別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝
一定時間で表示が消える設定のメッセージや、承認した相手だけが閲覧できる非公開のアカウント。配偶者とその相手のやり取りがこうした形で行われていると、「見た覚えはあるのに、手元には何も残っていない」という状態になりがちです。ここでは、消えるメッセージと鍵アカウントについて、何が残り、何が残らないのか、そして残らないときに何ができるのかを、慰謝料を請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。
「消えて残らない」と「見えて入れない」は別の問題
消えるメッセージと鍵アカウントは、どちらも「相手の手元にはあるのに、こちらの手元には形が残らない」という点では同じに見えます。しかし、そうなっている原因は違います。消えるメッセージは時間の問題であり、鍵アカウントは範囲の問題です。原因が違えば、打てる手も変わります。
状況ごとに、記録が置かれている場所が違う
| 状況 | 記録が置かれている場所 | こちら側で考えられること |
|---|---|---|
| 一定時間で表示が消える設定のメッセージ | 送受信した端末とサービス側。時間の経過で表示されなくなる | 表示されている間に残す。周辺に残る記録をたどる |
| 送信者が後から取り消したメッセージ | 取り消し前に受信した端末や、取り消しがあったこと自体の表示 | やり取りがあった痕跡そのものを記録する |
| 承認した相手だけが閲覧できる非公開アカウント | サービス側と、承認された閲覧者の端末。消えてはいない | 閲覧できる立場にある人からの提供、本人が示した画面 |
| 公開範囲を限った投稿や共有機能 | 同上。設定次第で見られる人の範囲が変わる | 公開範囲の広さ自体が手がかりになることがある |
消えるほうは「時間」、鍵のほうは「経路」が課題になる
消える設定のやり取りでは、後から遡って取りに行くという発想が成り立ちにくいため、目にした時点で何をするかが分かれ目になります。これに対して鍵アカウントの投稿は、消えたわけではなく、こちらが閲覧できる立場にないというだけです。そのため課題は「いつ」ではなく「どの経路で届くか」に移ります。
そもそも何を示そうとしているのかを先に決める
不貞慰謝料の請求では、配偶者と相手方との間に肉体関係があったといえるかどうかが中心的な争点になります。メッセージや投稿は、その事実を直接に写したものであることは少なく、多くは間接的な事情を積み重ねるための材料です。何を示すための材料なのかが曖昧なままだと、集める対象も、消えたことの意味も定まりません。
消える設定でも、残っているものはある
「消える設定だったから何もない」と考えて動きを止めてしまう方は少なくありません。ただ、消えるのは本文の表示であって、やり取りがあったこと自体の痕跡まで消えるとは限りません。
本文の外側に残りやすいもの
- やり取りがあった日時が分かる通知や着信の履歴。
- メッセージが取り消された旨の表示や、会話の途中に生じた不自然な空白。
- 通話の履歴、共有されたファイルや写真、支払いや送金の記録。
- 端末の写真フォルダや、別のアプリに転送された同じ画像。
- そのサービスを使い始めた時期や、アカウントを作成した記録。
いずれも単独では親密さを示すにとどまりますが、他の記録と日時が重なると意味を持つことがあります。何をどのように保存しておくかという実務的な手順については、記録の残し方を扱った別の記事に譲ります。
画面を見た記憶しか残っていない場合
消える設定のやり取りでは、「読んだ内容は覚えているが、画面は残っていない」という状態になることがあります。この場合、材料は本人の供述ということになります。民事裁判では、当事者本人を尋問して、その供述を証拠とすることができます(民事訴訟法207条1項)。実務上は、あらかじめ陳述書を提出したうえで法廷での尋問に臨む流れが一般的です。
