「性的姿態」とは何か|撮影罪の保護対象の範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

撮影罪という言葉を目にしたとき、多くの方が最初に引っかかるのが「性的姿態等」という耳慣れない言葉ではないでしょうか。日常の会話で使う言葉ではなく、法律が独自に定義を置いた言葉です。

この言葉が何を指すのかによって、ある撮影行為がこの法律の対象になるのか、それとも別の法令で扱われるのかが変わってきます。逆にいえば、ここを飛ばしたまま「盗撮の処罰が広がった」とだけ理解しても、ご自身の事案がどこに位置づけられるのかは見えてきません。

この記事では、条文が「性的姿態等」をどのように定義し、どこまでを保護の対象としているのかを、条文の言葉に沿って整理します。以下は一般的な見取り図であり、個別の事案の結論を示すものではありません。

この記事で扱う範囲


はじめに、この記事が何を扱い、何を扱わないのかをお伝えします。

・撮影する側と撮影された側のどちらの立場にも限定せず、条文の読み方として整理します
・扱うのは「何が保護の対象になるのか」という客体の話で、逮捕や取調べの進み方、示談、処分の見通しには立ち入りません
・未遂の評価、撮影したデータの提供や保管、都道府県の条例との使い分けは、それぞれ別の解説で扱っています
・条文の言葉をそのまま引きながら説明します。ひとつずつ分解して読み進める形になります

「性的姿態等」は法律が定めた言葉である


撮影罪は、令和五年七月十三日に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の第二条に置かれています。この法律は同年六月十六日に成立し、六月二十三日に公布されました。法定刑は三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金です。

「性的姿態等」は、この第二条第一項第一号の中で定義されています。つまり、罪名の一部として使われている飾りの言葉ではなく、その中身が処罰の範囲そのものを画しています。日常語の「性的な姿」と重なる部分もありますが、同じではありません。

そして条文は、この「性的姿態等」を、イとロという二つの受け皿で定めています。

保護の対象には二つの入口がある


イとロは並んで書かれていますが、判断の材料が違います。

区分何によって決まるか
写っているものが何か(性的な部位、または下着のうち現にそこを覆っている部分)
何がされている間の姿態か(わいせつな行為または性交等がされている間)


イは、画面に何が写り込んでいるかを見る入口です。ロは、写っている人がその時に何をしていた場面なのかを見る入口です。ロには「イに掲げるもののほか」という書き出しが付いており、イでは受け止めきれない場面を拾う位置にあります。

この二つを混ぜて「性的な写真かどうか」とまとめてしまうと、判断の材料を取り違えることになります。

イ|「性的な部位」として挙げられているもの


条文は「性的な部位」に括弧書きで定義を置いています。挙げられているのは次のものです。

・性器
・肛門
・性器や肛門の周辺部
・臀部
・胸部

ここで見落とされやすいのが、条文が「人の性的な部位」と書いており、性別による限定を置いていないことです。胸部についても同じで、条文上は男女を分けていません。撮影罪は、男性が被害を受けた場面にも同じ条文が働く形になっています。

一方で、ここに挙がっていない部分、たとえば脚や腹部、背中、顔などは、それ自体としてはイの「性的な部位」に含まれていません。

イ|「下着」には三つの限定が重なっている


イのもう一つの受け皿が下着です。ただし、身に着けている下着が丸ごと対象になるわけではなく、条文は限定を三つ重ねています。

・通常衣服で覆われているものであること
・性的な部位を覆うのに用いられるものであること
・そのうち、現に性的な部位を直接又は間接に覆っている部分であること

一つ目の限定は、外から見られることを前提に身に着ける衣類を、ここでいう下着から外す方向に働きます。二つ目の限定は、下着であっても性的な部位を覆う用途のものかどうかを問うものです。

三つ目の限定は「現に」「覆っている部分」という二段構えになっており、対象になるのはその部分に限られます。ここから、身に着けていない下着、たとえば脱いだ状態のものや干してあるものは、イがいう客体からは外れることになります。もっともそれは、そうした物にかかわる行為が問題にならないという意味ではなく、別の規定で扱われるという意味です。

なお「直接若しくは間接に」という言葉が置かれているのは、重ね着のように間に別の布がある場合を想定したものと説明されています。

ロ|「何がされている間か」で決まる入口


ロは「わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態」と定めています。ここで注意したいのは、ロが部位の露出を要件にしていないことです。イのように「どこが写っているか」を問う書き方ではなく、その姿態が「何がされている間」のものかを問う構造になっています。

