求刑を聞いた後、判決の日までに何ができるのか|結審後の弁論の再開

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「相当法条適用の上、被告人を拘禁刑○年に処するのを相当と思料します」。法廷でこの言葉が読み上げられると、その事件の審理は終わりに近づいています。検察官の意見に続いて弁護人が弁論を行い、被告人が最終陳述をすると、その日の手続は区切られ、あとは判決の言渡しを待つことになります。

 ところが、この区切りのあとに事情が動くことがあります。続けていた示談の話がまとまった、受け取ってもらえずにいた弁償金を被害者が受け取った、通院を続けている、といった変化です。審理はすでに終わっているのに、その事情を裁判所に伝える方法はあるのでしょうか。

 刑事訴訟法には、いったん終わった弁論をもう一度開く仕組みが置かれています。この記事では、求刑を聞いた日から判決の日までの間に手続の上で何ができるのかを、条文と最高裁の判断にあたりながら整理します。以下、法とあるのは刑事訴訟法を指します。

この記事で扱うこと


  • 求刑を聞いた日に、手続の上で何が終わったのか。
  • 終結した弁論を再開する仕組みと、その求め方。
  • 結審のあとに事情が変わったときに、実務でどのように扱われているか。
  • 再開されなかった場合に残る道と、判決の日までに確かめておきたいこと。


 求刑の数字と判決の刑がどう対応するのか、判決当日の法廷で何が行われるのか、量刑そのものがどう決まるのかは、それぞれ別の論点です。ここでは深追いせず、結審から宣告までの期間に絞って説明します。

求刑を聞いた日に終わったこと

 証拠調べが終わると、検察官が事実および法律の適用について意見を述べます(法293条1項)。求刑は、この意見の締めくくりとして述べられるのが通例です。続いて弁護人が弁論を行い、被告人が最終陳述をします(同条2項)。ここまでで審理が終わり、裁判長が弁論の終結を告げます。これが結審と呼ばれる場面です。

 結審すると、判決を言い渡す期日が指定されます(法273条1項)。結審から宣告までの間隔は、事件の内容や裁判所の日程によって異なります。

結審したあとは、原則として新しい材料が出せない

 判決は、その時点までに取り調べられた証拠をもとに組み立てられます。結審のあとに裁判所へ届いた書面は、送っただけでは証拠として扱われません。裁判官は、指定した判決期日までの間に結論を検討し、判決書の準備を進めていきます。求刑の数字を聞いた側からすると「まだ何かできるのではないか」と感じる時期ですが、手続の上ではいったん扉が閉じた状態にあります。

終結した弁論を再開する仕組み

 その扉をもう一度開く手続が、弁論の再開です。法313条1項は、裁判所は適当と認めるときは、検察官、被告人もしくは弁護人の請求により、または職権で、決定をもって、終結した弁論を再開することができると定めています。

 条文が「請求により又は職権で」と並べているとおり、当事者の側から再開を求めることができますし、裁判所が自ら判断して再開することもできます。再開されると、その事件の審理は終結前の状態に戻り、追加の証拠を取り調べる余地が生まれます。

請求があれば、認めるか却下するかの判断が示される

 最高裁昭和36年5月26日判決は、当事者から終結した弁論の再開の請求がされたときは、裁判所は、その請求を容れて再開するか、その必要がないと認めて却下するか、いずれかの決定を与えなければならないと解するのが相当である、と判断しています。請求が黙って放置される扱いにはならない、ということです。

再開するかどうかは裁判所が判断する

 もっとも、条文は「適当と認めるとき」としており、再開するかどうかの判断は裁判所に委ねられています。求めれば当然に開かれるというものではありません。何のために再開するのか、その資料が量刑の判断に関わるものかどうかが、実際の判断を左右します。

結審のあとに事情が変わる場面


場面結審のあとに生じたこと手続の上での扱い
示談の成立続いていた交渉がまとまり、示談書と受領を示す書面ができた弁論の再開を求めて、示談書などを取り調べてもらう形をとる
弁償金の受領示談に至らずに供託していた弁償金を、被害者が受け取った受け取られたことを示す書面を出すために、再開を求めることがある
治療や通院の継続結審のあとも通院やカウンセリングを続けた継続を示す資料を出すために、再開を求めることがある
受入れ体制の変化勤務先や同居する家族の側の受入れの見通しが固まった変化を示す資料を提出することが考えられる
不利な方向の変化結審のあとに新たな問題が生じた検察官の側から再開が求められる場合もある


 示談や被害弁償は、相手方のあることですから、公判の日程と足並みがそろうとは限りません。結審の時点では話がまとまっていなかったものが、判決の直前になって整うことがあります。弁論の再開は、こうした「間に合わなかった事情」を審理に取り込むために使われることが多い手続です。

