【不貞慰謝料・請求する側】自分名義で出すか、弁護士名義で出すか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞慰謝料の請求を内容証明で伝えようとするとき、文面と同じくらい迷いやすいのが差出人の名義です。自分の名前で出すのか、弁護士の名前で出すのか。調べてみると「弁護士名義のほうが効果が高い」という説明が多く並びますが、それだけを手がかりに決めると、送った後で戸惑う場面が出てきます。

 名義を選ぶことは、書面の強さを選ぶことではありません。その書面が届いた後、誰が相手と向き合うのかをあらかじめ決めることです。返事の電話がどこに鳴るのか、自分の住所が相手に伝わるのか、途中で考えが変わったときにどう動けるのか。名義はそのいずれにも関わってきます。

 この記事では、名義によって変わるものと変わらないものを分けたうえで、選択肢を三つに整理し、不貞慰謝料という場面で名義がとくに効いてくる状況を見ていきます。

この記事で扱うこと・扱わないこと

 本記事は、内容証明を送る側が差出人の名義をどう選ぶかに絞っています。

  • 扱うのは、名義の選択肢と、それぞれを選んだ場合に送った後で起きることです。
  • 文面の書き方、記載事項、郵便局の書式、送る時期の決め方は別の記事に譲ります。
  • 慰謝料の金額の考え方、証拠の集め方、時効の数え方、弁護士費用の相場も本記事では扱いません。
  • すでに相手方から弁護士名の書面が届いている場合は、受け取った側の対応という別の問題になります。


 なお、離婚そのものの手続については本記事の射程外とします。

名義は書面の効力を変えない

 最初に押さえておきたいのは、内容証明という制度が、名義によって働き方を変えるものではないという点です。

 内容証明で郵便局が証明するのは、いつ、どのような文面の書面が、誰から誰宛てに差し出されたかという事実です。差出人が本人か代理人かは、証明される内容を左右しません。書面によって法的な効果が生じるかどうかも、名義ではなく、そこに書かれた意思表示の中身で決まります。時効の完成猶予も同じで、請求の意思を伝える催告として扱われるかどうかは書面の中身の問題です(民法150条1項)。相手に届いた時点を基準に効力が生じること(民法97条1項)も、名義とは切り離された話です。

 では名義は何を変えるのか。変わるのは、受け取った側の身構え方と、そこから先の連絡の流れ、そして自分の情報がどこまで相手に伝わるかです。

名義で変わらないこと名義で変わること
郵便局が証明する内容(差出日・文面・差出人と受取人)受け取った側が最初に感じる事の重さ
書面に書いた意思表示そのものの効果返事や問い合わせがどこに届くか
催告として時効の完成猶予が生じるかどうか相手が代理人を立てるかどうかの判断材料
相手に届いた時点を基準に効力が生じること差出人として相手に伝わる住所と連絡先
請求できる金額の枠組み送った後に自分が直接動ける範囲


 解説記事の多くは「弁護士名義のほうが相手に強く伝わる」という点を前面に出します。受け取った側の受け止めが変わること自体は否定できませんが、それは書面の法的な効果とは別の層の話です。両者を重ねて考えると、名義さえ整えれば相手は応じるはずだという見込みに傾きやすくなります。

選択肢は二つではなく三つある

 「自分名義か弁護士名義か」という二択で語られがちですが、実務では中間の型があります。

  1. 自分で文面を作り、自分の名義で出す。
  2. 弁護士に文面の作成や内容の助言を受けたうえで、自分の名義で出す。
  3. 弁護士に依頼し、代理人としての弁護士の名義で出す。


 2番目は、書面に弁護士の名前が出ない形です。文面の組み立てや請求内容の相談だけを依頼し、差出人はあくまで自分になります。この型を用意している事務所もあり、依頼の範囲が狭いぶん費用の考え方も3番目とは異なります。

