【不貞慰謝料】W不倫(ダブル不倫)の四者関係を整理する

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞が分かり、その相手も既婚者だったと知ったとき、最初に行き詰まるのは金額の話ではないことが多いようです。「自分は誰に何を言える立場なのか」「相手の配偶者は自分に何か言ってくるのか」といった、関係そのものが見えないところで止まってしまいます。

 いわゆるW不倫(ダブル不倫)では、関わる人が四人になります。四人が一つの輪の中にいるように見えるため、「お互い様だから帳消しになるのではないか」「四人で集まって話をつければ終わるのではないか」という発想が出てきやすいのですが、法律上の関係はそのようにはできていません。

 この記事では、金額の目安や交渉の進め方ではなく、四人の間にどのような線が引かれているのかという地図の部分だけを取り出して整理します。順序としては、まず線を引き分け、次に線ごとに誰が決められるのかを確かめ、最後に線をまたいで動くものを押さえる、という三段階で見ていきます。

「四者関係」という言葉が指しているもの

 W不倫・ダブル不倫は法律上の用語ではありません。不貞に及んだ二人がどちらも婚姻している状態を指す日常語で、条文にこの言葉が置かれているわけではないため、W不倫だから適用される特別なルールがあるわけでもありません。

 この状況の特徴は、人数が四人に増えたことそのものではなく、傷ついた家庭が二つあるという点にあります。一方の家庭に生じた損害と、他方の家庭に生じた損害は、法律の上では別々のものとして扱われます。四人が一つの出来事を分け合っているのではなく、性質の似た二つの出来事が、同じ二人を挟んで並んで走っている、という見方のほうが実態に近いといえます。

呼び方をそろえておく

 以下では、不貞に及んだ二人をAさん・Bさんとし、それぞれの配偶者を「Aさんの配偶者」「Bさんの配偶者」と呼びます。読者の方がこの四人のどこに当てはまるかは、状況によって異なります。ご自身がAさんの位置なのか、Aさんの配偶者の位置なのかを置きながら読み進めていただくと、見通しが立ちやすくなります。

四人の間に引ける線を数える

 四人がいる以上、線は何本でも引けそうに思えますが、実際に法律上の意味を持つ線は限られています。整理すると次のようになります。

請求する側請求を向ける相手何についての線か
Aさんの配偶者Bさん(不貞相手)Aさんの家庭に生じた損害
Aさんの配偶者Aさん(自分の配偶者)①と同じ損害
Bさんの配偶者Aさん(不貞相手)Bさんの家庭に生じた損害
Bさんの配偶者Bさん(自分の配偶者)③と同じ損害
①②について支払った側もう一方の当事者支払った後の当事者間の精算
③④について支払った側もう一方の当事者支払った後の当事者間の精算


 ①と②は、一つの損害について請求先が二人いる、という関係です。不貞は不貞をした配偶者と不貞相手が共同して行った不法行為と評価されるため、被害を受けた側はどちらにも請求できます(民法709条、710条、719条1項)。ただし請求先が二人いることと、受け取れる金額が二倍になることは別で、二人分を合計すれば二倍になるという性質のものではありません。③と④の関係も同じです。

 これに対して、①②のグループと③④のグループは、別々の損害についての線です。同じ四人が登場していても、法律上は一本につながっていません。⑤⑥は支払った当事者どうしの精算にあたる線で、いわゆる求償の問題です。この点は当事務所の求償権に関する記事で扱っていますので、ここでは線が二本ある、という事実の確認にとどめます。

被害を受けた二人の間には、線がない

 表を眺めると気づくことがあります。Aさんの配偶者とBさんの配偶者は、どの線でも直接向き合っていません。二人はそれぞれ別の家庭の被害者であって、互いに何かを請求し合う関係にはないのです。

 「お互い請求できるのだから差し引きゼロになるはずだ」という感覚が実際の手続と噛み合わないことがあるのは、ここに理由があります。請求している人と請求されている人の組み合わせが、線ごとに違うからです。差引きや相互に請求しない旨の取り決めについては、当事務所の別記事で詳しく扱っています。

一人の人が、線ごとに違う立場に立つ

 もう一つ見落とされやすいのが、同じ人物でも、どの線の話をしているかによって立場が変わるという点です。

 Aさんは、②では自分の配偶者に対して責任を問われる側に立ち、③ではBさんの配偶者に対しても責任を問われる側に立ちます。二本の線の上で、それぞれ別の損害について責任を負う可能性がある、ということになります。一方でAさんの配偶者は、①②では請求できる側ですが、③④にはまったく登場しません。

