内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきこと
慰謝料の支払いを命じる判決を得ても、相手方が自分から振り込んでこないことがあります。判決書には振込先も支払期日も書かれていないことが多く、待っていれば裁判所が動いてくれるのか、こちらから何かを起こす必要があるのかが分からないまま、時間だけが過ぎてしまう場面です。
この記事では、判決を得たのに支払いがない状態に置かれた方に向けて、判決という書面で何ができて、何ができないのかを整理します。あわせて、動き出す前に確かめておきたい点と、判決を得た後に進む時間の管理について説明します。
差押えの手続がどのように進むか、給与のどこまでを押さえられるか、相手方の財産をどう調べるか、相手方に資力がない場合に何ができるか、自己破産をされた場合にどうなるかは、それぞれ別の記事で扱っています。本記事は、判決を手にしてから強制執行を申し立てるまでの間に絞って述べます。
この記事で整理すること
- 判決で手に入るものと、手に入らないもの。
- 手元の判決が今どの状態にあるのかの見分け方。
- 確定を待たずに動く場合に伴う負担。
- 支払いを促す手段として使えないもの。
- 判決を得た後に進む時間の管理。
判決で手に入るのは支払いそのものではない
判決の主文には「被告は、原告に対し、金○○円を支払え」といった一文が置かれます。もっとも、この一文があるからといって、その金額が自動的に振り込まれるわけではありません。判決によって得られるのは、相手方が支払わない場合に国の手続を使って相手方の財産から回収することを求められる立場です。支払いそのものとは、一段階の隔たりがあります。
裁判所は判決の後に自分から動くわけではない
民事執行法2条は、民事執行は申立てにより裁判所または執行官が行うと定めています。判決を出した裁判所が、その後の支払状況を確かめたり、相手方に催促をしたりする仕組みは置かれていません。支払いがないという事実を裁判所が知る機会もないため、次に動くかどうかは判決を得た側の判断に委ねられていることになります。
支払わないこと自体に刑罰が科されるわけではない
判決に従わずに支払いをしない状態は、それ自体が犯罪として処罰される性質のものではありません。相手方が身柄を拘束されることを見込んで待つ、という前提は成り立たないことになります。他方で、支払義務がなくなるわけでもなく、遅延損害金は時間の経過とともに加算されていきます。
まず確かめたいのは、手元の判決がどの状態にあるか
| 判決の状態 | 強制執行との関係 | 注意しておきたい点 |
|---|---|---|
| 確定した判決 | 債務名義として使える | 確定証明書の交付を受けておく必要がある |
| 仮執行の宣言が付き、控訴された判決 | 確定を待たずに使える | 後の判断で結論が変われば返還の問題が生じる |
| 仮執行の宣言がなく、控訴された判決 | 確定するまで使えない | 控訴審の結論を待つことになる |
| 判決に代えて成立した和解調書など | 債務名義として使える | 条項の書き方によって使える範囲が変わる |
控訴ができる期間は2週間
控訴は、判決書などの送達を受けた日から2週間の不変期間内に提起しなければならないとされています(民事訴訟法285条)。この期間内に控訴がされなければ、判決は確定します(同法116条1項)。言渡しを受けた直後の時点では、まだ確定していないのが通常です。「判決が出た」ことと「判決が確定した」ことは、同じではありません。
仮執行の宣言があれば、確定を待たずに動かせる
財産権上の請求に関する判決には、仮に執行することができる旨の宣言が付されることがあります(民事訴訟法259条1項)。この宣言は判決の主文に掲げられ(同条4項)、宣言が付いていれば、確定していない判決も債務名義になります(民事執行法22条2号)。手元の判決書の主文の末尾を読むと、この宣言があるかどうかが分かります。
確定を待たずに動く場合に伴うもの
後の判断で結論が変われば、返還の問題が生じる
仮執行の宣言は、その宣言または本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度でその効力を失います(民事訴訟法260条1項)。そして本案判決が変更される場合、裁判所は被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づいて被告が給付したものの返還などを原告に命じなければならないとされています(同条2項)。回収した金銭をそのまま使ってしまうと、後の段階で対応に困ることがあります。
