不倫・愛人関係を清算したい|穏便に別れるための手切れ金の考え方
「不貞慰謝料の相場」と検索すると、50万円から300万円といった幅の広い数字が並びます。ところが、参照するページによって示される数字は少しずつ違い、自分の場合はどこに当てはまるのかが分かりにくいという声をよく聞きます。この記事では、金額を断定するのではなく、相場と呼ばれている数字がどこから来ているのか、そして実際の金額がどのような順序で組み立てられるのかを分解して整理します。請求する側と請求を受けた側の双方の視点から説明します。なお、離婚に伴う財産分与や親権といった離婚手続そのものは扱いません。
「相場」と呼ばれている数字は一種類ではない
同じ「相場」という言葉が使われていても、指している数字が違っていることがあります。まず、この点を切り分けておくと、目にした数字の意味を読み違えにくくなります。
| 数字の種類 | どこで登場するか | 性質 |
|---|---|---|
| 請求された額 | 内容証明郵便や訴状 | 請求する側が主張する金額。交渉の余地を見込んで高めに置かれることがある |
| 裁判で認められた額 | 判決 | 裁判所が個別の事情を総合して判断した金額。公表された裁判例の集計が相場の土台になっている |
| 話し合いで決まった額 | 示談書や和解の書面 | 双方の事情と支払条件を踏まえた合意額。外部に公表されにくい |
この3つは、同じ事件でも一致しません。請求された額がそのまま認められるとは限らず、逆に、裁判では認められにくい事情が、話し合いでは支払条件との兼ね合いで金額に反映されることもあります。相場という言葉は、多くの場合、公表された裁判例から見た2番目の数字を指していますが、実際の解決の多くは3番目の話し合いで決まっているという事情があります。
慰謝料の額について、法律は具体的な金額を定めていません。民法709条と710条は、不法行為によって生じた精神的な損害を賠償する義務があることを定めているだけで、金額の算定式は置かれていません。裁判例の集積から傾向を読み取っているのが実際のところで、相場は法律上の基準ではなく、あくまで過去の判断の傾向をならしたものです。
示される数字が発信元によって違う理由
同じキーワードで検索しても、事務所ごとに示す幅が違います。これは、どれかが誤っているというより、数字の作り方が違うことによるものです。主に次の4つの事情が関係します。
- 集計している母集団が違います。判決になった事件だけを見るのか、交渉で解決した事件も含めるのかで、平均的な水準は変わります。
- 場面の切り分け方が違います。離婚したかどうかだけで2つに分けるのか、別居を独立させて3つに分けるのかで、示される幅は変わります。
- 公表される裁判例には偏りがあります。判決まで争われた事件は、金額や責任の有無に争いがあった事件です。当事者が早い段階で合意した事件は表に出にくく、集計には反映されにくい面があります。
- 離婚した場合は、他の金銭と一体で決着することがあります。財産分与などとまとめて解決金として合意すると、慰謝料としての金額が単独では表に出ません。この点は別の記事で詳しく扱っています。
したがって、幅の広い数字を見たときに重要なのは、その数字が何を集めたものかという点です。数字だけを取り出して自分の事案に当てはめると、期待と結果が大きくずれる原因になります。
金額は「相場から引き算」されるのではない
増額事由や減額事由という言葉から、まず基準額があって、そこから加算や減算をしていくという印象を持たれることがあります。しかし裁判所の判断は、あらかじめ決まった基準額を動かすというより、その事案で生じた精神的な苦痛の程度を、複数の事情を総合して一つの金額として評価するという組み立てになっています。
考慮される事情は大きく4つのグループに分けられる
| グループ | 含まれる事情の例 |
|---|---|
| 夫婦関係のその後 | 離婚に至ったか、別居したか、同居を続けているか、関係が修復に向かっているか |
| 夫婦関係そのもの | 婚姻期間の長さ、未成熟の子がいるか、不貞が始まる前の夫婦関係の状態 |
| 不貞行為の態様 | 関係が続いた期間、頻度、どちらが誘ったか、妊娠や出産があったか、関係を解消する約束の後に再開したか |
| 当事者側の事情 | 発覚後の対応や謝罪の有無、社会的な不利益を受けたか、支払能力、請求する側の側にも原因があったか |
4つのうち、金額に最も大きく影響しやすいのは1つ目のグループだと説明されることが多く、これは、慰謝料が守っている利益が婚姻共同生活の平穏だと考えられていることと結びついています。ただし、1つ目だけで金額が決まるわけではありません。
同じ事情が増額にも減額にも働く
たとえば婚姻期間の長さは、長ければ失われたものが大きいという方向にも働きますが、事案によっては、長年の生活の基盤があるために関係の打撃が限定的だと評価されることもあります。どちらが誘ったかという事情も、主導した側の責任を重く見る方向に働く一方で、不貞相手の側から見れば減額を基礎づける事情になります。
このように、事情の一つひとつには決まった加点や減点が割り当てられているわけではなく、他の事情との組み合わせで意味が変わります。増額事由を数え上げれば金額が積み上がるという読み方は、実際の判断とは異なります。
よく示される目安の受け止め方
以上を前提に、公表された裁判例から示されることの多い目安を整理すると、次のようになります。
| 夫婦関係のその後 | 示されることの多い目安 |
|---|---|
| 同居を続けている | 50万円から150万円程度 |
| 別居に至った | 100万円から200万円程度 |
| 離婚に至った | 100万円から300万円程度 |
