慰謝料が高くなりやすい事情の一覧|増額要素とその理由
「不貞が発覚してから解決までに、何がどの順番で進むのか」。請求する立場でも、請求を受けた立場でも、最初に知りたいのはこの全体像ではないでしょうか。相場・証拠・時効といった個別の論点を調べても、自分が今どこにいて、次に何が起きるのかは見えにくいものです。この記事では、不貞慰謝料の手続を5つの段階に分けたうえで、各段階で何が決まるのか、どこに引き返しにくい分岐点があるのかを、請求する側と請求された側の双方の視点から整理します。
不貞慰謝料の手続は大きく5つの段階に分かれる
不貞慰謝料は、民法709条・710条に基づく損害賠償請求です。専用の申立手続が用意されているわけではなく、当事者間の話し合いから始まり、まとまらなければ裁判所の手続に移る、という流れをたどります。大づかみにすると、次のような段階になります。
| 段階 | その段階で決まること | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ①発覚と事実の確認 | 何があったのか、証拠として何が残っているか | 数日〜数か月 |
| ②請求先と方針の決定 | 誰に、どのような手段で求めるか | 数日〜数週間 |
| ③書面での請求と交渉 | 支払の有無・金額・条件の大枠 | 1か月〜数か月 |
| ④示談書の作成 | 合意内容の確定と、後日の蒸し返しの防止 | 数日〜数週間 |
| ⑤訴訟と回収 | 裁判所の判断と、実際の支払 | 半年から1年以上に及ぶこともある |
期間はあくまで一般的な目安です。交渉で早期にまとまる事案もあれば、相手方の氏名や住所が分からず①や②で長く止まる事案もあります。
段階ごとに何が起きるのか
①発覚と事実の確認
最初に必要なのは、感情に任せた行動ではなく、事実と記録の確認です。慰謝料の対象になるのは原則として性的な関係を伴う不貞行為であり、それを示す責任は請求する側にあります。やり取りの画面や写真は、日時と相手が分かる形で早めに保存しておくことが考えられます。
請求を受ける可能性がある側にとっても、この段階の意味は変わりません。自分に有利な事情(既婚だと知らされていなかった、関係が始まった時点ですでに別居していた、など)を示す記録も、消してしまえば後から出せなくなります。認めるか否定するかの返答を急ぐより、まず記録を残すという順序になります。
②請求先と方針の決定
不貞慰謝料は、配偶者と不貞相手の双方に請求できるのが原則です。両者は共同不法行為者(民法719条1項)として、それぞれが全額の支払義務を負う一方、同じ損害について二重に受け取ることはできません。一方が支払えば、その分だけもう一方の義務も消えます。誰に、どの順番で求めるかによって、その後の交渉の形が変わってきます。
あわせて確認しておきたいのが時効です。損害及び加害者を知った時から3年、不貞行為の時から20年という2つの期間があり(民法724条)、早い方の経過によって請求が難しくなります。
③書面での請求と交渉
方針が決まったら、書面で請求するのが一般的です。内容証明郵便がよく使われますが、これは「いつ、誰が、どのような内容の書面を出したか」を郵便局が証明する制度であって、請求内容が正しいことを証明するものではありません。実務上の意味は、請求した事実と到達の時期(民法97条1項)を残せる点と、催告として時効の完成を6か月間猶予できる点(民法150条1項)にあります。
請求された側から見ると、書面に記載された回答期限は、相手方が設定した希望の期限であって、法律上の期限ではありません。ただし、放置すれば訴訟に移行する可能性は高まります。「期限までに満額を支払う」か「無視する」かの二択ではなく、期限内に検討中である旨を伝えたうえで内容を精査するという対応の幅があります。
④示談書の作成
金額と条件がまとまったら、内容を書面にします。実務で問題になりやすいのは、支払方法(一括か分割か)、清算条項、求償権の扱い、接触禁止や口外禁止といった付随条項です。とくに清算条項は、その示談で紛争を終わらせるための条項である反面、後から事情が変わっても原則として追加の請求ができなくなります。条項の意味を確認しないまま署名することは避けたいところです。
⑤訴訟と回収
交渉がまとまらない場合、裁判所の手続に移ります。請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、これを超えるときは地方裁判所が窓口です。訴状が届いた側は、指定された期限までに答弁書を提出します。答弁書を出しておけば、第1回の期日に出頭できなくても、その内容を陳述したものとして扱われます(民事訴訟法158条)。反対に、答弁書も出さず出頭もしない場合には、相手方の主張を認めたものとみなされ(同法159条3項)、早い段階で判決に至ることがあります。
審理が始まると、期日はおおむね1か月から2か月ごとに開かれ、第一審の判決までに1年程度を要することもあります。もっとも実務では、判決に至る前に裁判上の和解で終わる事案が少なくありません。和解調書や確定判決は、支払がされないときに給与や預貯金の差押えを求める根拠になります。
訴訟のほかにどのような手続があるのか
