単純所持で問われるのはどんな場合か|『持っているだけ』の線引き

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「他人に渡していないのだから、持っているだけなら問題にならない」という説明を目にすることがあります。児童ポルノに関しては、この言い方は条文の書き方と噛み合っていません。法律は、渡す・見せるといった行為がなくても、手元に置いていること自体を捉える規定を置いているからです。

 とはいえ、手元にあるものがそのまま処罰の対象になる、という単純な作りにもなっていません。条文は、どこからが刑罰の対象になるのかを、いくつかの要件に分けて書いています。この記事では、「単純所持」という言葉が何を指しているのか、そして「持っているだけ」がどの地点で線を越えるのかを、条文の並び方に沿って整理します。

 なお、この記事では、発覚を避ける方法や、取調べでの受け答えの仕方は扱いません。記録の消去や端末の処分をすすめる内容も書いていません。前提として、問題になる記録に写っているのは実在する子どもであり、一つひとつに被害を受けた側がいます。条文の位置を確認することは、その事実を軽く見るためのものではありません。すでに呼出しや捜索を受けている場合は、事案ごとの検討が必要になりますので、個別に弁護士へご相談ください。

「単純所持」は条文に書かれた罪名ではない

 最初に整理しておきたいのは、「単純所持罪」という名前の条文が法律の中に置かれているわけではない、という点です。この言葉は、条文の内容を説明するために使われてきた通称です。

 警察庁が公表した白書でも、法改正の経緯を説明する部分で「いわゆる単純所持罪」という書き方がされ、そのあとに「他人に提供する目的のない所持罪」という言い換えが添えられています。ここから分かるとおり、「単純」は罪が軽いという意味ではなく、他人に渡すための要素が加わっていない、という意味で使われています

 この規定が設けられた理由も、同じ白書に説明があります。作る側や配る側だけを処罰しても、求める側がいる限り記録の拡散は止まらない、という考え方です。つまり、渡していないことは、条文の外に出る理由としては扱われていません。

法律は「してはならない範囲」と「処罰する範囲」を分けて書いている

 この分野の条文が読みにくいのは、禁止を宣言する規定と、罰則を定める規定が別々に置かれているためです。児童買春・児童ポルノ禁止法には、まず「何人も、みだりに児童ポルノを所持し、電磁的記録を保管し」てはならない、という趣旨の一般的な禁止規定があります。この規定自体には罰則が付いていません。

 そのうえで、別の条文が、一定の要件を満たす所持・保管について刑罰を定めています。さらにその先に、提供や製造など、他人が関わる行為についての罰則が並びます。位置関係を整理すると次のようになります。

条文の位置書かれている内容罰則
一般的な禁止の規定みだりに児童ポルノを所持したり、電磁的記録を保管したりしてはならない定められていない
所持・保管についての罰則の規定自己の性的好奇心を満たす目的で所持・保管した場合1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
提供・製造などについての罰則の規定他人に渡す、多数の人が見られる状態に置く、撮影して作るなどより重い法定刑が定められている


 ここで注意したいのは、一般的な禁止規定に罰則がないことは、「持っていてよい」という意味にはならないという点です。禁止の宣言はそのまま置かれたうえで、その中の一定範囲に刑罰が重ねられている、という構造だからです。以下では、この「一定範囲」を区切っている線を、四つに分けて見ていきます。

一つ目の線 その記録が児童ポルノにあたるか

 最初の分かれ目は、手元にある記録がそもそも法律上の「児童ポルノ」にあたるかどうかです。法律は、次の三つの類型を挙げています。

  • 児童の性交または性交類似行為に係る姿態を描写したもの。
  • 他人が児童の性器等を触る行為、または児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態で、性欲を興奮させ、または刺激するものを描写したもの。
  • 衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって、殊更に性的な部位が露出され、または強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ、または刺激するものを描写したもの。


「殊更に」という限定が置かれている

 三つ目の類型には、「殊更に」という言葉と、性的な部位の範囲を示すかっこ書きが置かれています。この部分は、平成26年の法改正で定義を明確にするために加えられたものです。裸や下着姿が写っていれば当然に該当する、という書き方にはなっていません。

 ただし、これは判断が緩やかであることを意味するものではありません。写り方や撮られ方をどう評価するかは、記録そのものを見たうえでの判断になります。手元の感覚で「これは該当しない」と決めてしまうと、後の説明と食い違うことがあります。

