【不貞慰謝料・請求する側】相手が無視する・受け取りを拒否する場合
不貞慰謝料の裁判が進んでいくと、ある日の期日で、裁判所から「和解の話をしてみませんか」と切り出されることがあります。請求している側であっても、請求を受けている側であっても、多くの方がここで迷います。応じたほうがよいのか、断ってよいのか、断ったら不利になるのか。判断の材料が見えないまま、その場で答えを求められているように感じる方も少なくありません。
もっとも、和解の打診は、突然どちらかに有利な条件を突きつけられる場面ではありません。訴訟という手続の中に組み込まれた一つの場面であり、いつ切り出されるのか、その場で何が行われるのか、返事をした後に何が起きるのかは、法律と規則である程度決まっています。手続としての形が分かると、目の前の案をどう受け止めればよいのかも見えやすくなります。
この記事では、裁判所からの和解の打診を手続の側から整理します。慰謝料の金額そのものの評価や条項の作り込みには立ち入らず、応じるかどうかを考える前に押さえておきたい点を扱います。
この記事で整理すること
和解の打診をめぐっては、示された金額の当否とは別に、手続としての理解が判断を左右します。この記事では次の5点を扱います。
- 和解の打診が来る場面と、その時点で裁判所の手元にあるもの。
- 和解の期日が、法廷での手続とどう違うか。
- 裁判所に出向けない場合に和解を成立させる方法。
- 応じないことを選んだ場合に、手続がどう進むか。
- 和解が成立した後に残るものと、後から直せる範囲。
慰謝料の金額の組み立て方、和解や示談の条項に何を盛り込むか、成立した後に支払いが滞った場合の回収については、それぞれ別の記事で扱っています。ここでは重ならない範囲にとどめます。
和解の打診は誰がどの段階でするのか
民事訴訟では、裁判所は訴訟がどの程度まで進んでいるかを問わず和解を試みることができるとされています。第1回の期日の直後に切り出されることもあれば、尋問がすべて終わった後に持ち出されることもあります。時期が決まっている手続ではありません。
担当する裁判官が審理と同じとは限らない
和解の手続は、その事件を審理している裁判体そのものが行う場合のほか、そのうちの1人が受命裁判官として、あるいは別の裁判所の裁判官が受託裁判官として行う場合があります。この場合、裁判所や裁判長が行うとされている職務は、その裁判官が行うことになります(民事訴訟法89条5項)。和解の場に出てくる裁判官の顔ぶれが法廷と違っていても、手続としては予定されている形です。
同じ「打診」でも意味合いが違う
打診がどの段階で来たかによって、その時点で裁判所が手にしている材料は変わります。材料が変われば、示される案の性質も変わります。
| 打診が来やすい場面 | その時点で裁判所の手元にあるもの | 案の受け取り方 |
|---|---|---|
| 訴状と答弁書が出そろった直後 | 双方の言い分の概要だけ | 事実の見立てというより、早期に終える意向があるかどうかの確認に近い |
| 主張と書証の整理が一段落した段階 | 双方の主張と、提出済みの書面や証拠 | 書面から読み取れる範囲での見方が示されることがある |
| 尋問が終わった後 | 書面に加えて、当事者や証人の説明 | 判決に向けた材料がそろった状態で示される |
| 控訴審に移った後 | 第一審の判断と、追加された主張 | 第一審の結論を踏まえた調整として示されることが多い |
早い段階での打診は、事件の中身についての判断が固まったことを示すものとは限りません。一方、審理が進んだ段階での打診には、それまでに集まった材料を踏まえた見方が伴うことがあります。同じ「和解しませんか」という言葉でも、背景にあるものは同じではありません。
見方が示されても判決と同じになるとは限らない
裁判所がその時点での見方を伝えたうえで案を示すことがあります。ただ、それは判決そのものではありません。判決は、その後の主張や立証も踏まえて改めて判断されるものです。示された見方を重く受け止めるとしても、そのまま判決になると決まっているわけではない、という前提は持っておいたほうがよいでしょう。
和解の期日は法廷での手続とは進み方が違う
和解の話し合いは、判決に向けた審理とは別の形で行われます。ここを知らないまま呼ばれると、想定と違う進み方に戸惑うことがあります。
公開の法廷ではない場所で行われることが多い
和解の話し合いは、傍聴席のある法廷ではなく、和解室や弁論準備手続の部屋で行われるのが通常です。人の出入りのある場所で不貞の経緯を話すことになるのではないか、という不安を持つ方がいますが、実際の運用はそうした形ではありません。
双方が同席しないことがある
当事者それぞれから交互に事情を聞く進め方が取られることがあります。相手方と同じ部屋で顔を合わせずに話が進む場面もあり、その場合、相手方が何をどこまで述べたかは、裁判所から伝えられた範囲でしか分かりません。自分が話した内容がそのまま相手方に伝わるとも限らない、という点も含めて理解しておく必要があります。
話し合いの経過そのものは記録に残らないのが通常
和解が成立すれば、その内容が調書として記録されます。成立しなかった場合に、そこでどのようなやり取りがあったかが記録として残るわけではないのが通常です。もっとも、和解の場で述べた事情が、その後の主張と食い違えば、裁判所の受け止め方に影響することはあります。記録に残らないことと、何を話してもよいことは別だと考えておくのが安全です。