 「相手も同じことをしているのだから、こちらの責任も軽くなるはずだ」という言い分が法律上そのまま通りにくいのは、この構造によるものです。Aさんの家庭で生じた損害を検討する場面に、Bさんの家庭の事情は原則として持ち込まれません。もっとも、交渉の場では双方が同じ立場にあることが事実上の材料として働くこともあります。金額を左右する事情そのものについては、当事務所の増額・減額に関する記事をご覧ください。

決められるのは、自分が当事者になっている線だけ

 四者関係を整理するうえで、実務上もっとも影響が大きいのがこの点です。慰謝料を請求する権利は、被害を受けた本人に帰属します。夫婦であっても、配偶者の権利を代わりに行使したり、代わりに手放したりすることは当然にはできません。

 このことから、次のようなことが導かれます。

  • 自分の配偶者に対して「相手方に請求しないでほしい」と求めても、法律上それを義務づけることはできない。
  • 逆に「請求してほしい」と求めても、同じく強制はできない。
  • 四人が互いに請求しないという形で収めるには、四人それぞれの同意が要る。
  • 一人でも考えが変われば、その前提は崩れる。


 四者での話し合いが検討されること自体は珍しくありませんが、それは四人全員がその内容でよいと考えた場合に成り立つ整理であって、誰かが「こちらは離婚するのだから同じ扱いでは納得できない」と述べれば、そこで前提が変わります。四者での解決は制度として用意されたものではなく、四人分の合意を積み上げた結果として現れるもの、と捉えておくほうが実際に近いといえます。

同じ家庭の中でも意見が割れることがある

 夫婦であれば方針が一致するとは限りません。一方は静かに終わらせたいと考え、他方は相手方に対してきちんと責任を問いたいと考える、という食い違いは起こり得ます。四者関係を考えるときは、対立が二つの家庭の間にだけ存在すると想定せず、家庭の内側にも判断の分かれ目があることを前提に置いておくと、話が進みやすくなります。

線をまたいで動くもの

 ①②のグループと③④のグループは別の線だと述べましたが、まったく無関係に進むわけではありません。線を越えて移動するものが三つあります。

動くものどのように動くか留意しておきたいこと
情報一方の線でやり取りした書面や資料が、他方の線に伝わることがある作成した時点で用途を限定しておくことは難しい
お金同じ損害の線の中では支払いが効くが、別の損害の線には及ばない支払ったのに終わらない、という受け止めが生じやすい
時間時効の進み方は請求する人ごとに別々に始まる一方の家庭で時間が進んでいても、他方はまだ始まっていないことがある


情報

 自分の配偶者に宛てて書いた謝罪文や念書、話し合いの中で示した資料は、その線の中だけで完結するとは限りません。もう一方の家庭で争いになったときに、事実を裏づける材料として持ち出される可能性があります。書面を作る場面では、その紙が最終的に誰の目に触れ得るのかを考えておく必要があります。書面の証拠としての意味については、当事務所の念書・謝罪文に関する記事で詳しく整理しています。

お金

 ①と②は同じ損害についての線ですから、Bさんが①について支払えば、その分は②の側でも考慮されます。しかし、その支払いは③④のグループには影響しません。Aさんが自分の配偶者との間で解決したとしても、それによってBさんの配偶者からの請求が当然に消えるわけではない、ということです。「一度払ったのに、また別のところから請求が来た」と感じられる場面の多くは、線が別だったことによります。

時間

 不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかるとされています(民法724条)。ここで起算点となるのはそれぞれの被害者が知った時ですから、Aさんの配偶者が知った日とBさんの配偶者が知った日は一致しません。片方の家庭では期限が迫っている一方で、もう片方ではまだ発覚してすらいない、という時間差が生じることがあります。時効の数え方や止め方については、当事務所の時効に関する記事をご参照ください。

手続の上でも、四人が一つの場に集まるとは限らない

 話し合いで解決しない場合、四人分の争いが一度に裁判所で整理されるようなイメージを持たれることがありますが、そうなるとは限りません。

訴えられた人が、その場でやり返せるとは限らない

 訴えられた被告が、同じ裁判の中で原告に対して請求を起こすことを反訴といいます(民事訴訟法146条1項)。反訴は、被告が原告に対して起こすものです。

 ところがW不倫では、Bさんの配偶者から訴えられているのはAさんであり、Bさんの配偶者に対して請求できる立場にあるのはAさんではなくAさんの配偶者です。請求を受けている人と、反対に請求できる人が、同じではありません。そのため、こちらからも請求したいという場合は反訴という形にはならず、Aさんの配偶者が別に手続を起こすことになります。結果として、二つの争いが別の事件として、別の期日で進むことがあります。

