相手が骨折した|傷害の重さが処分の見通しに与える影響

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

けんかや口論の延長で相手を押したり殴ったりした結果、相手が骨折したと知らされると、多くの方が「骨折となると重い処分になるのではないか」と考えます。インターネット上の解説でも、打撲は軽傷、骨折は重傷という対比で処分の重さを説明するものが目立ちます。

もっとも、実際の手続では「骨折したかどうか」という一点で見通しが決まるわけではありません。骨折は診断名であって、その言葉だけでは治療の実態も、事件に至る経緯も伝わらないからです。

この記事では、傷害の重さが処分の見通しのどこに、どのような形で関わってくるのかを、加害者側の立場から順に整理します。

「骨折」という一語が伝えていること、伝えていないこと


骨折という診断は、レントゲンやCTなどの画像所見によって確認されることが多く、けががあったこと自体は比較的はっきりします。その意味で、骨折は「傷害の結果が生じている」ことを示す明確な材料です。

一方で、骨折という言葉だけでは、次のようなことは分かりません。

・どの部位を、どの程度損傷したのか
・入院や手術を要したのか、外来での固定にとどまったのか
・固定や通院がどのくらいの期間続くのか
・仕事や日常生活にどの程度の支障が生じているのか
・治った後に機能の制限が残る見込みがあるのか

処分を判断する側が見ているのは、骨折という言葉そのものではなく、そこから読み取れるこれらの実態のほうです。同じ「骨折」でも、数週間の固定で日常生活に戻れるものと、手術を要し職場復帰までに数か月を要するものとでは、評価される内容が異なります。

罪名と法定刑は、骨折によって変わるわけではない


刑法204条は「人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」と定めています。ここには、けがの程度による区分は置かれていません。打撲であっても骨折であっても、成立する罪名は傷害罪であり、条文上の刑の幅も同じです。

暴行罪(刑法208条)との分かれ目は、傷害の結果が生じたかどうかであって、その結果が重いか軽いかではありません。骨折が生じている場合、傷害罪の枠内で検討が進むことになります。

つまり骨折は、罪名や法定刑という「枠」を動かすものではなく、その枠の中のどのあたりに位置づけられるかに関わってくるものです。ここを混同すると、見通しの立て方を誤りやすくなります。

量刑はどのような枠組みで判断されているのか


最高裁は平成26年7月24日の判決で、量刑判断の考え方について次のような趣旨を述べています。日本の刑法は、一つの構成要件の中に種々の犯罪類型が含まれることを前提として幅広い法定刑を定めており、裁判では行為責任の原則を基礎としつつ、その犯罪行為にふさわしいと考えられる刑が言い渡される。そして、裁判例が積み重ねられることによって、犯罪類型ごとに一定の量刑傾向が示されることになる、という考え方です。

これを傷害罪に当てはめると、15年以下の拘禁刑という幅の広い法定刑の中で、まず「どのような行為をして、どのような結果を生じさせたのか」という行為の責任が基礎に置かれ、そのうえで同じような事件の量刑傾向が目安とされることになります。

骨折という結果は、この「結果」の部分を構成する要素の一つです。軽くない要素ではありますが、唯一の要素ではありません。

見られているのは、結果だけではない


処分の選択について、刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮して起訴しないことができると定めています。骨折という結果は、このうち「犯罪の軽重」に関わる事情の一つという位置づけです。

実際の判断で見られている事情を整理すると、次のようになります。

見られている事情具体的な内容
傷害の結果部位と程度、入院や手術の要否、治療の期間、機能への影響
行為の態様素手か物を用いたか、回数、向けられた部位、関与した人数
事件に至る経緯やり取りの発端、双方の関与の度合い、計画性の有無
本人に関する事情前科や前歴の有無、生活環境、監督する立場の人の有無
犯罪後の情況被害弁償や示談の状況、説明の一貫性、その後の生活状況


