【不貞慰謝料】弁護士費用は相手に払わせられるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞をめぐる慰謝料のご相談では、「弁護士に頼めば費用がかかる。その分も相手に払わせられないのか」という質問がよく出ます。請求する側からも、請求を受けた側からも出る問いです。

 結論から申し上げると、日本の民事裁判は、負けた側に相手方の弁護士費用まで負担させる仕組みを原則として採っていません。ただし、慰謝料請求のように不法行為を理由とする請求では、判決の中で「弁護士費用相当額」という項目が損害に加えられることがあります。この記事では、その例外がどこまで届き、どこで届かなくなるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方から整理します。

「弁護士費用を相手に」という問いは3つに分かれる

 この質問が出るとき、実際には性質の違う3つの問いが混ざっていることがよくあります。

  1. 自分が依頼した弁護士に支払う費用を、そのまま相手に肩代わりさせられるのか。
  2. 裁判に負けた側は、相手方が使った費用をどこまで負担するのか。
  3. 判決で命じられる支払額に、弁護士費用の分が上乗せされるのか。


 答えはそれぞれ違います。1つ目は原則としてできません。2つ目は「訴訟費用」という限られた範囲にとどまります。3つ目だけが、条件つきで開かれている入口です。混乱の多くは、この3つが同じ言葉で呼ばれていることから生じています。

「弁護士費用」という言葉が指している3つの別物

 まず、言葉の中身を分けておきます。

呼び方中身誰が負担するか
依頼した弁護士に支払う費用着手金、報酬金、実費、日当など依頼した本人(委任契約に基づく)
訴訟費用申立ての手数料(印紙)、郵便料、証人等の旅費日当など、法律に列挙されたもの判決で定められた割合に従い、原則として敗訴した側
弁護士費用相当額判決で損害の一項目として認容額に加算されることがある金額支払を命じられた側


 この3つのうち、相手に負担を求める余地があるのは2番目と3番目です。そして、実際に金額としてまとまった意味を持つのは3番目のほうです。1番目、つまり自分が弁護士に支払う金額そのものを相手に請求することは、原則としてできません。

訴訟費用は敗訴した側の負担になるが、弁護士費用は含まれない

 民事訴訟法61条は、訴訟費用は敗訴した当事者の負担とすると定めています。この一文があるため、「裁判に負けた側が費用を全部持つ」と受け取られることがあります。

 しかし、ここでいう訴訟費用の範囲は、民事訴訟費用等に関する法律2条に列挙されたものに限られます。申立ての手数料、書類の送達に要する郵便料、証人等の旅費や日当などが中心で、弁護士に支払う報酬はここに含まれていません。裁判所も、訴訟費用は訴訟の追行に必要なすべての費用を含むわけではなく、弁護士費用は含まれない旨を案内しています。

 さらに、判決に「訴訟費用は被告の負担とする」と書かれても、それだけで具体的な金額が決まるわけではありません。金額を確定して回収するには、民事訴訟法71条1項の訴訟費用額確定処分という別の申立てが必要になります。この手続には手間がかかり、金額も大きくないことが多いため、実務では申立てをしないまま終わることが少なくありません。

相手に負担を求められる主な入口=弁護士費用相当額

 では、なぜ「慰謝料の1割程度が弁護士費用として認められる」という説明を目にするのでしょうか。これは訴訟費用の話ではなく、損害賠償の中身の話です。

最高裁が示した考え方

 最高裁昭和44年2月27日判決は、不法行為の被害者が自分の権利を守るために訴えを起こさざるを得ず、訴訟の追行を弁護士に委任した場合について、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を考慮して相当と認められる額の範囲内のものに限り、その不法行為と相当因果関係に立つ損害にあたると判断しました。

 不貞行為を理由とする慰謝料請求は、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求です。そのため、この考え方が及ぶ場面にあたり、判決では慰謝料額に加えて弁護士費用相当額が認められることがあります。相手に負担させているのは「訴訟に負けた罰」ではなく、不法行為から生じた損害の一項目である、という構成です。

