他人の電気・Wi-Fiを無断で使った|電気窃盗と不正アクセスの違い

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

外出先でスマートフォンの残量が心もとなくなり、目についたコンセントを使ってしまった。あるいは、自宅で拾えた見知らぬWi-Fiにそのままつないでしまった。どちらも「他人のものを無断で使った」という点では、同じことをしたように見えます。

 ところが、この二つは法律上の扱いがかなり違います。電気は刑法の条文で「財物とみなす」と定められている一方、Wi-Fiでやり取りされる通信は財物ではありません。そのため、どの法律で責任を検討するのかという入口の段階から道が分かれます。

 ここでは、電気の無断使用が窃盗として扱われる仕組みと、Wi-Fiのただ乗りが電波法や不正アクセス禁止法とどう関わるのかを、条文と裁判例をたどりながら整理します。

この記事が扱う場面


 次のような場面を想定しています。

・店舗や駅、公共施設のコンセントを断らずに使い、スマートフォンやパソコンを充電した
・集合住宅の共用部分や隣家の屋外コンセントから電気を引いて使った
・職場や取引先の設備を、業務とは関係のない用途で使った
・近くで拾えた他人のWi-Fiに接続してインターネットを使った
・パスワードのかかっていないWi-Fiに、誰のものか確かめないままつないだ
・後になって施設や近隣の方から指摘を受け、どこまでの責任があるのかを知りたい

 いずれも、行為をした本人が責任の所在を確かめたいという状況を前提にしています。

電気だけが、条文で「財物とみなす」と書かれている


 窃盗罪は、他人の財物を窃取した者を処罰する規定です(刑法235条)。法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。拘禁刑は2025年6月1日に施行された刑法改正で懲役に代わって置かれたもので、それ以前に書かれた解説では懲役と表記されています。

 ここでいう財物は、形のある物を指すのが出発点です。電気は形を持たないため、窃盗の対象になるのかが古くから争われてきました。大審院は明治36年5月21日の判決で、電気は管理することができるという点をとらえて財物にあたると判断し、その後、1907年に成立した現行刑法に「この章の罪については、電気は、財物とみなす。」という条文が置かれました(刑法245条)。

 この条文があるために、他人が管理している電気を無断で消費する行為は、窃盗の枠組みで検討されます。「盗んだ」という言葉になじみにくくても、条文の側で財物として扱うと決めている、というのが実情です。

電気が財物とみなされる範囲


 245条は「この章の罪については」と範囲を区切っています。この章とは窃盗及び強盗の罪の章のことで、詐欺・恐喝の罪の章にも準用されています(刑法251条)。一方、横領の罪の章については、親族間の特例を準用する条文が置かれているだけで、245条は準用されていません(刑法255条)。そのため、電気については横領の罪は問題にならないと説明されています。

 細かい話に見えますが、電気があらゆる財産犯の対象になるわけではなく、条文が及ぶ範囲に限って財物として扱われるという構造は、押さえておくと理解の助けになります。

分かれ目は金額ではなく、設置目的と承諾の範囲


 窃取とは、占有している人の意思に反して、その占有を移すことをいいます。裏を返せば、使うことについて承諾がある電気は、この入口の段階で窃盗の枠から外れます

 問題は、どこまでが承諾の範囲かという点です。コンセントは、設置された目的によって想定されている使われ方が違います。

コンセントの置かれ方想定されている使い方問題になりやすさ
客席やホーム、待合スペースに、利用者が使える形で設けられているもの利用者が自分の機器を充電すること使い方が想定の範囲にとどまる限り、問題になりにくい
清掃用、自動販売機用、看板や設備の電源など、業務のために設けられているもの施設側の機器を動かすこと利用者が自分の機器をつなぐと、承諾の範囲を超えやすい
集合住宅の共用部分や、他人の敷地内にあるもの建物や住戸の維持管理のために使うこと自分の生活のために引き込むと、問題になりやすい


使える状態だったことは、承諾があったことを意味しない


 差込口がふさがれておらず、周囲に掲示もなかったという事情は、しばしば「使ってよいと思った」という説明の根拠にされます。ただ、差込口が露出しているのは配線の都合であることも多く、それ自体が施設側の開放を示すものとはいえません。

