他人の写真を無断で投稿した|肖像権侵害に刑事責任はあるのか
盗撮が問題になる事件では、撮影そのものを問う罪のほかに、その場所に立ち入った行為を問う建造物侵入罪が加わることがあります。トイレや更衣室が現場になった事案では、この二つが同時に問題になりやすくなります。
もっとも、盗撮の事件でいつも建造物侵入罪が加わるわけではありません。駅のホームや電車内、エスカレーターで撮影したという事案では、侵入罪までは問われないのが通常です。同じ盗撮なのに扱いが分かれるのは、建造物侵入罪が見ているのが撮影の中身ではなく、その場所に立ち入ったこと自体だからです。
この記事では、盗撮の事件で建造物侵入罪が加わる場合と加わらない場合がどこで分かれるのか、そして加わったときに手続や対応がどう変わるのかを整理します。男女どちらの立場の方にも当てはまる内容として説明します。
こうした場面で問題になります
- 商業施設の女性用トイレに立ち入り、個室の中を撮影しようとした。
- 勤務先の更衣室に小型のカメラを置いた。
- 学校や部活動の施設で、着替えをしている場所に立ち入った。
- 会員制のスポーツ施設や浴場の脱衣所に機器を持ち込んだ。
- 撮影はしていないが、その区画に入ったこと自体について警察から尋ねられている。
いずれの場面でも、撮影に関する罪とは別に、立ち入った行為そのものを問う罪が並ぶかどうかが最初の分かれ目になります。
「建造物侵入が加わる」とは何が起きることか
撮影を問う罪と、立入りを問う罪は、守っているものが違います。撮影に関する罪が向き合っているのは、撮影された人の性的な事柄についての自由や私生活です。これに対して建造物侵入罪が向き合っているのは、その建物に誰を立ち入らせるかを決める、管理する人の意思です。
守っているものが違うため、一つの出来事から二つの罪が同時に成立することがあります。これが「建造物侵入が加わる」という状態です。刑法130条前段は、正当な理由がないのに人の住居や人の看守する邸宅、建造物などに侵入した場合を対象とし、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金と定めています。
なお拘禁刑は、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一つにまとめられた刑罰です。以前の解説では旧来の表記のままになっているものもあります。
なぜ立ち入った時点で罪になるのか
刑法130条の条文に「目的」という言葉は出てきません。それにもかかわらず盗撮の目的が問題になるのは、条文にいう「侵入」が、管理する人の意思に反して立ち入ることと理解されているためです。
商業施設のトイレのように、誰でも入れるようになっている場所であっても、管理する人が想定しているのは通常の利用です。撮影のために立ち入ることまで認めているとはいえない、と判断されれば、意思に反した立入りという評価になります。
最高裁判所平成19年7月2日決定は、現金自動預払機の利用客の暗証番号などを盗撮する目的で、営業中の銀行の出張所に立ち入った事案について、立入りの外観が一般の利用客と変わらなくても建造物侵入罪が成立するという判断を示しました。外から見て不自然な様子がなかったことは、成立を否定する事情にはならないという整理です。
加わる場合と加わらない場合
| 場面 | 立入り自体の評価 | 建造物侵入罪 |
|---|---|---|
| 駅のホーム、電車内、路上、エスカレーター | 誰でも通行できる場所で、立入りを制限する管理者の意思が想定しにくい | 加わらないのが通常 |
| 店舗の売場や通路 | 営業中の建物への客としての立入り | 目的が認められれば理論上は加わり得る |
| 異性用のトイレ、更衣室、脱衣所 | その区画に立ち入ること自体が想定されていない | 加わりやすい |
| 男女共用の個室トイレ | 用を足すための立入りは認められている | 理論上は加わるが、撮影に関する罪だけで処理されることもある |
| 勤務先や学校など自分も使う区画 | 立ち入る資格自体はある | 目的によって加わり得る |
| 住宅やその敷地 | 人の生活の場所への立入り | 建造物侵入ではなく住居侵入の問題になる |