契約違反の場合とは扱いが違う

 同じ「相手が約束を守らなかった」という場面でも、契約上の債務の不履行を理由とする請求では扱いが異なります。最高裁令和3年1月22日判決は、土地の売買契約の買主が売主に対して引渡しや登記手続を求める訴訟等を弁護士に委任した場合であっても、その弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないと判断しました。

 理由として挙げられているのは、契約上の債務の履行を求めることは侵害された権利利益の回復を求めるものではないこと、契約を結ぼうとする者は任意に履行されない場合があることを踏まえて契約するかどうかを決められること、といった点です。慰謝料請求で弁護士費用相当額が問題になり得るのは、不意に権利を侵害された側の回復を扱う場面だからという理解になります。

「1割」という数字の読み方

 実務では、認容された額のおおむね1割程度を弁護士費用相当額として加算する運用が紹介されることが多くあります。ただし、この数字は次の点に注意して読む必要があります。

  1. 法律で決まった固定の割合ではなく、事案の難易や請求額などを踏まえた裁判所の判断による。
  2. 基準になるのは請求した額ではなく、実際に認められた額である。請求額が大きくても、認容額が小さければ加算される額も小さくなる。
  3. 実際に弁護士に支払った金額そのものが認められるわけではない。多くの場合、自己負担分のほうが上回る。
  4. 判決に至らなければ、この項目が独立して立つ場面自体が生じない。


 つまり、弁護士費用相当額は自己負担をゼロにする仕組みではなく、負担の一部を賠償額に反映させる仕組みとして位置づけられています。費用の見通しを立てるときは、この点を前提に考えることになります。

同じ請求でも、どこで終わるかで扱いが変わる

 弁護士費用相当額は、どの手続で解決したかによって現れ方が変わります。

解決の場面弁護士費用相当額の扱い
判決損害の一項目として認容額に加算されることがある
訴訟上の和解独立の項目として立たず、合意した解決金の総額に溶け込むことが多い
調停同様に、合意した総額だけが定まる
訴訟前の示談交渉相手方が合意しない限り生じない


 請求する側から見ると、判決まで進めば弁護士費用相当額が加わる可能性がある一方で、時間がかかり、回収の負担も残ります。逆に、早期の和解や示談は解決までの期間を短くしますが、費用分を別枠で立てにくくなります。どちらが有利かは、認められる見込み額、期間、回収の確実性を並べて比べるほかありません

 なお、和解や調停で総額だけが決まった場合、その中に費用分が織り込まれているかどうかは外からは判別できません。合意書の金額を他の事案と比べても、内訳が違えば同じ意味にはならない点に注意が必要です。

請求を受けた側から見た同じ問い

 請求を受けた側にも、鏡写しの問いがあります。「争って請求が退けられたら、こちらの弁護士費用は相手に払ってもらえるのか」という問いです。

退けられても自分の費用は戻らないのが原則

 請求が全部退けられた場合、判決では「訴訟費用は原告の負担とする」とされるのが通常です。しかし、ここでいう訴訟費用に弁護士費用が含まれないことは、これまで述べたとおりです。したがって、支払を免れたとしても、自分が依頼した弁護士の費用は自分の負担として残るのが原則になります。

 これは制度の欠陥というより、選択された設計です。敗訴した側に相手方の弁護士費用まで負わせると、敗訴したときの負担が大きくなりすぎ、正当な言い分を持つ人が裁判の利用をためらう結果になりかねない、という考慮が背景にあると説明されています。

相手の提訴自体を違法だと主張できるか

 「根拠のない請求で応訴を強いられた」として、提訴そのものを不法行為だと主張する道はあります。ただし、認められる範囲は狭く設定されています。

 最高裁昭和63年1月26日判決は、訴えを提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合に、その提訴が相手方に対する違法な行為といえるのは、主張した権利または法律関係が事実的・法律的根拠を欠くうえ、提訴者がそのことを知りながら、または通常人であれば容易に知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られると判断しました。同判決は、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならないことも述べています。

 したがって、「請求が認められなかった」という結果だけでは足りません。主張が事実にも法にも根拠を欠いていたこと、そしてそれを知りながら、あるいは容易に知り得たのに提訴したことまで示す必要があり、ハードルは高いとお考えいただくのが現実的です。

