【不貞慰謝料・請求する側】分割払いを求められたときに考えること

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「不倫相手に慰謝料を請求したところ、一括では無理なので分割にしてほしいと言われました。応じるべきなのでしょうか」というご相談があります。反対に、請求を受けた側からは「一括で用意できないので分割を申し入れたが、取り合ってもらえない」というご相談も寄せられます。

 分割払いについてよく見かける説明は、「慰謝料は一括払いが原則で、分割に応じる義務はない」「分割は受け取る側にリスクがある」というものです。どちらもそれ自体が誤りというわけではありません。ただ、この説明だけでは、断ったあとに何が起きるのかが見えないままになります。応じないという選択にも、その先の時間と手間がついてきます。

 この記事では、分割払いを求められた側が何を材料に判断するのかを、申し出の読み方、断った場合に開く道、応じる場合に決めておくことの順に整理します。示談書の条項の書き方、公正証書を作成する手続、滞納したあとの強制執行の流れ、相手に資力がない場合の回収可能性については、それぞれ別の記事で扱っています。

「応じるべきか」という問いが実際に決めていること

 最初に、この問いの形を整えておきます。

一括払いは法律で決められたルールではない

 民法に「慰謝料は一括で支払う」と定めた条文はありません。それでも一括が原則と言われるのは、不法行為に基づく損害賠償の債務が、請求を待つまでもなく支払期限の来ている債務として扱われるためです。つまり、分割払いとは、すでに来ている期限を先へずらすことを内容とする新たな合意であり、当事者が話し合いで定める和解の一種にあたります(民法695条)。応じる義務がないというのは、この合意に加わるかどうかがこちらの選択に委ねられている、という意味です。

選んでいるのは「一括か分割か」ではない

 分割を断れば一括で受け取れる、という関係にはありません。断った場合に手に入るのは一括払いではなく、合意のない状態です。そこから先は、相手が態度を変えるのを待つか、こちらが手続に進むかのどちらかになります。ですから実際に選んでいるのは、いま条件を確定させて受け取り始めるか、確定させないまま次の段階へ進むか、という二つの道です。この形で見ておくと、判断の材料が変わります。

「分割にしてほしい」という申し出は同じ意味ではない

 同じ言葉でも、その裏にあるものは一つではありません。まず、どの型の申し出なのかを見分けるところから始まります。

申し出の形そこから読み取れること確かめておきたいこと
総額に異論はなく、支払方法だけを求めている責任と金額の争いは実質的に終わっている支払える資金の見込みと時期
減額とセットで求めている方法の話に見えて、金額の話が続いている減額と分割のどちらが相手の本題か
責任は争いながら「払えないから」と言っている前提が定まっていない段階にある争っている点が何かの整理
金額も期日も示さずに「分割で」とだけ言っている具体的な計画がまだない回数・毎月の額・開始時期の提示


金額の話と方法の話は分けて扱う

 交渉の場では、この二つが一つの提案として出てくることがよくあります。「一括なら下げるが、分割なら下げない」といった形です。これは、支払方法の譲歩と金額の譲歩を交換する話であって、方法だけの問題ではありません。どちらを動かすとこちらの負担が軽くなるのかは、事案によって変わります。二つを一度に判断せず、いったん切り離して考えると、譲る順序が見えやすくなります。

具体性のない申し出は、まだ判断の材料になっていない

 「分割にしてほしい」とだけ伝えられている段階では、応じるかどうかを決めることができません。回数、毎月の額、開始時期、完済の時期のうち一つでも欠けていれば、どれだけの期間その状態が続くのかが分からないからです。この場合は、応じるか断るかを答える前に、具体的な計画を示してもらうよう求めるのが順序になります。

断るとどうなるのか

 「応じる義務はない」で説明が終わっている記事は多いのですが、判断に必要なのはその先です。

交渉が止まった状態は、自然には動かない

 こちらが断り、相手も一括の資金を用意しなければ、話は止まります。止まっている間に相手の資力が改善するとは限らず、時間の経過は請求できる期間の問題にもつながります。動かすには、こちらから次の手続に進む必要があります。

訴訟に進んでも、支払方法の話は消えない

 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について判決をすることができません(民事訴訟法246条)。そのため判決は、請求が認められた限度で支払いを命じる形になり、裁判所が分割の条件を組み立ててくれるわけではありません。もっとも、それは訴訟の中で分割の話が出てこないという意味ではありません。審理の過程で和解の話になれば、分割を含む条件が検討されることがあります。