相手方の側から止められる場面もある
担保を立てて仮執行を免れることができる旨の宣言が付されている場合や(民事訴訟法259条3項)、上級審で執行を止める裁判を得て、その正本が提出された場合には、手続が停止することがあります(民事執行法39条1項)。控訴されている状況で動き出すときは、一度始めた手続が途中で止まる可能性も見込んでおくことになります。
支払いを促す手段として使えないもの
判決の後、相手方に支払いを促したいと考えたときに、制度としては用意されていない手段があります。あらかじめ知っておくと、期待の置きどころを誤らずに済みます。
金銭の支払いには、間接強制が原則として使えない
間接強制は、履行しない場合に一定額の金銭を支払うよう命じることで、履行を促す方法です。もっとも、これは作為または不作為を目的とする債務についての規定であり(民事執行法172条1項)、金銭の支払いを目的とする債権については、原則として用いることができないと解されています。例外は、夫婦の協力扶助、婚姻費用の分担、子の監護、親族間の扶養といった義務に係る金銭債権に限られています(同法167条の15第1項、151条の2第1項各号)。慰謝料はこの例外に含まれないため、支払わないこと自体に金銭的な負担を上乗せして促す方法は用意されていないことになります。
家庭裁判所の履行勧告も、この場面では使えない
家庭裁判所で決まった調停や審判などの取決めが守られない場合には、家庭裁判所に申し出て、相手方に取決めを守るよう説得や勧告をしてもらう制度があります。もっとも、これは家庭裁判所の手続で決まった事項についての仕組みであり、地方裁判所の判決で決まった慰謝料の支払いには及びません。なお、この制度によっても、勧告に応じない相手方に支払いを強制することはできないとされています。
判決書を持っているだけでは、手続の入口に立てない
強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施されます(民事執行法25条本文)。また、債務名義の正本などが、あらかじめ、または同時に相手方へ送達されていなければ、開始することができません(同法29条)。
判決を受け取った段階では、これらがそろっていないことがあります。判決書が手元にあるのに手続が進まない、という行き違いは、この点の確認が抜けていることから生じます。申立ての具体的な手順や必要書類は別の記事に譲りますが、判決正本のほかに用意すべき書面があるという点は、早い段階で押さえておきたいところです。
確定証明書は、判決正本とは別に交付を受ける
仮執行の宣言が付いていない判決を使う場合には、その判決が確定していることを示す書面が必要になります。これは判決正本とは別の書面で、判決を出した裁判所に申請して交付を受けます。判決書が送られてきた時点で自動的に同封されているものではないため、控訴期間の経過を待って手続を進めるつもりであれば、この点も予定に入れておくことになります。
判決を得た後にも、進んでいく時間がある
確定判決や、確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、消滅時効期間は10年とされています(民法169条1項)。判決を得たことで、期間の点は当面落ち着くことになります。
もっとも、10年という期間は長いようでいて、相手方の状況が整うのを待っているうちに過ぎてしまうことがあります。動かないまま置いておくと、権利がそのまま残り続けるわけではない、という点は意識しておく必要があります。
| 進めた手続 | 時効との関係 | 注意しておきたい点 |
|---|---|---|
| 強制執行の申立て | 手続が終了するまで完成が猶予され、終了した時から新たに進行する | 申立てを取り下げた場合は更新の効力が生じない |
| 財産開示手続や第三者からの情報取得手続 | 同じく完成猶予と更新の対象とされている | いずれも債務名義があることが前提となる |
空振りに終わった場合の扱い
差し押さえるべき財産が見つからず、申立てを取り下げて終わることもあります。この場合、時効の更新の効力は生じないものの、終了の時から6か月を経過するまでの間は完成が猶予されるとされています(民法148条1項括弧書き、2項ただし書)。どのような形で手続が終わったかによって、その後に残る時間の長さが変わってきます。
待っている間に変わっていくもの
時間の経過で動くのは期間の計算だけではありません。相手方が転居して住所が変わる、勤務先を離れる、口座を整理するといった変化があると、以前に把握していた情報がそのままでは使えなくなります。判決の直後に分かっていたことほど、後になるほど確かめ直す手間が増えていきます。
