側も、その場での即答を当然の前提にはしていないのが通常です。
通話中にできること
用件を確かめることと、こちらの立場を守ることは両立します。通話中に確認しておくと後が楽になる事項を挙げます。
- 弁護士の氏名、法律事務所の名称、所属弁護士会、連絡先。
- 誰の代理人として連絡しているのか。
- 何についての連絡で、こちらに何を求めているのか。
- 回答の期限があるとして、それがいつまでか。
- 今後の連絡を書面で受けられるか、その送り先をどうするか。
「書面でお願いします」と伝えてよい
電話でのやり取りが不安であれば、今後の連絡は書面でいただきたい、と伝えて差し支えありません。相手方の代理人にとっても、内容と日付が残る書面のほうが後の手続で扱いやすいため、この申し出が拒まれることは多くありません。あわせて、自宅と勤務先のどちらに送ってほしいかを伝えておくと、思わぬところに書面が届く事態を避けやすくなります。
事務所に来てほしいと言われた場合
「一度事務所においでください」と求められることがあります。これに応じる法律上の義務はありません。来所は、電話よりも長い時間、その場で条件を詰める流れになりやすい場です。行くかどうかを決める前に、何のための面談なのか、その場で何かに署名を求められるのかを確かめておくとよいでしょう。
電話に出られなかった場合
着信に気づかなかった、仕事中で出られなかった、という状況もよくあります。
折り返しの義務があるわけではありません
相手方の代理人からの電話に折り返さなければならないという法律上の決まりはありません。ただし、連絡が取れない状態が続くと、相手方は別の手段を選ぶことになります。書面の送付、住所の調査、裁判所の手続といった順に移っていくのが一般的で、その分だけ話し合いで調整できる範囲は狭くなっていきます。折り返さないという判断そのものよりも、その後に何が起きるかを見込んでおくことのほうが大切です。
かけ直す前に決めておくこと
折り返す場合は、落ち着いて話せる時間と場所を選び、手元にメモを用意してから発信します。この記事の前の章で挙げた確認事項を書き出しておけば、聞き漏らしを減らせます。答えられないことは「持ち帰ります」と伝えればよく、無理にその場で説明を組み立てる必要はありません。
本人以外が電話に出た場合
電話は、誰が受けるかをこちらで選べません。家族が出た、勤務先の代表番号にかかってきた、という状況で不安を感じる方は少なくありません。
用件の中身まで告げられることは通常ありません
弁護士は、その職務上知り得た秘密を保持する義務を負い(弁護士法23条)、正当な理由なく依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らしてはならないとされています(弁護士職務基本規程23条)。そのため、本人以外の方が電話口に出たときに、事件の中身まで説明することは通常ありません。もっとも、法律事務所から電話があったという事実そのものは伝わります。心配であれば、この点は次の方法で調整できます。
連絡先を一本化してもらう
本人の携帯電話番号を伝え、今後はそちらに連絡してほしい、書面もこの住所に送ってほしい、と申し入れておく方法があります。連絡がつく窓口が確保されていれば、他の経路を使う必要は乏しくなります。逆に、連絡先を伝えないまま応答もしない状態が続くと、相手方は別の経路を探すことになります。
相手が本当に弁護士かどうか
弁護士を名乗る電話がすべて本物とは限りません。確かめる方法は用意されています。
名簿で確かめられます
弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならないとされています(弁護士法8条)。氏名と所属弁護士会が分かれば、日本弁護士連合会のサイトの検索で在籍を確認できます。事務所の代表番号を自分で調べてかけ直し、その弁護士が在籍しているかを尋ねる方法もあります。
その場での送金を求められたとき
弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことは禁じられています(弁護士法72条)。通話の中で口座番号を告げられ、その場での振込みを求められた場合は、いったん通話を終え、事務所の所在と連絡先を自分で調べたうえで対応を検討してください。支払いを急がせる理由が説明されないまま送金を求められる場合は、なおさら慎重に確かめる場面です。
相手方の弁護士は、誰のために連絡してきているのか
電話口で丁寧に説明を受けると、法律に沿った中立の見解を聞いているように感じられることがあります。しかし、相手方の代理人は、依頼者の利益のために活動する立場にあります。
中立の判定者ではありません