骨折は、この表の一行目に関わる事情です。同じ「相手が骨折した」という事案であっても、残りの四つの行に入る内容が違えば、見通しも変わってきます。

行為の態様は、量刑だけでなく「枠」を動かすこともある


結果ではなく行為の側の事情が、適用される条文そのものを変えることもあります。

たとえば暴力行為等処罰に関する法律は、銃砲又は刀剣類を用いて人の身体を傷害した場合や、常習として傷害の罪を犯した場合について、刑法204条とは別に、下限のある刑を定めています。この場合、検討の枠が最初から変わることになります。

一方で、複数人が共同して人にけがをさせた事案は、同法1条が対象としている罪に傷害罪が含まれていないため、罪名としては傷害罪のまま扱われるのが一般的です。この場合、複数人であったことは、量刑や処分の選択の中で評価されることになります。

いずれにしても、枠そのものを動かすのは行為の側の事情であって、骨折という結果ではありません。

行為の側で見られやすい事情としては、次のようなものが挙げられます。

・素手だったのか、手に何かを持っていたのか
・一回限りの行為だったのか、繰り返しがあったのか
・頭部や顔面など、損傷が生じやすい部位に向けられていたか
・相手が抵抗できない状態になった後も続けたか
・待ち伏せや呼び出しなど、事前の準備があったか
・相手からの働きかけが先にあったか

「骨折させるつもりはなかった」はどこで意味を持つのか


傷害罪は、けがをさせようという意思がなくても、暴行を加える意思があり、その結果としてけがが生じた場合に成立すると解されています。最高裁昭和25年11月9日の判決も、暴行の故意がある以上、傷害の結果について故意がなくても傷害罪が成立するという趣旨を示しています。

したがって「骨折までは想定していなかった」という説明は、罪の成立を否定する方向には結び付きにくいものです。もっとも、この説明が無意味というわけではありません。どのような力の入れ方だったのか、相手がどこにどう倒れたのかといった具体的な経過は、行為の責任をどう評価するかという場面で意味を持ちます。

罪の成否の場所ではなく、量刑と処分の選択の場所で効く事情である、という位置づけを押さえておくと、取調べでの説明の仕方も整理しやすくなります。

骨折の事案で説明の力点が置かれやすいところ


骨折は画像で確認できるため、「けががあったかどうか」自体が争点になることは多くありません。そのぶん、次のような点に説明の力点が移りやすくなります。

・どの行為によって骨折が生じたのか(受傷の経過)
・行為から受診までにどのくらいの間隔があったのか
・骨折の部位が、力の加わった向きと対応しているか
・以前からの骨折や、骨がもろくなる事情がなかったか

なお、被害者の側に身体的な特殊事情があったとしても、それだけで行為との結び付きが否定されるとは限りません。過去の裁判例には、被害者の身体的な事情が結果に影響したとみられる事案について、行為と結果との因果関係を認めたものがあります。

これらの点は、責任を免れるための材料としてではなく、事実関係を正確に記録に残すという観点から整理しておくものと考えたほうが、実際には役に立ちます。

身柄の扱いにはどう関わるのか


逮捕や勾留の判断は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることに加え、住居が定まらないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることといった事情を踏まえて行われます(刑事訴訟法60条1項)。

傷害の結果が重いことは、それ自体が直接の要件になっているわけではありません。ただし、事件の重大性は、逃亡のおそれや被害者に働きかけるおそれをどう見るかに影響することがあります。相手が入院しているような場合には、接触の可能性が問題になりやすく、住居や勤務先、家族による監督の見通しをどこまで具体的に示せるかが、実際上の分かれ目になりやすいところです。

傷害罪は裁判員裁判の対象ではない


相手が骨折したと聞いて、大がかりな裁判になるのではないかと不安になる方もいます。もっとも、傷害罪は裁判員裁判の対象事件には含まれていません。裁判員が加わるのは、死刑又は無期の拘禁刑に当たる罪と、一定の重い罪のうち故意の犯罪行為によって被害者を死亡させたものに限られており、傷害罪はこのいずれにも当たらないためです。

起訴された場合の手続としては、公開の法廷で審理が行われる正式な公判のほか、書面審理による略式手続が用いられることもあります。どちらになるかは、求められる刑の種類などによって変わってきます。

