【不貞慰謝料】慰謝料以外に請求できるお金はあるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞が分かってから解決までの間には、慰謝料のほかにもさまざまな出費が生じます。証拠を集めるために調査会社へ支払った費用、体調を崩して通った病院の費用、別居してから増えた生活費、弁護士に依頼した費用。これらをまとめて相手に請求できるのかという問いは、ご相談の場でもよく出てきます。

 結論から申し上げると、慰謝料以外に請求を検討できるお金は存在します。ただし「慰謝料以外」という一つの箱の中には、法律上の出どころがまったく違うものが混ざっています。出どころが違えば、請求できる相手も、どこで決まるのかも変わります。同じ一覧に並べて眺めているだけでは、そもそもその相手には向けられない請求を続けてしまうことにもなりかねません。

 この記事では、個々の名目の中身を細かく論じるのではなく、手元にある出費がどのグループに属するのかを見分ける物差しを整理します。請求する側にとっては請求の組み立てに、請求を受けた側にとっては届いた書面の読み方に役立つ内容です。

「慰謝料以外」の中身は、出どころで3つに分かれる

 慰謝料は、不貞行為という不法行為によって生じた損害のうち、精神的な苦痛に対応する部分を指します。民法709条は、故意または過失によって他人の権利等を侵害した者が「これによって生じた損害」を賠償する責任を負うと定め、710条は財産以外の損害についても賠償の対象になることを定めています。つまり慰謝料は損害賠償の全体ではなく、その一部を指す言葉です。

 もっとも、不貞をめぐって動くお金のすべてが、この損害賠償の枠に収まるわけではありません。整理すると、次の3つのグループに分かれます。

グループどこから生じるか請求できる相手決まる場所
①同じ不法行為から生じた損害のうち、慰謝料以外の部分民法709条・710条配偶者と不貞相手の双方話し合い、または民事訴訟
②夫婦・親子であることから生じるお金民法760条・768条・766条など配偶者のみ話し合い、または家庭裁判所の調停・審判
③合意によってはじめて生じるお金当事者間の合意合意した相手のみ話し合いのみ


 実務で効いてくるのは、この表の右側の2列です。「請求したい気持ちがあるかどうか」ではなく、「その名目はその相手に向けられるのか」「どの窓口に持ち込むのか」で、進め方が変わってきます。

① 不法行為から生じた損害のうち、慰謝料以外の部分

 慰謝料と同じ根拠から出てくる、財産的な損害の部分です。請求の場面で名目として挙がりやすいのは、次のようなものです。

  • 配偶者の行動を調べるために調査会社へ支払った費用。
  • 不貞を知った後の体調不良により生じた治療費や通院にかかった費用。
  • 体調不良や手続への対応のため仕事を休んだことによる収入の減少分。
  • 訴訟になった場合の弁護士費用相当額。
  • 支払が遅れている間に生じる遅延損害金。


 これらに共通する関門が、不貞行為との相当因果関係です。実際に支出したという事実だけでは足りず、その支出が不貞行為によって生じた損害といえるかどうかが問われます。裁判所の判断の傾向は名目ごとに異なり、同じ費目でも事案によって結論が分かれています。調査費用のように、相当因果関係を否定する判断が重ねられている費目もあります。

別の項目として立てるか、慰謝料の額の中で考えるか

 同じ出費でも、独立した損害項目として金額を積み上げる形と、慰謝料の額を判断する際の一事情として考慮を求める形とがあります。裁判例の中には、独立の損害としては認めないとしつつ、その事情を慰謝料の算定において考慮したものもみられます。どちらの形で主張するかによって、示す必要のある事柄が変わります。個別の費目ごとの見通しについては、調査費用、弁護士費用、健康被害、遅延損害金をそれぞれ扱った記事をご覧ください。

② 夫婦・親子であることから生じるお金は、不貞相手には向けられない

 別居中の生活費、離婚に伴う財産分与、子どもの養育費。これらも「不倫の後に問題になるお金」ではありますが、不貞があったから発生するものではありません。夫婦であること、親子であることから生じるお金です。婚姻費用の分担は民法760条、財産分与は768条、子の監護に要する費用は766条や877条が根拠になります。

 ここから、請求できる相手が限られるという帰結が出てきます。夫婦の間の分担や清算の問題である以上、不貞相手に対して別居中の生活費を求めても、その名目では通りません。慰謝料の請求書に生活費や財産分与を並べて不貞相手に送っても、その部分については応じる根拠がない、という反論を受けることになります。

 手続の面でも違いがあります。婚姻費用の分担、財産分与、子の監護に関する処分は、家事事件手続法の別表第二に掲げられた事項で、家庭裁判所の調停や審判で扱われます。離婚の訴えを起こす場合には、その訴訟の中で附帯処分として求める形になります。これに対して、不貞行為を理由とする損害賠償の請求は民事訴訟であり、地方裁判所や簡易裁判所が扱うのが基本です。同じ当事者の間の話であっても、持ち込む窓口が別になります

 また、婚姻費用や財産分与の金額は、双方の収入や夫婦の財産を基礎に定まるものです。不貞があったという事情によってこれらの金額が当然に動くわけではない点も、あわせて押さえておきたいところです。なお、離婚に伴う手続そのものについては本記事では扱いません。

③ 合意によってはじめて生じるお金

 示談交渉では、裁判で認められにくい費目であっても、相手方が納得すれば解決金の中に含める形で合意できることがあります。裁判所の判断を待たずに終わらせられるという意味では、当事者にとって選択肢が広い場面です。

