別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い
「第一審の判決が届きました。金額に納得できないので控訴したいのですが、間に合うでしょうか」。判決の言渡しの直後に、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に「請求が認められたのに、相手が控訴してきました。もう一度、最初からやり直しになるのでしょうか」というご相談も、同じくらい多く寄せられます。
インターネット上では「判決に不服があれば2週間以内に控訴できる」と説明されています。この説明自体は誤りではありません。ただ、実際に判断を迫られる場面で問題になるのは、2週間をどこから数えるのか、控訴している間に支払いはどうなるのか、控訴したことでかえって不利な結論になることはあるのか、といった点です。これらは、期間の長さだけを見ていても見えてきません。
この記事では、不貞慰謝料の裁判で第一審の判決が出た後に何が動いているのか、そして控訴するかどうかを考えるときにどの材料を並べればよいのかを、請求した側と請求された側の双方の視点から整理します。なお、判決を得た後にどう回収するか、第一審そのものの流れと期間がどれくらいか、訴訟を途中で終える方法にはどのようなものがあるかについては、それぞれ別の記事で扱います。
この記事で整理すること
以下の順に確認していきます。
- 判決の言渡しから確定までの間に、どの期間が動いているのか。
- 控訴状をどこに出し、その後いつまでに何を出す必要があるのか。
- 控訴しても支払いが止まらない場合があること。
- 控訴審は第一審のやり直しではないということ。
- 控訴したことで、かえって不利な結論になり得る場面があること。
- 控訴審にかかる時間の目安と、その先に残る手続。
判決が出てから確定するまでに動いている期間
判決は、言い渡された瞬間に効力が固まるわけではありません。言渡しの後、当事者が不服を申し立てるかどうかを決めるための期間が置かれ、その期間が過ぎて初めて判決は確定します。まずは、この間に何が動いているのかを押さえます。
言渡しの日と、判決書を受け取る日は別
判決の言渡しは、当事者が法廷にいなくても行うことができます(民事訴訟法251条2項)。そのため、判決の日に裁判所へ行かず、後日、判決書の送達を受けて内容を知るという流れが一般的です。言渡しの日と、判決書が手元に届く日は、通常は同じ日にはなりません。
2週間をどこから数えるのか
控訴は、判決書などの送達を受けた日から2週間の不変期間内に提起しなければならないとされています(民事訴訟法285条)。ここで起算点になるのは、言渡しの日ではなく送達を受けた日です。期間の計算は民法の規定に従い(同法95条1項)、送達を受けた日は算入せず、その翌日から数えます。期間の末日が日曜日・土曜日・祝日などの休日に当たるときは、その翌日に満了します(同法95条3項)。
なお、この2週間は「不変期間」と呼ばれ、裁判所が伸ばしたり縮めたりすることができません(同法96条1項ただし書)。忙しかった、弁護士を探していた、といった事情で延びる性質の期間ではないという点は、あらかじめ知っておく必要があります。
弁護士に依頼している場合、判決書は代理人に送達されます。控訴期限は代理人が受け取った日を基準に進みますので、ご本人が判決内容を聞いた日から2週間、と考えていると、実際の期限とずれることがあります。
控訴すれば確定は止まる
控訴の期間内に控訴が提起されると、判決の確定は遮断されます(民事訴訟法116条2項)。逆に、期間内に誰も控訴しなければ、判決はそのまま確定します。判決の内容に不満があるかどうかにかかわらず、時間の経過そのものが結論を固めていくという点が、この期間の性質です。
| 場面 | 期間・期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 判決の言渡し | 口頭弁論の終結から2か月以内が原則 | 民事訴訟法251条1項 |
| 控訴の提起 | 判決書などの送達を受けた日から2週間 | 民事訴訟法285条 |
| 控訴理由書の提出 | 控訴の提起後50日以内 | 民事訴訟規則182条 |
| 附帯控訴 | 控訴審の口頭弁論の終結まで | 民事訴訟法293条1項 |
| 控訴の取下げ | 控訴審の終局判決があるまで | 民事訴訟法292条1項 |
控訴はどこに、何を出す手続なのか
控訴という言葉から、上級裁判所に直接申し立てるものだと受け取られることがありますが、実際の入口は第一審の裁判所です。
控訴状の提出先は第一審裁判所
控訴の提起は、控訴状を第一審裁判所に提出して行います(民事訴訟法286条1項)。宛先は控訴審の裁判所ですが、提出先は判決を出した裁判所です。第一審が地方裁判所であれば控訴審は高等裁判所(裁判所法16条1号)、第一審が簡易裁判所であれば控訴審は地方裁判所(同法24条3号)になります。
