立場を利用したと言われた|経済的・社会的関係の影響力による類型
公然わいせつ罪を定める刑法174条の条文は、「公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」というものです。「公然」が何を指すのかは、条文には書かれていません。そのため、路上や公園といった場所の名前を思い浮かべ、そこに当てはまるかどうかで考えてしまいがちです。
しかし実務上の判断は、場所の名前ではなく、その状況で不特定又は多数の人が認識できたかどうかという物差しで行われます。同じ路上でも結論が分かれることがあり、逆に屋内や自家用車の中でも「公然」と評価されることがあります。
この記事では、「公然」という要件がどのように判断されるのかを整理したうえで、露出・排尿・着替えという三つの場面を取り上げます。いずれも、問われる規定が刑法174条とは限らず、規定が変わると場所の物差しそのものが変わる点が、実務では重要になります。
「公然」とは何を指すのか
判例は、刑法174条の「公然」について、不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいうとしています(最高裁決定昭和32年5月22日)。ここで見落とされやすいのは、「不特定」と「多数」が別々の入口として並べられている点です。
- 相手が少人数であっても、その人たちが「不特定」であるとき。
- 相手が特定されていても、その人数が「多数」であるとき。
このいずれかに当たれば、「公然」の要件を満たし得ることになります。「不特定かつ多数でなければ成立しない」と読むと、条文の構造と一致しません。人数が少なかったから成立しない、という理解も同じです。
実際に見られたことは要件ではない
「公然」は認識することのできる状態であれば足り、現実に誰かが認識したことまでは必要とされていません。裁判例は、海水浴場に近接する海岸で行われた事案について、現実には通行人がおらず、沖合約300メートルを遊覧船が一隻通行したにすぎない状況であっても、不特定又は多数の人が通行し、あるいは認識し得る可能性のある場所であった以上、公然わいせつ罪の責任を免れないとしています(東京高裁判決昭和32年10月1日)。
同じ裁判例は、行為者が自分の行為に公然性があると認識している必要はなく、客観的にその行為が行われる環境に公然性があれば足りるとも述べています。つまり、「人がいないと思っていた」という説明は、公然性そのものを打ち消す方向には働きにくいということです。
「知らなかった」と「故意がない」は別
もっとも、犯罪の成立には故意が必要です。ここでいう故意は、自分の行為の内容と、その行為が行われている客観的な状況を認識し、認容していることを指します。その行為が法律上「わいせつ」に当たるか、その場所が「公然」に当たるかまで知っている必要はありません。
逆にいえば、外から見える状態になっていること自体をまったく認識していなかった場合には、故意の有無が争点になります。この点は、後で述べる着替えの場面で実際に問題になります。
「公然」が否定された例
公然性は広く認められる傾向にありますが、否定された裁判例もあります。裁判例は、わいせつ行為を見た人が被告人の知人や親族に限られていた事案について、観覧者が特定人であるかどうかは、行為が営利本位かどうかだけで決まるものではなく、行為者と観覧者との間に、その場かぎりの「見せる者」と「見る者」という以上の個人的関係があるかどうかなどを考慮して決すべきであるとし、観覧者は特定していると判断して、公然わいせつ罪の成立を否定しました(静岡地方裁判所沼津支部判決昭和42年6月24日)。
また、屋外で撮影を行ったとして多数の関係者が書類送検された事件で、現場が山中であり不特定多数の人に認識されるような場所ではなかったとして、検察官が不起訴とした例も報じられています。
これらから読み取れるのは、公然性の判断がその場所に人が立ち入る現実的な可能性と、居合わせた人との関係性を見ているということです。「人目につきにくい場所だった」という事情は、それだけで結論を決めるものではありませんが、検討の対象にはなります。
場面その1 露出
露出の場面では、どの部位を、どのような態様で出したかによって、問われる規定が変わります。
