示談の申入れ書はどう書くか|最初の1通で断られないために
レンタルした車や機材、リースを受けた機器を、期限までに返せていない。返すつもりはあるものの、支払いや連絡ができないまま日数だけが過ぎている。そうした状況で貸主から「横領になる」「詐欺で被害届を出す」と告げられ、どこまでが契約上の問題で、どこからが刑事の問題なのかが分からなくなることがあります。
返していないという事実は一つでも、法律上の見方は一つではありません。返却が遅れているだけの状態と、刑法上の横領として扱われる状態と、借りた時点をとらえて詐欺として扱われる状態は、それぞれ別の場面です。分かれ目になるのは、経過した日数そのものではなく、どの時点でどのような意思を持ち、それが外にどう現れたかという点です。
この記事では、レンタル品・リース品が返せていない場面を取り上げ、横領罪と詐欺罪がどこで分かれるのか、どのような行動が横領と評価されやすいのかを、裁判例を手がかりに整理します。
この記事が扱う場面
次のような状況を想定しています。
- レンタカーやレンタルバイクを、返却日を過ぎても返せていない。
- レンタルした衣装・機材・家具などが手元に残ったままになっている。
- 事業で使っていたリース品を、契約が終わった後も返していない。
- 返せない状態が続き、貸主からの電話やメールに応答できていない。
- 借りた物を売ったり、人に渡したりしてしまった。
貸主から見ればどれも「返ってこない」という一つの事実ですが、刑事の見立ては同じになりません。
「返していない」ことと「横領」は同じではない
横領罪は、刑法252条1項が「自己の占有する他人の物を横領した者」を処罰すると定めるものです。レンタルやリースで物を借りている人は、貸主の所有物を預かって手元に置いている立場ですから、この「自己の占有する他人の物」という前提そのものは満たしています。
もっとも、条文が処罰の対象としているのは「横領」という行為です。実務では、横領とは領得の意思が外に現れた行為と解されています。手元に物が残っているという状態それ自体ではなく、その物を自分の所有物のように扱ったといえる行動があったかどうかが問われる、という構造です。
返却が遅れている段階では、まず延滞料の請求や返却の督促といった民事上の対応が行われるのが通常です。どの段階から刑事の問題として扱われるようになるのか、その線引きが本記事の中心になります。
どの罪が問題になるのか
| 問題になり得る罪 | 条文 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 横領罪(単純横領) | 刑法252条1項 | 5年以下の拘禁刑 | 5年 |
| 業務上横領罪 | 刑法253条 | 10年以下の拘禁刑 | 7年 |
| 詐欺罪 | 刑法246条1項 | 10年以下の拘禁刑 | 7年 |
| 窃盗罪 | 刑法235条 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 7年 |
拘禁刑は2025年6月1日に施行された刑の種類です。表のうち横領罪・業務上横領罪・詐欺罪には、罰金刑の定めが置かれていません。
横領罪がいう「他人の物」とは何か
レンタルもリースも、料金を払って物を使う契約であって、物を買う契約ではありません。借りている間はもちろん、返却期限が過ぎた後も、その物の所有者は貸主のままです。手元にある期間が長くなるほど自分の物のような感覚になりやすいのですが、法律上の扱いは変わりません。
リース品は期間が終わっても所有者が変わらない
リース契約では、リース会社が物件を購入したうえで利用者に貸す形がとられます。利用者が支払うのは物件の代金ではなく使用の対価ですから、期間が満了しても所有権が自動的に利用者へ移るわけではありません。所有権の移転を定めた合意がなければ、支払いを終えた後もその物件は貸主のものです。「もう払い終えた物なのだから自由にしてよいはずだ」という感覚とずれが生じやすいところです。
物ではないサービスの未払いは横領の問題にならない
横領罪が対象とするのは「物」です。レンタルサーバーやレンタルスペース、配信サービスのように、借りているのが場所や役務である場合、その利用料を払っていないことは横領の問題にはなりません。他方、通信機器やウォーターサーバーのように、サービスに付随して機器そのものを預かっている場合は、その機器が「他人の物」に当たります。同じ「レンタル」という言葉でも扱いが分かれる部分です。
横領として問題になりやすい行動
| 外に現れた行動 | どのように見られやすいか |
|---|---|
| 売る、譲る | 所有者でなければできない処分に当たる |
| 質に入れる、担保に入れる | 後で受け戻すつもりがあったかを問わず処分と見られやすい |
| 他人に貸す、又貸しする | 委託の趣旨に反する貸与として問題になり得る |