期限が迫った段階で提出先を間違えると、そのまま期間が過ぎてしまうおそれがあります。期限が近い場合には、まず控訴状を出して控訴の効力を確保し、理由は後から書面で補うという進め方が実務では一般的です。
控訴状に書くことと、控訴理由書の期限
控訴状には、当事者および法定代理人、第一審判決の表示、その判決に対して控訴をする旨を記載します(民事訴訟法286条2項)。控訴状に取消しや変更を求める具体的な理由の記載がないときは、控訴の提起後50日以内に、これを記載した書面を控訴裁判所に提出することとされています(民事訴訟規則182条)。
この50日は、2週間の控訴期間とは別に動く期限です。控訴を決めた時点で、実質的には「2週間で入口をつくり、その後の50日で中身を組み立てる」という二段構えの日程が始まると考えておくと、準備の見通しが立てやすくなります。
申立ての手数料
訴えを起こすときと同じように、控訴の提起にも手数料が必要です。民事訴訟費用等に関する法律の別表第一では、控訴の提起は第一審の訴え提起の手数料により算出した額の1.5倍、上告の提起および上告受理の申立ては2倍とされています。不服を申し立てる金額の範囲によって額が変わるため、第一審の全部を争うのか一部にとどめるのかによっても、負担は変わってきます。
控訴しても支払いが止まらない場合がある
控訴を考える場面で、実務上もっとも影響が大きいのがこの点です。「控訴すれば、結論が出るまで支払わなくてよい」と理解されていることがありますが、そうとは限りません。
仮執行の宣言が付いているかどうか
金銭の支払いを命じる判決には、確定を待たずに強制執行ができる旨の宣言が付されることがあります。この宣言が付いている場合、控訴をしても、それだけで強制執行が止まるわけではありません。控訴によって確定は遮断されますが、確定と執行は別の話だからです。判決を受け取ったら、主文の末尾にこの宣言が付いているかどうかを確認しておく必要があります。
執行を止めるには別の申立てが必要
仮執行の宣言が付いた判決に対して控訴を提起した場合には、原判決の取消しまたは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、または執行により著しい損害を生ずるおそれがあることについて疎明があったときに、裁判所が担保を立てさせるなどして強制執行の一時の停止を命じることができるとされています(民事訴訟法403条1項3号)。この裁判は、記録のある裁判所が行います(同法404条)。停止の効果は、その裁判の正本を執行裁判所に提出することで生じます(民事執行法39条1項7号)。
実務上、担保として一定額を裁判所に納める必要が生じることが多く、その資金をどう用意するかも含めて検討することになります。控訴するかどうかの判断は、控訴審での見通しだけでなく、この期間の資金の動きとあわせて考える必要があります。
なお、いったん支払われた後に控訴審で第一審判決が変更された場合には、支払ったものの返還などを求める仕組みが用意されています。もっとも、返還を現実に受けられるかは相手の資力に左右されますので、「後から取り戻せる」という前提だけで判断するのは慎重であるべきところです。
控訴審は第一審のやり直しではない
控訴審について、「もう一度、一から審理してもらえる」と受け取られることがあります。しかし、実際の仕組みは、第一審で積み上げたものを引き継いだうえで、その続きを審理するというものです。
審理の範囲は不服を申し立てた限度
控訴審の口頭弁論は、当事者が第一審判決の変更を求める限度においてのみ行われます(民事訴訟法296条1項)。第一審で争点になっていた事柄であっても、控訴で不服を述べていない部分は、控訴審の審理の対象になりません。どこまでを争うのかという範囲の設定が、そのまま審理の枠になります。
第一審でしたことは、そのまま効力を持つ
第一審においてした訴訟行為は、控訴審においても効力を有します(民事訴訟法298条1項)。第一審で提出した書面や証拠、そこでした自白などが、控訴審でも前提になるということです。第一審で述べたことを控訴審で自由に取り替えられるわけではない、という点は、控訴の見通しを立てるうえで重要になります。
新しい主張や証拠は出せるが、無条件ではない
控訴審でも、新たな主張や証拠の提出はできます。ただし、第一審の訴訟手続の規定が準用される結果(民事訴訟法297条)、時機に後れて提出された攻撃防御方法は、訴訟の完結を遅延させることになるときに却下されることがあります(同法157条)。第一審で出せたはずの証拠を控訴審になってから出す場合、その扱いは慎重に検討する必要があります。
控訴したことで、かえって不利になる場面
控訴を検討するとき、見落とされがちなのが「相手も動ける」という点です。
不服申立ての限度を超えて不利にはならないのが原則