実在する18歳未満の子どもであること

 法律にいう「児童」は18歳未満の者を指します。そして、描かれているのが実在する子どもであることが前提とされています。年齢を知らなかったという事情がどのように扱われるかは、経緯によって評価が分かれる部分です。

法律には適用上の注意規定も置かれている

 この法律には、適用にあたって、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利および自由を不当に侵害しないよう留意し、本来の目的を逸脱して濫用してはならない、という趣旨の規定が置かれています。

 もっとも、これは特定の職業や目的を挙げて処罰の対象から外す規定ではありません。「研究のために持っていた」と説明すればそれで足りる、という性質のものではないため、この条文を単独で根拠にした説明には注意が必要です。

二つ目の線 どこまでが「持っている」と評価されるか


物は「所持」、データは「保管」と書き分けられている

 条文は、児童ポルノを「所持」した場合と、児童の姿態を描写した情報を記録した電磁的記録を「保管」した場合を、それぞれ書いています。紙媒体やディスクのような物であれば所持、データとして持っている状態であれば保管、という整理です。

 この書き分けがあるため、端末の中にデータとして置いてある状態も、条文の側では正面から捉えられています。「物として持っていないから対象外」という読み方は成り立ちません。保存されている場所が本体の中か外部の記録媒体かによって扱いが変わる、という書き方にもなっていません。

見ただけの場合の扱い

 閲覧しただけで手元に記録が残っていない場合については、所持や保管にあたらないと解する説明が実務でもされています。ただし、この点をそのまま持ち帰るのは危ういところがあります。閲覧の過程で端末内に自動的にデータが保存されることがあり、その場合には「残っていない」という前提自体が崩れます。

 また、閲覧の履歴や通信の記録は端末やその外側にも残り得ますので、「見ただけかどうか」は本人の説明だけで決まるものではありません。求めて取得した経緯があれば、所持や保管とは別の規定が問題になることもあります。

三つ目の線 罰則の規定に置かれた三つの限定

 所持・保管に罰則を定めた条文には、対象を絞るための要件が重ねて置かれています。整理すると次の三つです。

  • 自己の性的好奇心を満たす目的があること。
  • 自己の意思に基づいて所持・保管するに至ったこと。
  • その者が所持・保管している者であることが明らかに認められること。


 二つ目と三つ目は、意図せず記録が手元に来てしまう場面や、誰のものか判然としない場面を想定して置かれた限定だと説明されています。もっとも、この限定がどの時点で外れるのかは、それ自体が一つの論点になります。ここでは深くは立ち入りませんが、届いた瞬間の事情だけでなく、その後にどう扱っていたかが見られているという点だけ押さえておいてください。

「自己の性的好奇心を満たす目的」はどう判断されるか

 三つの限定のうち、実務で争いになりやすいのが目的の点です。この目的は本人の内心の問題ですが、判断は本人の説明だけでされるわけではなく、記録を取得するに至った経緯、持っていた態様、分量、内容といった外から見える事情から検討されます。

 たとえば、自分の子どもの入浴時の写真のように、家庭内の記録として撮られたものについては、この目的が認められないと説明されることがあります。反対に、記録の集め方や整理の仕方から目的が推認されることもあります。よく聞かれる説明が実際にどう扱われやすいかを並べると、次のようになります。

よく聞かれる説明実際にどのように見られるか
自分から探して集めたものではない届いた経緯だけでなく、その後どう扱っていたかが確認される
見るつもりはなく残っていただけ保存場所の整理の仕方や、他の記録との並び方が確認される
数が少ないので問題にならない分量は判断材料の一つだが、それだけで結論が決まるものではない
家族を撮った写真である撮影の経緯や記録の状態から、目的が認められないこともある


 この表は、説明の当否を判定するためのものではありません。同じ言葉でも、その裏づけとなる事情によって受け止められ方が変わる、ということを示すためのものです。

四つ目の線 「単純」の側から外れる境目

 最後の線は、所持・保管の枠から別の条文に移る地点です。ここで重要なのは、条文が移る引き金になるのは、記録の数や内容ではなく、その記録に他人が関わった時点だという点です。

 たとえば、記録を一人の相手に送っただけでも、提供についての規定が動きます。多数の人が見られる状態に置いた場合には、さらに重い法定刑の規定が置かれています。子どもに姿態をとらせて撮影した場合や、気づかれない態様で撮影した場合も、それぞれ別の規定の対象です。