| 隠す、置き場所を移す | 返す意思がないことの現れと見られることがある |
| 返還を求められて拒む | 請求に応じない態度そのものが問題にされる |
| 事実と違う説明をする | 「なくした」「もう返した」といった説明が意思の現れと扱われる |
売却・譲渡
売る権限のない者が預かっている物を売る行為は、古くから横領に当たるとされてきました(大審院昭和2年9月10日判決、最高裁昭和24年6月29日判決など)。しかも、相手が買い受ける意思を示していなくても、売却の意思表示をした時点で成立するとした判例があります(大審院大正2年6月12日判決)。売る目的で持ち出した以上、その後に実際に売れたかどうかは犯罪の成否に影響しないとした判例もあります(大審院明治43年10月11日判決)。フリマアプリに出品した段階や、買取店に持ち込んだ段階で、すでに問題になり得るということです。
質入れ・担保に入れる行為
預かっている物を委託の趣旨に反して質に入れる行為も横領に当たるとされ、質権が実行されたかどうかや、受け戻すつもりがあったかどうかは問わないと解されています(大審院大正14年7月14日連合部決定)。「お金ができたら受け出して返すつもりだった」という説明が、そのままでは通りにくい理由がここにあります。
又貸し
委託の趣旨に反して他人に貸す行為も横領に当たるとした判例があり、賃貸借・使用貸借といった形式の違いは問われないとされています(大審院昭和6年7月2日判決)。民事でも、賃借物を貸主に無断で転貸することは認められていません(民法612条1項)。もっとも、認められた利用の範囲内にとどまる貸し方であれば横領には当たらないとする見解もあり、見方が分かれる部分です。
返還を拒む、事実と違う説明をする
返還を求められたのに応じない場合や、預かっている物を自分の所有物だと主張して争う場合も、横領として扱われてきました(大審院明治44年5月22日判決、大審院大正4年2月10日判決、大審院大正5年8月8日判決)。また、返す物が残っていないかと尋ねられて事実と違う答えをした事案で横領を認めた判例もあります(大審院明治43年12月2日判決)。返還期限が来る前に虚偽の説明をした事案について、期限前であっても既に横領に当たり、その後に返還しても成否には影響しないとした裁判例もあります(高松高裁昭和36年9月13日判決)。
期限を過ぎただけの場合はどう扱われるのか
返還すべき期日を過ぎた時点で横領行為があったと認めた裁判例があります(仙台高裁昭和28年10月19日判決)。一方で、期限が来ても返さずに手元に置いているという単なる不作為だけでは横領とは認め難いとする見解もあります。この点は判断が一つに固まっている領域ではありません。返していないという事実だけが取り上げられているのか、それ以外の行動が問題にされているのかを分けて考える必要があります。
8日間乗り続けた事案
借りた物を返さない場面に近い裁判例として、大阪高裁昭和46年11月26日判決があります。昼頃までに返す趣旨で午前9時頃に自動車を借り受けた人が、許された範囲を超えて、逮捕されるまでの8日間にわたり乗り回したという事案について、横領罪の成立を認めたものです。
ここで重く見られているのは、8日という日数そのものというより、許された利用の範囲を大きく超えて使い続けたという点です。数時間の約束が数日に延びた場合と、数日の約束が半日延びた場合とでは、同じ「遅れ」でも意味合いが変わってきます。
詐欺との境目は、いつの時点の意思か
詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立します(刑法246条1項)。借りる時点ですでに返すつもりがなかったのであれば、貸主は返ってくるという前提が偽られたまま物を渡したことになり、その交付そのものが問題にされます。これに対して横領罪は、正当に借りた後で、預かっている物を自分の物のように扱ったことが問題にされます。同じ「返さない」でも、意思がいつ生じたかで入口が変わるという関係です。
借受けの時点が問題にされる場面
借りる時点の意思は本人の内心の問題ですから、外形的な事情から検討されます。他人名義や実在しない情報で会員登録をした、身分証の記載と違う説明をした、借りた直後に売却した、短期間に複数の店舗で同じような借受けを重ねていた、申込書に書いた連絡先が最初から通じなかった、といった事情は、借りる段階の意思をうかがわせる材料として扱われやすくなります。
借りた後に気持ちが変わった場合
当初は返すつもりで借りたものの、その後に売ってしまった、返せない状況になり連絡を絶ってしまった、という経過であれば、横領の側の問題として整理されるのが基本です。また、借受けの時点で詐欺と評価される場合には、その後の処分行為が改めて横領罪として重ねて成立するわけではないと整理されるのが一般的です。もっとも、捜査の段階でどちらの見立てで進むかは集まった資料によって動くことがあり、当初の罪名がそのまま維持されるとは限りません。
