借りた金を返せないと詐欺になるのか|借入時の欺罔の有無
玄関先で捜索差押許可状を示され、思わず「今日は困ります」と言ってしまった。ドアを開けずにやり過ごそうとした。押収されそうな物を手元に引き寄せた。令状の執行の場面では、こうした行動がまとめて「拒んだ」と表現されます。
しかし法律の側から見ると、この四つはそれぞれ別の扱いを受けます。何の罪にもならないものもあれば、もともと疑われている事件とは別に立件され得るものもあります。
この記事では、捜索・差押えの令状が執行される場面で、どこまでが「応じなかった」にとどまり、どこから「妨害した」と評価されるのかを、条文と裁判例に沿って整理します。
「拒否できない」とは、同意を求められていないということ
捜索・差押えは、裁判官が発付した捜索差押許可状に基づいて行われる強制処分です(刑事訴訟法第二百十八条第一項)。憲法第三十五条は住居等の不可侵を定めていますが、正当な理由に基づいて発せられ、捜索する場所と押収する物を明示した令状がある場合は別だという留保が付いています。
ここが出発点になります。令状は、住んでいる人に「捜索してよいか」と尋ねる書面ではなく、裁判官がすでに許可を与えたことを示す書面です。したがって承諾するかどうかを問われているわけではなく、「断る」という選択肢が制度として用意されていません。片づけが済んでいない、家族が寝ている、これから仕事に出るといった事情を伝えても、日を改めてもらえるとは限りません。
執行にあたっては、令状が処分を受ける者に示されます(第二百二十二条第一項、第百十条)。定められているのは呈示であり、写しの交付や撮影までは規定されていません。
「断れない」ことと「何をされても仕方ない」ことは別
一方で、令状があることは、その場で行われるすべての行為が当然に適法になるという意味ではありません。捜索できる場所も差し押さえられる物も令状の記載で区切られており(第二百十九条第一項)、執行に伴う行為にも、後で述べるとおり限界があります。断れないことと、何をされても仕方がないことは、別の話です。
開けなかったときに行われること――「必要な処分」
玄関を開けない。鍵を渡さない。金庫の番号を言わない。こうした対応をとったこと自体を処罰する規定は、刑事訴訟法にも刑法にも見当たりません。黙っていることについては、憲法第三十八条第一項と刑事訴訟法第百九十八条第二項が供述を強いられない立場を定めています。
ただし、開かないままで終わるわけでもありません。刑事訴訟法第百十一条第一項は、令状の執行について「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」と定めています(第二百二十二条第一項により捜査機関に準用)。同条第二項により、押収した物についても同じ処分ができます。錠を外すことは例示にすぎず、必要であれば扉そのものに手を加えることもこの規定に含まれると解されています。開けなければ開けられる、という構造になっています。
呈示より先に立ち入りが行われた事例
最高裁判所平成十四年十月四日決定は、ホテルの客室に対する捜索差押許可状の執行について、警察官が支配人からマスターキーを借り受け、来意を告げずに施錠された客室のドアを開けて入室し、その直後に令状を示した措置を適法としました。執行の動きを察知されれば、短時間のうちに差押えの対象物を破棄・隠匿されるおそれがあった事情が理由として挙げられています。あわせて、令状の呈示は執行に着手する前に行うのを原則としたうえで、この事案では入室した直後の呈示でも差し支えないとしています。
ここから二つのことが読み取れます。ひとつは、施錠が執行を止める手段にはならないこと。もうひとつは、「まだ令状を見ていないから入らせない」という言い分が、常に通るとは限らないことです。
「必要な処分」にも限界がある
もっとも、右の決定は、入室の措置が社会通念上相当な態様で行われていることを適法性の理由に挙げています。必要な処分は無制限ではなく、執行の目的を達するために必要で、かつ態様として相当な範囲にとどまることが求められます。
その限界が争われた例として、家宅捜索の現場で携帯電話の使用を禁じた措置が問題になった事案があります。二〇一八年に報道された福岡高等裁判所の判断では、弁護士に連絡しようとした者に携帯電話を床に置かせるなどした指示について、弁護士への連絡は証拠隠滅にも捜索の妨害にも当たらず、正当な権利の行使を妨げる措置であって違法だとされました。事案の内容によって判断は変わり得ますが、連絡をとろうとしたこと自体が妨害と評価されるわけではないという点は押さえておく意味があります。