| 問題になる規定 | 典型的に想定される態様 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 刑法174条 公然わいせつ | 性器の露出、性的な行為 | 6月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 |
| 軽犯罪法1条20号 身体露出 | しり、ももなど性器以外の部位の露出 | 拘留または科料 |
| 東京都の迷惑防止条例5条1項3号 卑わいな言動 | 上記に当たらない性的な言動 | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
軽犯罪法1条20号は、「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」を対象としています。「公衆の目に触れるような場所」は屋外に限られず、道路に面した室内で通行人から見える状態も含まれ得ると説明されています。
ここで気をつけたいのは、刑法174条から外れれば結果が軽くなるとは限らないことです。東京都の条例違反として扱われた場合、罰金の上限は刑法174条のそれより高く設定されています。
場面その2 排尿
いわゆる立ち小便の場面では、刑法174条ではなく、軽犯罪法1条26号がまず検討されます。同号は「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」を対象としています。
注目したいのは、26号が「公然」という言葉を使っていない点です。用いられているのは「街路」または「公衆の集合する場所」という、場所そのものを限定する要件です。周囲から見えたかどうかとは別に、その場所が26号のいう場所に当たるかどうかが、独立した争点になります。
「街路」と「公衆の集合する場所」は同じではない
この点が正面から争われた裁判例があります。市街地のビルに付属する駐輪場で用を足した事案で、第一審は、「公衆の集合する場所」とは性質上多数の人が集合する場所を指すとしたうえ、駐輪場は自転車を置くために一時的に利用されるにすぎず、多数の人が集合する場所とはいえないとして、無罪を言い渡しました。
控訴審も、当該駐輪場について、多数の者が「利用する」可能性のある場所ではあるけれども性質上多数の者が「集合する」ような場所とはいえないとして、「公衆の集合する場所」に当たらないとした第一審の判断自体は正当としています。そのうえで、駐輪場が周囲の道路と段差なく接し、自転車での乗り入れや通行が予定されていたことなどから、周囲の道路と一体をなすものとして「街路」に当たると判断し、科料9,900円を言い渡しました(大阪高等裁判所判決平成29年2月7日)。
「街路」は、市街地の道路、つまり人家が建ち並んでいる地帯の道路を指すと説明されており、山道・野道・あぜ道は含まれないとされています。空き地や野原も含まれません。屋外であればどこでも該当する、というわけではないのです。
公然わいせつ罪が問題になる場合
排尿に伴って性器が見える状態になったとき、刑法174条の「わいせつな行為」に当たるかどうかが別に問題になります。用を足す目的で人目につかないよう配慮しながら行われた場合と、人のいる方向に向けて見せる態様で行われた場合とでは、評価が変わり得ます。
なお、用を足すために他人の敷地内に立ち入れば、住居侵入罪(刑法130条前段)が別に問題になります。こちらは3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金で、軽犯罪法よりも重い枠です。実際の事件では、この点が結論に影響することがあります。
場面その3 着替え
着替えに伴って身体が見える状態になった場合、まず刑法174条の「わいせつな行為」に当たるかが問題になります。更衣室や浴場で、着替えや身体を拭く目的で衣服を脱ぐ行為は、性欲を刺激・興奮または満足させる動作とはいえず、公然わいせつ罪には当たらないと説明されるのが一般的です。
問題になりやすいのは、屋外や車内、自宅の窓際といった、着替えることが当然には想定されていない場所です。ここでは次の三点が順に検討されます。
- その状況で不特定又は多数の人が認識できる状態だったか(公然性)。
- 着替えといえる態様だったか、それとも見せる要素が含まれていたか(わいせつ性)。
- 外から見える状態であることを認識し、認容していたか(故意)。
カーテンを閉め忘れていた、車の窓のフィルムの効果を誤解していたといった事情は、公然性ではなく故意の側で意味を持ちます。「見えていた」ことと「見えると分かっていた」ことは、別の問題として整理されます。
