会計前に開封して食べた|店内飲食と窃盗の成立時期

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

 スーパーやコンビニで、レジに並ぶ前に買うつもりの商品の封を開けて口にしてしまった。空になった容器や包装をレジに出して代金は払った。それでも店員から強い口調で注意され、後日になって警察から連絡が来ることがあります。

 このときよく口にされるのが、「代金は払っているのだから盗んだことにはならないはずだ」という説明です。しかし刑事の場面で問われているのは、払ったかどうかそのものではありません。代金を払ってから受け取るという、店が定めた順序を無断で入れ替えた点が窃盗にあたるかどうかが検討されています。

 この記事では、会計前の飲食がどの時点で犯罪として成立すると扱われるのか、「後で払うつもりだった」という説明がどこまで通るのか、実際に裁判で争われた事例で何が判断されたのかを順に整理します。

この記事が扱う場面


 次のような場面を想定しています。

・スーパーやコンビニの陳列棚から取った商品を、会計前に店内で開封して食べた、または飲んだ
・レジに並んでいる間に喉が渇き、かごに入れた飲み物を開けて飲んだ
・空になった容器や包装をレジに出して、代金そのものは支払った
・食べたという事実自体は争うつもりがない
・店から注意された、あるいは後日になって連絡が来た

 商品を通さずに持ち出したかどうかが争いになる場面とは、争点が異なります。ここでは、飲食した事実を前提に、それがどう評価されるかを扱います。

会計前の商品は誰の物として扱われるか


 刑法235条は、他人の財物を窃取した者を窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定めています。なお、2025年6月1日に懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたため、それ以前に書かれた解説では「懲役」と表記されています。

 ここでいう窃取とは、その物を管理している人の意思に反して、占有を自分の側へ移すことをいいます。棚に並んでいる商品を管理しているのは店であり、代金の支払いが済むまでその状態は変わりません。買うつもりで手に取っただけでは所有権は移らず、レジでの支払いを境にはじめて客の物になります。

 したがって、会計前の商品は、客の側から見れば「これから買う物」であっても、法律上は他人の財物として扱われます。ここが出発点になります。

成立の時期はどこに置かれるのか


 いわゆる万引きの場面では、店の外に出た時点が一つの目安として語られます。ところが店内で飲食した場合、出るか出ないかという基準はそもそも働きません。食べてしまえば、その商品はもう店に戻りようがないからです。

 行為の段階ごとに整理すると、次のようになります。

段階その時点での評価
買うつもりで手に取り、かごに入れる店の管理が続いている段階として扱われるのが一般的
包装や容器の封を開ける飲食に向けた行為に踏み出した段階とみられやすい
中身を口に入れ、飲み込む商品が費消され、犯罪として完成したと扱われる段階
レジで代金を支払う成立した後の事情として位置づけられる段階


 押さえておきたいのは、レジに向かって歩いている途中であっても、口にした時点で完成したものとして扱われるという点です。「これから払いに行くところだった」という説明は、時間の前後を示すものであって、成立そのものを打ち消す事情としては働きにくいことになります。

「後で払うつもりだった」は争点になるのか


 窃盗罪には、条文に書かれていない要件として不法領得の意思が必要とされています。これは、権利者を排除して他人の物を自分の所有物と同じようにその経済的な用法にしたがって利用し、または処分する意思をいうものと説明されてきました(最高裁昭和26年7月13日判決)。

 この要件があるために、他人の物を短時間だけ無断で借りて元に戻したような場合には、窃盗として処罰されないことがあります。代金を払う意思があったという主張は、まさにこの部分を争うものです。支払う気があったのだから権利者を排除する意思はなかった、という組み立てになります。

 この主張が、実際の裁判で正面から審理された事例があります。

裁判で争われた事例


 スーパーの店内で、陳列されていた魚の切り身1点(販売価格428円)の包装を通路で開けて中身を食べ、その直後にレジで包装を示して代金を支払った、という事案です。口に入れてから支払いを終えるまでの時間は2分足らずでした。名古屋地方裁判所岡崎支部が令和3年8月27日に判決を言い渡しており、判決文は裁判所のウェブサイトで公開されています。