ここで知っておきたいのは、陳述書だけで済ませられる場面は限られているということです。証人については、相当と認める場合に当事者に異議がなければ尋問に代えて書面を提出させることができるとされていますが(民事訴訟法205条)、当事者本人の尋問にはこの規定が準用されていません。書面で述べた内容について、法廷で直接問われる場面は避けにくいと考えておいたほうがよいでしょう。
記憶を材料にするときに問われること
証拠の評価は、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づいて判断します(民事訴訟法247条)。供述が信用されるかどうかは、おおむね次のような点で見られます。
- いつ、どのような状況で見たのかを具体的に説明できるか。
- 説明が時期によって変わっていないか。
- 供述の内容が、日時や行動などの客観的な記録と食い違っていないか。
- 覚えていない部分について、無理に補っていないか。
なお、当事者本人が正当な理由なく出頭せず、または陳述を拒んだときは、尋問事項に関する相手方の主張が真実と認められることがあります(民事訴訟法208条)。また、宣誓した当事者が虚偽の陳述をした場合には過料の定めがあります(民事訴訟法209条1項)。記憶に基づいて述べる以上、覚えていないことは覚えていないと述べるほうが、全体の信用性を保ちやすいといえます。
「消える設定を使っていたこと」自体はどう扱われるか
消える設定が使われていたという事実そのものを、不貞の裏づけとして主張したいと考える方もいます。この点は慎重に整理しておく必要があります。
秘匿性の高い手段を選んでいたという事情にとどまる
消える設定にも、誤送信を避けたい、業務上の情報を残したくないといった用途があります。そのため、その設定を使っていたことだけで不貞が推認されるとは考えにくいといえます。位置づけとしては、連絡手段の選び方に関する一つの事情であり、他の材料と組み合わせて初めて意味を持つものです。
初めから残らない設定と、途中から消したことは意味が違う
最初から消える設定で使っていた場合と、疑いを持たれた後や請求を受けた後に記録を消した場合とでは、受け止められ方が変わります。前者は連絡手段の選択の問題ですが、後者は事後の対応として評価される場面です。訴訟が始まった後に記録が失われた場合の扱いについては、証拠の保全を扱った記事で別に整理しています。
説明が変わったときに効いてくる
消える設定の話が実際に働きやすいのは、相手方の説明が変遷したときです。「連絡は取っていない」という説明が、後になって「業務連絡だけはしていた」に変わり、さらに「消える設定を使っていた」と明らかになるといった経過は、説明の一貫性という観点から評価の対象になり得ます。
鍵アカウントは「記録がない」わけではない
鍵をかけたアカウントの投稿は、こちらから見えないだけで、消えているわけではありません。ここを混同すると、打つべき手を誤ります。
鍵は閲覧範囲の設定であって、記録の有無ではない
非公開設定は、誰に見せるかを絞る機能です。投稿そのものは、本人の端末にもサービス側にも残っているのが通常です。したがって、消える設定のような時間の制約とは別の問題として考える必要があります。もっとも、本人が投稿を削除したりアカウントを消したりすれば、その時点で失われる可能性はあります。
非公開だからといって、法律上の扱いが自動的に決まるわけではない
インターネット上の投稿について発信者の情報の開示を求める制度は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」を対象としています(情報流通プラットフォーム対処法2条1号)。総務省が公表している逐条解説では、この「不特定の者によって受信されることを目的」とするかどうかは、送信に関与する者の主観とかかわりなく、その態様から客観的、外形的に判断されると説明されています。
つまり、本人が鍵をかけたという事情だけで結論が決まるものではなく、承認された閲覧者がどの程度いるのかといった実際の態様が見られることになります。この点については裁判所の判断も分かれており、非公開だから制度の枠外である、とも、当然に枠内である、とも言い切れないのが現状です。
開示の制度は、不貞の証拠を探す場面には噛み合いにくい