 判断は、その場所が誰のために設けられているか、周囲の同じようなコンセントがどう扱われているか、掲示や案内があったかといった外側の事情から組み立てられます。使っている側の受け止めだけで決まるわけではありません。

金額の少なさが結論を決めるわけではない


 スマートフォンを一度満充電にしたときの電気代は、1円に満たないのが通常です。それでも、金額が小さいことがそのまま結論につながるわけではありません。

 報じられた例としては、電気料金の滞納で電気を止められた方が集合住宅の共用部分のコンセントから自室に電気を引き、数円相当の電気を使ったとして有罪判決を受けたものがあります。金額そのものよりも、注意を受けた後も使い続けていた点が重く見られたと伝えられています。駅構内の清掃用コンセントを数分間使って書類送検された例や、隣家の屋外コンセントから延長コードを引いて長期間使っていた例も報じられています。

 他方で、その場で使用をやめ、施設側も特に問題にしなかったために、手続に進まないまま終わる場面も少なくありません。実際にどう扱われるかは、回数、期間、注意を受けた後の対応、施設側の受け止めといった事情の組み合わせで決まっていきます。

Wi-Fiは、電気と同じようには扱えない


 ここから先が、電気との違いです。

 Wi-Fiのただ乗りで得ているのは、通信そのもの、あるいは回線を使える状態です。これらは形のある物ではなく、245条のように「財物とみなす」と定めた条文も置かれていません。刑法は、財物ではない利益を無断で得ただけの行為を、窃盗として処罰する形をとっていません。

 そのため、他人のWi-Fiにつないでインターネットを使ったという事実だけを取り出しても、電気窃盗と同じ組み立てで窃盗罪を問うことは想定されていません。「これも電気窃盗になるのか」という問いに対しては、電気とは別の法律を見に行くことになる、というのが答えになります。

 なお、ルーター本体を持ち去った場合や、他人のモバイルバッテリーを勝手に使った場合は、形のある物が対象ですから、話は元の窃盗の枠に戻ります。

ただ乗りと電波法


 Wi-Fiのただ乗りについて、まず検討されてきたのが電波法です。同法は、無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者を処罰しています(電波法109条1項。1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)。暗号化された通信については、秘密を漏らす目的や窃用する目的でその内容を復元した場合を処罰する条文も別に置かれています(同法109条の2)。

 この点が正面から争われたのが、隣家の無線LANの暗号鍵を解析して接続していた事案です。東京地方裁判所は2017年4月27日の判決で、暗号鍵は無線LAN機器と端末の間で送受信される通信の内容にかかわらず取得できるものであって、無線通信の内容とはいえないとして、電波法109条1項にいう無線通信の秘密にはあたらないと判断しました。検察官はこの部分について控訴せず、ただ乗りそのものは同項違反にならないという判断が残ることになりました。

 もっとも、これで議論が終わったわけではありません。総務省は判決の後、暗号鍵を解読する過程で他人の端末と無線LAN機器の間の通信を傍受し、そのデータを機器に繰り返し送信する行為は電波法に違反しうるという考えを示しています。接続したという結果ではなく、そこに至る手段のとり方によっては別の評価がありうる、という整理です。裁判所の判断と行政の見解がそろっていない領域である点は、知っておいたほうがよいところといえます。

ただ乗りと不正アクセス禁止法


 もう一つ検討されるのが、不正アクセス禁止法です。この法律が禁じているのは、他人の識別符号を無断で入力してアクセス制御機能を作動させ、本来は制限されている利用ができる状態にする行為などで、違反した場合は3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金と定められています。

 ここでいう識別符号は、警察庁の解説によれば、利用権者ごとに定められ、アクセス管理者がその人を他の利用者と区別して識別するために用いる符号を指します。IDとパスワードの組み合わせが代表例です。

 Wi-Fiに接続するときに入力するパスワードは、その回線につなぐ人が全員同じ文字列を使うのが通常です。誰が使っているのかを区別するための符号ではないため、識別符号にはあたりにくいと考えられています。この理解に立つと、他人のWi-Fiにつないだというだけでは、同法が正面から想定している行為には届かないことになります。

 ただし、次のような場合は話が別です。

・ルーターの管理画面に、設定されているIDとパスワードを入力してログインした
・接続した先で、他人のIDとパスワードを使ってサービスにログインした
・通信の内容を取り出して、他人のアカウント情報を得た

