別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い
「配偶者が、同性の相手と関係を持っていた」「長年連れ添った同性のパートナーに、ほかの相手ができた」――こうしたご相談を受けることが、以前より増えてきました。
このとき多くの方が最初に抱くのが、「相手が同性でも慰謝料を請求できるのか」「逆に、自分が請求される立場になり得るのか」という疑問です。インターネット上には「同性なら不倫にならない」という説明もあれば、「異性と同じ扱いになる」という説明もあり、情報が食い違っているのが実情です。
結論を先に申し上げると、近年の裁判例は、相手が同性であることを理由に一律で保護を否定する立場を採っていません。ただし、「異性の場合と完全に同じ」と言い切れる段階にも至っていません。どこが動いていて、どこが動いていないのかを、順に整理します。
本コラムでは離婚の手続きや財産分与ではなく、金銭請求(慰謝料)が認められるかという点に絞ってご説明します。
1. まず「2つの型」を分けて考える
「同性との不倫」と一口に言っても、法律上の論点はまったく別の2つに分かれます。ここを混ぜてしまうと、調べても答えが出てきません。
| ①型 | ②型 | |
|---|---|---|
| 場面 | 法律婚の夫婦の一方が、同性の第三者と関係を持った | 同性カップルの一方が、ほかの相手と関係を持った |
| 請求する側 | もう一方の配偶者 | もう一方のパートナー |
| 主な争点 | その行為は「不貞行為」に当たるのか | そもそもその関係は法的に保護されるのか |
| 請求先 | 配偶者本人/同性の相手方 | パートナー本人/相手方 |
①型では、婚姻という保護される枠は既にあり、「同性間の行為でもその枠を侵害したと言えるか」が問われます。②型では、婚姻届が出せない関係そのものが保護の対象になるかという、より手前の問題から始まります。
以下、それぞれ見ていきます。
2. ①型:配偶者が同性の相手と関係を持った場合
従来の考え方
慰謝料請求の根拠は、不法行為(民法709条・710条)です。そして「不貞行為」については、最高裁昭和48年11月15日判決が、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうと述べています。
この「性的関係」は、長らく異性間の性交渉を念頭に理解されてきました。そのため以前は、「同性の相手なら不貞行為には当たらない」という説明もなされていました。
近年の裁判例の考え方
しかし、東京地方裁判所令和3年2月16日判決は、この点について踏み込んだ判断を示しています。
同判決は、不貞行為とは配偶者以外の者と性的関係を結ぶことに限られず、**「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為」**と解するのが相当であり、必ずしも性行為(挿入行為)の存在が不可欠ではなく、夫婦共同生活を破壊し得る性行為類似行為も含まれるとしました。そのうえで、同性同士の性的な行為によって婚姻共同生活の平穏が害される事態も想定されるとして、不貞行為に当たると判断しています。
考え方の筋道はこうです。慰謝料で守られているのは「婚姻共同生活の平和」という利益であり、性交渉はその利益を侵害する典型的な態様のひとつにすぎません。であれば、相手が同性か異性かは、それ自体で結論を分ける要素ではない――という理解です。
肉体関係がなくても慰謝料が認められ得る場面については、当事務所の別コラム「肉体関係なし・プラトニックでも慰謝料は取れる?」で詳しくご説明していますので、あわせてご覧ください。
ただし、金額は別問題
もっとも、「認められる」ことと「異性の場合と同額になる」ことは別です。上記の令和3年判決も、離婚に至っていないことなどの事情を考慮して、認定額は低い水準にとどまりました。
慰謝料額は、関係の期間や態様、夫婦関係にどの程度の影響が生じたか、離婚に至ったかなど、多くの事情の総合判断で決まります。相場の考え方は「不貞慰謝料を請求されたときにまず確認すべき6つのポイント」で扱っていますので、そちらをご参照ください。
相手方に対する請求の要件は同じ
同性の相手方に請求する場合も、要件は異性の場合と変わりません。相手方が既婚であることを知っていた、または知らなかったことに過失があったことが必要です。この点は「『独身だと思っていた』場合は慰謝料を払わなくてよい?」で詳しくご説明しています。
3. ②型:同性カップル自身の関係は保護されるのか
こちらは、裁判所の判断が確定している分野です。
宇都宮地方裁判所真岡支部令和元年9月18日判決は、同性のカップルであっても、その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては、内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ、不法行為上の保護を受け得ると判断しました。
判決は、憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と定めていることについても、憲法制定当時に同性婚が想定されていなかったからにすぎず、およそ同性婚を否定する趣旨とまでは解されないと述べています。
どのような事情が重視されたか