「性交等」は、刑法第百七十七条第一項の定義を借りています。同項は、性交、肛門性交、口腔性交のほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く)又は物を挿入する行為であってわいせつなものを「性交等」としています。

「わいせつな行為」の方は、この法律の中に定義規定が置かれておらず、従来の刑法の解釈に沿って判断されることになります。どこまでが接触や抱擁にとどまり、どこからがわいせつな行為といえるのかは、行為の態様や状況によって個別に検討される部分です。

また「されている間における」という言葉には、時間の限定が含まれています。行為の前後の場面がすべて同じ扱いになるわけではなく、どの時点の姿態が写っているのかが問題になります。

「性的姿態等」と「対象性的姿態等」は別の言葉


条文をさらに読むと、もう一つの言葉が出てきます。「対象性的姿態等」です。

第二条第一項第一号は、性的姿態等のうち「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」を除いたものを「対象性的姿態等」と呼んでいます。性的姿態等がまずあり、そこから一部を差し引いたものが対象性的姿態等である、という関係です。

ここで「場所」という言葉が出てくるため、撮影罪に場所の要件があるように読めることがあります。しかし場所の語が置かれているのは、この除外の側です。撮影罪そのものは、どこで撮ったかによって成否が決まる作りにはなっていません。除外規定の詳しい読み方は、別の解説で扱っています。

類型によって客体が入れ替わる


第二条第一項は、撮影の類型を四つに分けています。そして、それぞれの類型が客体として挙げている言葉は、同じではありません。

類型条文が客体として挙げている言葉
一号(正当な理由がないのに、ひそかに撮影する類型)対象性的姿態等
二号(同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態を用いる類型)対象性的姿態等
三号(誤信を用いる類型)対象性的姿態等
四号(十六歳未満の者を対象とする類型)性的姿態等


一号から三号までは、除外を経た後の「対象性的姿態等」が客体です。これに対して四号だけは、除外を経る前の「性的姿態等」が客体として書かれています。

この書き分けは、法律の別の場所でも保たれています。撮影されたデータの提供などを定める第三条は、対象になる記録の範囲を「対象性的姿態等の影像が記録された部分に限る」としつつ、四号に由来する記録についてだけは「性的姿態等」と書き換えています。

解説記事の中には、二号や三号の客体を「性的姿態等」と書いているものもありますが、条文の文言は「対象性的姿態等」です。細かい違いに見えて、除外規定が働くかどうかという結論に直結します。

十六歳未満を対象とする類型だけ除外が働かない


四号が「性的姿態等」を客体としているということは、自ら露出していた姿態であっても、四号の場面では除外の対象にならないという読み方になります。年齢の低い相手について、保護の範囲を狭めない趣旨と理解されています。

四号は、十三歳未満の者を対象とする場合と、十三歳以上十六歳未満の者を対象とする場合とを分けています。後者については、撮影した側が、撮影された者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者であることが条件とされています。年齢に関わる要件の詳しい説明は、別の解説で扱っています。

「ひそかに」と「正当な理由がないのに」の付き方


四つの類型を並べると、要件の付き方も一様ではないことが分かります。

・「ひそかに」が付いているのは一号だけで、二号から四号までには付いていません
・「正当な理由がないのに」が付いているのは一号と四号で、二号と三号には付いていません

このため、隠して撮ったかどうかは、一号の場面では中心的な問題になりますが、二号や三号では別の要素が問われることになります。同じ「撮影罪」という呼び名でも、何が争点になるかは類型によって変わります。

保護されているのは「姿態」であって影像ではない


もう一つ、範囲を考えるうえで区別しておきたいことがあります。撮影罪の客体は、撮影された時点に現に存在していた人の姿態であって、すでに記録された影像そのものではありません。

・撮影罪が問うのは、その時その場にいた人の姿態を撮ったかどうかです
・すでにある画像を複製したり、入手したり、手元に置いたりする行為は、撮影罪の「撮影」ではありません
・そうした行為は、提供、保管、記録といった別の規定や、別の法令の問題として扱われます
・したがって「保存しているだけで撮影罪になるのか」という問いは、客体の段階で分かれています

