【不貞慰謝料】滞納したらどうなるのか|強制執行までの流れ

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

慰謝料の支払いが途中で止まったとき、受け取る側は「差し押さえられるのか」を、支払う側は「いつ差し押さえられるのか」を最初に考えます。ただ、滞納から差押えまでは、放っておけば自動的に進む一続きの流れではありません。

 差押えは、債権者と債務者の二人だけで進む手続でもありません。給与であれば勤務先、預貯金であれば金融機関という第三者が間に入ります。そのため、書面が誰にどの順番で届くのか、届いてから実際にお金が動くまでにどれだけの間があるのかによって、双方が打てる手は変わってきます。

 この記事では、支払いが止まった時点から実際にお金が動くまでに何が挟まるのかを順に整理します。示談書に入れる条項の作り方、公正証書を作成する手続、相手の財産の調べ方、遅延損害金の計算、請求されている金額そのものの妥当性については、それぞれ別の記事で扱います。

「滞納」が指している状態は一つではない


期日を過ぎた分と、残額の全部

 分割払いの約束をしていて、ある月の入金がなかったとします。この時点で遅れているのは、その月に支払うはずだった分です。残りの回の支払期日はまだ来ていないため、残額の全部が当然に支払期を迎えるわけではありません。

 残額をまとめて請求できる状態になるかどうかは、示談書や公正証書に期限の利益喪失に関する取り決めがあるか、あるとしてどのような型で書かれているかによって変わります。この点は別の記事で扱っているため、ここでは「滞納した分と残額の全部は、別々に扱われることがある」という点だけを押さえておきます。

滞納それ自体が差押えを呼ぶわけではない

 支払いが止まったことを裁判所が把握して、自動的に手続を始めるという仕組みはありません。差押えは、受け取る側が裁判所に申し立てて初めて動き出します。逆にいえば、滞納が続いていても申立てがなければ手続は始まりませんし、申立てができる状態にあるかどうかは、手元にある書面によって分かれます。

支払いが止まってから差押えまでに挟まるもの

 支払いが止まってから差押命令が届くまでには、いくつかの段階があります。それぞれの段階でかかる時間の性質は同じではありません。

段階そこで確かめられること時間の進み方
手元の書面を確かめる判決、和解調書、調停調書、執行認諾文言付きの公正証書などに当たるか、当事者だけで作った示談書か書面の種類によって先の道筋が変わる
支払いを促す相手の事情、立て直せる見込みがあるか決まった期間はなく、当事者の判断による
申立ての準備執行文や送達証明書、押さえる対象となる財産の特定相手の状況によって長短がある
申立てと発令申立ての内容に不備がないか裁判所の審査を経る
命令の送達第三債務者と債務者のそれぞれに届く届いた時点が、その後の期間の起点になる


 当事者だけで作成した示談書しか手元にない場合、それだけでは申立てまで進めません。訴訟や調停などを通じて債務名義にあたる書面を得るところから始めることになり、その分の時間がかかります。作成の手続や書面の選び方については、別の記事で扱っています。

差押えは三者の間で進む手続


勤務先や金融機関に何が届くのか

 差押命令では、債務者に対して債権の取立てその他の処分が禁じられ、第三債務者に対して債務者への弁済が禁じられます(民事執行法145条1項)。差押えの効力が生じるのは、命令が第三債務者に送達された時です(同条5項)。給与であれば勤務先、預貯金であれば金融機関が第三債務者にあたります。

 また、申立てをした側が求めた場合には、裁判所書記官から第三債務者に対して、送達の日から2週間以内に、差し押さえられた債権があるかどうかなどを回答するよう催告がされます(同法147条1項)。故意または過失によって回答をしなかったり、事実と異なる回答をしたりした場合、第三債務者はそれによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています(同条2項)。

勤務先に届くということの意味

 給与の差押えでは、勤務先に裁判所からの書面が届き、給与の一部を債務者に支払ってはならない状態になります。勤務先には、回答書を作成して返送し、その後の支払いについて申立人側と連絡を取るという事務が生じます。

 支払う側にとっては、金銭の負担とは別に、勤務先に事情を説明する場面が生じうるという点が重くなりがちです。手続が始まる前であれば選べる方法があっても、命令が届いた後では選択肢が狭まります。この差は小さくありません。

命令が届いてから取立てまでには間がある

 差押命令が届いた時点で、すぐにお金が動くわけではありません。金銭債権を差し押さえた側が第三債務者から取り立てられるようになるのは、債務者に差押命令が送達された日から1週間を経過したときです(民事執行法155条1項)。