供託した金銭は、受け取られて初めて渡ったことになる

 被害者が金銭の受取りに応じない場合に、弁償のための金銭を供託所に預ける方法がとられることがあります。ただし、供託した時点では、その金銭はまだ被害者の手元に渡っていません。被害者が供託所に対して受取りの手続をとって、初めて支払われたことになります。

 この手続がいつ行われるかは被害者の側の判断によりますので、結審のあとに動くこともあります。受け取られたことが分かった場合に、それを示す書面を提出するために再開を求める、という使い方がされています。

再開が認められた場合の進み方

 実務では、判決の言渡しのために開かれた期日の冒頭で再開を申し出る形がとられることがあります。許可されると、その場で追加の証拠の取調べを請求し、相手方の意見を聴いたうえで取り調べます。そのあと検察官と弁護人が改めて意見を述べ、被告人の最終陳述を経て、もう一度弁論が終結します。裁判官がいったん休廷して追加の資料を検討し、法廷に戻って判決を宣告する、という流れです。

見通しが立った段階で裁判所に伝えておく

 裁判官は、判決の内容を検討したうえで期日に臨みます。宣告の直前になって初めて資料が出てくると、それを踏まえて検討する時間がとれません。そのため、示談などがまとまりそうな見通しが立った段階で、弁護人から裁判所と検察官にその旨を伝えておく取扱いが行われています。伝えておけば、裁判所も資料が出てくる可能性を織り込んで期日前の検討ができます。

資料は形の整ったものを用意する

 再開の場で提出するのは、示談書、金銭の授受を示す書面、供託した金銭が被害者に支払われたことを示す書面、通院の状況を示す書面などです。署名や日付が欠けていると、その場で説明を補わなければなりません。原本の所在を含め、事前に確かめておくことが望まれます。

再開されなかった場合に残る道

 再開の請求が却下されれば、判決はそのまま宣告されます。この場合でも、判決のあとに生じた事情が意味を失うわけではありません。法393条2項は、控訴裁判所は必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べることができると定めています。第一審の判決より後の出来事を控訴審が見る余地が、条文の上で用意されているということです。

 もっとも、控訴をするかどうかは、判決の内容や理由の書きぶりを踏まえて決める別の判断です。ここでは、判決の日を過ぎたからといって示談や弁償の努力が無意味になるわけではない、という点だけを押さえておけば足ります。

判決の日までに確かめておきたいこと


  1. 判決の言渡しの日時と、出頭する裁判所・法廷を確認しておく。
  2. 示談や弁償の話が動いているなら、途中の経過を弁護人と共有しておく。
  3. 示談書や領収証、通院の記録について、原本の所在を確かめておく。
  4. 被害者側とのやり取りは、代理人を通す形を保つ。
  5. 判決の日までの間に、新たな問題を起こさないようにする。


 この期間は、法廷で発言する機会がないぶん、何をしてよいのかが見えにくくなります。動いている事柄があるなら、その進み具合を弁護人が把握しているかどうかが、再開を求めるかどうかの判断につながります。

誤解されやすい点


  • 結審は刑が決まったことを意味するのではなく、審理が終わったことを指す。
  • 結審のあとに裁判所へ書面を送っても、それだけでは証拠として扱われない。
  • 弁論の再開は判決の内容を争う手続ではなく、審理をもう一度開く手続である。
  • 再開を求めれば当然に開かれるというものではなく、裁判所の判断に委ねられている。
  • 示談が成立したことが、そのまま特定の結論に結び付くわけではない。


まとめ


  • 証拠調べのあとに検察官の意見、弁護人の弁論、被告人の最終陳述が行われ、弁論の終結(結審)で審理が区切られる(法293条1項・2項)。
  • 結審すると判決期日が指定され、その後に届いた書面は、そのままでは証拠にならない。
  • 法313条1項は、当事者の請求または職権により、終結した弁論を再開することを認めている。
  • 最高裁昭和36年5月26日判決は、再開の請求があったときは、再開か却下かの決定を与えるべきものとしている。
  • 再開するかどうかの判断は裁判所に委ねられており、求めれば当然に開かれるものではない。
  • 結審のあとに示談が成立した場合などに、再開を求めて資料を取り調べてもらう扱いが実務で行われている。
  • 見通しが立った段階で裁判所と検察官に伝えておくことで、期日前の検討に織り込んでもらえる。
  • 再開されなかった場合でも、判決後の情状を控訴審が取り調べる余地が条文の上で用意されている(法393条2項)。


判決を待つ期間の対応をご検討中の方へ

 結審から判決までの期間は、外から見ると何も起きていないように見えます。しかし、示談や被害弁償の話が続いている事件では、この期間の動き方によって、裁判所に届く材料が変わることがあります。相手方の意向や書面の整え方など、判断の分かれる場面も少なくありません。

 当事務所では、刑事事件について24時間体制で相談を受け付けています。判決の日が近づいている、結審のあとに事情が変わった、といった状況でも、残された手続の中で何ができるのかを一緒に整理することができます。ご本人だけで抱え込まず、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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