この点は、手元のデータをどうしたのかという話と、撮った行為そのものの話を、別々に整理する手がかりになります。それぞれの規定については、別の解説で扱っています。

複数の人が写っていた場合


条文は「人の性的な部位」「人の姿態」というように、一人の人を単位として書いています。一つの画像に複数の人が写っている場合、保護の対象になるかどうかは、写っている人ごとに考えることになります。

同じ一枚の画像でも、ある人については客体に当たり、別の人については当たらない、という組み合わせもあり得ます。写っている人数と、客体に当たる人の数は、当然には一致しません。

範囲の外側に出ても他の規定が残る


ここまで見てきたとおり、撮影罪の客体には条文上の限定がいくつも重なっています。そのため、撮影行為であっても、この法律の客体に当たらない場面はあります。

ただしそれは、その行為が問題にならないという意味ではありません。都道府県の迷惑防止条例には、下着や身体の撮影を対象とする規定のほか、卑わいな言動を対象とする規定が置かれていることが多く、撮影罪の客体から外れた行為がそちらで扱われることがあります。写っている人の年齢によっては、児童ポルノに関する法令が別に働くこともあります。民事上の責任も、刑事の話とは別に残ります。

「撮影罪に当たらない」ということと「問題にならない」ということは、別のことがらです。

説明の行き違いが起きやすいところ


この分野は言葉が細かいため、説明の行き違いが起きやすい部分があります。

・「性的姿態等」と「対象性的姿態等」が同じ意味で使われている説明があります
・二号や三号の客体を「性的姿態等」と書いた説明があります
・イとロを一つにまとめ、「性的な写真かどうか」という基準にしている説明があります
・下着の限定が三つ重なっていることが省かれ、下着なら一律に対象になると読める説明があります
・条例の話と法律の話が混ざり、場所の要件が撮影罪にもあるように読める説明があります

ネット上の情報を読むときは、それが条文のどの部分についての説明なのかを意識すると、行き違いが減ります。

相談の前に整理しておきたいこと


弁護士に相談する場面では、次のことが整理されていると話が早く進みます。

・いつ、どこで、どのような機器で撮ったのか、あるいは撮られたと言われているのか
・画面に何が写っていたのか、それとも写っていたかどうかが分からない状態なのか
・その時、写っている人が何をしていた場面なのか
・相手方や捜査機関から何を言われているのか、書面を受け取っているのか
・データが今どこにあるのか、消したのか、消していないのか

あいまいな部分を無理に埋める必要はありません。分からないところは分からないままお伝えいただいたほうが、見通しを立てやすくなります。

弁護士に確認できること


条文の当てはめに関わる部分は、次のような形で確認できます。

・ご自身の事案がイとロのどちらの入口の問題なのか
・客体の限定のうち、争点になりそうなのはどこか
・撮影罪の客体に当たらないとした場合、他にどの規定が視野に入るのか
・手元のデータの扱いについて、今の段階で何をしてよく、何を避けたほうがよいのか
・捜査機関から連絡があった場合に、どの順序で対応することになるのか

まとめ


この記事の要点を整理します。

・「性的姿態等」は、撮影罪を定める法律の第二条第一項第一号が置いた定義語です
・定義にはイとロの二つの入口があり、イは何が写っているか、ロは何がされている間かで決まります
・イの「性的な部位」は、性器、肛門、その周辺部、臀部、胸部で、性別による限定は置かれていません
・イの「下着」には、通常衣服で覆われている、性的な部位を覆うのに用いられる、現にその部位を覆っている部分である、という三つの限定が重なっています
・ロは部位の露出を要件とせず、わいせつな行為や性交等がされている間の姿態を受け止めます
・「性的姿態等」から一部を除いたものが「対象性的姿態等」で、場所の語は除外の側に置かれています
・一号から三号までの客体は対象性的姿態等で、四号の客体は性的姿態等です
・「ひそかに」は一号だけ、「正当な理由がないのに」は一号と四号だけに付いています
・客体は撮影の時点の人の姿態であり、すでにある影像の扱いは別の規定の問題です
・撮影罪の客体に当たらない場合でも、条例その他の規定が別に働くことがあります

条文の言葉は細かく、読み方によって結論が変わる部分があります。ご自身の事案がどこに位置づけられるのかを確かめたいときは、事実関係を整理したうえで弁護士にご相談ください。なお、早い段階で動いたからといって望ましい結果が約束されるわけではありませんが、判断の材料を早く揃えられることには意味があります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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