 ただし、相手方には話し合いに応じる義務も、提示された金額を受け入れる義務もありません。「示談なら調査費用の全額を上乗せできる」といった説明を目にすることがありますが、それはあくまで相手方が合意した場合の話です。過大な上乗せを求めた結果、交渉そのものが止まってしまうこともあります。

 示談書に接触禁止や口外禁止の条項を置き、違反した場合の違約金を定めることもあります。これは不貞行為そのものから生じるお金ではなく、合意した約束に違反したときにはじめて問題になるお金です。条項の作り方については、示談書の条項設計を扱った記事をご覧ください。

名目ごとに、請求できる相手は変わる

 ここまでの整理を、名目ごとに並べ替えると次のようになります。

名目配偶者に対して不貞相手に対して補足
不貞慰謝料請求できる請求できる双方に請求しても総額が二倍になるわけではない
調査費用・治療費・休業分など請求できる請求できる相当因果関係が認められる範囲に限られる
弁護士費用相当額請求できる請求できる訴訟で認容された場合に加算されうる
遅延損害金請求できる請求できるそれぞれの支払義務に付随する
別居中の生活費(婚姻費用)請求できる請求できない家庭裁判所の調停・審判で扱われる
財産分与請求できる請求できない離婚に伴う夫婦の財産の清算


 夫婦の財産が不貞のために費やされていた場合については、離婚の際の財産分与の中で考慮を求める形が中心になります。不貞相手に対してその返還を直接求める構成は、認められる範囲が限られます。

見落とされやすい3つの点

名目を増やしても、総額が積み上がるわけではない

 同じ損失を二つの名目で数えることはできません。たとえば、体調不良による減収を独立の損害として計上したうえで、同じ事情を理由に慰謝料の増額も求めるという主張は、二重に評価しているのではないかという指摘を受けることがあります。名目を並べる作業と、実際に認められる金額とは別物です

話し合いで解決すると、内訳は残らない

 示談や訴訟上の和解では、慰謝料と調査費用と弁護士費用を区別せず、解決金として一つの金額にまとめる形が広く用いられています。この場合、後から「あの金額に調査費用は含まれていなかった」と主張することは難しくなります。内訳にこだわるのであれば、合意書の文言の段階で反映させておく必要があります。

清算条項を入れた後は、追加の請求が難しくなる

 示談書の末尾に置かれる清算条項は、その件に関して定めた以外の債権債務がないことを相互に確認するものです。慰謝料の話だけをしていたつもりでも、清算条項の書き方によっては、後から調査費用や治療費を求めることができなくなります。署名の前に、手元の出費を一通り洗い出しておくことをおすすめします。

請求を受けた側が確認したいこと

 請求書や訴状に複数の名目が並んでいる場合、名目ごとに検討の仕方が変わります。次の点を順に確認してみてください。

  • 自分に向けられる名目かどうか。婚姻費用や財産分与が含まれていないかを確認する。
  • 金額の裏づけとなる領収書や明細が示されているかどうか。
  • 慰謝料本体で考慮されている事情が、別の名目でも重ねて計上されていないかどうか。
  • その費目について、これまでの裁判例でどのような判断がされてきたか。
  • 一括の解決金として提示されている場合、その内訳の考え方。


 名目が多いこと自体が、支払うべき金額の大きさを意味するわけではありません。反対に、慰謝料の金額だけを見て内訳を確認しないまま合意すると、後から性質の違う請求が出てくることもあります。

よくあるご質問

Q. 内容証明に調査費用も請求すると書かれています。支払う義務はありますか

 書面に記載されていることと、支払義務があることとは別です。調査費用については、不貞行為との相当因果関係を否定した裁判例が複数あり、請求どおりに認められるとは限りません。金額の水準や調査の必要性を含めて検討したうえで回答することになります。

Q. 別居中の生活費を、不倫相手に請求できますか

 その名目では請求できません。婚姻費用の分担は夫婦の間の問題であり、家庭裁判所の調停や審判で扱われます。不貞相手に対しては、不法行為を理由とする損害賠償という枠組みで検討することになります。

Q. 裁判所へ行くための交通費や、休んだ分の給料は請求できますか

 名目として挙げること自体は可能ですが、独立の損害として認められる範囲は限られます。手続への対応に伴う負担は、慰謝料の算定において考慮を求める形で主張することが多く、実際の扱いは事案によって異なります。

まとめ


  1. 慰謝料は損害賠償の全体ではなく、精神的な苦痛に対応する一部を指す言葉である。
  2. 慰謝料以外のお金は、不法行為から生じた損害の一部、夫婦・親子であることから生じるお金、合意によってはじめて生じるお金の3つに分かれる。
  3. 不法行為から生じた損害の一部は、配偶者にも不貞相手にも請求できるが、相当因果関係という関門がある。
  4. 婚姻費用や財産分与は不貞相手には向けられず、家庭裁判所の調停・審判という別の窓口で扱われる。
  5. 示談での上乗せは相手方の合意が前提であり、応じる義務はない。
  6. 名目を増やしても総額が積み上がるわけではなく、同じ損失を重ねて数えることはできない。
  7. 解決金として一本化すると内訳は残らないため、清算条項の前に手元の出費を洗い出しておく。


不貞慰謝料のご相談をお考えの方へ

 慰謝料以外の請求は、名目を並べることよりも、その名目がどの根拠から出てくるのかを見極めることが出発点になります。請求する側であれば、通る見込みのある構成に絞ることで交渉の焦点がはっきりします。請求を受けた側であれば、自分に向けられない名目が含まれていないかを確認することが、適切な対応の第一歩になります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を承っております。手元にある書面や領収書をお持ちいただければ、どの名目がどの相手に向けられるものかを整理したうえで、進め方をご提案します。池袋と新橋に事務所がございますので、お気軽にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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