契約そのものがなかった場合
試乗や下見と称して持ち去った、契約手続を終えないまま乗り出した、というように、そもそも借りるという関係が成立していない場合は、預かっている物を処分したという構造になりません。この場合は窃盗罪(刑法235条)が問題になります。契約書や申込記録が残っているかどうかは、罪名の見立てにも関わってきます。
業務上横領になるのはどのような場合か
業務上横領罪(刑法253条)は単純横領罪より重い刑が定められていますが、ここでいう「業務」は、社会生活上の地位に基づいて繰り返し行われる事務のうち、他人の委託に基づいてその物を保管し占有することを内容とするものに限られると解されています。
そのため、事業のためにレンタルやリースを利用し、自分の会社で使っていた物件については、一般には単純横領罪の問題として整理されます。法人名義で借りたから当然に業務上横領になる、というわけではありません。他方、他人の物を預かること自体を業務としている立場の人が、その業務の中で借受け物を扱っていた場合には、見方が変わる余地があります。
民事の請求は刑事とは別に進む
レンタルもリースも、物を返す義務を負う契約です(民法601条、593条)。返却が遅れた分の料金や遅延損害金、約款に定めのある違約金、物を失った場合の賠償は、刑事の処分がどうなるかとは別に検討されます。反対に、返還や弁償が済んだからといって刑事の手続が自動的に終わるわけでもありません。二つの流れが並行することを前提に対応を考える必要があります。
なお、貸主の側についても、自分の所有物だからといって無断で引き揚げてよいことにはなりません。「勝手に持っていく」と言われた場合でも、応じる前に整理する余地があります。
連絡が取れない状態が続くとどう見えるか
返す意思があったかどうかは内心の問題ですが、外からは行動を通じてしか判断できません。督促に応答しない、住所や連絡先が変わって通知が届かない、物の所在を説明できない、といった経過が続くと、返す意思がなかったという説明を支える材料として扱われることがあります。
反対に、遅れた事情、途中まで支払っていた履歴、返却や分割払いを申し出たやり取り、保管している場所の説明が残っていれば、そこは事実として示せます。返せていない状況そのものは変えられなくても、経過をどう説明できるかは残された部分です。
いま整理しておくとよいこと
連絡や交渉に入る前に、次の点を書き出しておくと状況を伝えやすくなります。
- 契約書、申込書、利用規約、メールやアプリの記録など、借りたときの資料。
- 返却期限と、そこから今日までの経過。連絡した日と、その内容。
- 料金の支払状況(いつまで、いくら支払っているか)。
- 借りた物が今どこにあるか。売却や譲渡をしている場合はその相手と時期。
- 貸主から届いている通知の文面(延滞料の請求、返却の督促、被害届に関する記載)。
- 返却や支払いについて、現時点でどこまで対応できるかの見通し。
物が手元に残っている場合、そのままの状態で保管しておくことが、後の説明の負担を軽くします。
まとめ
- レンタル品・リース品は、期限が過ぎても、料金を払い終えても、所有者は貸主のままである。
- 横領罪が処罰するのは「横領」という行為であり、手元に残っているという状態そのものではない。
- 売却、質入れ、又貸し、隠匿、返還の拒否、事実と違う説明は、領得の意思が外に現れた行為として扱われやすい。
- 売却については、実際に売れたかどうかや、売却の意思表示の相手が応じたかどうかを問わずに成立を認めた判例がある。
- 返還期日を過ぎた時点で横領行為を認めた裁判例がある一方、単なる不作為では足りないとする見解もあり、判断が固まった領域ではない。
- 借りた自動車を許された範囲を超えて8日間乗り回した事案で横領罪の成立を認めた裁判例がある(大阪高裁昭和46年11月26日判決)。
- 借りる時点で返す意思がなかったかどうかが詐欺罪との分かれ目であり、名義や申込内容、借受け直後の行動が検討材料になる。
- 事業で借りた物であっても、一般には単純横領罪の問題として整理される。
- 民事の支払義務と刑事の手続は別に進むため、返還・弁償と説明の準備を並行して考える必要がある。
返していないという一つの事実が、契約上の問題にとどまるのか、刑事の問題として扱われるのかは、外から見ただけでは判断できません。手元にある物の性質、借りたときの経緯、その後の連絡の経過、いま説明できる材料によって見え方は変わります。判断に迷う段階で状況を整理しておくことが、その後の負担を軽くします。弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件の経験を持つ弁護士が、事実関係の整理から今後の対応の道筋まで、ご相談を承っています。


