職場から備品や商品を持ち出した|窃盗か横領かで何が変わるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

会社の備品や商品を持ち出したことを指摘され、社内で事情を聞かれている、あるいは警察から連絡があった、というご相談があります。このとき最初に気になるのは「何罪になるのか」という点ですが、実際に影響が大きいのは、その分類が決まった先の話です。

 同じ「職場からの持ち出し」でも、窃盗罪として扱われることもあれば、業務上横領罪や遺失物等横領罪として扱われることもあります。そして、どの見立てで進むかによって、罰金刑があるかどうか、未遂で止まった場合の扱い、公訴時効の長さ、会社や捜査機関が確認する資料の種類が変わります。

 この記事では、窃盗と横領の切り分けを簡単に整理したうえで、罪名が分かれた先で何が変わり、何は変わらないのかを中心に説明します。

職場からの持ち出しで問題になる罪

 職場から物を持ち出した場合に検討されるのは、主に次の4つです。同じ「持ち出し」という言葉でくくられていても、刑の重さは同じではありません。

罪名根拠条文法定刑公訴時効
窃盗罪刑法235条10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金7年
業務上横領罪刑法253条10年以下の拘禁刑7年
横領罪(単純横領)刑法252条1項5年以下の拘禁刑5年
遺失物等横領罪刑法254条1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料3年


 なお、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されています。改正前の表記が残っている解説も見かけますので、法定刑が「懲役」と書かれている資料を読むときは、いつの時点の記述かをあわせて確認してください。

 背任罪(刑法247条)が問題になる場面もありますが、備品や商品そのものを持ち出した事案で背任罪が正面から検討されることは多くありません。

一時的に使って返した場合

 窃盗罪も横領罪も、不法領得の意思が必要とされています。返すつもりで一時的に使っただけという場合は、権利者を排除する意思を欠くとして、犯罪の成立が否定されることがあります。ただし、使用の期間が長い、返せない状態になっていた、消耗品を使い切っているといった事情があると、この説明は通りにくくなります。

廃棄予定の物を持ち帰った場合

 会社が捨てる予定にしていた物でも、廃棄の手続がどこまで進んでいたかで結論が変わります。まだ会社の管理下にある段階なら窃盗罪や横領罪が、会社の占有を離れたといえる段階なら遺失物等横領罪が検討されます。上司の許可を得ていた場合は原則として犯罪は成立しませんが、その上司に処分を決める権限があったか、社内ルールに反する許可ではなかったかが確認されます。

分かれ目は「占有」で、役職名では決まらない

 窃盗罪は他人が占有する物を奪う罪で、横領罪は自分が占有している他人の物を領得する罪です。つまり、持ち出した時点でその物を占有していたのが誰かが分かれ目になります。

 ここでいう占有は、手に持っているかどうかではなく、事実上の支配があるかどうかで判断されます。在庫の鍵を預かり、発注や棚卸を任されていた人であれば占有が認められやすく、業務上横領罪の検討につながります。日常的に触れてはいても管理そのものは任されていない立場であれば、占有補助者として扱われ、窃盗罪の検討になります。

 役職名で機械的に決まるわけではありません。アルバイトでも在庫管理を任されていれば占有が認められることがありますし、正社員でも担当外の部署の物であれば占有はないと判断されることがあります。社内のヒアリングや取調べで「その物の管理を任されていたか」を繰り返し確認されるのは、この点が罪名を左右するためです。

持ち出した物が会社の物とは限らない

 誰の物を持ち出したのかによって、被害者が会社ではなくなることがあります。次のような物は、所有者や占有者が会社以外である可能性があります。

  • 会社がリース会社から借りている機器。
  • 取引先から預かっている見本品や貸与品。
  • 顧客が店舗や事務所に置き忘れていた物。
  • 同僚が個人で購入して職場に置いていた物。
  • 会社が廃棄業者に引き渡した後の物。


 被害者が変われば、弁償や示談の相手も変わります。会社とだけ話をつければ終わると考えていたところ、後から別の当事者が出てくることもあるため、早い段階で持ち出した物の帰属を整理しておくと見通しが立てやすくなります。

商品の被害額は仕入価格か販売価格か

 商品を持ち出した事案では、被害額をいくらと見るかで話がかみ合わないことがあります。会社は販売価格で計算した金額を示し、本人は仕入価格を前提に考えている、という食い違いです。

 刑事手続では、被害額は処分や量刑の判断材料の一つになりますが、金額だけで結論が決まるわけではありません。民事の弁償では、実際に会社に生じた損害をどう評価するかという問題になり、整理の仕方は事案によって分かれます。いずれにしても、会社から金額を示されたときは、その根拠となる資料をあわせて確認しておくことが、後の交渉の出発点になります。

罰金刑があるかどうかで手続が変わる

 先ほどの表のとおり、窃盗罪と遺失物等横領罪には罰金の定めがありますが、業務上横領罪と横領罪には罰金の定めがありません。この違いは、手続の進み方に影響します。

 罰金刑の定めがある罪では、本人が異議のないことを書面で明らかにしていることなどを条件に、簡易裁判所が公判を開かずに罰金や科料を科す略式命令(刑事訴訟法461条)によることができる場合があります。書面のやり取りで終わるため、公開の法廷に立つことにはなりません。

 これに対して、業務上横領罪や横領罪では罰金という選択肢がないため、略式命令によることはできません。起訴されれば、公開の法廷で審理が行われます。もっとも、起訴されるかどうかはこれとは別の問題で、弁償や示談の状況によって不起訴となることもあります。