差出人として表示されるもの送った後の窓口向いている場面
自分で作り自分の名義自分の氏名と住所自分請求の中身が単純で、相手とのやり取りを自分で続けられる場合
助言を受けて自分の名義自分の氏名と住所自分文面の妥当性だけ確かめたいが、交渉は当面自分で進めたい場合
弁護士の代理人名義通知人としての自分の氏名と、代理人弁護士の氏名・事務所の連絡先弁護士やり取り自体を任せたい場合、相手と直接接触したくない場合


どの型でも権利者は自分

 代理人名義で出す場合でも、慰謝料を請求する権利を持っているのは本人です。書面には「通知人」として本人の氏名が記載され、その下に代理人弁護士の氏名が並ぶのが通常の形です。代理人が受け取った回答や、代理人との間で交わした合意は、本人に対して効力を持つものとして扱われます(民法99条)。名義は、権利の持ち主を移すものではなく、誰が表に立って手続を進めるかを示すものだと考えると整理しやすくなります。

代理人名義は交渉の受任とセットになりやすい

 見落とされがちなのが、弁護士の名前と連絡先が書面に載れば、相手からの電話や書面はその連絡先に届くという点です。そこに対応する権限と体制がなければ、届いた連絡を受け止められません。そのため、代理人名義での発送だけを切り離して引き受ける事務所は多くなく、交渉までの依頼とあわせて受けるのが一般的です。

 「書面を1通出してもらうだけ」という発想で代理人名義を選ぶと、想定していた依頼の範囲と、実際に必要になる関与の幅がずれることがあります。

自分の名義で出すときに起きること


差出人欄と封筒に自分の住所が載る

 郵便局の窓口に内容証明を差し出すときは、相手に送る内容文書、その謄本2通、そして差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒を提出する扱いになっています(日本郵便の案内)。謄本の末尾余白にも差出人と受取人の住所氏名を付記します。内容文書に同じ記載があれば付記を省略できるとされていますが、いずれにしても自分の住所が書面と封筒に表示されることになります。

 不貞慰謝料の場面では、これが軽くない意味を持つことがあります。相手が配偶者の交際相手で、こちらの住所を知らないという状況は珍しくありません。自分の名義で出すことは、請求と同時に自宅の所在を伝えることでもあります。代理人名義であれば、差出人として表示されるのは事務所の所在地と連絡先になります。

返事は自分のところに届く

 自分の名義で出せば、応答も自分に返ってきます。書面での回答であれば時間をかけて読めますが、電話がかかってきたり、直接会いたいと言われたりすることもあります。相手の側から、こちらの配偶者を経由して連絡が来ることもあります。

 ここで問題になりやすいのは、返答の中身よりも返答してしまう速さです。感情が動いている状態で答えた一言が、後から「そのときはこう言っていた」という形で持ち出されることがあります。自分の名義で出すのであれば、返事が来たときにどう受けるかを送る前に決めておくほうが安全です。

書いた言葉が自分の言い分として読まれる

 名義による違いのうち、あまり語られないのがこれです。本人名義の書面は、本人がそう認識していたことを述べたものとして読まれます。後に話し合いや裁判で説明が変わったときには、最初の書面との食い違いが指摘される材料になります。

 代理人名義の書面も本人の意思に基づくものですが、法律上の主張として整理された形で示されるため、事実の記載と法的な評価が切り分けられているのが通常です。どちらが優れているという話ではなく、自分の名義で出すときは、書いた言葉がそのまま自分の説明として残るという違いです。

弁護士の名義で出すときに起きること


連絡先が事務所になる

 もっとも実感しやすい変化がこれです。相手からの連絡は事務所に届き、内容を確認したうえで本人に共有されます。相手と直接言葉を交わさずに済むことは、精神的な負担の面でも、不用意な発言を避けるという面でも意味があります。

