【不貞慰謝料・請求された側】学生・未成年・高齢など立場が特殊な場合
配偶者の不貞が分かったとき、相手について残っている手がかりが勤務先だけ、ということがあります。名刺や社員証の写真、配偶者からの説明、会社名の記憶。そこで「職場に連絡してもよいのか」という迷いが生まれます。連絡を取るためにやむを得ないという場面もあれば、事実を会社に知らせたいという気持ちが混じっている場面もあります。この記事では、勤務先への連絡を目的ごとに分けたうえで、どこに責任の分かれ目があるのかを整理します。
「勤務先に連絡する」といっても中身は三つに分かれる
勤務先への連絡は一つの行為のように見えますが、目的によって問われる中身がまったく違います。自分がどれをしようとしているのかを分けることが出発点になります。
| 連絡の目的 | 具体的な行動 | 中心になる問題 |
|---|---|---|
| 本人と話をするための手段 | 自宅の連絡先が分からず、職場宛に電話や郵便を送る | 中身が本人以外に伝わらない形になっているか |
| 会社に事実を知らせる | 上司や人事に不貞の事実を伝え、処分や配置換えを求める | 本人の名誉やプライバシー、会社の業務への影響 |
| 連絡すると相手に告げる | 「会社に言う」と伝えて支払いや退職を促す | 請求の方法として許される範囲にとどまっているか |
同じ「職場への連絡」でも、1番目は手段の問題、2番目は第三者に事実を伝えることの問題、3番目は交渉の進め方の問題です。以下ではこの三つを順に見ていきます。
責任は四つの方向から生じる
勤務先への連絡が問題になるとき、責任は不倫相手との関係だけで生じるわけではありません。方向が四つあることを押さえておくと、判断がしやすくなります。
| 誰との関係か | 生じうること | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 不倫相手本人 | 名誉やプライバシーを侵害したとして損害賠償を求められることがある | 民法709条・710条、刑法230条 |
| 勤務先の会社 | 業務が滞れば、会社から損害賠償を求められたり刑事責任を問われたりすることがある | 刑法233条・234条 |
| 自分の請求 | 慰謝料の額や、請求そのものの通り方に影響することがある | 民法1条3項ほか |
| 自分の家庭 | 職場が共通の場合、配偶者の職場での立場にも影響が及ぶ | — |
見落とされやすいのが4番目です。不貞相手が配偶者と同じ職場である場合、会社に伝えれば配偶者の側の事情も同時に伝わります。離婚せずに家庭を続ける選択をしているのであれば、この点は金額の話よりも重い意味を持つことがあります。
本人と話をするための手段として使う場合
相手の自宅の連絡先が分からず、勤務先しか手がかりがないという場合があります。職場宛に連絡すること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、伝わり方の設計が必要になります。
本人以外の目に触れない形になっているか
会社によっては、届いた郵便を受付や庶務が開封して仕分けます。宛名を書かずに社名だけで送る、封筒の記載から中身が推測できるようにする、といった形は、本人以外に内容が伝わる可能性を高めます。宛名を個人名で明記する、親展とするなど、開封する人が限られる形にしておくことが基本になります。差出人を自分名義にするか代理人名義にするかについては、別の記事で扱っています。
電話で伝える範囲
電話をかける場合も、伝える内容は「本人に取り次いでほしい」「折り返しの連絡先を知りたい」といった範囲にとどめるのが無難です。取り次いだ相手に用件の中身を説明したり、本人が出た後に会社の回線で長く話し込んだりすると、内容が周囲に伝わるだけでなく、業務への影響という別の問題が加わります。
受け取ってもらえない場合
郵便が受取拒絶や保管期間経過で戻ってくることもあります。戻ってきた封筒の扱いや、その後に取りうる手続については、別の記事で詳しく扱っています。
裁判になれば勤務先が手続上の宛先になることがある
ここは誤解が生じやすい点です。民事訴訟では、書類の送達は原則として相手の住所や居所に対して行われます(民事訴訟法103条1項)。そのうえで、その場所が分からないとき、またはその場所では送達に支障があるときは、相手が就業している場所に対して送達をすることができるとされています(同条2項)。
つまり、勤務先が宛先になる場面は制度としても存在します。ただし、次の点を取り違えないことが大切です。
- 最初から就業場所を選べるわけではなく、住所への送達がうまくいかなかった場合の次の段階として検討されるのが実務の一般的な流れである。送達を行うのは裁判所であり、請求する側が自分の判断で会社宛に書類を送るのとは性質が異なる。就業場所で本人に会えない場合、勤務先側で受け取りを拒まない人がいればその人に交付できるとされている一方、書類を置いていく形の送達は就業場所には予定されていない(民事訴訟法106条2項)。