もっとも、性器の露出に至らない場合でも、態様によっては軽犯罪法1条20号や条例の対象として検討されることがあります。着替えだから問題にならない、と一律にいえるわけではありません。
規定が変わると場所の物差しも変わる
ここまで見てきたとおり、同じ場面でも、問われる規定によって場所の要件の書き方が異なります。
| 規定 | 場所の要件の書き方 | 公訴時効 |
|---|---|---|
| 刑法174条 | 「公然と」(不特定又は多数の人が認識できる状態) | 3年 |
| 軽犯罪法1条20号 | 「公衆の目に触れるような場所」 | 1年 |
| 軽犯罪法1条26号 | 「街路又は公園その他公衆の集合する場所」 | 1年 |
| 東京都の迷惑防止条例5条1項3号 | 「公共の場所又は公共の乗物」 | 3年 |
「そこは公共の場だったか」という一つの問いだけで整理しようとすると、規定ごとの違いを取りこぼします。ご相談の場でも、まずどの規定が想定されているのかを確認するところから始めます。
手続の面でも違いがあります。軽犯罪法違反のように拘留または科料に当たる罪については、刑事訴訟法上、住居が定まらない場合などに限って逮捕できるという制限が置かれています。刑法174条や条例違反には、この制限はありません。
連絡を受けたときに整理しておきたいこと
その場で事情を聞かれた場合や、後日警察から連絡があった場合には、次の点を時系列で書き出しておくと、説明の食い違いを防ぎやすくなります。
- 日時と、その時間帯の人通りの状況。
- 場所の具体的な位置と、道路や通路との位置関係。
- 自分が向いていた方向と、遮るものの有無(壁、車体、植え込みなど)。
- 目撃したと思われる方の有無と、その方との距離や関係。
- 飲酒の有無と量、そのときの体調。
- 所持していた物と、直前直後の行動。
記憶は日を追うごとに曖昧になり、後から補った部分と当初の記憶との区別がつかなくなります。早い段階で一度書き出しておくことに意味があります。
目撃した方への対応と、勤務先への対応
目撃した方に直接連絡を取ることは避けてください。公然わいせつ罪は社会的な法益を守る罪と位置づけられていますが、実務上は目撃した方が実質的な被害者として扱われ、その方の処罰感情が処分の判断に影響します。直接の接触は、かえって事態を複雑にします。そもそも、相手の連絡先が捜査機関からご本人に伝えられることは、通常ありません。
勤務先や学校への対応は、刑事手続とは別に進みます。刑事の結論が出る前に、就業規則や学則に基づく調査が始まることもあります。刑事の見通しと、勤務先への説明の内容や順序は、切り分けて考える必要があります。
まとめ
- 刑法174条の「公然」とは、不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいい、現実に見られたことまでは必要とされない。
- 「不特定」と「多数」は別々の入口であり、少人数でも不特定であれば該当し得る。
- 公然性は客観的な環境で判断されるため、「人がいないと思った」という説明は公然性そのものを打ち消しにくい。
- 一方で、観覧者との個人的な関係などから「特定している」と評価され、公然性が否定された裁判例もある。
- 露出の場面では、部位と態様により、刑法174条・軽犯罪法1条20号・迷惑防止条例のいずれが問われるかが分かれる。
- 排尿の場面では、軽犯罪法1条26号が「公然」ではなく「街路又は公園その他公衆の集合する場所」という別の要件を用いており、駐輪場が「公衆の集合する場所」に当たらないとされた裁判例がある。
- 着替えの場面では、わいせつ性と故意が主な検討対象になる。
- 問われる規定が変われば、場所の物差しも、法定刑も、公訴時効も変わる。
露出・排尿・着替えの場面でご不安のある方へ
その場で警察官に事情を聞かれた、後日連絡が来た、あるいは連絡が来るかもしれないと考えている。どの段階であっても、事実関係の整理と説明の仕方が、その後の結論に影響します。どの規定が想定されているのかによって、確認すべき事実も、取り得る対応も変わってきます。
当事務所では、24時間体制でご相談を受け付けており、初回のご相談は無料です。逮捕された方への接見も、即日で対応できる場合があります。ご本人からでも、ご家族からでもご相談いただけます。