こうして並べると、分かれ目が撮影の態様や画像の内容にあるのではないことが見えてきます。問われているのは、その人が、その時に、その区画へ立ち入ることを、管理する人が受け入れていたといえるかという一点です。
自分が入ってよい場所でも加わるのか
立ち入る資格がある人の場合
勤務先の更衣室、学校の施設、会員として利用している施設のように、そもそも立ち入る資格を持っている場合があります。この場合でも、目的が分かっていれば管理する人は立入りを認めなかったといえるときには、意思に反した立入りと評価される余地があります。平成19年の決定の考え方は、資格のある人の立入りにも及び得るものとして理解されています。
実際にも、従業員が勤務先の更衣室やトイレに機器を設置した事案が、建造物侵入の疑いで立件されている例があります。日ごろ出入りしている場所だから問題にならない、とは限りません。
同性を対象とする場合
撮影の対象が同性である場合、その更衣室や脱衣所に立ち入ること自体は、外形上は不自然に見えません。それでも、撮影の目的で立ち入ったことが認められれば、理論のうえでは建造物侵入罪が成立し得ると考えられています。異性用の区画に入った場合と比べて外形からは分かりにくいというだけで、判断の枠組みが変わるわけではありません。
侵入罪を立件しない扱いもあること
もっとも、理論上成立し得ることと、実際に立件されることは同じではありません。特に、誰でも使える男女共用の個室トイレのように、立入り自体が広く認められている区画では、建造物侵入罪としては立件せず、撮影に関する罪だけで事件として扱われることもあると指摘されています。どこまでを立件するかは、区画の性質や立入りの経緯によって幅があります。
トイレ・更衣室のどこからが「建造物」なのか
トイレや更衣室は、独立した建物ではなく、建物の一部です。それでも、建物全体が建造物にあたる以上、その内部の区画に立ち入る行為も建造物侵入の問題として扱われます。
また、個室の中まで入らなければ成立しない、というものでもありません。更衣室やトイレの区画に足を踏み入れた時点で問題になり得ます。体がどこまで入れば「侵入」といえるのかという論点は、裁判例でも議論があるところで、別の記事で詳しく扱っています。
重なる罪の組み合わせ
| 罪名 | 定めている条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 建造物侵入罪 | 刑法130条前段 | 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
| 性的姿態等撮影罪 | 性的姿態等撮影処罰法2条1項 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。未遂も処罰される(同条2項) |
| 迷惑防止条例違反 | 東京都の条例5条1項2号、8条 | 撮影した場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 軽犯罪法違反 | 同法1条23号 | 拘留または科料 |
撮影に関する罪については、2023年7月13日に施行された性的姿態等撮影処罰法が、場所を問わず適用される点が以前との違いです。迷惑防止条例は都道府県ごとに内容が異なりますので、実際の事件では現場の所在地の条例を確認することになります。
二つの罪はどう処断されるのか
撮影のために立ち入ったという関係にある場合、立入りは手段、撮影は結果という位置づけになります。このように手段と結果の関係にある複数の罪は牽連犯と呼ばれ、刑法54条1項後段により、重い方の刑によって処断されます。
ここで注意したいのは、一つの刑で処断されることと、罪が一つになることは別だという点です。成立した罪が消えるわけではなく、それぞれの被害は残ります。なお、罰金の上限をどう考えるかについては令和2年に最高裁判所の判断が示されており、この点は別の解説で扱っています。
加わると、向き合う相手が二者になる
撮影された人
撮影に関する罪について被害を受けたのは、撮影された、あるいは撮影されようとした人です。謝罪や被害の回復について話し合う相手は、この方になります。
建物を管理する人
