【解決事例】18年間にわたる独身偽装トラブル|訴訟により解決金400万円を獲得した事例
「それは浮気の範囲でしょう」「いや、不貞行為だ」。同じ出来事について、当事者どうしで言葉が食い違うことは珍しくありません。実のところ、「浮気」や「不倫」には法律上の定義がなく、人によって指す範囲が変わります。これに対して「不貞」は民法に出てくる言葉で、判例がその意味を示しています。
この記事では、慰謝料など金銭の請求が問題になる場面を中心に、三つの言葉の違いと、言葉だけでは決まらない部分を整理します。なお、当事務所では離婚の手続そのもの(協議・調停・裁判、財産分与や親権など)はお取り扱いしておりません。以下は、請求を検討している方と、請求を受けた方の双方に向けた内容です。
「浮気」「不倫」に法律上の定義はない
「浮気」も「不倫」も、辞書には載っていますが、法律の条文には出てきません。そのため、どこからが浮気でどこからが不倫かという線引きは、話す人の価値観によって動きます。二人きりの食事を浮気と考える方もいれば、身体の関係がなければ浮気ではないと考える方もいるでしょう。
一方、「不貞」は民法に「不貞な行為」という形で登場します。裁判所が離婚を認めるかどうかを判断する条文(民法770条1項1号)に置かれた言葉で、その意味は判例によって示されています。請求できるかどうかを分けるのは、当事者がどの言葉を使ったかではなく、実際に何があったかです。
| 言葉 | 法律上の定義 | 一般に指される範囲 | 請求との関係 |
|---|---|---|---|
| 浮気 | なし(日常語) | 心が他の人に移ること。交際中のカップルにも使われる | 言葉そのものでは決まらない |
| 不倫 | なし(日常語) | 既婚者が配偶者以外の相手と関係を持つこと | 言葉そのものでは決まらない |
| 不貞 | 民法に「不貞な行為」の文言があり、判例が意味を示している | 配偶者以外の者と、自由な意思に基づいて性的関係を結ぶこと | 離婚や慰謝料を判断する出発点になる |
判例が示した「不貞な行為」の意味
最高裁昭和48年11月15日判決は、民法770条1項1号の「不貞な行為」について、配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わない、と判示しました。ここから、次の四つの要素に分けて考えることができます。
- 婚姻関係にある人の行為であること。
- 配偶者以外の相手との関係であること。
- 性的な関係であること。
- 自らの自由な意思にもとづくものであること。
三つ目の「性的な関係」には、性交だけでなく、これに類する行為も含まれると考えられています。逆に、二人で食事をした、手をつないだ、頻繁に連絡を取り合っていたという事情だけでは、原則としてここには届きません。四つ目の「自由な意思」があるため、意思に反して性的な行為を強いられた側は、この意味での不貞行為をしたことにはなりません。
条文の番号が2026年4月に変わっている点に注意
民法770条1項は、令和6年に成立した改正法により、2026年(令和8年)4月1日から内容が変わりました。旧4号(配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき)が削除され、旧5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」が4号に繰り上がっています。不貞な行為が1号である点は変わりません。
インターネット上の解説には、改正前の番号のまま「5号」と書かれているものが今も多く残っています。書面のやり取りで条文番号を引用する場合は、現行の番号かどうかをご確認ください。
同じ「不貞行為」でも、場面によって意味の幅が変わる
実務でつまずきやすいのは、「不貞行為」という同じ言葉が、離婚を認めるかどうかの場面と、お金を請求できるかどうかの場面の両方で使われている点です。
離婚事由としての「不貞な行為」
先ほどの昭和48年の判例は、離婚の訴えを起こせるかどうかが争われた事案で示されたものです。ここでは性的関係の有無が基準になります。そして、性的関係が認められない関係であっても、家庭を顧みない交際が続いて夫婦関係が壊れてしまったような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」として別の号で扱われる余地があります。
慰謝料の場面で問われるもの
慰謝料の根拠は、不法行為に関する民法709条・710条です。ここで守られているのは、婚姻共同生活の平和の維持という利益であると理解されています。そのため、慰謝料の場面での「不貞行為」は、離婚事由の定義よりも幅を持って判断されることがあります。
たとえば東京地方裁判所令和3年2月16日判決は、不貞行為を、婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と述べ、性交そのものが不可欠とはいえず、夫婦の共同生活を壊しうる類似の行為も含まれるとしました。「身体の関係がなければ何も問題にならない」とも、「身体の関係があれば必ず責任を負う」とも言い切れない、というのが実際のところです。
当てはまっても責任が生じない場合、当てはまらなくても責任が問われる場合
言葉の当てはまりと、法的な結論は、次のようにずれることがあります。ずれは両方向に生じます。
| 場面 | 言葉としての当てはまり | 法的な結論の傾向 |
|---|---|---|
| 関係を持った時点で夫婦関係がすでに破綻していた | 当てはまる | 相手方は責任を負わないとされることがある |
| 既婚者だと知らず、知ることもできなかった | 当てはまる | 故意も過失もないとして責任を否定される余地がある |
| 意思に反して性的な行為を強いられた | 当てはまらない | 強いられた側は責任を負わない |
| 性的な関係はないが、密接な交際で家庭の平穏を害した | 当てはまらない | 責任を認めた裁判例がある |