第一審判決の取消しおよび変更は、不服申立ての限度においてのみすることができるとされています(民事訴訟法304条)。控訴した側から見れば、自分が不服を述べた範囲を超えて、第一審より不利な判決を受けることは原則としてありません。控訴審が第一審判決を相当とするときは、控訴が棄却されます(同法302条1項)。つまり、控訴して結論が動かなければ、第一審判決の内容がそのまま残るという形になります。
相手からの附帯控訴
ただし、この原則には続きがあります。被控訴人は、自らの控訴権が消滅した後であっても、控訴審の口頭弁論の終結に至るまで附帯控訴をすることができます(民事訴訟法293条1項)。控訴期間の2週間を過ごした相手方であっても、こちらが控訴したことをきっかけに、自分に有利な変更を求める申立てができるということです。
その結果、控訴しなければ確定していたはずの金額が、控訴したことで上下双方に動き得る状態になるという場面が生じます。第一審の金額に不満があって控訴した側が、控訴審ではより不利な金額を検討されることもあり得ます。控訴の判断では、自分の主張の見通しだけでなく、相手が附帯控訴で何を持ち出してくるかまで想定しておく必要があります。
控訴を取り下げるという選択
控訴は、控訴審の終局判決があるまで取り下げることができます(民事訴訟法292条1項)。訴えの取下げと異なり、控訴の取下げについては相手方の同意を必要とする規定が置かれていません。取下げによって控訴審の手続は初めからなかったことになり、附帯控訴も原則として効力を失います(同法293条2項)。控訴審の進行を見たうえで引き返す余地は残されている、ということです。
| 控訴審の終わり方 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 控訴棄却 | 第一審判決を相当とするときは控訴を棄却する | 民事訴訟法302条1項 |
| 取消し・変更 | 第一審判決を不当とするときは取り消す。範囲は不服申立ての限度 | 民事訴訟法304条、305条 |
| 差戻し | 訴えを却下した第一審判決を取り消す場合などに事件を第一審に戻す | 民事訴訟法307条、308条 |
| 控訴却下 | 控訴が不適法でその不備を補正できないときに控訴を却下する | 民事訴訟法290条 |
| 和解・控訴の取下げ | 判決によらずに手続が終わる | 民事訴訟法292条1項 |
控訴審にはどれくらいの時間がかかるのか
控訴を決めるかどうかは、結論の見通しだけでなく、その間の時間をどう考えるかにも関わります。全国の統計から、おおよその幅を確認しておきます。
統計から見た控訴審の期間
最高裁判所が公表している「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」によれば、令和6年に高等裁判所で終わった民事の控訴審訴訟事件の状況は次のとおりです。
| 項目 | 令和6年の数値 |
|---|---|
| 既済件数 | 13,036件 |
| 平均審理期間 | 6.4か月 |
| 審理期間が6か月を超えた事件の割合 | 33.4% |
| 判決で終わった事件の割合 | 約54% |
| 和解で終わった事件の割合 | 約27% |
同じ報告書では、終局区分別の平均審理期間は、判決で終わった事件が6.8か月、和解で終わった事件が6.4か月とされています。第一審に比べて短い数字ですが、これは控訴審が第一審の資料を引き継いで審理する仕組みであることを反映したものと考えられます。事件ごとの幅は大きく、そのまま個別の事件に当てはめられるものではありません。
控訴審でも和解で終わる事件は少なくない
上の数値のとおり、控訴審で終わった事件のうち相当数が和解によるものです。控訴イコール判決による決着というわけではなく、控訴審の場で条件を調整して終える道筋も現実にあります。第一審の判決という具体的な基準ができたことで、かえって条件の詰め方がはっきりする場合もあります。
控訴審の後に残る手続
控訴審の判決になお不服がある場合、上告や上告受理の申立てという手続があります。ただし、これらは控訴と同じ感覚では使えません。
最高裁判所への上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときにすることができ(民事訴訟法312条1項)、そのほかは判決裁判所の構成の違法など限られた事由に絞られています(同条2項)。これとは別に、原判決に最高裁判所の判例と相反する判断があるなど、法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる事件について、上告審として受理を求める申立ての制度が置かれています(同法318条1項)。
言い換えれば、事実の認定について争える最後の場面は控訴審ということになります。不貞慰謝料の事件では、事実の評価や金額の当否が争点になることが多く、その意味で控訴審の位置づけは大きいといえます。
控訴するかどうかを考えるときの材料
控訴の可否は、感情の納得だけで決められるものではありません。次のような要素を並べたうえで比較することになります。