相手も代理人を立てることがある

 弁護士名義の書面が届いたことをきっかけに、相手も弁護士に相談し、代理人を立てることがあります。これは一方的に不利な展開ではありません。相手に代理人がついた場合、感情的なやり取りが減り、論点が整理されて話が進みやすくなることもあります。

 他方で、相手が態度を硬くし、当初は応じる気配があった話が争いの形に移ることもあります。どちらに振れるかを事前に見通すのは難しく、「代理人名義のほうがまとまりやすい」と言い切れるものではありません。相手との関係や置かれた状況、請求している金額の水準によって変わります。

自分から直接動きにくくなる

 代理人を立てるということは、窓口を一本にするということです。その後で本人が相手に直接連絡を取ると、代理人が把握していないやり取りが並行して生まれ、話の前提がずれることがあります。本人が個別に伝えた条件と、代理人が交渉している条件が食い違えば、まとまりかけた話が振り出しに戻ることもあります。

 途中で意向が変わったときも、まず代理人に伝える形になります。自分のペースで直接話を進めたい気持ちが強い場合は、その希望と代理人名義という選択が噛み合うかを確かめておくとよいでしょう。

相手本人からの連絡が止まるとは限らない

 「弁護士に入ってもらえば相手はこちらに連絡してこなくなる」と説明されることがありますが、正確ではありません。弁護士の職務上のルールとして、相手方に代理人が選任されているときは、その代理人の承諾を得ずに直接相手方本人と交渉してはならないとされています(弁護士職務基本規程52条)。

 この規範が名宛てにしているのは弁護士です。相手が弁護士を立てていない場合に、相手本人がこちらへ直接連絡してくることを、この規定によって止めることはできません。実際には書面に連絡先が明記されていればそちらに連絡が来るのが通常ですが、制度として担保されているわけではないと理解しておくと、想定と違うことが起きたときに慌てずに済みます。

名義に立てられる人・立てられない人

 誰の名前でも差出人にできるわけではありません。ここは、名義を考えるうえでの外枠にあたります。

  • 自分(権利を持っている本人)の名義で出すことはできます。窓口への持参を家族などに頼むこと自体は可能ですが、それは使者としての行為であり、差出人が変わるわけではありません。
  • 弁護士は、依頼を受けた代理人として自身の名義で出すことができます。
  • 認定を受けた司法書士は、紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲であれば、裁判外の和解について代理する業務を行えるとされています(法務省の案内による簡裁訴訟代理等関係業務)。この範囲を超える事案では代理人にはなれません。
  • それ以外の第三者を、報酬を得て代理人として立てることはできません。争いのある請求について代理や和解などの法律事務を業として扱うことは、弁護士法72条により制限されています。
  • 親やきょうだい、知人の名義で請求書を出すこともできません。慰謝料を請求できるのは権利を持っている本人であり、名義だけを他人にしても請求の主体がその人に移るわけではないためです。


 不貞慰謝料の請求は、相手が事実や金額を争う可能性が高い場面です。「代理人」という肩書きで交渉まで引き受けると持ちかけられた場合には、その人がどの資格に基づいてどこまでできるのかを確かめておくとよいでしょう。

不貞慰謝料で名義がとくに効いてくる場面

 一般論としてどちらが優れているかを比べるより、自分の状況に引き寄せて考えるほうが判断しやすくなります。よくある場面を並べます。

場面名義を考えるときの視点理由
相手がこちらの住所を知らない自分の名義で出すと住所が伝わる差出人の住所は書面と封筒の双方に表示される
相手と職場や生活圏が重なっている直接の接触を避けられる形かどうか返事の連絡先がそのまま接触の入口になる
配偶者との関係をどうするか決めていない急いで窓口を固定しない選択もある代理人を立てた後は方針転換を伝える手数が増える
相手から先に連絡や打診が来ているやり取りの受け皿を先に決める返答の速さと内容が後の主張に影響しやすい
相手にすでに代理人がついているこちらも代理人を立てるかを検討する場面やり取りの土俵が交渉の形に移っている
時効の期限が近い名義よりも到達の時期を優先する名義は完成猶予の成否を左右しない


