【不貞慰謝料】求償されないようにする方法|請求する側の設計

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不倫の慰謝料を請求する立場のご相談者からは、「不倫相手にようやく慰謝料を払わせたのに、あとになって夫から相手に『自分の分も払え』と言われるかもしれないと聞いて不安になった」という声を聞くことがあります。一方で、不貞をした配偶者側からは、「相手に払わせた分を、自分がいくらか埋め合わせなければならないのか」という声も聞かれます。同じ「求償」という言葉をめぐって、請求する側とされる側の双方が別々の不安を抱えている場面です。

 インターネット上には「求償権放棄条項を入れておけば安心です」という説明が数多くあります。この説明そのものは誤りではありませんが、放棄条項はあくまで数ある設計のうちの一つであり、それだけに頼ると効きにくい場面があることは、あまり触れられていません。求償を防ぐ方法は、書面の条項だけでなく、そもそも誰にいくら請求するかという請求の組み立て方の段階から選べます。

 この記事では、請求する側の視点に立ち、求償を防ぐための設計を、①請求の組み立て方②書面の設計③支払いの受け方という三つの段階に分けて整理します。求償権放棄条項の文言の型や、入れるべきか・応じるべきかという個別の判断、求償権そのものの仕組みは別の記事に譲り、ここでは全体の設計の考え方に絞ってお伝えします。

なぜ請求する側が求償を気にしておく必要があるのか

 求償は、慰謝料を支払った側ともう一方の当事者との間の話であり、請求した側は当事者ではありません。それでも請求する側が無関係でいられないのは、次の二つの理由からです。

離婚しない場合には家計に跳ね返ってくる

 離婚せずに夫婦関係を続ける場合、不貞相手だけに慰謝料を請求する方は少なくありません。ここで不貞相手が支払った後に配偶者へ求償を行うと、配偶者が支払う分は結局同じ家計から出ていくことになります。せっかく不貞相手にだけ負担させたつもりが、実質的な効果が薄れてしまう場面です。

解決したはずの話が蒸し返される

 示談が成立し、当事者としては解決した認識でいても、求償のやり取りが後から始まると、不貞相手と配偶者との間で連絡が再び生じることがあります。請求した側からみれば、落ち着いたと思っていた話が、別の形で継続しているように感じられる場面です。

求償を防ぐ三つの層

 求償を防ぐ、または影響を小さくする方法は一つではなく、次の三つの層に分けて考えることができます。

具体的な内容効果の位置づけ
①請求の組み立て方誰に、いくらずつ請求するか求償の前提そのものを生じさせにくくする
②書面の設計求償権放棄条項・三者間示談生じた求償権の行使を抑える
③支払いの受け方誰から、いつ、いくら受け取ったかを記録する争いになったときの裏づけになる


 このうち②の書面の設計については、条項の型や入れるべきかどうかの判断について別の記事で詳しく取り上げているため、本稿では①と③を中心に述べます。

請求の組み立て方で防ぐ|双方に按分して請求するという選択肢

一方だけに全額を求めるときに求償の芽が生まれる

 求償権は、二人のうち一方だけが自分の負担を超えて支払ったときに生まれます。逆にいえば、配偶者と不貞相手のそれぞれに、各自が負担すべき範囲の金額を直接請求し、それぞれが自分の分だけを支払う形にできれば、どちらも他方の負担を超えて払っていないため、求償という話自体が生じにくくなります。

按分請求が向く場面・向かない場面

 もっとも、按分して請求する形は、離婚する場合や、配偶者と距離を置きたい場合には選びやすい一方、離婚せずに夫婦としてやり直す場合には、配偶者へは請求せず不貞相手にのみ請求したいという希望と両立しないことがあります。按分請求は求償を防ぐ有力な選択肢ですが、請求する側の希望や事情との兼ね合いで選べないことも珍しくありません。

一方だけに請求する場合の書面設計

二者間の示談だけでは求償を止めきれないことがある

 不貞相手だけに請求し、示談書もその不貞相手との間だけで作成した場合、その示談書は基本的に示談の当事者どうしの間でしか効力を持ちません。示談書のなかで「配偶者に求償しない」という約束をしても、配偶者がその示談の当事者になっていなければ、約束の効力が配偶者との関係にまで及ぶとは限らない場面があります。

