【不貞慰謝料】支払方法と記録の残し方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

慰謝料の金額や条件がまとまると、次に決めるのは「どうやって渡すか」です。銀行振込にするのか、現金で手渡しするのか。一見すると事務的な確認にすぎないように見えますが、ここで決めたことは、後になって「支払った」「受け取っていない」という食い違いが生じたときに、手元に残る材料の差となって表れます。
 銀行振込には、当事者の間に金融機関という第三者が入るという特徴があります。そのため、支払う側が特に何もしなくても、日付と金額の記録が残ります。もっとも、そこに残るのは「どの口座からどの口座へいくら動いたか」までであり、それが何のために渡されたお金なのかまでは記録されません。
 この記事では、慰謝料の支払方法を選ぶときに何が決まるのかを整理したうえで、振込を選んだ場合に決めておきたいこと、記録として残る部分と残らない部分、受け取る側から見た注意点までを順に見ていきます。

この記事で扱うことと、扱わないこと


  • 扱うこと=支払方法ごとに何が記録として残るのか、振込先や名義の決め方、支払ったことを後から示すための備え。
  • 扱わないこと=分割払いの条件をどう組み立てるか、示談書の条項の文言、清算条項の効力、遅延損害金の起算日や利率、家族に知られないための手続上の工夫。
  • これらはそれぞれ別の記事で扱っています。本記事は「お金が動く場面そのもの」に絞って説明します。


一件の支払いは五つの要素でできている

 支払いをめぐる争いは、たいてい「渡したかどうか」という漠然とした形では起きません。争いになるのは、もっと細かい部分です。誰が支払ったのか、誰に支払ったのか、いつ支払ったのか、いくら支払ったのか、そして何の支払いとして渡されたのか。この五つのうち、どれか一つが示せないときに食い違いが生じます。
 銀行振込は、このうち四つを金融機関が自動的に記録してくれる方法です。裏を返せば、残る一つは自分で補わなければならないということでもあります。

支払いの要素振込で記録に残りやすいか示せないときに起きやすいこと
誰が支払ったか振込依頼人の表示として残る代わりに払った人がいる場合に、誰の負担で支払われたのかを説明しにくい
誰に支払ったか受取口座の名義として残る本人以外の口座へ振り込んだ場合、本人に渡ったことを別に示す必要がある
いつ支払ったか着金した日付として残る期日までに支払ったかどうかが争いになる
いくら支払ったか入出金の金額として残る手数料が差し引かれた分の不足が後から問題になる
何の支払いか記録には残らない名目や回数が複数あるとき、どれに充てられた支払いか分からなくなる


振込を選ぶときに決めておく四つのこと


どの口座に振り込むか

 振込先は、相手本人の名義の口座とは限りません。相手に代理人がついている場合には、代理人の口座を指定されることがあります。また、まれに家族名義の口座を指定されることもあります。それぞれ意味が異なるため、この点は次の章で改めて整理します。

振込依頼人の名前をどうするか

 振込の記録には、振込を依頼した人の名前が表示されます。相手の通帳や入出金明細には、この名前が並ぶことになります。金融機関によっては依頼人名を入力し直すことができますが、書面に記載した支払義務者の氏名と表示が食い違うと、後から「これは誰の支払いなのか」という疑問が生じます。本人以外の名義で振り込む予定があるなら、あらかじめ書面に書いておくほうが後の説明が簡単になります。

いつまでに着金させるか

 民法477条は、預貯金口座への払込みによる弁済は、受け取る側がその金額の払戻しを請求する権利を取得した時に効力を生じると定めています。つまり、振込の手続をした日ではなく、相手の口座に入った時点が基準になります。支払期日の当日に手続をしても、時間帯や金融機関の休業日の関係で着金が翌営業日になることがあります。期日が土日や年末年始にかかる場合の扱いを、あらかじめ決めておくと行き違いを避けられます。

手数料をどちらが負担するか

 民法485条は、弁済の費用について別段の意思表示がないときは債務者の負担とすると定めています。振込手数料もこれにあたると考えられており、特に取り決めがなければ支払う側が負担することになります。手数料を差し引いた金額を振り込むと、その差額は支払われていない部分として残ります。金額としては小さくても、支払いが完了したかどうかの評価に関わる点です。

相手本人以外の口座を指定されたとき

 支払いは、受け取る権限のある人に対してされて初めて効力を持ちます。受け取る権限がない人に渡してしまうと、原則としてもう一度支払う必要が生じます。民法478条は、受け取る権限のある人ではないものの、取引上の社会通念に照らして受け取る権限があるかのような外観を持つ人に対してした支払いについて、支払った側が善意でありかつ過失がなかったときに限り効力を認めています。逆に言えば、確認を怠ったまま振り込んだ場合には、この保護が働かないことがあるということです。