もう一点、押さえておきたいことがあります。発信者の情報の開示を求める制度は、投稿の流通によって権利を侵害されたことが明らかであり、かつ開示を受けるべき正当な理由がある場合に用いられるものです。相手が誰かを知りたい、不貞の材料を集めたいという目的は、この要件と直接には結びつきません。鍵アカウントの投稿によって名誉やプライバシーが侵害されたといえる場合は別ですが、そうでない限り、この制度を証拠収集の手段として当てにするのは難しいと考えたほうがよいでしょう。不貞相手の氏名や住所が分からない場合の進め方は、相手方の特定を扱った記事で別に整理しています。
第三者から渡された画面のコピー
鍵アカウントの中身は、多くの場合、承認されているフォロワー、たとえば共通の知人を通じてしか届きません。この経路には、公開されている投稿を自分で保存する場合とは違う難しさがあります。
提出の段階で「誰から、どうやって」が問われる
画面を撮影したものやスクリーンショットは、書証に準じるものとして扱われます(民事訴訟法231条)。訴訟で書証を提出する際には、証拠説明書に文書の作成者や立証しようとする事実などを記載することとされています(民事訴訟規則137条1項)。渡してくれた人の存在を伏せたまま出すことは想定されていないと考えておくのが実際的です。
提供者の協力が続くことが前提になる
相手方から「そのような投稿はしていない」「加工されたものだ」と争われた場合、画面のコピーだけでは足りず、実際に閲覧した人の説明が必要になることがあります。ところが、提供してくれた人は当事者ではありません。関係が悪化したり、板挟みを避けたいと考えたりして、途中で協力が得られなくなる可能性は常に残ります。提供を受ける段階で、誰のアカウントか、いつ閲覧したのか、投稿の一部か全体かといった点を確認し、その場で聞き取った内容を書き留めておくと、後の説明がしやすくなります。
提供者にも影響が及ぶことを踏まえる
提供してくれた人は、相手方から見れば「内輪の投稿を外に出した人」ということになります。名前が表に出れば、その人の人間関係に影響が及ぶこともあります。協力を求める際には、そうした負担が生じ得ることをあらかじめ伝えておくのが望ましいでしょう。
そのアカウントが相手のものだと、どう示すか
鍵アカウントや別名で使われているアカウントは、表に出ている手がかりが少ないという特徴があります。内容が親密でも、それが誰のものか分からなければ材料になりません。
手がかりごとに、示せることと返ってきやすい言い分がある
| 手がかり | 示せること | 返ってきやすい言い分 |
|---|---|---|
| 表示名やアイコン | 同一人物である可能性 | 別人が同じ名前を使っている |
| フォローやつながりの関係 | 周辺の人間関係との一致 | 知人経由でつながっただけ |
| 投稿の内容と本人の行動の一致 | 同じ日時に同じ場所にいたこと | 偶然の一致にすぎない |
| 本人が自分の端末で開いて見せた画面 | そのアカウントを本人が使っていること | 争いにくいが、経緯を説明できることが前提 |
本人の言葉で結びつくことがある
実務では、本人が問い詰められた場面で述べたことによってアカウントとの結びつきが定まるという経過もあります。ただし、追及の仕方によっては、後から「言わされただけだ」と争われることもあります。やり取りの記録の残し方については、録音や念書を扱った記事で別に整理しています。
確認しようとすること自体が相手に伝わる場合がある
消えるメッセージや鍵アカウントには、こちらの動きが相手に伝わりやすいという性質があります。ここは他の証拠と違う点です。
画面を保存すると通知が届く設定がある
サービスによっては、画面を保存した際に送信者に通知が届く仕組みが設けられています。仕様はサービスごとに異なり、変更されることもありますが、気づかれずに残すことが構造的に難しい場合があるという点は押さえておく必要があります。
閲覧やフォロー申請にも足跡が残る
限定公開の投稿では、誰が閲覧したかが表示される機能があります。また、鍵アカウントに近づこうとしてフォローの申請をすれば、その事実は相手に届きます。別のアカウントを作って接触する方法は、後になって経緯を問われたときに説明が難しくなりやすいため、慎重に考えたほうがよいでしょう。
伝わった後は、記録の残り方が変わる