後遺症が残る見込みがある場合


骨折の事案では、治った後に関節の動きの制限などが残る見込みが問題になることがあります。この点は、刑事の評価と民事の賠償の両方に関わりますが、その内容が固まる時期が、手続の進行と一致しないことがあります。

刑事の処分は、治療の終了を待たずに判断されることがある一方で、賠償額の全体像は治療の経過が見えてこないと固まりにくい、という関係です。示談を申し入れる時期そのものは治療の進み具合で決まるものではありませんが、金額を確定させる作業には時間がかかることがあります。この時間差をどう扱うかは、事案ごとに設計しておく必要があります。

民事の賠償は刑事の処分とは別に残る


刑事の処分が決まっても、民法709条・710条に基づく損害賠償の問題は別に残ります。治療費や通院に要した費用、休業による損害、精神的損害といった費目が積み上げられ、後遺症が残った場合にはその分も検討の対象になります。骨折の事案では、治療期間の長さや就労への影響が金額に反映されやすい傾向があります。

また、双方に行き違いがあった事案では、民法722条2項により、被害者側の事情が賠償額の算定にあたって考慮されることもあります。人の身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、損害及び加害者を知った時から5年とされています(民法724条の2)。

取調べで気をつけておきたいこと


骨折の事案では、行為と結果の結び付きが説明の中心になります。次の点を意識しておくと、後から食い違いが生じにくくなります。

・力の入れ方や向きを、思い出せる範囲で具体的に述べる
・分からないことは分からないと述べ、推測で補わない
・相手の倒れ方や周囲の状況など、結果につながる経過も併せて述べる
・調書の内容を読み、事実と違うと感じた部分は増減変更を申し立てる(刑事訴訟法198条4項)
・内容を確認しないまま署名押印に応じない

避けたい対応


次のような対応は、後の交渉や手続を難しくすることがあります。

・診断書の内容を確かめないまま、金額だけを先に約束する
・被害者に直接連絡して、被害届の取下げを求める
・病院に直接問い合わせて、けがの内容を確認しようとする
・その場で口頭の合意だけを交わし、書面を残さない
・骨折という事実そのものを否定する形で説明を組み立てる

よくあるご質問


骨折させた場合、示談が成立すれば不起訴になりますか


示談の成立は、刑事訴訟法248条が挙げる「犯罪後の情況」に関わる事情として考慮されます。もっとも、考慮される事情の一つであって、それだけで結論が決まるものではありません。行為の態様や経緯、前科や前歴の有無なども併せて判断されます。

全治の週数が長いほど、処分は重くなるのでしょうか


全治期間は、傷害の程度を見るための材料の一つです。ただし、初診の時点での見込みとして記載されることが多く、その後の実際の通院や入院の経過、機能への影響と併せて評価されます。数字だけが独り歩きする形で処分が決まるわけではありません。

相手にも手を出されていた場合はどうなりますか


双方に有形力の行使があった事案では、それぞれの行為が別々に評価されます。相手の行為が先にあったという経緯は、事件に至る経緯として考慮され得る事情ですが、こちらの行為の評価が自動的になくなるわけではありません。経緯を裏付ける記録が残っているかどうかが実際上は重要になります。

まとめ


・骨折は診断名であり、その一語だけで処分の見通しが決まるものではない
・罪名と法定刑は骨折によって変わらず、動くのは枠の中での位置づけ
・量刑は行為責任を基礎に、行為の態様と結果の双方を見て判断される
・枠そのものを動かすのは、凶器の使用や常習性といった行為の側の事情
・「骨折させるつもりはなかった」は、罪の成否ではなく量刑の場面で意味を持つ
・処分の選択は、刑事訴訟法248条が挙げる事情の組み合わせで決まる
・民事の賠償は刑事の処分とは別に残り、後遺症の見込みが関わってくる

相手が骨折したという事実は、たしかに軽く扱えるものではありません。ただ、その一点だけで見通しが定まるわけではなく、行為の態様や経緯、その後の対応をどう整理して示すかによって、進み方は変わってきます。事実関係の記録が残っているうちに、早い段階で整理を始めておくことをお勧めします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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