 問題になるのは接続したことではなく、接続した先で何をしたかです。この点を取り違えると、「ただ乗りは罪にならないと聞いた」という受け止めが、実際の場面と噛み合わなくなります。

電気とWi-Fiの整理


項目電気Wi-Fiの通信
条文上の位置づけ財物とみなす規定がある財物とみなす規定はない
入口になる法律刑法の窃盗の規定電波法、不正アクセス禁止法など場面に応じた法律
主な分かれ目設置目的と承諾の範囲接続した先で何をしたか


一緒に問題になりやすい罪


 電気やWi-Fiそのものの評価とは別に、次の点が同時に問題になることがあります。

 他人の敷地や建物に立ち入ってコンセントを使った場合は、住居侵入罪や建造物侵入罪が視野に入ります(刑法130条)。店舗の敷地内で電源を使った事案が、窃盗とあわせて扱われた例も報じられています。

 配線を加工したり、カバーや器具を壊したりした場合は器物損壊罪(刑法261条)、設備に負荷をかけて営業に支障を生じさせた場合は業務妨害の規定(刑法233条、234条)が問題になり得ます。Wi-Fiの側でも、接続したうえで他人の通信を妨げるような使い方をすれば、別の責任が生じます。

刑事の責任が問われなくても、民事の責任は残る


 刑事の手続に進まなかったとしても、それは金銭的な負担がなくなることを意味しません。

 無断で使った分の電気代や通信料にあたる利益は、法律上の原因なく得たものとして返還を求められることがあります(民法703条)。設備を壊したり、調査や工事の費用を負担させたりした場合は、損害賠償の問題にもなります(民法709条)。

 Wi-Fiのただ乗りについては、それ自体を処罰する規定が置かれていない一方で、回線の契約者との関係では、契約や利用規約に基づく責任が別に問題になります。刑事と民事は別の物差しで動いている、という理解が出発点になります。

指摘を受けたときに、先にやらない方がよいこと


 施設や近隣の方から指摘を受けた段階では、次の点は避けたほうが無難です。

1 その場を離れる。防犯カメラや記録から後で特定されることが多く、話し合いの余地を狭めます。
2 使っていないと言い切る。後から事実と食い違うと、説明全体の受け止め方が変わります。
3 機器の履歴や接続の記録を消す。整理のつもりでも、都合の悪い記録を消したと見られかねません。
4 その場で金額を決めて支払う。何についての支払いかがはっきりしないまま話が進みます。
5 繰り返し使っていたのに一度だけと説明する。回数は記録から確認されることがあります。
6 相手方に何度も直接連絡する。連絡そのものが別の問題として受け止められることがあります。

 まずは使用をやめ、いつ、どこで、どのくらい使ったのかを自分の側で時系列に整理しておくことが、その後の話し合いの土台になります。

まとめ


・電気は刑法245条で財物とみなすと定められているため、他人が管理する電気の無断使用は窃盗の枠組みで検討される
・245条が及ぶのは窃盗・強盗の罪の章と、準用のある詐欺・恐喝の罪の章であり、横領の罪の章には準用されていない
・分かれ目は金額の多寡ではなく、そのコンセントが何のために設けられ、どこまで使うことが承諾されていたか
・使える状態だったという事情だけでは、承諾があったことにはなりにくい
・Wi-Fiでやり取りされる通信は財物ではなく、財物とみなす規定も置かれていないため、電気と同じ組み立てにはならない
・ただ乗りが電波法109条1項にいう無線通信の秘密の窃用にあたるかについては、あたらないとした裁判例がある一方、行政は接続に至る手段について異なる見解を示している
・Wi-Fiの共用パスワードは利用者を区別する符号とはいいにくく、不正アクセス禁止法の識別符号にはあたりにくいと考えられている
・接続した先で他人のIDとパスワードを使えば、同法の問題は別に生じる
・刑事の責任が問われない場合でも、使った分の返還や損害賠償といった民事の責任は別に残る

 「無断で使った」という一言でくくられる行為でも、対象が電気なのか通信なのかで、見に行くべき条文が変わります。心当たりがある場合は、いつ、どこで、何を、どのくらい使ったのかを整理したうえで、早めに弁護士へご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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