支払いを待つという判断自体は不合理ではありませんが、待つのであれば、いつまで待つのかをあらかじめ決めておくほうが、後から取れる手が狭まりにくくなります。
判決の後でも、話し合いの余地は残る
判決で金額が決まった後に、当事者の間で支払方法を改めて取り決めること自体は妨げられません。一括では難しい相手方との間で分割の取決めをする、一定額の支払いと引き換えに残りを求めない、といった選択があり得ます。手続の費用や労力を考えると、この道を選ぶことが結果として早いこともあります。
ただし、話し合いをしても判決そのものが消えるわけではありません。取決めをする場合には、取決めどおりの支払いがされたときに何が終わるのかを書面に残しておくことになります。条件の組み立て方や条項の書き方は、別の記事で扱っています。
支払いを求められている側から見ると
- 判決が確定していない段階でも、仮執行の宣言が付いていれば手続が進むことがある。
- 控訴を検討する場合、期間は判決書などの送達を受けた日から2週間である。
- 支払う意思がある場合は、振込先と時期を早めに伝えておくことで差押えに至らずに済むことがある。
- 支払いが難しい事情があるときも、連絡をしないまま置いておくと遅延損害金だけが積み上がっていく。
よくあるご質問
判決は出ましたが、相手方と連絡が取れません
連絡が取れないことによって判決が使えなくなるわけではありません。ただし、送達や申立ての段階で相手方の住所を明らかにする必要が生じます。転居している場合や所在が分からない場合の対応は、別の記事で扱っています。
相手方に財産がなさそうです。判決を得た意味はありますか
現時点で見当たらないことと、この先も回収できないことは同じではありません。就職や転職、預貯金の動きによって状況が変わることもあります。他方で、待っている間に費用や手間がかかり続ける面もありますので、どこまで手を尽くすかは、見込みと負担を並べて考えることになります。
判決の後になって「払えない」と言われました
判決が出た後に支払いが難しいと伝えられる場面もあります。その申し出を受け入れるかどうかは、相手方の状況をどう見るか、手続を進めた場合にどれだけ回収できそうかによって変わってきます。分割の取決めをする場合の条件の決め方や、資力が乏しい相手方に対して取り得る手立ては、別の記事で扱っています。
判決に書かれた金額を、そのまま受け取れるのでしょうか
判決に付された遅延損害金は加算されていく一方で、手続を進めるための費用は先に支出することになります。また、差し押さえた財産の中身によっては、回収できる額が判決の金額に届かないこともあります。判決の金額と、最終的に手元に残る額とは、分けて考えておくほうが見通しを立てやすくなります。
まとめ
- 判決で得られるのは、国の手続を使って回収を求められる立場であり、支払いそのものではない。
- 民事執行は申立てにより行われ、裁判所が判決の後に自ら動くことはない(民事執行法2条)。
- 支払わないこと自体が処罰される性質のものではない一方、遅延損害金は加算されていく。
- 控訴は判決書などの送達を受けた日から2週間の不変期間内に提起する必要がある(民事訴訟法285条)。
- 仮執行の宣言が付いていれば、確定を待たずに債務名義として使える(民事訴訟法259条1項、民事執行法22条2号)。
- 確定前に動く場合、後に本案判決が変更されれば返還を命じられることがある(民事訴訟法260条)。
- 金銭の支払いについては、間接強制は原則として用いることができない(民事執行法172条1項、167条の15第1項)。
- 家庭裁判所の履行勧告は、地方裁判所の判決で決まった慰謝料には及ばない。
- 強制執行には執行文の付された正本と、相手方への送達が必要になる(民事執行法25条、29条)。
- 判決で確定した権利の消滅時効期間は10年とされるが、手続の終わり方によって残る時間が変わる(民法169条1項、148条)。
ご相談について
判決を得た後の場面では、いま手元にある書面がどの状態にあるのかを確かめることが出発点になります。確定しているのか、仮執行の宣言が付いているのか、必要な書面がそろっているのか。ここが定まらないまま動くと、費用と時間だけが先に出ていくことがあります。
当事務所では、判決を得た後の回収に関するご相談もお受けしています。判決書と、これまでのやり取りの記録をお手元にご用意いただけますと、次に取り得る手立てを具体的にご説明しやすくなります。お一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