 もっとも、差し押さえられた債権が給料や賞与、退職手当などである場合、この期間は4週間に延びます(同条2項)。養育費など扶養義務に関する請求権が請求債権に含まれているときは1週間のままとされていますが、不貞行為に基づく慰謝料はこれに当たらないため、給与を押さえた場合は4週間側で考えることになります。

この期間が置かれている理由

 この取扱いは、令和2年4月1日に施行された民事執行法の改正によるものです。差押えを受けた側が、後で述べる差押禁止債権の範囲変更の申立てを準備するための時間を確保する趣旨とされています。あわせて、裁判所書記官は差押命令を送達する際に、債務者に対してその申立てができる旨を教示しなければならないこととされました(同法145条4項)。

 つまり、命令が届いてから取立てが始まるまでの間は、支払う側にとって何もできない待ち時間ではありません。逆に受け取る側から見れば、命令が出た日にただちに入金があるわけではないということでもあります。

何を押さえたかで、その後の続き方が変わる

 差押えという言葉は一つでも、対象によって効力の及ぶ範囲は異なります。

押さえた対象効力の及ぶ範囲その後
給料など継続的な給付差押え後に受けるべき給付にも及ぶ請求債権と執行費用の額に達するか、取下げがあるまで続く
預貯金命令が金融機関に届いた時点の残高その回で終わり、その後の入金には及ばないのが原則
退職手当など一時金その支払いに係る給付その回で終わる


給与は続き、預貯金は一度で終わる

 給料その他の継続的給付に対する差押えの効力は、請求債権と執行費用の額を限度として、差押え後に受けるべき給付にも及びます(民事執行法151条)。毎月の給与から少しずつ回収が続いていく形になり、支払う側から見れば、その状態が長く続くことになります。なお、給与のうち差し押さえられる範囲には上限が定められています(同法152条1項)。具体的な計算の仕方は別の記事で扱っています。

 これに対して預貯金は、命令が金融機関に届いた時点の残高が対象です。その後に入金された分にまで効力が及ぶわけではありません。受け取る側から見れば、残高が乏しい時期に当たれば回収額はわずかにとどまり、いわゆる空振りに終わることもあります。

勤務先が変われば、そのままでは続かない

 給与の差押えは、命令が届いた勤務先との関係で効力を持つものです。債務者がその勤務先を離れれば、そこから先の回収は続きません。新しい勤務先の給与を押さえるには、あらためて手続を取る必要があり、その勤務先を把握できていなければ入口で止まります。

 もっとも、支払う側にとって離職が解決になるわけでもありません。債務そのものは残り、遅延損害金は積み上がっていきます。収入が下がれば、立て直しはかえって難しくなります。

差押えを受けた側が申し立てられる手続

 差押えによって生活に著しい支障が生じる場合、債務者の申立てにより、裁判所が差押えの範囲を変更するかどうかを判断する制度があります(民事執行法153条)。裁判所は、債務者の生活の状況、債権者の生活の状況、その他の事情を考慮して判断するとされており、実務では、世帯の構成や収支の状況が分かる資料の提出を求められます。

 東京や大阪の裁判所が公表している案内によれば、この申立て自体に手数料はかからないものの、通信費用等の予納が必要とされています。また、取立てが完了した後は申立てができないとされているため、時間の制約があります。

認められても債務が減るわけではない

 注意しておきたいのは、この申立てが認められた場合に生じるのは、差押えの効力を全部または一部受けなくなることであって、支払うべき債務そのものが減るわけではないという点です。裁判所の案内でも、完済までの期間が延びることによって遅延損害金が増えることがある旨が示されています。

 また、申立てをしただけでは第三債務者の支払いを止められないため、支払いを一時的に禁じる決定を別に得る必要があるとされています。希望どおりの内容の決定が出るとは限らない点も含め、早い段階で見通しを立てておくことが大切です。

滞納の後でも、話し合いで止められる場面はある

 手続が動き出した後でも、当事者間で話がまとまることはあります。債権者が、債務名義の成立後に弁済を受けた旨または弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書が提出されたときは、強制執行は停止するものとされています(民事執行法39条1項8号)。

 ただし、この方法には限りがあります。弁済の猶予を承諾した文書による停止は、2回に限られ、通じて6か月を超えることができないとされています(同条3項)。また、この文書による停止は、すでにされた執行処分まで取り消すものではありません(同法40条1項参照)。