弁護人が主張したこと


 弁護側は、この行為は通常の買い物の手順を2分足らず入れ替えただけであり、対価を払わずに商品を取得する意思はなかったと主張しました。あわせて、短時間だけ借りて元に戻す場合と同じように考えられるのではないか、という組み立ても示しています。

裁判所が示した判断


 裁判所は、この主張を採用しませんでした。理由として挙げられたのは、店は陳列した商品について、どのような形であれ代金に換えられればそれでよいと考えて並べていたわけではなく、レジで支払いを受けるという販売の方法を定めていた、という点です。その方法に反すると知りながら会計前に食べており、しかも食べてしまえば商品は戻らないため、一時的に使うだけの場合と並べて考えることはできない、という筋道でした。

 控訴審(名古屋高等裁判所令和3年12月14日判決)も、結論を維持しています。控訴審は、並んでいる商品をそのままの状態でレジに持ち込んで清算するという店の定めた手順が守られなければ、店内の多数の商品を適切に管理することが難しくなると述べたうえで、短時間の後に同額の金銭が支払われたとしても、それは手順にしたがった支払いとは社会通念上別のものだと判断しました。

 整理すると、支払いの意思や能力があったことではなく、店が定めた順序を無断で入れ替えたこと自体が評価の対象になっているということになります。

窃盗以外の見方はないのか


 同じ行為を、窃盗とは別の枠で捉える見方も示されています。封を開けて売り物にならない状態にした点に着目すれば器物損壊(刑法261条)が、店の販売の流れを混乱させた点に着目すれば業務妨害(刑法233条、234条)や、軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」が、それぞれ視野に入ります。

 学説には、商品はもともと代金と引き換えることが予定された物であり、支払う意思も能力もある人が順序を短時間入れ替えただけの行為に窃盗を適用するのは、無断で一時的に使って返す行為を処罰しない扱いとの釣り合いを欠く、という批判もあります。この見方によれば、本来は店の業務を妨げた点を問題にすべき場面だ、ということになります。

 ただし、現に実務で扱われているのは窃盗としての立件です。議論があること自体を知っておく意味はありますが、「窃盗にはあたらないという説がある」という理解で店や捜査機関に向き合うと、話がかみ合わなくなります。

支払いの順序を店がどう定めているか


 ここまでの説明は、支払いを先に済ませる形式を店が定めていることが前提になっています。同じ「会計前の飲食」でも、店の定め方が違えば評価は変わります。

場面支払いの順序会計前の飲食の位置づけ
スーパーやコンビニの陳列商品レジでの支払いと引き渡しが同時店の定めた順序に反する行為として問題になる
飲食店で注文した料理飲食してから後で支払う後払いを店が予定しているため、飲食自体は問題にならない
イートインを備えた店舗会計を済ませてから席で飲食する運用が一般的その店の運用の内容によって扱いが分かれる
決済が自動で行われる店舗レジでの会計という行為が置かれていない購入手続の考え方がそもそも異なる


 飲食店で食事をしてから代金を払わずに立ち去った場合は、窃盗ではなく詐欺の問題として扱われます。同じ「払う前に食べた」でも、店がどの順序を予定しているかによって、問われる罪名まで変わってきます。

 なお、体調がすぐれない、子どもがぐずっているといった事情から、先に開けてよいかを店員に伝えて了解を得ていた場合は、店の意思に反する行為とはいえなくなります。この場合は、いつ、誰に、どのように伝えたのかを後から確かめられる形になっているかが問題になります。

子どもが食べてしまった場合


 14歳に満たない者の行為は罰しないと定められています(刑法41条)。小さな子どもが棚の菓子を開けて食べてしまったとしても、その子ども自身が刑事責任を問われることはありません。

 一方で、付き添っていた大人が封を開けて渡した、あるいは食べるように促したという事情があれば、大人の側の行為として評価される余地が残ります。子どもがしたことだから終わり、とは限らないということです。実際の場面では、店に申し出て代金を支払い、汚れや破損があればその分も負担するという対応で収まることが多いのですが、法律上の位置づけとしては別の話になります。