相手方の代理人が述べる法律の説明や金額の根拠は、その依頼者の立場から見た主張です。裁判所の判断でも、公的な評価でもありません。内容が誤っているという意味ではなく、こちらの側の事情が織り込まれていないという意味です。同じ事実関係でも、どの事情を重く見るかで結論の見え方は変わります。
こちらに代理人がいない間は、直接の連絡が続きます
弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならないとされています(弁護士職務基本規程52条)。裏を返せば、こちらに代理人がいない間、相手方の弁護士がこちらへ直接連絡することは、この規程との関係では制限されていません。自分も代理人を立てるかどうかの判断材料については、別の記事で整理しています。
電話を切った後にすること
通話直後の数十分でできることが、その後の見通しを左右します。
- 日時、通話時間、相手方の氏名と事務所名を書き留める。
- 相手方が述べた内容と、自分が答えた内容を、思い出せる範囲で書き出す。
- 求められた事項と、告げられた期限を分けて整理する。
- 関係しそうな書面や記録が手元にあるか確かめ、消さずに残しておく。
- 回答の期限までに、誰にどう相談するかを決める。
通話中の録音については、自分が加わっている会話を記録する行為と、他人どうしのやり取りを記録する行為とで扱いが異なります。この点は無断の録音を扱った記事で整理していますので、そちらをご覧ください。
連絡する側から見た電話という手段
ここまでは連絡を受けた側から見てきましたが、請求する側にとっても、電話という手段には得手不得手があります。相手の反応をその場で確かめられる一方、話した内容が正確に残らず、後から「そんな話は聞いていない」と言われる余地を残します。条件に関わる話であれば、通話で感触を確かめたうえで、内容は書面に落として送るという進め方が取られることが多いのはこのためです。相手方が電話に出ない場合も、繰り返し発信を重ねるより、書面で記録の残る形に切り替えるほうが、後の手続で説明しやすくなります。
よくあるご質問
電話で「払います」と言ってしまいました。取り返しがつかないのでしょうか
その一言だけで金額まで確定するわけではありません。もっとも、支払う義務があること自体を認めた発言として扱われる可能性はあり、消滅時効との関係でも意味を持ちうる場面があります(民法152条1項)。発言した日時と、そのときのやり取りの流れを書き出したうえで、金額や条件をどう組み立てるかを検討することになります。
相手方本人に直接連絡してもよいのでしょうか
法律上、本人へ連絡することが禁じられているわけではありません。ただ、代理人を通してほしいという申し入れがある中で直接連絡を続けると、やり取りの経過として記録され、交渉の進め方に影響することがあります。伝えたいことがあるなら、代理人あてに書面で伝えるほうが、内容も残り、行き違いも生じにくくなります。
電話に出ないでいたら、勤務先に連絡が来ることはありますか
連絡先が他に分からない場合に、勤務先へ電話が入ることはあり得ます。ただし前述のとおり、弁護士には守秘義務がありますので、勤務先の方に事件の中身を説明することは通常ありません。本人につながる連絡先を伝えておけば、他の経路をたどる必要は乏しくなります。
まとめ
- 電話が使われる理由はいくつかあり、連絡の手段と用件の重さは結びついていない。
- 電話には、書面ならあったはずの検討の時間がない(民法97条1項)。
- 通話内容は業務上の記録として整理され、依頼者にも伝わることが前提となる(弁護士職務基本規程36条)。
- 「払います」という発言は、承認として扱われる可能性がある(民法152条1項)。
- 書面がなくても合意は成立しうるため、条件に関わる話はその場で詰めない(民法522条2項)。
- その場で答えず、氏名・事務所名・誰の代理人か・求められている事項・期限を確かめる。
- 今後の連絡を書面に切り替えてほしいと申し入れてよい。
- 本人以外に事件の中身が説明されることは通常ない(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。
- 相手方の代理人は依頼者の側に立つ立場であり、中立の判定者ではない。
- 通話後は、日時・内容・期限を書き留め、期限までに相談先を決める。
相手方の弁護士からの連絡にお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手方の代理人から連絡があった段階でのご相談も、どのように返答すべきか迷っている段階でのご相談も、いずれもお受けしています。
連絡を受けた側の方には、通話の内容と期限を整理したうえで、どこまでを答え、どこからを保留にするかを一緒に考えます。請求をする側の方には、書面と電話をどう使い分けるか、どの段階で何を伝えるかという進め方の設計からお手伝いします。お一人で判断しかねる場面がありましたら、早い段階でご相談ください。


