警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのか
駅の周辺や路地の隅に、長い間置かれたままの自転車を見かけることがあります。錆が浮いていたり、かごにごみが入っていたりすると、持ち主のいない自転車のように見えるかもしれません。終電を逃した帰り道や、急いでいるときに、そうした自転車に乗って帰ってしまったというご相談は珍しくありません。
後日になって警察から連絡が来たり、乗っている最中に職務質問を受けたりして、はじめて事の大きさに気づかれる方が多くいらっしゃいます。そのときによく出てくるのが、「盗むつもりはなかった」「借りただけで、返すつもりだった」という説明です。
この説明は、意味を持たないわけではありません。ただ、どの罪で捜査されているかによって、その説明が届く範囲は変わります。ここでは、放置自転車に乗って帰った場合に問題となる二つの罪と、「借りただけ」という言い分がどこまで通り、どこから通りにくくなるのかを、条文と裁判例に沿って整理します。
この記事で扱う場面
次のような状況を想定しています。
・駅前や路上に長期間置かれていた自転車に乗って帰った
・鍵が付いたままの自転車、または施錠されていない自転車を持ち出した
・捨てられていると思って乗ったが、後から持ち主がいることが分かった
・使った後に元の場所へ戻したものの、その後に警察から連絡が来た
・職務質問を受け、防犯登録の照会で盗難届が出ていることが判明した
問われる可能性がある二つの罪
放置自転車を持ち去った行為で問題となるのは、窃盗罪と遺失物等横領罪です。遺失物等横領罪は、占有離脱物横領罪と呼ばれることもあります。
| 罪名 | 条文 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 窃盗罪 | 刑法235条 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 7年 |
| 遺失物等横領罪 | 刑法254条 | 1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料 | 3年 |
拘禁刑は令和7年6月1日から施行された刑で、それまでの懲役刑と禁錮刑を一本化したものです。古い解説では「懲役」と書かれていることがありますが、現在の条文の表記は拘禁刑です。
二つの罪の間には、法定刑にも公訴時効にも差があります。同じ「自転車に乗って帰った」という出来事でも、どちらで扱われるかによって、手続の重さは変わってきます。
分かれ目は、その自転車が誰かの支配下にあったかどうか
窃盗罪は、他人が占有している物を、その意思に反して自分の支配下に移した場合に成立します。これに対して遺失物等横領罪は、誰の占有にも属していない他人の物を自分の支配下に置いた場合に成立します。
したがって、放置自転車の事件では、乗り出した時点でその自転車に持ち主の占有が残っていたかどうかが分かれ目になります。ここでいう占有は、その場に持ち主がいたかどうかだけで決まるものではなく、置かれていた場所や状態から、持ち主の支配が及んでいるとみられるかどうかで判断されます。
この点を扱った裁判例に、東京高等裁判所平成24年4月11日判決があります。自転車の放置禁止区域内にあたる歩道の植え込み部分に置かれていた自転車を持ち去った事案で、裁判所は、駐輪場に置いた自転車について持ち主の占有が認められるのは、そこに置くことで支配する意思が客観的に明らかにされ、それが社会秩序の中に受け入れられているからであって、放置自転車として撤去されるような場所に停めた場合をこれと同じにみることはできない、という趣旨を述べました。そのうえで、無施錠であったことや、持ち主が長時間戻らないつもりであったことなどから、持ち主の占有は失われていたとして、遺失物等横領罪の成立を認めています。
駐輪場に停めてある自転車は「放置自転車」ではない
この裏返しとして、駐輪場や店舗の駐輪スペースに停めてあった自転車は、施錠されていなくても持ち主の占有が認められやすくなります。乗り出せば窃盗罪の問題になります。「鍵が付いたままだったので、いらない自転車だと思った」という説明が通りにくいのは、このためです。
見た目は同じでも、置かれている理由は同じではない
「放置自転車」という言葉は、実際にはいくつかの異なる状況をまとめた呼び方です。外から見た印象と、法律上の扱いは一致しません。
| 見た目の印象 | 実際に起きていること | 問題になりやすい罪 |
|---|---|---|
| 駐輪場に停まっている | 持ち主が短時間離れているだけ | 窃盗罪 |
| 路上に長く置かれている | 持ち主が管理を続けていない | 遺失物等横領罪 |
| 乗り捨てられている | 別の人が盗んで乗り捨てた | 遺失物等横領罪 |
| 保管所に並んでいる | 市区町村が撤去して保管している | 窃盗罪 |
| 壊れて捨てられている | 所有権が放棄されている場合がある | 財産犯が成立しないことがある |