 加えて、請求額が140万円以下であれば簡易裁判所が扱う事件となります(裁判所法33条1項1号)。簡易裁判所には、被告が原告の主張した事実を争わず、ほかに何の防御方法も出さない場合に、被告の資力その他の事情を考慮して相当と認めるときは、原告の意見を聴いたうえで、5年を超えない範囲で分割払いの定めをして支払いを命じる決定をする仕組みがあります(民事訴訟法275条の2)。この決定に対しては、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、異議があれば決定は効力を失います。訴訟にすれば分割の話が消えるわけではなく、意見を述べる場面が別の形で回ってくると考えておくほうが実際に近いといえます。

判決を得ても、受け取り方が一度に決まるとは限らない

 判決や和解の内容が守られない場合には強制執行という手段がありますが、その結果として実際に手元に入る形は、一度きりとは限りません。たとえば給与を対象とする場合、差押えの範囲には上限が定められているため、給与が支払われるたびに取り立てていく形になります。手続の具体的な流れと範囲については、別の記事で扱っています。ここで押さえておきたいのは、分割を断った先にあるのが「一度に全額」とは限らない、という点です。

相手が本当に払えないのかは、この段階では確かめられない

 分割に応じるかどうかを、相手の支払能力の見立てだけで決めようとすると、行き止まりになります。

資料の提出を求めることはできるが、強制はできない

 源泉徴収票や給与明細、預貯金の状況といった資料の提出を求めること自体は自由です。相手が交渉を進めたいと考えていれば、任意に出してくることもあります。ただ、これはあくまで任意の提出であり、出さないことに制裁があるわけではありません。出された資料についても、その時点のものであって、この先も同じ状態が続くことを示すものではありません。

財産を調べる制度は、債務名義がなければ使えない

 相手の財産を法的に調べる手続として財産開示手続がありますが、これは執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てによるものとされています(民事執行法197条1項)。判決や執行認諾文言のついた公正証書などを手にする前の交渉段階では、この手続を使うことができません。交渉の場で相手の資力を突き止めることは、制度上できるようになっていないということです。

見立てるのではなく、払われなかったときを先に決めておく

 確かめられないものを確かめようとするより、払われなかった場合に何が起きるかを先に決めておくほうが実際的です。どの時点で残りをまとめて請求できる状態になるのか、そのときにどの書面が手元にあるのか。この二つが決まっていれば、支払能力の見立てが外れた場合の影響を小さくできます。条件の具体的な組み方は、示談書と公正証書を扱った記事に譲ります。

一括と分割の間には、いくつもの形がある

 二択で考えると見落としますが、実際の合意には中間の形がいくつもあります。

  • 支払期日を数か月先に置いたうえでの一括払い。
  • まとまった額を先に入れ、残りを短い期間で分ける形。
  • 毎月の額を抑えつつ、賞与の月に多めに入れてもらう形。
  • 総額を下げる代わりに一括にしてもらう形。
  • 相手が第三者から借り入れて一括で支払う形。


 どれが適しているかは、こちらが何を優先するかで変わります。早く終わらせたいのか、総額を確保したいのか、相手との接点を短くしたいのか。優先するものが定まっていないまま条件だけを比べても、決め手が出てきません。

家族が肩代わりするという話が出たとき

 相手が「親に相談してみる」と言い出すことがあります。親族に支払義務があるわけではありませんが、任意に支払う場合には法律上いくつかの形があり、どの形で関わってもらうかによって後の扱いが変わります。この点は、相手の家族に関わる論点をまとめた記事で扱っています。

応じる場合に決めておくこと

 条項の文言そのものは別の記事に譲り、ここでは決め忘れたときに困る順に項目だけを挙げます。

  1. 支払総額と、その内訳(慰謝料以外の名目を含むかどうか)。
  2. 回数、毎月の額、支払日、開始月と完済月。
  3. 支払いが滞ったときに残額をまとめて請求できるようにするための定め。
  4. 遅れた場合の遅延損害金の扱い。
  5. 住所・連絡先・勤務先が変わったときに知らせてもらう定め。
  6. どの形式の書面に残すか。


 このうち最後の項目は、後から変更が難しくなる部分です。合意の内容が同じでも、当事者だけで作成した書面と、公証役場で作成した書面とでは、支払いが止まったときにできることが変わります。どちらを選ぶかは、分割の期間の長さと相手の状況を踏まえて考えることになります。

分割にすると、終わりの時期が動く

 分割払いで見落とされやすいのは、金額ではなく時間のほうです。

1回目を受け取ることの意味

 支払いの一部がなされることは、債務を認めたものとして扱われるのが一般的です。承認があったときは、そこから時効が新たに進み始めます(民法152条1項)。受け取る側にとって、この点は不利には働きません。反対に、責任を争っていた相手が一部を支払ったという事実は、争いの前提が変わったことを示すものにもなります。