振込先の型どのような口座か確認しておきたいこと
相手本人の名義受け取る本人が名義人となっている口座書面に記載された氏名と口座名義が一致しているか
相手方代理人の口座代理人である弁護士が、預かるお金を管理するための口座代理人の口座に振り込むことが書面に書かれているか
本人以外の第三者名義家族や知人など、当事者以外の名義の口座その口座を指定する理由と、受領の権限があることを書面で確認したか


代理人の口座に振り込む場合

 相手に弁護士がついている場合、振込先として弁護士の口座を案内されることがあります。日本弁護士連合会の預り金等の取扱いに関する規程では、弁護士は預り金のみを管理する専用の口座を開設し、その口座名義に預り金口座であることを示す文字を用いることとされています。振込先の名義が相手本人の氏名ではなく事務所名などになっているのは、この仕組みによるものです。もっとも、名義が本人と異なる以上、どの案件についての支払いなのかは記録から読み取れません。書面に振込先を明記しておくことが、後から結びつける手がかりになります。

家族や知人の名義を指定された場合

 相手が自分名義の口座を使いたくない事情を抱えていることもあります。ただ、当事者ではない人の口座へ振り込むと、本人に渡ったことを示す材料が手元に残りません。この形をとるのであれば、その口座を受取口座とすることと、その口座への入金をもって支払いがあったものとする旨を、書面に書いておく必要があります。

「何の支払いか」は振込の記録には残らない

 入出金の記録に残るのは、日付、金額、そして相手方の表示だけです。慰謝料として渡したのか、貸したお金なのか、別の名目なのかは残りません。当事者の間では自明でも、時間が経つと分からなくなります。
 特に注意したいのは、支払いが複数回にわたる場合です。分割で支払っているとき、あるいは慰謝料以外の名目の支払いが混じっているときに、どの入金がどれに対応するのかを記録だけから追うのは容易ではありません。振込の記録は、書面と組み合わせて初めて意味を持ちます。次のような形で対応関係を残しておくと、後から説明しやすくなります。

  • 書面に振込先の口座と支払期日を具体的に記載しておく。
  • 振込を終えたら、明細の控えを書面と同じ場所に保管しておく。
  • 分割の場合は、何回目の支払いにあたるかを自分の記録として残しておく。
  • まとめて振り込まず、名目ごとに分けて振り込むことも検討する。


現金で手渡す場合に補っておくこと

 現金での受け渡しを選ぶ場面もあります。その日のうちに終えられること、金融機関の記録に残らないことを理由に選ばれることが多いようです。ただし、記録に残らないということは、支払った側にとっても支払いを示す材料が残らないということでもあります。第三者が自動的に記録してくれる部分がない以上、その場で補う必要があります。

  • 書面の取り交わしと現金の受け渡しを同じ場に置き、順序を先に決めておく。
  • 受け取る相手が本人であることを、その場で確認できるようにしておく。
  • 金額と日付、受け取った人の氏名が残る書面を、その場で用意しておく。
  • 落ち着いて手続ができる場所を選び、当日の段取りを事前に伝えておく。


 なお、受け取った側に発行を求める書面の法的な位置づけや、それをいつまで保管しておくのかについては、別の記事で詳しく扱っています。

相手が口座を教えない、受け取らない場合

 支払う意思があるのに、相手が振込先を知らせてくれない、あるいは受け取りを拒んでいるという状況もあります。この場合、放置していると支払いが遅れている状態が続いてしまいます。
 民法494条1項は、弁済の提供をしたのに受領を拒まれたときや、受け取ることができないときには、供託所に供託することで債務を消滅させることができると定めています。ただし、供託は要件を満たしているかどうかの判断を伴い、金額や条件について争いが残っている段階では使いにくい場面もあります。相手が受け取らない状態が続くようであれば、供託を含めてどの手段が適しているかを個別に検討することになります。

振込先を間違えてしまった場合

 口座番号の入力を誤り、意図しない相手に振り込んでしまうことがあります。この場合に使われるのが組戻しという手続で、振込を依頼した金融機関を通じて、資金を戻すよう依頼するものです。
 ここで知っておきたいのは、組戻しが依頼にとどまるという点です。金融機関の案内でも、受取人からの承諾が得られない場合には返金を行えないとされています。手数料は結果にかかわらず戻らないのが一般的です。また、金融機関から相手の氏名や住所を教えてもらうことも通常はできません。振込先の情報は、送信する前に書面と照らし合わせて確認しておくことが、いちばん手間の少ない備えになります。