この事案で「内縁と同視できる」と認められた事情は、次のようなものでした。
- 約7年間という比較的長い同居(共同生活)の事実があったこと
- 同性婚が認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得し、日本国内でも結婚式・披露宴を行い、親しい人たちに関係を明らかにしていたこと
- 二人で住むための住宅の購入を進め、二人の間で育てる子を持つための準備を進めていたこと
つまり、**「同性だから」ではなく「関係の実態がどうであったか」**が判断の軸になっています。逆に言えば、交際しているだけ、あるいは同居期間が短いといった場合には、この枠組みでの保護は認められにくいことになります。関係の段階ごとの違いは「二股・浮気をされた恋人|交際関係で慰謝料は取れるのか」で整理しています。
なお、この事案で認定された行為は、挿入を伴わない性的な接触が複数回あったというものでした。ここでも、性交渉の有無だけで機械的に線が引かれているわけではありません。
判決は確定している
一審は慰謝料100万円を認め、東京高等裁判所令和2年3月4日判決も控訴を棄却して同額を維持しました。そして最高裁判所第二小法廷が令和3年3月17日付で上告を退ける決定をし、判決は確定しています。同性カップルを法的保護の対象とした判断が最高裁で確定した事例としては、初めてのものとみられています。
一審が示した「差異」と、それへの疑問
もっとも、一審は慰謝料額について、この関係は現行法上認められていない同性婚の関係であることからすると、**法的保護に値する利益の程度は法律婚や内縁関係と「おのずから差異がある」**と述べていました。
これに対し原告側は、控訴審で「異性と同性で保護に差を設けるのは差別だ」と主張しました。二審は、性別によって差異を設けているのではなく、婚姻に準ずる程度とその保護の程度は、それぞれの関係の実態に基づいて判断するのが相当であると説明し、結論としては同額を維持しています。
この点については、同性カップルと異性カップルとで不貞行為による精神的損害の程度が異なるのか疑問が残る、という指摘も法律家から出されています(東京弁護士会「LIBRA」2021年1・2月号特集)。まだ議論が固まりきっていない論点とご理解いただくのが正確です。
「パートナー本人」と「相手方」は別問題
見落とされやすい点ですが、この事案で慰謝料の支払いが認められたのは、不貞行為をした元パートナー本人に対する請求のみでした。関係を持った相手方に対する請求は認められていません。
異性間の不貞では、配偶者と相手方の双方に請求できるのが原則です。しかし同性カップルの場合、その関係は戸籍に表れないため、相手方が関係の存在を知り得たかという点で状況が異なり得ます。パートナー本人に請求できることと、相手方に請求できることは、切り分けて検討する必要があります。
4. 「近年の考え方」は分野ごとにそろっていない
同性カップルをめぐる法的な扱いは、分野によって進み方が違います。ここを押さえておくと、情報の食い違いに戸惑わなくなります。
民法の不法行為(慰謝料)の分野では、上記のとおり比較的早い段階で保護が認められました。
公的な給付の分野では、より時間がかかりました。犯罪被害者の同性パートナーが遺族給付金を受け取れるかが争われた事件で、一審(名古屋地判令和2年6月4日)は「同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたとはいえない」として否定しました。しかし最高裁判所第三小法廷令和6年3月26日判決は、犯罪被害者と同性の者も「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得ると判断し、原判決を破棄して差し戻しました。
婚姻制度そのものについては、まだ結論が出ていません。同性婚を認めない民法・戸籍法の規定が憲法に反するかを問う訴訟は全国5地裁で6件提起され、高裁判決6件のうち5件が違憲または違憲状態と判断し、1件(東京高裁・2025年11月28日)が合憲と判断しました。2026年3月25日、最高裁判所は6件すべてを大法廷で審理することを決めており、統一判断はまだ示されていません。
自治体の制度は広がっています。渋谷区と虹色ダイバーシティの共同調査によれば、パートナーシップ制度は2025年5月31日時点で532自治体が導入し、人口カバー率は92.7%に達しています(東京弁護士会サイト掲載データ)。ただし、これらの制度は法律婚と同じ法的効果を与えるものではありません。証明書があることは関係の実態を示す資料のひとつになり得ますが、それだけで内縁と同視されるわけではない、という位置づけです。
こうした状況を踏まえると、「同性だから請求できない」とも「異性とまったく同じ」とも言い切れないのが現在地だといえます。
5. 請求する側が気をつけたいこと
このテーマには、ほかの男女トラブルにはない固有の注意点があります。
(1) 相手の性的指向を第三者に伝えることのリスク
もっとも慎重を要するのがこの点です。請求を進める過程では、誰かの性的指向が明らかになる場面が生じます。感情が高ぶって、相手の勤務先や家族、共通の知人に事情を伝えてしまう方がいらっしゃいますが、これは大きなリスクを伴います。