表の最後の型については、所有者が所有権を放棄した物であれば、これを自分の物にしても財産犯は成立しないと考えられます(民法239条1項)。ただし、外見が古いというだけで所有権が放棄されたと判断されることは多くありません。防犯登録が残っていれば所有者は特定されますし、盗難届が出ていることもあります。
窃盗罪における「借りただけ」の意味
窃盗罪が成立するためには、条文に書かれた要件のほかに、不法領得の意思が必要とされています。判例は、これを、権利者を排除して他人の物を自分の所有物として、その経済的な用い方に従って利用したり処分したりする意思と説明しています(大審院大正4年5月21日判決)。
このうち権利者を排除する意思が認められない場合、つまり短時間だけ借りて返すつもりだった場合には、窃盗罪は成立しないと整理されています。これがいわゆる使用窃盗です。
自転車について、この考え方で窃盗罪の成立を否定した裁判例があります。京都地方裁判所昭和51年12月17日判決は、他人の自転車を無断で持ち出して使い、翌朝には元の場所へ戻していたという事案で、乗り捨てる意思がなかったこと、目的地までの距離が約2キロメートルで自転車なら10分程度だったこと、持ち出してから戻すまでの時間が長くても2、3時間を超えるものではなかったことを挙げ、一時的な使用にとどまるとして窃盗罪の成立を認めませんでした。
一方、最高裁判所昭和55年10月30日決定は、深夜に給油所の駐車場から他人の乗用車を無断で乗り出し、4時間余り乗り回していた事案について、使用後に元の場所へ戻しておくつもりであったとしても不法領得の意思があったと判断しました。数時間にわたって自分の支配下に置く意図があったと認められた点が重くみられています。
時間の長短だけで決まるわけではない
二つの裁判例を並べると、使用時間の長さが判断に影響していることは分かります。ただ、考慮されているのはそれだけではありません。物の価格、持ち主が使う可能性のある時間帯かどうか、持ち出した先までの距離、戻す準備が実際にあったかといった事情が、合わせてみられています。「短時間なら問題にならない」と単純に線を引ける話ではありません。
遺失物等横領罪では「返すつもりだった」の扱いが変わる
ここまでは窃盗罪の話です。では、持ち主の占有が失われた自転車、つまり遺失物等横領罪の対象になる自転車を、一時的に借りるつもりで乗った場合はどうなるのでしょうか。刑の軽い罪ですから、より緩やかに扱われそうにも思えます。
しかし、この点について、一審と控訴審で判断が分かれた事件があります。
福岡地方裁判所令和2年9月28日判決は、市営住宅の駐輪場に置かれていた自転車(所有者から盗難の被害届が出ていたもの)を、1時間ほどで戻ってくるつもりで乗り出したという事案について、一時的な無断借用の意思であったとみるのが合理的だとして、無罪を言い渡しました。
これに対して福岡高等裁判所令和3年3月29日判決は、この判断を取り消し、遺失物等横領罪の成立を認めました。同判決は、この罪ではすでに持ち主の占有が失われている以上、重ねて権利者を排除する意思を求めることには意味がないとしたうえで、無断で持ち出した人が、使った後に元の場所へ戻す意思であったとしても、持ち出して使っている間は持ち主の権利や支配を間接的にせよ侵害していることに変わりはないから、その物の経済的な用い方に従って使う意思がある以上、原則として不法領得の意思が認められる、という趣旨を述べています。
もっとも、この判決も例外を認めていないわけではありません。持ち出した行為が、自分の所有物として振る舞ったといえない程度の、短時間で限られた利用にとどまる場合には、例外的に不法領得の意思が認められないことがあり得るとしています。実際の事案では、当日だけで約12時間にわたって使い続け、その間は元の場所に戻していなかったことが重くみられました。
なお、この判決の考え方に対しては、遺失物等横領罪でも権利者を排除する意思は必要だとする立場からの批判があります。裁判所の判断が一つに固まっている領域ではない、という点は押さえておいてよいところです。
刑の軽い罪のほうが説明が通るとは限らない
整理すると、「借りただけ」という説明は、窃盗罪では不法領得の意思を欠くという主張につながる余地があるのに対し、遺失物等横領罪では、右の高裁判断に従う限り、そのままでは成立を妨げる事情になりにくいということになります。罪名が軽いほうが言い分が通りやすい、という関係にはなっていません。
「捨ててあると思った」という認識のずれ
実際のご相談で多いのは、持ち主のいない自転車だと思って乗ったのに、そうではなかったという食い違いです。刑法38条2項は、重い罪に当たる行為をしたのに、行為のときにそれが重い罪に当たる事実を知らなかった場合には、その重い罪によって処断することはできないと定めています。
この点にかかわる裁判例として、大阪高等裁判所令和3年12月10日判決があります。パチンコ店のトイレに置かれていたバッグを、持ち主が近くにいることを知らないまま、占有を離れた他人の物だと認識して持ち出したという事案で、窃盗の訴因で起訴されたものの、故意が認められる軽い罪である占有離脱物横領罪によって処断した原判決の法令の適用に誤りはないとされました。この判断に対する上告は、令和4年3月16日の最高裁判所決定によって棄却されています。