こちらが気づいていることが伝われば、連絡手段が変えられたり、投稿が消されたりすることは十分に考えられます。早く動くことと、気づかれずに動くことは、多くの場面で両立しません。どちらを優先するかは、手元にどれだけの材料があるかによって変わります。
請求を受けた側から見た「消えている」「鍵がかかっている」
ここまでは請求する側の視点で整理してきましたが、請求を受けた側にも見ておくべき点があります。
自分の手元にないことと、どこにも無いことは違う
消える設定を使っていた、アカウントを消したという事情があっても、相手方の手元や、やり取りを見た第三者のもとに記録が残っていることがあります。決済や交通の履歴のように、自分では意識していなかった記録が別のところに残っている場合もあります。「何も出てこないはずだ」という前提で対応すると、後から出てきたときに説明が立ちゆかなくなります。
全面的に否定すると、後で説明が苦しくなる
やり取りの一部を示されただけの段階で「そのような事実はない」と全面的に否定してしまうと、後に別の材料が出てきたときに、説明を変えざるを得なくなります。説明の変遷は、それ自体が評価の対象になり得ます。手元にどこまでの材料があるのかを確認したうえで、認める部分と争う部分を分けて答えるほうが、結果として無理が生じにくくなります。
消すこと・退会することで失うもの
記録を消せば不利な材料は減りますが、同時に自分の反論を支える材料も失われます。関係が業務上のものにとどまることや、指摘されている時期にはすでに連絡が途絶えていたことを示せるのも、多くの場合は同じ記録です。請求を受けた段階での記録の扱いは、独断で決めずに相談したうえで判断することをおすすめします。
よくあるご質問
消えるメッセージのスクリーンショットは証拠になりますか
提出すること自体はできます。画面を写したものは書証に準じるものとして扱われます(民事訴訟法231条)。ただし、元のやり取りが残っていない以上、内容が本当にそのとおりだったのかを別の資料で裏づけにくいという弱点があります。前後のやり取りや、日時が分かる部分まで含めて残しておくと、説明がしやすくなります。
鍵アカウントの投稿を、フォロワーの知人に見せてもらってもよいですか
見せてもらうこと自体が直ちに違法になるとは考えにくいですが、訴訟で提出する段階では、誰からどのような経緯で入手したのかを説明することになります。提供者の名前が表に出ること、その人に負担が生じ得ることを踏まえたうえで判断してください。他人のアカウントに無断でログインする行為は別の問題を生じさせますので、避けるべきです。
相手がアカウントを消したら、もう何も出てこないのですか
そうとは限りません。やり取りの相手方の端末に残っていることや、閲覧していた第三者が保存していることがあります。また、投稿以外の記録から日時や行動をたどれる場合もあります。もっとも、時間の経過とともに取り出せなくなる記録もありますので、早めにご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
- 消えるメッセージは「時間」の問題、鍵アカウントは「範囲」の問題であり、打てる手が異なる。
- 消えるのは本文の表示であって、通知・通話・支払いなど周辺の記録まで消えるとは限らない。
- 画面が残っていない場合は本人の供述が材料になるが、陳述書だけで済む場面は限られる(民事訴訟法205条・207条1項)。
- 供述の評価は具体性と一貫性、他の記録との整合で見られる(民事訴訟法247条)。不出頭や虚偽の陳述には定めがある(同法208条・209条1項)。
- 鍵アカウントの投稿は消えていない。非公開かどうかは客観的・外形的に判断され、それだけで法律上の扱いが決まるわけではない(情報流通プラットフォーム対処法2条1号)。
- 発信者の情報の開示を求める制度は権利侵害が明らかな場合の仕組みであり、不貞の材料を探す目的とは噛み合いにくい。
- 第三者から提供を受けた画面は、入手経緯と作成者を説明することが前提になる(民事訴訟法231条、民事訴訟規則137条1項)。
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