- 争いたい部分が、事実の認定なのか、金額の評価なのか、法律の解釈なのかという区別。
- 第一審判決と、こちらが望む結論との間にある金額の差。
- 控訴審で新たに提出できる主張や証拠があるかどうか、そしてそれが第一審で出せなかった理由を説明できるかどうか。
- 相手が附帯控訴をしてきた場合に、どこまで不利に振れ得るか。
- 控訴の手数料と弁護士費用、そして担保を求められる可能性を含めた費用の見込み。
- 判決の確定が半年前後遅れることが、自分の生活や事情にとってどう働くか。
- 手続が続く間、家族や勤務先に知られる可能性がどう変わるか。
これらのうち、金額の差だけが大きく見えて他が抜け落ちてしまうことがあります。差額と、控訴によって追加で生じる時間・費用・振れ幅を、同じ表に並べて比べるという作業が、判断の出発点になります。
立場によって、控訴の意味は変わる
同じ2週間でも、請求した側と請求された側とでは、考えるべきことが異なります。
請求した側から見た場合
請求が一部しか認められなかったとき、控訴で上積みを求めるという選択があります。他方、第一審判決に仮執行の宣言が付いていれば、確定を待たずに回収へ進める場合もあります。金額を争い続けるか、得られた判決をもとに回収に進むかは、相手の資力の見通しとあわせて考えることになります。
請求された側から見た場合
命じられた金額に納得できない場合でも、控訴によって支払いが自動的に猶予されるわけではありません。争う実益に加えて、控訴審の期間中に執行を受ける可能性と、担保として用意する資金までを含めて検討することになります。控訴とは別に、支払方法について任意の話し合いを申し入れる道も残されています。
よくあるご質問
ご相談の場でよく尋ねられる点をまとめます。
2週間を過ぎてしまったら、もう何もできないのですか
控訴の期間が過ぎれば判決は確定し、その内容を争うことは原則としてできなくなります。ただし、支払いの時期や方法について任意の話し合いを申し入れる余地までなくなるわけではありません。また、判決書の送達の経緯に特殊な事情がある場合は、別途の検討が必要になることがあります。
控訴すれば、第一審で提出しなかった証拠を出せますか
控訴審でも新たな証拠の提出はできます。ただし、時機に後れた攻撃防御方法として却下されることがあり、なぜ第一審で提出しなかったのかという点は問われます。第一審の段階でどこまで手を尽くしたかが、控訴審での扱いにも影響します。
相手だけが控訴した場合、こちらは何もしなくてよいのですか
控訴審は、相手が不服を申し立てた範囲で審理が進みます。こちらが第一審判決の内容に不満を持っている場合は、附帯控訴という形で自分の側からも変更を求めることができます。放置していると、相手の主張だけが審理の枠になりますので、対応の方針は早めに決めておくのが望ましいところです。
まとめ
- 控訴期間は、言渡しの日ではなく判決書などの送達を受けた日から2週間で、裁判所が伸縮できない不変期間です(民事訴訟法285条、96条1項)。
- 控訴状の提出先は控訴審ではなく第一審裁判所です(同法286条1項)。控訴理由書は控訴の提起後50日以内が原則です(民事訴訟規則182条)。
- 控訴の提起により判決の確定は遮断されますが(同法116条2項)、仮執行の宣言が付いていれば執行までは止まりません。
- 執行を止めるには別に申立てが必要で、担保を求められることがあります(同法403条1項3号、404条、民事執行法39条1項7号)。
- 控訴審の審理は不服申立ての限度で行われ(同法296条1項)、第一審の訴訟行為はそのまま効力を持ちます(同法298条1項)。
- 取消し・変更は不服申立ての限度に限られますが(同法304条)、相手方は口頭弁論の終結まで附帯控訴ができます(同法293条1項)。
- 控訴は控訴審の終局判決があるまで取り下げることができ、相手方の同意は必要とされていません(同法292条1項)。
- 控訴審の平均審理期間は6.4か月で、和解で終わる事件も相当数あります(令和6年・最高裁判所の検証報告書)。
- 事実の認定を争える最後の場面は控訴審であり、上告や上告受理の申立ては理由が限られています(同法312条、318条1項)。
判決後の対応をご検討中の方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。第一審の判決が届き、控訴するかどうかを2週間の中で判断しなければならない状況では、判決書の内容の読み取りと、控訴した場合・しなかった場合の見通しの比較を同時に進める必要があります。
請求をした側で「認められた金額に納得できない」という方も、請求を受けた側で「命じられた金額を支払えない」「控訴している間に差押えを受けないか不安だ」という方も、期限が動いている段階でのご相談を承っています。判決書と第一審で提出された書面をお手元にご用意のうえ、お早めにご連絡ください。