連絡がとれることと、立ち会ってもらえることは別
他方で、執行中は、許可を得ない出入りを何人に対しても禁止することができ(第二百二十二条第一項、第百十二条第一項)、禁止に従わない者を退去させ、または執行が終わるまで看守者を付けることもできます(同条第二項)。連絡をとること自体が妨害に当たらないとしても、駆けつけた弁護士がその場に入れるかどうかは、この出入禁止の運用に左右されます。
「拒む」という言葉は四つに分かれる
以上を踏まえると、ひとくちに「拒んだ」といっても、法的な評価は次のように分かれます。
| その場での行動 | 法的な位置づけ | 問題になり得る罪 |
|---|---|---|
| 出ない、開けない、鍵や番号を伝えない | 応じなかったこと自体を処罰する規定は見当たらない | ――(第百十一条第一項により解錠などが行われる) |
| 言葉で抗議する、記録を残す、弁護士に連絡する | 権利の行使と評価される場面がある | ――(出入禁止の対象にはなり得る) |
| 体で阻む、押す、つかむ、扉を閉める | 職務の執行に対する有形力の行使 | 公務執行妨害罪 |
| 物を隠す、壊す、流す、持ち去る | 対象物や押収物への働きかけ | 公務執行妨害罪、封印等破棄罪、公用文書等毀棄罪、器物損壊罪など |
境目は、応じないという不作為にとどまるか、執行に働きかける動きをしたかという点にあります。同じ「拒否」という言葉でも、上の二つと下の二つでは、その後に起きることがまったく違います。
体で阻んだとき――公務執行妨害
刑法第九十五条第一項は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行または脅迫を加えた者を、三年以下の拘禁刑または五十万円以下の罰金に処すると定めています。
ここでいう暴行は、けがをさせる程度の強さを求めるものではありません。判例は、公務員に向けられたものであれば足り、直接その身体に加えられることまでは必要でないとしており、現実に執行が妨げられたという結果が生じたことも要件とされていません。捜索の現場で問題になりやすいのは、立ちふさがる、腕をつかむ、振り払う、押し返すといった動きです。
職務が適法かどうかは、その場では決着しない
この罪は、職務の執行が適法であることを前提とします。ただ、適法かどうかは後に裁判所が判断する事柄であり、玄関先で言い合っても結論は出ません。納得できないという気持ちを体で示すと、もともと疑われている事件とは別に、この罪で現行犯逮捕される展開があり得ます。
押収された後の物に手を出したとき
差押えが済んだ物は、捜査機関の保管に移ります。この段階で手を出すと、公務執行妨害罪のほかに、別の条文が視野に入ってきます。
封印や差押えの表示を壊した場合
刑法第九十六条は、公務員が施した封印もしくは差押えの表示を損壊し、またはその他の方法によりその封印もしくは差押えの表示に係る命令もしくは処分を無効にした者を、三年以下の拘禁刑もしくは二百五十万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。表示をはがす、貼られた位置から動かすといった行為も損壊に当たるとされています。
書類を破った場合
刑法第二百五十八条は、公務所の用に供する文書または電磁的記録を毀棄した者を、三月以上七年以下の拘禁刑に処すると定めています。判例は「公務所の用に供する文書」を、公務所において現に使用し、または使用に供する目的で保管している文書と広くとらえており、証明のために使われる性質のものである必要はないとしています。差し押さえられて捜査機関の保管に移った書類を破る、丸めて投げ捨てるといった行為は、この条文にふれる可能性があります。罰金刑が定められておらず、下限が三月とされている点も、他の条文との違いです。
自分の事件の証拠を隠しても証拠隠滅罪にはならない
刑法第百四条の証拠隠滅罪は、「他人の刑事事件に関する証拠」を対象としています。自分が疑われている事件について自分で証拠を隠しても、この条文には当たりません。