本人の出頭を求められることがある
和解のために、裁判所は当事者本人またはその法定代理人の出頭を命ずることができるとされています(民事訴訟規則32条1項)。弁護士に依頼していれば期日は代理人が対応するのが基本ですが、和解の場面については、本人の意向をその場で確かめるために出頭を求められることがあり得ます。仕事の都合などがある場合は、早めに代理人を通じて裁判所に伝えておくことになります。
裁判所の外で行われることもある
裁判所は、相当と認めるときは裁判所外で和解をすることができるとも定められています(民事訴訟規則32条2項)。不貞慰謝料の事件で用いられる場面は多くありませんが、和解の手続が法廷の中だけに縛られていないことは、制度の作りとして知っておいてよい点です。
裁判所に出向けない場合の扱い
遠方に住んでいる、仕事や家庭の事情で平日に動けない、相手方と同じ建物に入りたくない。こうした事情があると、和解の話が進んでも成立させられないのではないかと考えがちです。しかし、出頭できないことを前提にした方法が用意されています。
| 方法 | 使われる場面 | 和解が成立する時点 |
|---|---|---|
| ウェブ会議や電話会議による和解の期日 | 裁判所が相当と認め、当事者の意見を聴いたとき | その期日で合意に至った時点(出頭しないで手続に関与した当事者も、その期日に出頭したものとみなされる) |
| 和解条項案の書面による受諾 | 当事者の一方または双方が、出頭することが困難と認められるとき | 一方の場合は、他方が期日に出頭して受諾したとき。双方の場合は、あらかじめ定められた日時が経過したとき |
| 裁判所等が定める和解条項 | 当事者双方が共同で申し立てたとき | 定められた和解条項が双方に告知されたとき |
1つ目は、和解の期日を音声の送受信によって行う方法です(民事訴訟法89条2項)。この方法で手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなされます(同条3項)。
2つ目は、あらかじめ裁判所から示された和解条項案を受諾する旨の書面を提出しておく方法です(民事訴訟法264条1項、2項)。一方だけが出頭困難な場合と、双方が出頭困難な場合とで、成立の仕方が分けられています。
3つ目は、当事者双方が共同で申し立て、裁判所等に和解条項を定めてもらう方法です(民事訴訟法265条1項)。申立ては書面でしなければならず、その書面には定められた和解条項に服する旨を記載します(同条2項)。
3つ目の方法は「内容を見てから決める」形ではない
裁判所等が定める和解条項による方法では、告知された時点で和解が調ったものとみなされます(民事訴訟法265条5項)。示された条項を見てから受け入れるかどうかを選ぶ形ではない、という点が書面による受諾との違いです。申立ての取下げは告知の前に限られ、この取下げには相手方の同意を要しません(同条4項)。どの方法を選ぶかによって、自分の手元に残る選択の余地が変わることになります。
応じないことを選んだ場合に何が起きるのか
和解に応じるかどうかを考えるとき、多くの方が気にされるのが、断ったときの影響です。
応じる義務はない
和解は当事者双方の合意によって成立するものです。示された案に納得できなければ応じないという選択ができますし、応じなかったことを理由に不利な扱いを受けると定めた規定もありません。断ることそれ自体が、判決の内容を左右する仕組みにはなっていません。
断れば審理が続く
和解が調わなければ、訴訟はそれまでの続きとして進みます。まだ尋問を経ていなければ人の話を聞く手続に進み、審理が尽くされれば判決に向かいます。和解を断ることは、手続を止めることでも、振り出しに戻すことでもありません。
同じ案が後から戻ってくるとは限らない
一度断った後で気持ちが変わることはあります。その後の段階で改めて和解の話が出ることもありますが、そのときに前と同じ条件が示されるとは限りません。審理が進めば、裁判所の手元にある材料も変わるためです。断るという判断そのものは自由でも、条件は時間とともに動きうる、という点は意識しておくとよいでしょう。
和解案を渡されたときに確認する順番
案の中身を検討する前に、書面としての形を確かめておくと、判断の見通しが立てやすくなります。
- いつまでに返事をすればよいのか。その場で答える必要があるのか。
- 案のどこまでが固まっていて、どこが調整の余地を残しているのか。
- 支払いの時期と方法がどのように書かれているか。
- 支払いが滞った場合の扱いが書かれているか。
- 案に書かれていない事柄が、成立した後にどう扱われることになるのか。
- 訴訟費用の負担について、どのように定められているか。
このうち、接触を控える取り決めや口外しない取り決めをどう置くか、支払いを分割にする場合の条件をどう設計するか、清算条項をどこまで広げるかといった中身の検討は、それぞれ別の記事で扱っています。ここでは、案を受け取った直後に確かめておく事項にとどめます。
和解が成立すると何が残るのか
和解が調うと、その内容は調書として記録されます。ここから先は、話し合いの段階とは扱いが変わります。
確定判決と同じ効力を持つ