これに対して、建造物侵入罪について被害を受けたのは、その建物を管理する人です。商業施設であれば運営会社、勤務先であれば会社、学校であれば学校の管理者ということになります。撮影された方とは別に、施設の側にも対応が必要になるという構造です。
二つは別々に進む
相手が二者になるため、話し合いも別々に進みます。片方がまとまっても、もう片方が残ることがあります。また、施設の側が方針として話し合いに応じないという対応をとることもあります。その場合には、謝罪の意思や被害を回復する用意があることを書面にまとめ、その経過を捜査機関に伝えるという進め方が検討されます。
撮影に至らなかった場合に残るもの
カメラを構える前に見つかった、設置しようとした段階で止められた、という場合もあります。性的姿態等撮影罪には未遂を処罰する規定がありますが、準備の段階にとどまり未遂にも至っていないと判断されることもあります。
その場合でも、立ち入った行為そのものは残ります。画像が保存されていない場合に撮影に関する罪がどこまで問えるのかという点は別の記事で扱っていますが、建造物侵入罪は撮影の成否とは切り離して判断される、という点は押さえておく必要があります。
手続はどのような順序で進むことがあるか
立ち入ったところを見とがめられて事件になった場合、まず建造物侵入の疑いで立件され、押収された機器の解析が終わった後に、撮影に関する罪が追加で送致されるという順序をとることがあります。前後して手続が進むため、全体像が見えにくく感じられる時期があります。
また、建造物侵入罪そのものは重い罪ではありませんが、何のために立ち入ったのかという点が捜査の中心になるため、その解明のために身体の拘束が続くことがあると指摘されています。動機や目的についての説明が、手続の進み方に影響しやすい類型だといえます。
説明するときに気をつけたいこと
「間違えて入ってしまった」「用を足すために入った」という説明が出てくることがあります。こうした説明は、そのまま受け入れられるわけではなく、持っていた物、立ち入った時間帯、その区画に入った回数、機器の状態といった外形的な事情と照らし合わせて検討されます。
見られているのは説明の言葉そのものよりも、説明と客観的な事情がかみ合っているかです。事実と異なる説明をしてしまうと、後から訂正することが難しくなり、かえって不利に働くことがあります。目的がどのように認定されるのかという点は、別の記事でも取り上げています。
相談の前に整理しておきたいこと
- 立ち入った場所がどのような区画だったか(施設の種類、区画の名称、施錠や表示の有無)。
- その場所に立ち入る資格が自分にあったかどうか。
- 立ち入った日時と、そのときの状況。
- 機器を持っていたか、設置したか、撮影に至ったか。
- その場で誰にどのような説明をしたか。
- 警察から受け取った書面や、渡した物があるか。
これらは記憶が薄れやすい事柄です。手元のメモや交通の記録などをたどりながら、時系列で書き出しておくと、相談の際に話が早く進みます。
まとめ
- 盗撮の事件では、撮影に関する罪とは別に建造物侵入罪が加わることがある。
- 分かれ目は撮影の中身ではなく、その区画への立入りが管理する人の意思に反していたかどうかである。
- 駅のホームや路上では侵入罪が加わらないのが通常で、トイレや更衣室では加わりやすい。
- 立入りの外観が通常の利用客と変わらなくても成立し得るという判断が示されている。
- 自分にも立ち入る資格がある区画であっても、目的によっては加わることがある。
- 立入りと撮影が手段と結果の関係にあるときは牽連犯として重い方の刑で処断される。
- 侵入罪が加わると、撮影された人と建物を管理する人という二者に向き合うことになる。
- 撮影に至らなかった場合でも、立ち入った行為についての問題は残る。
トイレや更衣室での事案は、立入りと撮影という二つの側面が絡み合うため、どの罪がどこまで問題になっているのかが当事者からは見えにくくなりがちです。事実関係を整理したうえで、それぞれについてどのような対応が考えられるかを早い段階で検討しておくことが、その後の手続の見通しを立てるうえで役に立ちます。捜査機関から連絡を受けている段階でも、これから対応を考える段階でも、刑事事件の経験がある弁護士にご相談ください。