 いずれにしても、鍵になるのは相手の承諾です。支払う側が一方的に「待ってほしい」と述べるだけでは手続は止まりません。連絡を絶つのではなく、支払える形を具体的に示して話し合うほうが、結果として選択肢は残りやすくなります。

受け取る側から見た滞納


費用は誰が負担するのか

 強制執行に必要な費用は債務者の負担とされ、金銭の支払いを目的とする強制執行では、別に債務名義を得ることなく、その手続の中で同時に取り立てることができます(民事執行法42条1項、2項)。もっとも、これは回収できた場合の話です。押さえた先に見込んだだけの財産がなければ、かけた費用が手元に戻らないこともあります。

一度の申立てで終わるとは限らない

 押さえる対象は申立てをする側が特定します。預貯金の口座を押さえて残高が少なかった、勤務先が変わっていた、といった事態は珍しくありません。その場合、あらためて対象を選び直して申し立てることになり、そのたびに手間と費用が生じます。

 なお、差し押さえた債権を取り立てられるようになった日から2年を経過しても届出がされないまま一定の期間が過ぎたときは、裁判所が職権で差押命令を取り消すことができるとされています(同法155条5項、6項)。手続を始めた後も、その進行を管理する必要があるということです。

滞納が始まったときに整理しておきたいこと


支払いが止まってしまった側


  1. 手元にある書面が、判決や公正証書など強制執行の根拠になるものかを確かめる。
  2. 遅れているのが特定の回の分なのか、残額の全部が請求されうる状態なのかを確認する。
  3. 支払える金額と時期を具体的に示したうえで、早い段階で相手方に連絡する。
  4. 差押命令が届いた場合は、同封された書面の記載と日付を保管し、期間内に相談する。


受け取る側


  1. 滞納の状況を、日付と金額が分かる形で記録に残しておく。
  2. 手元の書面で申立てまで進めるのか、債務名義を得るところから必要なのかを見極める。
  3. 押さえる対象の候補と、その把握の程度を整理する。
  4. 回収に要する費用と見込まれる回収額を比べ、進め方を選ぶ。


よくあるご質問


1回遅れただけで差し押さえられることはありますか

 遅れが1回であっても、手元に強制執行の根拠となる書面があり、押さえる対象が把握できていれば、申立て自体は可能です。もっとも、実際には連絡や催促を挟むことが多く、遅れの回数だけで結論が決まるわけではありません。取り決めの内容によっては、1回の遅れで残額の全部が請求されうる状態になることもあります。

差押えを受けると、家族や職場に知られてしまいますか

 給与を押さえられた場合、勤務先には裁判所からの書面が届きます。預貯金の場合は金融機関に届きますが、勤務先に通知されるわけではありません。何を押さえられたかによって、伝わる範囲は変わります。

支払いが止まった後で、分割の条件を組み直すことはできますか

 当事者が合意すれば、支払方法をあらためて取り決めること自体は可能です。ただし、すでに手続が動いている場合、止めるには相手方の承諾を示す書面が必要になり、その効力にも期間の制限があります。条件を組み直すのであれば、手続が進む前のほうが選べる幅は広くなります。

まとめ


  1. 滞納が起きても、差押えが自動的に始まるわけではなく、受け取る側の申立てが前提になる。
  2. 手元の書面が債務名義に当たるかどうかで、その後の道筋と要する時間が大きく変わる。
  3. 差押えには勤務先や金融機関という第三者が関わり、書面はその第三者にも届く。
  4. 差押えの効力は、命令が第三債務者に送達された時に生じる。
  5. 取立てができるのは債務者への送達から1週間後で、給与などの場合は4週間後となる。
  6. この期間は、差押えを受けた側が範囲変更の申立てを準備するために置かれている。
  7. 給与への差押えは以後の給付にも及び、預貯金は届いた時点の残高にとどまる。
  8. 範囲変更が認められても債務が減るわけではなく、完済までの期間は延びうる。
  9. 手続が動いた後に止めるには相手方の承諾が要り、回数と期間の制限がある。
  10. 支払う側も受け取る側も、動きが取りやすいのは手続が進む前の段階である。


ご相談について

 支払いが止まった場面では、支払う側と受け取る側のどちらにとっても、時間の経過とともに選べる方法が減っていきます。手元の書面がどこまでの手続を可能にするものなのか、いま打てる手が何かは、状況によって異なります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料の支払いや回収に関するご相談を承っています。書面が届いて対応を迷われている方も、支払いが滞って回収を検討されている方も、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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