合意は、当事者を選んで作るもの

 示談書や合意書の効力は、その書面に当事者として名を連ねた人の間に及ぶのが基本です。四人の関係をまとめて終わらせたいのであれば、四人が当事者として関わる形にしておく必要があります。どの範囲まで清算したことになるのかという点は条項の書き方に左右されますので、当事務所の示談書の条項に関する記事とあわせてご確認ください。

代理人も、四人分をまとめて立てることはできない

 あまり案内されていませんが、実務上早い段階でぶつかるのがこの問題です。弁護士は、依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件については職務を行ってはならないとされています(弁護士職務基本規程28条3号)。同意があれば禁止が解かれる場合もありますが、利害の対立が現実のものになった後は、そのまま続けることが難しくなります。

 また、複数の依頼者があって相互に利害が対立するおそれがあるときは、受任にあたって辞任の可能性などを説明しなければならないとされ(同32条)、受任後に現実に対立が生じたときは、速やかに事情を伝えて辞任その他の措置を採らなければならないとされています(同42条)。この制限は、同じ事務所に所属する他の弁護士にも及びます(同57条)。

夫婦がそろって相談する場合

 不貞をした側とその配偶者が一緒に相談に来られることがあります。相手方への対応という点で足並みがそろっている間は問題が表に出ませんが、その後に夫婦間で離婚や慰謝料が争点になれば、二人の利害は正面から対立します。そうなった時点で、どちらか一方の代理人を続けることが難しくなる可能性があります。

不貞をした二人がそろって相談する場合

 AさんとBさんが一緒に相談されることもあります。相手方の請求に対して同じ主張をしている間は共通の利益がありますが、支払いの分担や当事者間の精算が問題になれば、二人は互いに向き合う立場になります。前掲の表でいえば、⑤⑥の線が現れる場面です。

相談の予約の段階で断られることがある理由

 同じ事務所がすでに他の当事者から相談を受けている場合、後から来られた方の相談をお受けできないことがあります。このとき、弁護士には守秘義務があるため、お断りする具体的な理由を説明できないことがあります。不親切に感じられるかもしれませんが、先に相談された方の利益を守るための取扱いです。W不倫では当事者が四人いる分、この場面に当たる確率が通常より高くなります。早めに相談先を確保しておく意味は、ここにもあります。

動き出す前に整理しておきたいこと

 最後に、立場ごとに確認しておきたい点をまとめます。

請求を考えている側


  • 自分が当事者になっている線がどれなのかを確かめる。
  • 相手方の家庭の事情は、自分の線の判断材料としては働きにくいことを前提に置く。
  • 自分の配偶者が別の線でどう動くかは、自分では決められないと理解しておく。
  • 請求を始めると、その情報がもう一方の家庭に伝わる可能性があることを想定しておく。


請求を受けた側


  • 届いた書面が、どの線についての請求なのかを確認する。
  • その線での支払いが、別の線の請求まで終わらせるものではないことを踏まえる。
  • その場で認める内容や書面に署名することが、他方の線に影響し得ることを意識する。
  • 「相手も同じことをしている」という事情が、そのまま反論として働くとは限らない。


双方に共通すること


  • やり取りの記録は、消したり整理したりせずそのまま残しておく。
  • 四人での取りまとめを目指す場合でも、全員の同意が要る前提で組み立てる。
  • 時間の進み方は線ごとに違うため、自分の線の期限を早い段階で確かめておく。
  • 相談先の確保は、利害の重なりを考えると先送りしにくい。


ご相談について

 W不倫と呼ばれる状況では、登場人物が多いこと以上に、どの線について話しているのかが途中で入れ替わってしまうことが混乱の原因になります。金額の見通しを立てる前に、自分がどの線の当事者で、何を自分で決められるのかを整理しておくと、その後の判断が落ち着いて進められます。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求したい方と、請求を受けた方の双方からご相談をお受けしています。ご自身の状況がどの位置にあるのか、いま何を決める必要があり、何は決めなくてよいのかという段階からご相談いただけます。お一人で線を引き直そうとされる前に、まずは状況をお聞かせください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