完済まで相手との接点が残る

 分割にすると、入金の確認という形で相手とのつながりが完済まで続きます。振込先の口座を伝えることになり、遅れがあれば連絡を取る必要も生じます。接触を避けたいという希望と、分割を認めることとは、この点で折り合いをつけにくい面があります。関係を早く終わらせたいという気持ちが強い場合、その希望自体が条件を決めるうえでの重要な材料になります。

期間が延びるほど、管理する側の負担が増える

 分割払いでは、各回の支払期日ごとに支払うべき時期が来ます。長期にわたる取り決めほど、いつまでに何を請求できる状態にあるのかを自分で管理する必要が出てきます。期間を延ばすことは、相手の毎月の負担を軽くすると同時に、こちらの手元で管理すべき時間を延ばすことでもあります。請求できる期間の考え方については、時効を扱った記事をご覧ください。

分割を申し入れる側から見たとき

 立場が反対の場合についても触れておきます。

材料がないまま「分割で」とだけ伝えても進まない

 相手からすると、具体性のない申し入れは判断のしようがありません。回数と毎月の額、開始時期を示し、そう組み立てた根拠となる収支の説明を添えるほうが、話が前に進みやすくなります。減額と分割の両方を求める場合には、どちらが本題なのかを自分の中で決めておくことも必要です。

守れない計画は、一度の遅れで信用を失う

 合意を取り付けたい気持ちから、実際の生活では続けられない金額を提示してしまうことがあります。しかし、約束した期日に支払えなかったという事実は、それまで積み上げた信用を一度で失わせます。無理なく手当てできる範囲で約束するほうが、結果として合意を守ることにつながります。

よくあるご質問


分割に応じると、金額を下げたことになりますか。

 支払方法を分けることと、総額を下げることは別の話です。合意書に総額を明記しておけば、分割にしたこと自体で金額が変わるわけではありません。ただ、交渉の場では、分割を認める代わりに総額を維持する、あるいは一括にする代わりに総額を下げるという形で、二つが交換の材料として扱われることがあります。どちらを動かすのかを意識して臨むことが大切です。

途中で支払いが止まったら、残りはどうなりますか。

 あらかじめ何も定めていなければ、支払期日の来た分について請求できるにとどまり、まだ期日の来ていない分をまとめて請求することはできません。滞ったときに残額全体を請求できる状態にするためには、その旨をあらかじめ合意しておく必要があります。定め方の具体例は、分割払いの示談書を扱った記事で説明しています。

分割の期間は、どのくらいまでなら妥当ですか。

 法律上の上限が定められているわけではありません。期間が長くなるほど相手の状況が変わる可能性が高まり、こちらが管理する時間も延びます。一方で、短くしすぎれば相手が続けられず、途中で止まる原因になります。相手の収入の見通しと、こちらがどこまでこの件に時間を使えるかの両面から決めることになります。

まとめ


  1. 慰謝料を一括で支払うと定めた条文はなく、分割払いは支払期限をずらす新たな合意にあたります(民法695条)。
  2. 「分割にしてほしい」という申し出には型があり、金額の話と方法の話を切り分けて読むことが出発点になります。
  3. 断ることで一括払いが手に入るわけではなく、合意のない状態が残ります。
  4. 判決は申し立てられた事項について出されるため、裁判所が分割の条件を組み立てるわけではありません(民事訴訟法246条)。
  5. 簡易裁判所には、一定の場合に5年を超えない範囲で分割払いを定める決定の仕組みがあり、告知から2週間以内に異議を申し立てることができます(民事訴訟法275条の2、裁判所法33条1項1号)。
  6. 相手の財産を調べる財産開示手続は、債務名義を有する債権者の申立てによるものとされ、交渉段階では使えません(民事執行法197条1項)。
  7. 一部の支払いは債務の承認として扱われ、そこから時効が新たに進み始めます(民法152条1項)。
  8. 分割は金額だけでなく、相手との接点が続く期間を決める選択でもあります。


分割払いを求められてお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。分割払いを求められている方については、申し出の中身をどう読むか、応じる場合にどの条件を先に固めておくか、断って手続に進む場合にどれだけの時間がかかるかを、事案の状況に沿って一緒に整理します。

 分割を申し入れる側の方からのご相談もお受けしています。無理のない支払計画をどう組み立て、どのように伝えれば話が前に進むのかという点は、一人で考えていても答えが出にくいところです。どちらのお立場でも、条件を書面にする前の段階でご相談いただくことで、選べる幅が広く残ります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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