本人が知られたくないと考えている性的指向を第三者に暴露する行為(いわゆるアウティング)については、東京高等裁判所令和2年11月25日の判決が、人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為であることは明らかであるとの判断を示しています。厚生労働省のパワーハラスメント指針でも、労働者の性的指向・性自認について本人の了解を得ずに他の労働者に暴露することは、職場のパワーハラスメントの例として挙げられています。
つまり、慰謝料を請求できる立場であっても、その進め方によっては、逆にご自身が責任を問われることがあります。事実を広めることは請求の役には立ちません。
(2) 立証の難しさは異性の場合と異なる
異性間の不貞では、ホテルへの出入りといった外形から性的関係を推認する手法が用いられます。しかし同性間では、二人で会っている、旅行に行った、宿泊したといった事実だけでは、「親しい同性の友人」との区別がつきにくく、同じ推認が働きにくい面があります。
そのため、関係の性質と、夫婦(あるいはパートナー)関係にどのような影響が生じたかが分かる資料を、前後の文脈込みで残すことが重要になります。やり取りをご自身から消してしまわないこと、問い詰める前に保存を済ませておくことも実務上のポイントです。証拠の集め方と、違法な収集がかえって不利になる理由については「ラブホ・不貞の『証拠』になるもの」で詳しくご説明しています。
(3) 要求の仕方には線がある
正当な権利であっても、伝え方が度を越えれば別の問題が生じます。害悪を告げて金銭を求めれば恐喝罪(刑法249条)、脅す行為は脅迫罪(刑法222条)に当たり得ます。権利行使であっても、その方法が社会通念上許される範囲を超えれば責任を問われ得るという考え方が、古くから最高裁で示されています。線引きは微妙ですので、ご自身で押し切ろうとされる前にご相談ください。
(4) 期限
不法行為に基づく請求には期間の制限があります(民法724条)。数え方は「不貞慰謝料の時効」のコラムでご説明していますので、そちらをご参照ください。
6. 請求された側が気をつけたいこと
反対に、慰謝料を請求する通知を受け取った方に向けて、押さえておきたい点を挙げます。
請求された、ということは支払義務が確定した、という意味ではありません。 まず、誰が(本人か代理人か)、何を理由に、いくらを、いつまでに求めているのかを整理してください。
そのうえで、反論の見通しを冷静に見ておく必要があります。「相手が同性だから不貞行為ではない」という反論は、近年の裁判例の流れからすると、以前ほど通りにくくなっています。この点だけを頼りに放置されるのは危険です。
一方で、争える余地は複数あります。関係が保護されるだけの実態を備えていたのか(②型)、既婚であることを知り得たのか(①型)、その時点で夫婦関係が既に破綻していなかったか、請求額が事案に見合っているか――いずれも検討すべき論点です。
初動としては、その場で事実を認めない、記録を消さない、書面に署名する前に内容を確認するの3点を意識してください。特に、話し合いで金額に合意して書面を交わした場合、法律論としてどうであったかとは別に、和解契約(民法695条)として拘束力が生じます。あとから覆すことは容易ではありません。詳しい初動は「不貞慰謝料を請求されたときにまず確認すべき6つのポイント」「内容証明が弁護士名で届いた」でご説明しています。
7. よくいただくご質問
Q. パートナーシップ証明書があれば、内縁と同じ扱いになりますか。
制度は法律婚と同じ効果を与えるものではありません。証明書は関係の実態を示す資料のひとつにはなりますが、判断の軸は同居の期間、生活の共同性、周囲への表明といった実態の総合評価です。
Q. 相手が同性なので「浮気ではない」と言われました。
それだけで結論は決まりません。守られているのは婚姻共同生活の平和という利益であり、その侵害があったかどうかで判断されます。
Q. 相手の勤務先に伝えると言われました。
たとえ内容が事実であっても、そのような伝達は名誉毀損やプライバシー侵害の問題を生じ得ます。性的指向に関わる場合はなおのことです。伝えると告げて金銭を求める行為は、恐喝に当たり得ます。やり取りを保存のうえ、ご相談ください。
Q. 同性の相手方にも請求できますか。
①型では、相手方が既婚であることを知っていたか知り得たかが要件になります。②型では、上記の確定判決の事案でも相手方への請求は認められておらず、パートナー本人への請求とは別に検討する必要があります。
まとめ
- 近年の裁判例は、相手が同性であることを理由に一律で慰謝料請求を否定していません。
- 判断の軸は「同性か異性か」ではなく、守られるべき関係の実態と、その関係にどのような影響が生じたかです。
- 同性カップル自身の関係も、内縁と同視できる実態があれば保護されるという判断が最高裁で確定しています。ただし保護の程度をどう考えるかには、なお議論があります。
- 分野ごとに進み方が異なり、婚姻制度そのものについては最高裁の統一判断が待たれる段階です。
- 請求する側は、性的指向を第三者に伝えることがご自身の責任につながり得る点に、特にご注意ください。
ご自身のケースがどちらの型に当たり、どこが争点になるのかは、事情を伺わないと判断が難しい領域です。お一人で抱えず、早い段階でご相談いただければと思います。