この違いを押さえておくと、「職場に送りつければ話が進む」という発想と、「手続の中で職場が宛先になることがある」という事実は別のものだと分かります。自分の判断で職場に事実を伝えることが、送達の制度によって正当化されるわけではありません。
会社に知らせても、期待した結果になるとは限らない
会社に伝えれば処分してもらえるのではないか、と考える方は少なくありません。しかし、実際にはそうなりにくい事情がいくつも重なります。
- 懲戒処分をするかどうかは会社が判断することであり、請求する側に処分を求める権利があるわけではない。懲戒は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には無効とされるため(労働契約法15条)、会社は慎重に判断する。私生活上の行為については、会社の業務や職場の秩序にどう影響したのかが問われるため、勤務時間外の関係にとどまる場合は処分に結びつきにくい。会社には事実を確かめる手段が乏しく、本人が否定すればそれ以上進まないことも多い。結果として処分は行われず、伝えた側だけが説明を求められる立場になることもある。
もっとも、二人が同じ職場におり、勤務時間中の行動や人事上の判断に関わっているような場合は、会社にとっても自らの問題になります。この場合は、伝えた側の意図とは関係なく、会社が独自の判断で動くことがあります。
「会社に言う」と相手に告げること
三つ目は、実際に連絡するのではなく、連絡すると相手に伝える場合です。慰謝料を請求すること自体は正当な権利の行使であり、請求したことがそれだけで問題になるものではありません。
ただし、請求している金銭と直接結びつかない不利益を告げて支払いを促す形になると、評価が変わってくることがあります。退職を求める場合はさらに性質が異なり、金銭の支払いではなく、相手に義務のない行為を求めることになります。この境界の考え方については、別の記事で詳しく扱っています。
実務でもう一つ意識しておきたいのは、告げた言葉が記録として残るということです。メッセージのやり取りや通話は、後に相手側から交渉の経過を示す資料として出されることがあります。交渉の初期に出た一言が、金額を話し合う段階になって持ち出されるのは珍しいことではありません。
同じ問題は勤務先以外でも起きる
「やってはいけない取り立て」という観点で見ると、問題の中心は職場という場所そのものではなく、本人以外の人に事実が伝わる形をとっているかどうかにあります。
| 連絡先 | 起きやすいこと |
|---|---|
| 相手の実家・親族 | 本人以外に事実が伝わる。伝えた相手が少人数でも責任が認められることがある |
| 共通の知人・SNS上のつながり | 広がりやすく、後から取り消すことが難しい |
| 取引先・顧客 | 会社の業務への影響という要素が加わる |
| 自宅への訪問・待ち伏せ | 時間帯や回数によっては、連絡の問題とは別の責任が生じることがある |
いずれも、「相手に伝わりさえすればよい」という発想から選ばれがちな手段です。しかし、伝える範囲が広がるほど、こちらの側が説明を求められる場面も増えていきます。
すでに連絡してしまった場合にできること
勢いで電話をかけてしまった、会社宛に手紙を出してしまった、という段階でご相談に来られる方もいます。起きたことを取り消すことはできませんが、その後の対応で状況が変わることはあります。
- 同じ行動を繰り返さない。回数や継続性は、評価の場面でしばしば問題になる。いつ、誰に、どのような形で、何を伝えたのかを、自分で時系列に書き出しておく。相手から請求を受けたとしても、自分の慰謝料請求権が当然に消えるわけではない。二つは別の債権であり、単純に差し引きできるものでもない。謝罪の言葉を伝えるかどうかは、それが何を認めたことになるのかを踏まえて判断する。
請求を受けた側から見た場合
勤務先に連絡が来た側、あるいは「会社に言う」と告げられた側にも、整理しておきたい点があります。
- 連絡や告知について、日時・相手・内容を記録に残しておく。会社から事情を尋ねられた場合は、私生活の詳細よりも、業務に影響が出ているかどうかを中心に説明する。相手の連絡の仕方に問題があったとしても、それによって自分の支払義務が当然になくなるわけではない。他方で、請求の方法が行き過ぎていると評価される場合、その事情が金額の判断で考慮されることはある。
まとめ
勤務先への連絡は、「してよいか、いけないか」の二択で決まるものではありません。何のために連絡するのか、本人以外に何が伝わる形になっているのか、そして請求という目的にとって本当に必要な手段なのか。この三つを分けて考えると、判断はかなり整理されます。
感情が強く動いている時期に、これを一人で組み立てるのは簡単なことではありません。弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を池袋・新橋の各事務所でお受けしています。連絡を取る前の段階でも、すでに動いてしまった後の段階でも、状況に応じた進め方をご案内します。