示談交渉で「弁護士費用も」と求める場合

 訴訟前の交渉では、当事者が合意すればどのような内容も定められます。弁護士費用の分を含めた金額で合意することも、理屈のうえでは可能です。ただし、次の点は押さえておく必要があります。

  • 交渉は合意が前提であり、相手方に応じる義務はない。
  • 費用分を別項目として提示すると、金額の総額に目が向かず、交渉が長引くことがある。
  • 相手方に代理人が付いている場合、費用分の上乗せは通りにくくなる傾向がある。
  • 最終的に問題になるのは名目ではなく、いつまでにいくら支払われるかである。


 実務的には、費用の内訳を細かく立てるより、受け取る総額と支払時期を先に固めるほうが交渉が進みやすい場面が多いといえます。示談書に「弁護士費用は各自の負担とする」という一文が置かれることが多いのも、後から費用分を持ち出さないことを相互に確認しておく趣旨です。

自分の負担を軽くする方向で考えられること

 相手に払わせるという方向とは別に、自分の負担を調整する方向もあります。いずれも相手方の負担にするものではありませんが、検討の材料にはなります。

  • 依頼前に、着手金・報酬金・実費・日当の区別と、想定される総額の幅を書面で確認しておく。
  • 交渉で終わった場合、訴訟まで進んだ場合など、段階ごとの費用の変化を聞いておく。
  • 収入や資産が一定の基準を下回る場合、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助による費用の立替えを利用できることがある。立替えであり免除ではない点に注意する。
  • 加入している保険に弁護士費用に関する特約がある場合は、対象となる紛争の範囲が約款で限定されていることがあるため、適用の可否を確認する。


 費用の見通しが立たないまま手続を進めると、得られる金額と負担が釣り合わなくなることがあります。方針を決める前に、費用と回収見込みを並べて確認しておくことをおすすめします。

よくある質問


訴状の「訴訟費用は被告の負担とする」とは何を求めているのですか

 民事訴訟法61条に沿った定型の記載で、法律に列挙された訴訟費用の負担を求めるものです。弁護士費用は含まれません。また、この記載どおりの判決が出ても、金額を確定するには訴訟費用額確定処分の申立てが別途必要になります。

配偶者と不貞相手の両方に請求する場合、弁護士費用相当額も二重に得られますか

 いいえ。損害の総額が一つである以上、弁護士費用相当額もその総額の中で一度だけ判断されます。請求先が複数いる場合の考え方は、共同不法行為と求償を扱った記事をあわせてご覧ください。

相手に弁護士が付きました。こちらの費用負担は増えますか

 相手に代理人が付いたこと自体で、こちらが負担する費用が当然に増えるわけではありません。ただし、争点が整理されて手続が長くなることはあります。連絡の窓口が代理人に一本化されるため、こちら側も代理人を立てて対応を統一する判断が必要になる場面があります。

まとめ

 弁護士費用を相手に払わせられるかという問いについて、押さえておきたい点を整理します。

  1. 日本の民事裁判は、弁護士費用を敗訴した側に負担させる制度を原則として採っていない。
  2. 判決の「訴訟費用は敗訴の当事者の負担とする」に弁護士費用は含まれず、金額の確定には別の手続が必要になる。
  3. 不法行為を理由とする慰謝料請求では、弁護士費用相当額が損害の一項目として認容額に加算されることがある。
  4. その基準は請求額ではなく認められた額であり、固定の割合ではない。自己負担が消えるわけではない。
  5. 判決以外の場面では、費用分は独立の項目としては現れず、合意した総額に溶け込む。
  6. 請求を受けた側は、請求が退けられても自分の弁護士費用を回収できないのが原則で、提訴自体を違法とする主張が通る範囲は狭い。
  7. 方針を決める段階で、見込み額・期間・費用・回収可能性を並べて比べておくことが実際的である。


 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料について、請求する側・請求を受けた側のいずれからもご相談をお受けしています。費用の見通しを含め、手続を進める前に確認しておくべき点を整理してお伝えします。池袋・新橋の各事務所でご相談を承っておりますので、判断に迷われている段階でもお気軽にお問い合わせください。

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若井亮
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若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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