| 独身だと偽られて交際していた | 婚姻の枠の外なので当てはまらない | 偽った側が責任を問われることがある |
一つ目については、最高裁平成8年3月26日判決が、関係を持った当時に夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情のない限り相手方は不法行為責任を負わないとしています。守られるべき利益がすでに失われている、という考え方です。
破綻をめぐる新しい最高裁の判断
さらに、最高裁令和8年6月5日判決は、「離婚したと信じたことに相当の理由がない」というだけで直ちに過失があるとはいえず、婚姻関係がすでに破綻していると信じ、そう信じたことに相当の理由があったかどうかを別に検討すべきであるという判断を示し、原審を破棄して審理を差し戻しました。
ただし、この事件は差戻し後の審理が続いており、結論が確定したわけではありません。また、「離婚すると言われていた」という言葉だけで責任がなくなるという趣旨でもありません。判断のものさしが一段細かくなった、という受け止め方が正確です。破綻をめぐる主張の詳細は、別の記事で解説しています。
婚姻の枠の外で「浮気」という言葉を使うとき
交際中の相手が他の人と関係を持った場合にも「浮気」という言葉が使われますが、この場面に不貞行為の枠組みがそのまま当てはまるわけではありません。民法は、夫婦について貞操を守る義務があると理解されている一方で、交際関係にある恋人どうしに同じ義務を定めた規定は置いていないからです。交際を続けるかどうかは本来自由であり、別れたこと自体は責任の問題になりません。
- 内縁(事実婚)は、実態が夫婦と変わらなければ、婚姻に準じて保護されることがあります。
- 婚約が成立していた場合には、一方的な破棄について責任が問われることがあります。
- 独身だと偽られて交際していた場合は、「不貞」ではなく、性的な自己決定に関わる権利の侵害として、偽った側に請求できる余地があります。
- 同性間の関係についても、婚姻共同生活の平和を害したかどうかという観点から責任が認められた裁判例があります。
どの言葉を使うかが、書面では結果を左右することがある
日常会話では言葉の違いはさほど問題になりませんが、書面に残る場面では話が変わります。ここが、言葉の意味を確認しておく実務上の理由です。
請求を検討している方
通知書に「浮気をされた」と書くだけでは、相手に何を認めてもらいたいのかが伝わりません。いつ、誰と、どのような関係があったのかという事実の特定が、交渉でも裁判でも出発点になります。反対に、確たる裏づけのないまま断定的な表現で送ると、後にこちらの責任が問われる場面もあります。相手の職場や親族に伝える、SNSに投稿するといった行動も、別の紛争を生みやすい行為です。
請求を受けた方
その場を収めたい気持ちから「不貞行為があったことを認めます」と書いてしまうと、その書面自体が事実を認めた証拠として残ります。「ご迷惑をおかけしました」といった曖昧な返信も、前後のやり取りとあわせて自認に近いものと評価されることがあります。金額や条件を決める前に、まず何を認め、何を争うのかを整理することをおすすめします。示談書に署名するときも、対象となる事実が「浮気」と書かれているのか「不貞行為」と書かれているのかで、後から蒸し返せる範囲が変わることがあります。
なお、双方に共通することとして、やり取りの記録をご自身の判断で消してしまわないほうが安全です。不利に見える記録が、時期や経緯を示す資料として役立つこともあります。
よくあるご質問
1回だけでも不貞行為になりますか
性的関係があれば、回数が1回であっても不貞行為に当たると考えられています。ただし、離婚が認められるかどうか、慰謝料がいくらになるかは、期間や頻度、家庭への影響などを踏まえた別の判断になります。
キスやハグだけなら問題ありませんか
それだけでは、原則として不貞行為とはいえません。もっとも、前後の事情によっては性的関係を推認させる事情として扱われますし、密接な交際が家庭の平穏を害したとして責任が認められた裁判例もあります。「不貞行為ではない=何も起きない」とはいえません。
不貞行為は犯罪になりますか
かつて存在した姦通罪は戦後の刑法改正で廃止されており、不貞行為そのものに刑罰はありません。ただし、無断で相手の端末を操作する、事実を暴露する、度を越えた取り立てをするといった行為は、別の法律問題になります。
相手が事実を認めません。どうすればよいですか
立証の責任は、原則として請求する側にあります。決定的な一つの証拠がなくても、複数の事情の積み重ねで判断されることがあります。集め方には違法になる方法もありますので、動く前にご相談ください。
まとめ
- 「浮気」「不倫」は日常語で、法律上の定義はありません。
- 「不貞な行為」は民法770条1項1号の言葉で、判例は、配偶者以外の者と自由な意思にもとづいて性的関係を結ぶことと述べています。
- 2026年4月1日以降、「婚姻を継続し難い重大な事由」は同項4号です。古い解説の番号にご注意ください。
- 慰謝料の場面では、婚姻共同生活の平和の維持という利益が守られており、離婚事由の定義よりも幅を持って判断されることがあります。
- 言葉が当てはまっても責任が生じない場合があり、当てはまらなくても責任が問われる場合があります。
- 書面では、どの言葉で何を認めるかが後の結論に影響します。署名の前に内容をご確認ください。
「浮気か不貞か」という言葉の争いは、当事者だけで話すと平行線になりがちです。実際に判断されるのは、何があったか、どの利益が害されたか、そしてそれを裏づける資料があるかという点です。請求する側であっても、請求を受けた側であっても、早い段階で見通しを立てておくことで、選べる手段は広がります。
当事務所では、男女間のトラブルについてのご相談を承っております。ご自身の状況がどこに位置するのか整理したいという段階でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。