注目していただきたいのは、3つの幅が重なっているという点です。同居を続けている事案の上限と、離婚に至った事案の下限は近い位置にあります。つまり、離婚したかどうかだけで金額が決まるのではなく、先ほどの4つのグループの組み合わせによって、同じ区分の中でも大きく動きます。目安は交渉の出発点として意味を持ちますが、着地点を示すものではありません。
また、この幅を大きく外れる判断がないわけではありません。関係が長期間にわたり、婚姻関係への影響が大きいと評価された事案では、目安の上限を超える金額が認められた例もあります。逆に、精神的な損害自体は認めながら、事情を考慮して目安の下限に近い金額にとどめた例もあります。
表に出る金額と、実際に動く金額は別のもの
書面に書かれる金額と、最終的に手元に残る金額、あるいは実質的に負担する金額は一致しないことがあります。金額を考えるときは、次の点も併せて確認しておくと判断を誤りにくくなります。
- 請求できる総額は一つです。配偶者と不貞相手の双方に責任がある場合でも、それぞれから満額を受け取れるわけではありません。
- 支払った側から、もう一方の当事者に対して負担部分の請求がされることがあります。この場合、支払った金額がそのまま最終的な負担額になるとは限りません。
- 求償をしない旨の条項を入れる代わりに金額を調整するなど、条件と金額は連動して決まることがあります。
- 分割払いにするか一括にするかによって、実際に回収できるかどうかの見通しは変わります。書面上の金額が大きくても、回収できなければ意味を持ちません。
- 接触を禁止する条項や口外を禁止する条項など、金銭以外の条件と引き換えに金額が調整されることもあります。
- 慰謝料とは別に、支払が遅れた場合の損害金や調査にかかった費用の負担が争点になることもあります。
請求する側から見た相場の使い方
相場を知ることは、請求額を決めるためだけではなく、提示された金額が妥当かどうかを判断するためにも役立ちます。次の点を意識しておくとよいでしょう。
- 請求額と、認められる可能性のある金額は別物です。目安の上限で請求すること自体は可能ですが、根拠が示せないと交渉が長引くことがあります。
- 金額を支えるのは、事情を裏づける資料です。関係が続いた期間や態様を示す資料があるかどうかで、主張できる範囲が変わります。
- 早期に合意することの価値も金額の一部です。時間と負担を含めて全体で判断する視点が必要です。
- 相手の支払能力によって、現実的な着地点は変わります。
- 相手方に感情的な圧力をかける形で高額を求めると、請求の正当性そのものが争われる原因になることがあります。
請求を受けた側から見た「相場より高い」という主張
高額の請求を受けたとき、相場より高いという反論をされる方は少なくありません。ただし、この主張は、それだけでは十分に働かないことがあります。
- 相場は法律上の基準ではないため、相場より高いという指摘だけでは減額の理由になりにくい面があります。
- 自分の事案の事情を、先ほどの4つのグループに沿って具体的に示すことで、はじめて主張として機能します。
- そもそも責任が生じるのかという点や、時効の問題は、金額の議論とは別の次元にあります。金額の交渉に入る前に確認すべき事項です。
- 金額の一部を支払う行為は、請求権を認めたものと受け取られることがあります。支払う前に、書面の内容と範囲を確認することが大切です。
よくある質問
相場を大きく超える金額を請求されたら、その金額を支払う必要がありますか
請求されたという事実だけで支払義務が確定するわけではありません。金額は、責任が生じるかどうかを確認したうえで、個別の事情に照らして検討することになります。話し合いがまとまらなければ、最終的には裁判所が判断します。
目安の下限の金額であれば、認められるのでしょうか
そうとは限りません。責任そのものが認められない場合には、金額の多寡にかかわらず請求は認められません。目安は、責任が認められることを前提とした金額の傾向にすぎません。
提示された金額が妥当かどうかは、何を基準に判断すればよいですか
金額そのものよりも、どの事情がどの程度考慮された結果の金額なのかを確認することが手がかりになります。あわせて、清算条項の有無、支払方法、求償に関する取り決めなど、金額以外の条件も含めて全体で判断する必要があります。
弁護士会が編集した算定の実務書や裁判例の集計は、交渉で使えますか
当事者双方が共通の土台を持つという意味では有用です。ただし、そこに示された数値は分類ごとの傾向であり、個別の事案がその中央付近に位置するとは限りません。資料の数値を示すこと自体が結論を決めるわけではない点には注意が必要です。
まとめ
- 相場という言葉は、請求された額、裁判で認められた額、話し合いで決まった額のいずれを指しているのかで意味が変わります。
- 発信元によって数字が違うのは、集計の母集団や場面の分け方が異なるためです。
- 金額は基準額からの加減算ではなく、複数の事情を総合した一つの評価として決まります。
- 考慮される事情は、夫婦関係のその後、夫婦関係そのもの、不貞行為の態様、当事者側の事情の4つに整理できます。
- よく示される目安は幅が重なっており、離婚の有無だけで金額が決まるわけではありません。
- 書面上の金額と、実際に負担する金額や回収できる金額は一致しないことがあります。
金額の問題は、責任が生じるかどうか、資料で何を示せるか、どのような条件で合意するかという複数の論点と結びついています。数字だけを切り離して考えると、判断を誤る原因になります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、請求する立場の方からのご相談も、請求を受けた立場の方からのご相談もお受けしています。手元にある書面や資料をご持参いただければ、想定される金額の範囲と、次に何を確認すべきかを具体的にご説明します。