代金を払ったことに意味はないのか


 ここまで見てきたとおり、代金を払ったことは犯罪の成立を打ち消しません。ただし、それは成立の場面に限った話です。

 どのような処分にするかを検察官が判断する際には、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況が考慮されます(刑事訴訟法248条)。先ほどの事例でも、裁判所は量刑の理由の中で、被害額そのものが軽微であること、直ちに弁償もされていること、店内で食べてから代金を支払うまでが一続きの行動として行われており、財産犯として重いものとはいえないことを、被告人に有利にはたらく事情として挙げています。

 つまり、支払った事実は成立の側では働かず、処分の側で意味を持つという位置づけになります。払ったことを説明する意味は残っていますが、それを理由に「事件になるはずがない」と押し切ろうとすると、かえって受け止めが悪くなることがあります。

店から声をかけられたとき


 その場で求められるのは、多くの場合、代金の支払いと事情の説明です。すでに食べてしまっている以上、商品を返すことはできませんから、代金や汚損分をどう負担するかが話の中心になります。

 このとき、事実と評価を分けて話すことをお勧めします。封を開けて食べたという事実は認めつつ、それが罪になるかどうかの結論を自分から言い切らない、という分け方です。「盗むつもりだった」と言うのか「後で払うつもりだった」と言うのかで、後に残る記録の意味は変わってきます。

 また、警察に届け出るかどうかは店の判断です。その場で代金を払ったからといって、届け出ないという約束が成立するわけではありません。繰り返しを防ぐために届け出るという方針を持つ店もあります。

後日に連絡が来たとき


 防犯カメラの映像や、様子を撮影して投稿していた場合はその投稿から、時間が経ってから事件として扱われることがあります。連絡が遅れて来た場合でも、聞かれる内容は変わらず、そのときの状況と認識が中心になります。

 具体的には、いつ手に取ったのか、どの段階で封を開けたのか、レジまでどのくらいの距離と時間があったのか、支払う準備があったのか、といった点です。これらは、成立の時期の判断と、処分を決めるときの評価の両方に関わります。

 説明した内容は調書として残ります。読み上げられた内容が自分の記憶と違うときは、その場で訂正を申し立てることができます。署名する前に確かめておきたい点です。

いま整理しておくとよいこと


 記憶が薄れる前に、次の点を書き出しておくと、後の説明が組み立てやすくなります。

1 店の名前と、入店した日時
2 手に取った時刻と、封を開けた場所(通路、レジの列、イートインの席など)
3 レジで支払った時刻と、支払いの方法
4 支払いの準備があったこと(所持金、カードや電子マネーの残高)
5 店員とやり取りした内容と、その相手(店員か、責任者か)
6 同行者がいたかどうかと、その人が見ていた範囲

 レシートや決済アプリの履歴は、支払った時刻を示す資料になります。消さずに残しておいてください。

まとめ


・会計前の商品は、支払いが済むまで店が管理する他人の財物として扱われる
・店内で飲食した場合、店を出たかどうかは基準にならず、口にした時点で完成したものとして扱われる
・「後で払うつもりだった」という主張は不法領得の意思を争うものだが、裁判で退けられた事例がある
・裁判所が重く見たのは、支払いの意思ではなく、店が定めた販売の順序に反した点である
・短時間の後に同額が支払われても、手順にしたがった支払いとは別のものと判断された
・器物損壊や業務妨害として捉える見方も示されているが、実務で扱われているのは窃盗としての立件である
・飲食店のように後払いを店が予定している場合は、評価が変わる
・子ども自身は刑事責任を問われないが、付き添った大人の行為が問題になる余地がある
・支払った事実は成立を打ち消さないものの、処分を決める場面では有利にはたらく事情として考慮される

 会計前に口をつけてしまったという出来事は、本人にとっては出来心の範囲に見えても、店の側からは商品の管理そのものに関わる問題として受け止められます。すでに事情を聞かれている、あるいは後日の連絡を待っている状態であれば、そのときの行動を時系列で整理したうえで、早い段階で弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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