「裁判」と一口にいっても、内容の異なる手続が並んでいます。配偶者との間では、離婚に関する話し合いや家庭裁判所の調停の中で、慰謝料を含めて協議されることがあります。一方、不貞相手に対する請求は、通常の民事訴訟として地方裁判所または簡易裁判所で扱われるのが一般的です。
金銭の支払を求める手続としては支払督促もありますが、これは相手方から異議が出れば通常の訴訟に移行します(民事訴訟法395条)。金額そのものに争いが生じやすい不貞慰謝料では、結局は訴訟で争うことになりやすいため、選択されにくい手続といえます。どの手続を選ぶかは、争点が事実関係にあるのか金額にあるのかによって変わってきます。
引き返しにくい分岐点はどこにあるのか
流れの中で見落とされやすいのが、その場では小さな対応に見えても、後から取り消しにくい場面が点在していることです。
| 場面 | その後に生じ得ること |
|---|---|
| 話し合いの中で不貞を認める発言をした | 認めた内容が記録として残り、後から覆すには相応の説明が必要になる |
| 請求額の一部を支払った | 支払義務を認めたと評価され、時効が更新されることがある(民法152条1項) |
| 清算条項のある示談書に署名した | その示談で解決したものとして、追加の請求や主張が難しくなる |
| 答弁書を出さないまま第1回期日を欠席した | 相手方の主張を認めたものとみなされ、判決に至ることがある(民事訴訟法159条3項) |
| 時効期間の経過後に支払や支払の約束をした | その後に時効を主張することが認められなくなる場合がある |
| 判決正本の送達から2週間が過ぎた | 判決の内容が確定し、不服を申し立てられなくなる(民事訴訟法285条) |
いずれも、その時点では相手を落ち着かせるための対応や、単なる先延ばしに見えるものばかりです。判断に迷う場面が来たときは、返答する前に確認の時間を取るという選択肢があります。
「かかる時間」と「守るべき期限」は別のもの
解決までの期間はケースによって幅がありますが、見通しとしての期間と、法律上の期限とは分けて考える必要があります。前者は事情に応じて動きますが、後者は原則として動きません。
| 期限 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 3年 | 損害及び加害者を知った時から | 民法724条1号 |
| 20年 | 不貞行為の時から | 民法724条2号 |
| 6か月 | 催告による時効の完成猶予 | 民法150条1項 |
| 婚姻解消から6か月 | 配偶者に対する権利は時効が完成しない | 民法159条 |
| 裁判所が定める期限 | 答弁書の提出 | 民事訴訟法162条 |
| 2週間 | 判決に対する控訴 | 民事訴訟法285条 |
交渉が長引いているうちに時効の期間が迫る、という事態は起こり得ます。請求する側は完成猶予の手段を、請求された側は起算点がいつになるのかを、それぞれ早い段階で確認しておくと判断がしやすくなります。
話し合いでしか決められないこと
裁判で決まるのは、基本的に金銭の支払とその遅延損害金です。これに対し、話し合いであれば次のような条件も合意の対象にできます。
- 分割払いの回数や毎月の金額、支払の期限。
- 今後は連絡や接触をしないという約束。
- 第三者に口外しないという約束。
- 求償権を行使しないという取り決め。
交渉での解決が選ばれることが多いのは、金額の点だけでなく、こうした条件を含めて一度に整理できるためでもあります。
立場別に、いま確認しておきたいこと
請求する側
- 性的な関係を示す記録が、日時と相手が分かる形で残っているか。
- 相手方の氏名と住所を把握しているか。分からないままでは交渉も訴訟も進みません。
- 不貞を知った時期がいつで、3年の期間がどれだけ残っているか。
- 配偶者と不貞相手のどちらに、どの順番で請求するか。
請求された側
- 請求書に書かれた事実に、誤りや過大な部分がないか。
- 請求額と、支払義務のある金額は別のものであること。
- 記録を自分から削除しないこと。有利な事情の裏づけも一緒に失われます。
- 回答期限までに認否を確定させず、検討の時間を確保する方法があること。
まとめ
- 不貞慰謝料は民法709条・710条に基づく損害賠償で、手続はおおむね5つの段階に分かれます。
- 段階ごとに決まる事柄が異なり、進むほど選べる選択肢は狭くなっていきます。
- 不貞を認める発言、一部の支払、清算条項への署名、答弁書の不提出は、引き返しにくい分岐点です。
- 解決までの期間の見通しと、時効や控訴期間といった法律上の期限は、分けて管理します。
- 分割払いや接触禁止といった条件は、話し合いの中でこそ整理できます。
- 迷う場面では、返答する前に内容を確認する時間を取るという選択肢があります。
不貞慰謝料についてお悩みの方へ
不貞慰謝料は、どの段階でどう対応したかによって、その後に選べる手段が変わっていく問題です。請求する側であれば証拠と期間の管理が、請求を受けた側であれば事実の確認と回答の組み立てが、それぞれ早い時期ほど検討の幅を残せます。当事務所では、請求する立場・請求を受けた立場のいずれについてもご相談をお受けしています。今どの段階にいるのか、次に何が起きるのかを整理したうえで、対応の方針をご一緒に検討します。書面が届いた、あるいは請求を考えているという段階で、まずはお気軽にご相談ください。