ただし、思っていたことがそのまま認められるわけではありません。どう思っていたかは、置かれていた場所、施錠の有無、自転車の状態、持ち出した時間帯、その後の扱いといった客観的な事情から判断されます。取調べで説明する内容と、これらの事情がかみ合っているかどうかが問われます。
元の場所に戻せば終わりになるのか
使った後に元の場所へ戻したという事情は、処分や量刑を考えるうえで意味を持ちます。ただ、それによって罪が成立しなくなるとは限りません。
窃盗罪では、持ち出した時点で不法領得の意思があったかどうかが問われます。返したかどうかは、その意思を推し量る材料の一つではありますが、後から返したという事実だけで結論が決まるものではありません。
また、持ち出したときには短時間で戻すつもりだったとしても、途中で気が変わって自分の物として扱った場合には、その時点で遺失物等横領罪が成立し得ると考えられています。当初の予定より長く使い続けた事案では、この点が判断の分かれ目になっています。
撤去されて保管中の自転車を持ち出した場合
放置自転車は、市区町村の条例と、自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律(自転車法)に基づいて撤去され、保管されます。同法6条1項は、市町村長が条例の定めるところにより放置自転車等を撤去したときはこれを保管しなければならないと定め、2項でその旨を公示すること、3項で公示の日から相当の期間が過ぎても返還できず、保管に不相当な費用を要するときは売却できることを定めています。
保管所に置かれている自転車は、市区町村の管理下にあります。持ち主の占有が失われた状態とは異なりますので、そこから無断で持ち出せば窃盗罪の問題になります。自分の自転車であっても、所定の手続を経ずに持ち出すことは避けるべきです。
どこで発覚するのか
自転車を利用する人は、防犯登録を受けなければならないとされています(自転車法12条3項)。登録番号は自転車に貼られた番号票で確認でき、警察は職務質問の際などにこの番号を照会します。盗難届が出ている自転車であれば、その場で判明します。
放置自転車に乗って帰った事案の多くは、この照会をきっかけに表面化します。乗っている最中に職務質問を受ける場合もあれば、後日、防犯カメラの画像などから連絡が来る場合もあります。
被害者は誰になるのか
被害者は、その自転車の所有者です。別の人が盗んで乗り捨てた自転車であっても、所有権はもとの持ち主にありますので、謝罪や弁償、示談の相手方は、乗り捨てた人ではなく所有者になります。
所有者の連絡先は、捜査機関を通じて確認することになります。自転車そのものを返せる状態であればそれを前提に、返せない状態であれば同等の物を用意する費用や、撤去されていた場合の保管料の負担なども含めて話し合うことになります。
いま整理しておくとよいこと
説明を求められる前に、次の点を書き出しておくと、事実関係を落ち着いて伝えられます。
1 自転車がどこに、どのような状態で置かれていたか(場所・施錠の有無・外観)
2 乗り出したのがいつで、どのくらいの時間、どこまで使ったか
3 乗り出したときに、その自転車をどう思っていたか
4 使った後に自転車をどうしたか(戻した・置いたまま・自宅に持ち帰った)
5 持ち出しから発覚までの間に、自転車に手を加えたことがあるか
6 自転車が現在どこにあり、返せる状態かどうか
記憶は日がたつほどあいまいになります。取調べで話す前に、思い出せることを時系列で書き留めておくと、説明のぶれを避けられます。
まとめ
・放置自転車を持ち去った場合、窃盗罪と遺失物等横領罪のいずれかが問題になる
・分かれ目は、乗り出した時点でその自転車に持ち主の占有が残っていたかどうか
・駐輪場に停めてあった自転車は、施錠されていなくても占有が認められやすい
・放置禁止区域の路上などについては、占有が失われていたと判断した裁判例がある
・窃盗罪では「返すつもりだった」ことが不法領得の意思を否定する方向に働く場合がある
・遺失物等横領罪については、返す意思があっても原則として成立するとした高裁判決がある
・「捨ててあると思った」という認識は、客観的な事情と合わせて判断される
・元の場所に戻したことは考慮される事情だが、それだけで罪が消えるわけではない
・撤去されて保管中の自転車を持ち出せば、市区町村の管理を侵すことになる
・謝罪や弁償の相手方は、乗り捨てた人ではなく所有者である
放置自転車の事案は、被害額が小さく、行為も短時間で終わることが多いため、軽く受け止められがちです。しかし、どの罪で扱われるかによって法定刑も公訴時効も異なり、説明の仕方によって見立てが変わることもあります。警察から連絡があった段階や、職務質問を受けた段階で、自分が置かれている状況を正確につかんでおくことは、その後の手続を落ち着いて進めるうえで役に立ちます。事実関係の整理や所有者への対応について迷うことがあれば、早い段階で弁護士にご相談ください。