ただ、これは何の不利益もないという意味ではありません。前の項目で見たとおり、隠し方によっては公務執行妨害罪や器物損壊罪などが別に成立し得ます。加えて、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるかどうかは、逮捕の必要性や勾留の判断で考慮される事情です。執行の最中に物を動かした事実は捜査報告書に残り、身柄を拘束するかどうかの判断材料として働くことがあります。証拠隠滅罪に当たらないことと処分が軽くなることは、別々に考える必要があります。
家族が隠した場合は扱いが変わる
隠したのが家族であれば、その人にとっては「他人の刑事事件」ですから、第百四条の対象になります。もっとも、第百五条は、犯人の親族がこれらの者の利益のために犯したときは刑を免除することができると定めており、免除される余地があります。免除するかどうかは裁判所の判断であり、当然に不問となるわけではありません。とっさに家族が物を隠す場面は実際に起きますが、その家族自身が捜査の対象になり得ます。
本人以外が対応したとき
令状の執行は、本人が不在でも進みます。同居する家族が、会社であれば居合わせた従業員が対応することになりますが、その人が体で阻めば、その人自身が公務執行妨害罪の主体になります。「自分は関係がないから」という理由で守られるわけではありません。
留守にしていても終わりにはならない
在宅していないことを理由に執行が見送られるとは限らず、立会人を確保したうえで進められることがあります。令状には有効期間が定められており、その期間内であれば執行の機会は一度に限られず、期間が過ぎたとしてもあらためて令状が請求されることがあります。
罪にならない形で争う道
納得できない点があるときに、その場で実力に訴える以外の方法があります。
その場でできること
執行が始まったら、次の点を意識しておくと後の手続で役に立ちます。
・示された令状の、事件名、捜索すべき場所、差し押さえるべき物の記載を読む
・担当の警察署、担当者の氏名、開始と終了の時刻を控える
・特定の弁護士に連絡する旨を告げたうえで連絡する
・押収された物は、交付される押収品目録交付書と照らして確認する
・言いたいことは言葉で伝え、記録に残るよう求める
避けたい行動
・押す、つかむ、立ちふさがるなど、体で執行を止めようとする
・物を隠す、流す、壊す、窓の外に出す
・押収された物や封印に手をかける
・その場の勢いで、事実と違う説明をする
・内容を読まないまま書面に署名する
後から使える手続
押収に不服がある場合、司法警察職員の押収に関する処分については、その所属する官公署の所在地を管轄する地方裁判所に、取消しまたは変更を請求することができます(刑事訴訟法第四百三十条第二項)。また判例は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合には、証拠能力を否定するという枠組みを示しています。ほかに、国家賠償法に基づく請求や、公安委員会への苦情の申出という道もあります。
いずれも、その場で決着する手続ではありません。だからこそ、記録が残っているかどうかが後で効いてきます。
早い段階で弁護士に相談する意味
捜索・差押えを受けたということは、捜査機関が一定の資料をすでに集め、裁判官の審査を経たことを意味します。その後は任意の呼び出しに進む場合も、逮捕に至る場合もあります。押収された物の扱い、取調べでの説明の仕方といった判断は、執行の当日から始まります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けし、二十四時間体制で受付を行っています。逮捕された場合の接見にも対応しています。執行の最中に連絡がついた場合には、その時点でお伝えできることがあります。
まとめ
・令状は同意を求める書面ではなく、断るという選択肢は制度として用意されていない
・開けない、言わないといった対応そのものを処罰する規定は見当たらないが、第百十一条第一項の「必要な処分」として解錠などが行われる
・その必要な処分にも限界があり、弁護士への連絡を妨げる措置が違法とされた事案がある
・体で阻めば公務執行妨害罪が、押収物や封印に手を出せば封印等破棄罪や公用文書等毀棄罪が問題になる
・自分の事件の証拠を隠しても証拠隠滅罪には当たらないが、身柄の判断には影響し得る
・不服があるときは、その場の実力ではなく、記録と手続で争うのが現実的な道筋になる