未遂で止まった場合の扱い

 未遂を処罰するには、その罪について未遂を罰する規定が必要です。窃盗罪には未遂を罰する規定があります(刑法243条)。一方、業務上横領罪と横領罪には、未遂を罰する規定が置かれていません。

 そのため、鞄に入れたところで見つかり、社外に持ち出す前に発覚したという事案では、窃盗の見立てであれば未遂として立件され得る一方、横領の見立てであれば、その時点で領得の行為があったといえるかどうかが問われることになります。同じ出来事でも、どちらの罪として構成するかで議論の中身が変わる場面です。

公訴時効の長さも同じではない

 窃盗罪と業務上横領罪は、いずれも公訴時効が7年で、この2つの間では違いがありません。これに対して、横領罪は5年、遺失物等横領罪は3年です。

 持ち出しが何年も前の出来事である場合、どの罪として扱われるかによって、そもそも起訴できる期間内かどうかが変わることがあります。持ち出しが繰り返されていた事案では、いつの分がどこまで含まれるのかという整理も必要になります。

見立てによって確認される資料が変わる

 罪名の見立てが違えば、会社や捜査機関が集める資料も変わります。

見立て確認されやすい資料
窃盗として扱われる場合持ち出しの時間と経路、防犯カメラの映像、入退室の記録、在庫の差異
業務上横領として扱われる場合担当業務の分掌、備品や在庫の管理を任されていた根拠、引継ぎ書類、棚卸表
遺失物等横領として扱われる場合その物が廃棄手続のどの段階にあったか、廃棄に関する社内ルールの定め


 業務上横領として扱われる場合、「その物の管理を任されていたか」が焦点になります。社内のヒアリングや取調べで職務内容を細かく聞かれるのは、量刑の話をしているのではなく、成立する罪そのものに関わるからです。記憶があいまいな部分を推測で埋めてしまうと、後から供述の食い違いとして扱われることがあるため、はっきり言える範囲と分からない部分を分けて答えることが大切です。

罪名が変わっても変わらないこと

 一方で、窃盗か横領かによって左右されない部分もあります。

  • 会社に生じた損害を弁償する責任の範囲は、罪名では決まらない。
  • 就業規則に基づく懲戒の判断は、刑事手続とは別に進む。
  • 窃盗罪も横領の各罪も親告罪ではないため、告訴がなくても捜査が始まることがある。
  • 有罪判決が確定すれば前科として残る。
  • 弁償や示談の成否が処分の見通しに影響し得る点は共通している。


 罪名の議論に気を取られて、弁償や社内対応が後回しになることがあります。結果に影響しやすいのは、むしろこちらの部分です。

罪名は途中で入れ替わることがある

 捜査の初期は、会社の説明をもとに罪名が付けられます。その後、職務分掌や管理の実態が明らかになるにつれて、見立てが変わることがあります。起訴された後であっても、訴因変更(刑事訴訟法312条1項)という手続によって、審理の対象となる事実が変更されることがあります。

 したがって、最初に告げられた罪名が最後まで同じとは限りません。窃盗と言われたから横領の話は関係ない、という前提で説明を組み立てると、途中で見立てが動いたときに、それまでの説明との整合が取りにくくなります。

会社への申し出と刑事手続の関係

 会社が被害届を出すかどうかは、会社の判断です。社内で処理したいという意向であれば、被害届が出されないまま懲戒手続だけが進むこともありますし、届出が出て捜査が始まることもあります。

 自分から会社に申し出るかどうか迷う場面もあります。申し出れば懲戒の対象になり得ますが、後から発覚した場合と比べると、経緯の説明はしやすくなります。持ち出した物の内容や規模、社内での立場によって考え方が変わりますので、申し出の前後で不利益がどう動くかを整理してから決めるほうが、後の説明に無理が生じにくくなります。

いま整理しておくとよいこと

 相談の準備としては、次の点をまとめておくと話が早く進みます。

  1. 持ち出した物の種類、数、時期を、分かる範囲で書き出す。
  2. その物の管理を誰が任されていたのかを整理する。
  3. 上司や責任者の許可の有無と、その人に処分を決める権限があったかを確認する。
  4. 会社から示された金額があれば、その根拠資料をあわせて保管する。
  5. 弁償に充てられる資金と、用意できる時期を見積もる。
  6. 社内のヒアリングで答えた内容を、覚えているうちに記録しておく。


まとめ

 この記事の要点は次のとおりです。

  • 職場からの持ち出しでは、窃盗罪、業務上横領罪、横領罪、遺失物等横領罪が検討される。
  • 分かれ目は持ち出した時点の占有の所在であり、役職名では決まらない。
  • 窃盗罪と遺失物等横領罪には罰金の定めがあり、略式命令によることができる場合がある。
  • 業務上横領罪と横領罪には罰金の定めがなく、起訴されれば公開の法廷で審理される。
  • 未遂を罰する規定は窃盗罪にはあるが、横領の各罪には置かれていない。
  • 公訴時効は、窃盗罪と業務上横領罪が7年、横領罪が5年、遺失物等横領罪が3年。
  • 見立てによって、会社や捜査機関が確認する資料の種類が変わる。
  • 弁償の範囲、懲戒、前科として残るかどうかは、罪名によって左右されない。


 職場からの持ち出しは、罪名の分類そのものよりも、そこから先の手続と、弁償や社内対応の進め方によって結果が変わることの多い類型です。会社から指摘を受けた段階でも、警察から連絡があった段階でも、事実関係と資料を整理したうえで方針を決めることができます。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋・新橋の各事務所でお受けしています。ご自身の状況がどの見立てになりそうか、会社への対応をどう進めるかについて、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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