 したがって、「渡していないから軽い」という理解には二つの落とし穴があります。一つは、渡していない状態でも所持・保管の規定は動いているということ。もう一つは、本人が「共有した」と認識していない操作が、条文の側では提供にあたると評価される場合があるということです。

持ち続けている間は「終わった」とはいえない

 公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行するとされています。所持や保管のように状態が続く行為については、その状態が続いている限り「終わった」とはいえないため、手元に置いたままの間は時効期間が進み始めない、と説明されています。数年前に取得したものであっても、古いから当然に対象外になる、という整理にはなりません。

 なお、この記事では記録の消去はおすすめしていません。削除しても、それまで成立していた事実そのものが消えるわけではありません。加えて、捜査が始まった後の削除や端末の処分は、身柄についての判断で不利に働くことがあります。手元の記録をどう扱うかは、自己判断で動く前に弁護士に相談する場面です。

都道府県の条例が別に置かれていることもある

 所持や取得について、都道府県が独自に条例を設けている例もあります。対象や要件は地域によって異なり、廃棄を命じる仕組みを置いているところもあります。国の法律だけを見て判断すると、地域によっては前提が変わることがある、という点は頭に置いておいてください。

連絡が来た段階で整理しておきたいこと

 警察から連絡があった場合や、捜索を受けた場合には、次のような点を時系列で整理しておくと、相談の際の見通しが立てやすくなります。

  • いつ、どのような形で連絡や捜索があったか。
  • 何を持ち出されたか、書面を受け取ったかどうか。
  • 問題になっている記録が、いつ、どのような経緯で手元に来たか。
  • その記録を、その後どのように扱っていたか。
  • 他人に送ったり、共有できる状態に置いたりしたことがあるか。
  • 勤務先や学校への影響について、心配している点は何か。


 記憶があいまいな部分は、そのまま「はっきりしない」と伝えて構いません。辻褄を合わせようとして補った説明は、後で記録と食い違うことがあります。

避けたい対応

 連絡を受けた後の行動として、次のようなものは避けたいところです。

  • 記録の消去や端末の初期化、機器の処分を自己判断で行うこと。
  • 関係する相手やその家族に、直接連絡を取ろうとすること。
  • インターネット上の説明を根拠に、自分の事案の見通しを断定してしまうこと。
  • 事実と異なる説明を、その場をしのぐために口にしてしまうこと。


弁護士に確認できること

 弁護士に相談した場合、次のような点について、事案に即した説明を受けることができます。

  • 手元にあった記録が、どの条文の枠で検討されている可能性が高いか。
  • 所持・保管の枠にとどまるのか、別の規定に及びうるのか。
  • 取調べで聞かれる可能性のある事項と、その意味。
  • 身柄について、どのような判断がされ得るか。
  • 勤務先や家族への影響について、現実的にとり得る対応。


 なお、早く相談したからといって、望ましい結果が約束されるわけではありません。ただ、手元の記録をどう扱うか、どのように説明するかといった判断は、後から取り消しにくい性質のものです。判断の前に確認できることを確認しておく、という意味では、早い段階のご相談に意味があります。

この記事のまとめ


  • 「単純所持」は条文上の罪名ではなく、他人に渡す目的を伴わない所持を指す通称である。
  • 法律は、してはならない範囲を定める規定と、刑罰を科す規定を分けて置いている。
  • 禁止規定に罰則がないことは、持っていてよいという意味にはならない。
  • 処罰の対象になるかどうかは、児童ポルノ該当性、持っている範囲、三つの限定という複数の線で区切られている。
  • データとして持っている状態も、保管として条文で正面から捉えられている。
  • 「単純」の側から外れる引き金は、記録の数や内容ではなく、その記録に他人が関わった時点にある。
  • 所持・保管は状態が続く行為であるため、持ち続けている間は時効期間が進み始めないと説明されている。


児童ポルノ事件についてお悩みの方へ

 この分野は、条文の数が多く、同じ「持っていた」という事実でも、経緯によって検討される規定が変わります。インターネット上の説明だけで自分の状況を当てはめようとすると、前提のずれた見通しを立ててしまうことがあります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談を承っております。ご相談の受付は24時間対応しており、初回のご相談は無料です。すでに連絡を受けている方も、まだ何も起きていない段階で不安を抱えている方も、まずはお気軽にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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