裁判所書記官が和解について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は確定判決と同一の効力を有するとされています(民事訴訟法267条1項)。支払いが滞った場合に強制執行を求める手続の入口になるのは、この効力です。回収の具体的な進み方については、判決を得た後の回収を扱った記事をご覧ください。
手元に届く仕組みがある
記録された電子調書は、当事者に送達しなければならないとされています(民事訴訟法267条2項)。当事者からの申請を待たずに送られる仕組みになっており、自分の手元に和解の内容を示す書面が残ることになります。届いた段階で、話し合った内容と食い違いがないかを読み合わせておくことが大切です。
後から直せるのは明白な誤りに限られる
記録された電子調書の内容に計算違いや誤記など、これらに類する明白な誤りがあるときは、裁判所は申立てにより、または職権で、いつでも更正決定をすることができます(民事訴訟法267条の2第1項)。更正決定に対しては即時抗告ができ、申立てを不適法として却下した決定に対しても即時抗告ができます(同条2項、3項)。
ここで直せるのは、あくまで明白な誤りです。「よく考えたら金額に納得できない」「別の条件にしておけばよかった」といった理由で内容を作り直す手続ではありません。和解の場で返事をするかどうかは、その一線を踏まえて考える必要があります。
立場ごとに見ておきたいこと
同じ和解案でも、どちらの立場から見るかによって、確かめるべき点は変わります。
請求している側から見ると
判決で高い金額が認められたとしても、支払いが実際に行われるかどうかは別の問題です。和解では、支払いの時期や方法を相手方の状況に合わせて組み立てられるため、金額の水準と回収の見込みを合わせて考えることになります。また、金銭の支払い以外の取り決めを盛り込めるかどうかも、判決との違いとして検討の材料になります。
請求を受けている側から見ると
和解に応じることが、主張してきた事実を全面的に認めたことになるのではないか、という不安を持つ方がいます。和解条項にどのような書き方をするかによって、この点の意味合いは変わります。事実を認める記載を置くかどうかは、それ自体が交渉の対象です。認めることの意味については、別の記事で詳しく扱っています。
よくあるご質問
和解を断ると、裁判官の心証が悪くなりませんか。
和解は双方の合意によって成立するものであり、応じないという選択は制度上認められています。断ったこと自体を理由に不利に扱うという定めもありません。もっとも、案に納得できない理由を伝えないまま拒むよりも、どの点が受け入れられないのかを示したほうが、その後の審理での主張ともつながりやすくなります。
和解の期日には本人が行かなければならないのですか。
弁護士に依頼している場合、期日への対応は代理人が行うのが基本です。ただし、和解のために本人または法定代理人の出頭を命ずることができるとされているため、本人の出頭を求められる場面はあり得ます。出向くことが難しい事情があるときは、ウェブ会議や電話会議による方法、書面による受諾といった選択肢がありますので、早めに代理人にお伝えください。
成立した和解の内容を後から変えられますか。
記録された内容に明白な誤りがある場合には更正決定の手続がありますが、それ以外の理由で内容を作り直すことは想定されていません。和解に応じるかどうかは、その場の空気ではなく、成立後に何が残るかを踏まえて決めることになります。判断に迷う場合は、その場で返事をせず、期日を改めてもらう形を取ることも検討できます。
まとめ
- 裁判所は、訴訟の進み具合を問わず和解を試みることができるとされており、打診の時期は決まっていない。
- 打診がどの段階で来たかによって、その時点で裁判所の手元にある材料が異なり、示される案の性質も変わる。
- 和解の話し合いは法廷ではない場所で行われることが多く、双方が同席しない進め方が取られることもある。
- 和解のために本人の出頭を命ずることができるとされている(民事訴訟規則32条1項)。
- 出頭が難しい場合には、ウェブ会議や電話会議による期日、和解条項案の書面による受諾、裁判所等が定める和解条項という方法がある。
- 裁判所等が定める和解条項による方法は、告知の時点で和解が調ったものとみなされ、内容を見てから受け入れるかを選ぶ形ではない。
- 和解に応じる義務はなく、応じなければ審理はそれまでの続きとして進む。ただし、同じ条件が後から示されるとは限らない。
- 和解が記録されると確定判決と同一の効力を持ち、後から直せるのは明白な誤りに限られる。
不貞慰謝料についてお困りの方へ
裁判所からの和解の打診は、その場で答えを出さなければならないものではありません。示された案が自分の事案の見通しとどう関係しているのか、成立した場合に何が残り、応じなかった場合に何が続くのか。この二つを並べて考えられれば、判断の材料はそろいます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料を請求する立場の方からも、請求を受けている立場の方からもご相談をお受けしています。すでに訴訟が進んでいる段階でのご相談にも対応しております。和解案の内容や今後の進み方についてお悩みの方は、池袋または新橋の事務所までお問い合わせください。