受け取る側から見たときの記録


口座を伝えることで何が伝わるか

 振込先を伝えると、金融機関名、支店名、口座番号、そして口座名義が相手に伝わります。旧姓の口座や勤務先からの給与が入る口座を指定すると、そこから読み取れる情報もあります。振込先として使う口座を選ぶ余地があるかどうかは、伝える前に一度考えておきたい点です。

着金を確認する

 期日の当日に入金がなかったとしても、着金が翌営業日になっているだけということもあります。まず記帳や明細で確認し、それでも入金が確認できない場合には、いつ確認したかを自分の記録として残しておくと、後の連絡の裏づけになります。

分割で受け取る場合

 分割で受け取るときは、入金のたびに何回目にあたるかを記録しておくと、途中で滞りが生じたときに残額を示しやすくなります。入金額が取り決めた額と異なる場合も、その事実を記録に残しておきます。

受け取った旨の書面を求められたとき

 受け取った事実を書面にすることを求められることがあります。受け取った金額と日付を書いた書面を渡しても、それによって請求できる範囲が狭まるわけではありません。何についての支払いを受けたのかを書面上で特定しておくことは、受け取る側にとっても意味があります。

支払方法を決める前に整理しておきたいこと


  1. 振込にするか現金にするかを、記録として何を残したいかという観点から選ぶ。
  2. 振込先の口座を、金融機関名から口座名義まで書面に書き込む。
  3. 支払期日が金融機関の休業日にあたる場合の扱いを決めておく。
  4. 振込手数料をどちらが負担するかを決めておく。
  5. 振込依頼人の名前をどうするかを決め、書面上の氏名と食い違う場合はその旨を書いておく。
  6. 複数回に分けて支払う場合は、どの支払いがどれにあたるかを記録できる形にしておく。
  7. 書面の取り交わしと支払いの前後関係を、あらかじめ決めておく。


よくあるご質問


振込人の名前を別の名前にしてもよいですか

 金融機関によっては、振込依頼人の名前を入力し直すことができます。ただし、書面に記載された支払義務者の氏名と表示が異なると、その支払いが誰の負担で行われたものかを別に説明する必要が生じます。事情があってそうする場合は、あらかじめ相手方に伝え、書面に記載しておくことをおすすめします。

手数料が引かれた金額が入金されていました

 取り決めがなく、支払う側が手数料を負担することになっている場合、差し引かれた分は支払われていない部分として残ります。金額が小さくても未払いが残った状態になりますので、気づいた時点で不足分を精算しておくほうが、後の行き違いを避けられます。

支払期日が土日にあたるときはどうなりますか

 取り決めがなければ、着金が期日を過ぎてしまうおそれがあります。翌営業日に繰り下げるのか、前営業日に繰り上げるのかを書面で決めておくのが一般的です。決め方に定まった形はありませんので、どちらにするかを合意しておくことが大切です。

まとめ


  1. 支払いは「誰が・誰に・いつ・いくら・何として」の五つの要素からなり、争いはこのいずれかを示せないときに生じる。
  2. 振込は四つを金融機関が記録してくれるが、「何の支払いか」だけは残らない。
  3. 振込先は本人名義とは限らず、代理人の口座や第三者名義の口座を指定されることがある。
  4. 受け取る権限のない人への支払いは、原則として効力を持たない。
  5. 振込の効力が生じるのは手続をした時点ではなく、相手の口座に入った時点である。
  6. 振込手数料は、取り決めがなければ支払う側の負担となる。
  7. 現金で渡す場合は、記録が自動的に残らないため、その場で書面を整える必要がある。
  8. 振込先を誤った場合の組戻しは、受け取った側の承諾がなければ成立しない。
  9. 受け取る側も、着金の確認と入金の記録を自分の側に残しておく。


慰謝料の支払方法についてお困りの方へ

 支払方法は、金額が決まった後の細かい手続に見えて、実際には「支払いが終わったと言えるかどうか」を左右する部分です。振込先の名義が本人と異なる、相手が口座を知らせてくれない、期日までに着金するか不安がある。こうした場面では、書面にどこまで書き込んでおくかによって、後の負担が変わってきます。
 弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求する立場の方からも、請求を受けた立場の方からも、支払いや受け取りの場面についてのご相談をお受けしています。書面の内容と支払いの段取りをあわせて確認したいという方は、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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