 最後の行には補足が要ります。期限が迫っている場合、「弁護士に依頼してから出そう」と考えて時間を使うより、まず届けることが優先される場面があります。名義の選択と期限に間に合わせることは別の問題です。

配偶者と不貞相手の両方に出す場合

 配偶者と不貞相手の双方に請求を考えているとき、名義をそろえるかどうかという論点が出てきます。

 同じ弁護士が一人の依頼者のために双方へ通知を出すこと自体は、通常は問題になりません。請求している側は一人だからです。もっとも、配偶者との関係を続けるつもりがあるかどうかで書面の性質は変わります。婚姻関係を維持したまま不貞相手にだけ請求する場合、配偶者には代理人名義の請求書を送らず、家庭内での話し合いに委ねる形をとることもあります。

 ここは名義の技術的な選択というより、この先どのような関係を残したいのかという方針の問題です。方針が固まっていない段階では、送る相手を絞る、時期をずらすという選択も検討に値します。

名義は後から変えられる。ただし前の書面は残る

 自分の名義で出した後に弁護士に依頼することはできます。その場合、受任した弁護士から改めて通知が出され、以後の窓口が事務所に移ります。逆に、依頼が終了して本人に窓口が戻ることもあります。

 ただし、切り替えたからといって、前に出した書面が消えるわけではありません。相手の手元には残りますし、差し出した郵便局に保存されている謄本は、差出人が差出日から5年以内であれば閲覧を請求できるとされています。つまり、その期間は自分が何を書いたかを確認できる状態が続くということでもあります。

 最初の1通で断定的に書いた事実関係や、後から根拠を示しにくい主張は、名義を変えても引きずることになります。「後から専門家に入ってもらえばやり直せる」と考えるより、最初の1通に何を書くかはその時点で決まると考えておくほうが実際に近いといえます。

決める前に整理しておきたいこと

 名義の選択は、次の点を並べてみると輪郭が見えやすくなります。

  1. 相手に自分の住所を知られてよいか。知られたくない事情があるか。
  2. 相手から返事が来たとき、誰が最初に受けるのか。自分で受けられる状況か。
  3. 相手と直接やり取りをすることが、自分にとって現実的か。
  4. 配偶者との関係について、いま方針が決まっているか。決まっていないか。
  5. 時効その他の期限が近づいていないか。
  6. 交渉が長引いた場合、どこまでを自分で続ける想定か。


 この6点のうち、住所の問題と、返事を誰が受けるかという問題が、実際にはもっとも影響が大きくなりがちです。

まとめ


  • 名義は、内容証明そのものの効力を変えるものではありません。証明される内容も、催告としての意味も、到達を基準に効力が生じることも、名義とは切り離されています。
  • 名義が決めるのは、送った後の連絡の流れと、自分の情報がどこまで伝わるかです。選択肢も二つではなく、自分で作って自分の名義で出す、助言を受けて自分の名義で出す、代理人名義で出すの三つがあります。
  • 自分の名義で出すと、差出人欄と封筒に自分の住所が表示され、返事も自分に届きます。
  • 代理人名義で出すと窓口が事務所に移りますが、相手が態度を硬くする可能性もあり、自分から直接動きにくくもなります。
  • 相手本人からの直接連絡を、弁護士の職務上のルールによって止められるわけではありません。
  • 代理人として交渉まで担えるのは弁護士であり、認定司法書士は紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲に限られます。
  • 名義は後から変えられますが、最初に出した書面の内容は残ります。


 名義をどうするかは、「どちらが強いか」ではなく「送った後をどう組み立てるか」という問いです。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料の請求について、どの名義でどのような文面を出すかを含めてご相談をお受けしています。すでにご自身で書面を出された後の段階でも、そこから先の進め方を一緒に整理することができます。判断に迷われている段階で構いません。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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