配偶者も示談に加える、という設計

 この限界を補う設計として、配偶者も示談の当事者に加え、三者の間で合意する形があります。請求する側からみれば、当事者を増やす分だけ手続は複雑になりますが、放棄の約束を配偶者本人にも直接及ぼせるという意味では、二者間だけの示談より効果を見込みやすい設計です。三者間にするかどうかは、離婚するかどうかや、配偶者と不貞相手を同じ場に置けるかどうかによって選べるかどうかが変わります。条項の具体的な書き方や、二者間のまま同様の効果を狙う方法については、別の記事で扱っています。

場面によって選べる設計は変わる

場面選びやすい設計
離婚する予定がある配偶者にも按分して直接請求する
離婚せず不貞相手にのみ請求したい三者間の示談、または放棄条項
双方に資力の差が大きい資力のある側に多めに請求しつつ按分の形を残す
配偶者と不貞相手を同じ場に置きたくない二者間の示談+放棄条項(違反時の取り決めを併せて検討)


支払いの受け方の設計

誰から、いつ、いくら受け取ったかを残しておく

 配偶者と不貞相手の双方から支払いを受ける場合には、それぞれの支払いの時期と金額が分かる形で記録を残しておくと、あとで「もう片方がいくら払ったか」をめぐる行き違いを避けやすくなります。振込明細や領収の記録を、示談書とあわせて保管しておくことが実務上の備えになります。

先に一方が支払っていた場合の扱い

 交渉の過程で、配偶者から先に一部の支払いを受けていることもあります。その後に不貞相手へ請求する金額を決める際には、既に受け取った分を踏まえて請求額を調整しておくと、双方の負担がどのように分かれているかが書面上でも分かりやすくなります。

請求される側からみた同じ場面

 不貞相手や配偶者の側から見れば、按分して直接請求される形は、自分の負担範囲があらかじめ明確になるという利点があります。一方で、一方にまとめて請求され、あとから求償権放棄を求められる形では、放棄と引き換えに減額の余地がないかを確認する視点が生まれます。請求する側の設計は、請求される側の交渉材料とも表裏の関係にあります。

設計する際に確認しておくこと

  • 配偶者と不貞相手のどちらに、いくら請求するかをまず決めておくこと。
  • 按分請求と、一方への全額請求+書面設計のどちらが希望に合うかを整理すること。
  • 一方だけに請求する場合は、二者間の示談で足りるか、配偶者も当事者に加えるかを検討すること。
  • 支払いの記録(時期・金額・振込明細)を残しておくこと。


よくあるご質問

按分して請求すれば、求償の問題は起きなくなりますか。

 双方が自分の負担範囲内で支払っていれば、求償権が生じる前提そのものが失われるため、行使される場面は少なくなります。ただし負担割合の見方が双方で食い違うと、後から一方が「自分は負担を超えて払った」と主張する余地は残ります。

放棄条項だけで十分ではないのですか。

 放棄条項は有力な手段ですが、二者間の示談だけで完結させると、約束の効力が配偶者本人にまで及ぶとは限らない場面があります。請求の組み立て方や、配偶者を当事者に加えるかどうかとあわせて検討しておくと、設計としての厚みが増します。

すでに一方にだけ請求してしまいましたが、今から按分請求に切り替えられますか。

 既に成立した示談の内容を後から変更するのは簡単ではありません。まだ示談が成立していない段階であれば、請求の組み立て方を見直す余地がありますので、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ


  1. 求償を防ぐ設計は、書面の条項だけでなく、請求の組み立て方や支払いの受け方まで含めた複数の層で考えられる。
  2. 配偶者と不貞相手それぞれに按分して直接請求できれば、求償が生じる前提自体を減らせる。
  3. 一方だけに請求する場合、二者間の示談だけでは配偶者本人に効力が及ばないことがある。
  4. 配偶者を示談の当事者に加える三者間の設計は、二者間だけの示談より効果を見込みやすい。
  5. 離婚するかどうかや配偶者との関係によって、選びやすい設計は変わる。
  6. 支払いの時期・金額の記録を残しておくと、あとの行き違いを防ぎやすい。
  7. 既に示談が成立した後では、請求の組み立て方を変更するのは簡単ではない。


求償を防ぐ設計にお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。不倫慰謝料を請求したい方はもちろん、請求を受けている方からのご相談もお待ちしています。
 求償をめぐる不安は、請求の組み立て方の段階から見直すことで軽くできる場合があります。示談書を取り交わす前の段階でも、まずは弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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